試された運命
「チッ!」
ミアはマシンガンの引き金を弾きながら、身を捩り、僕を後ろに突き飛ばした。
「てめえは逃げろ!何とか、時間をつくってやる!」
「時間をつくるとは…」
「な!」
ミアは、後ろから声がして目を見開いた。
「どうやってかな?」
いつのまにか、ミアと僕の間に…カイオウが立っていた。
「くそが!召喚!」
ミアがカードを手に取った瞬間、カイオウは横目で彼女を睨んだ。
「!」
それだけで、ミアの体がふっ飛んだ。
「それにしてもだ…」
今度は僕に、目を向けた。
それだけで、僕は動けなくなった。
「赤の星屑と同じ魔力を感じたと聞いていたが…今は、まったく魔力を感じぬ。それに、見た目も…赤の王には、似ていない…。お、お主は…何者だ?」
カイオウの問いに、動けないはずの僕の口だけが動いた。
「僕は…人間…。ただ…元の世界に…帰りたいだけ」
僕の言葉を聞いた瞬間、カイオウの目が見開かれた。
「ま、まさか!?異世界から来たというのか!」
カイオウは、腰につけていた鞘から巨大な剣を抜いた。
「異世界から来た…戦士。それだけでまた、人間は夢を見るかもしれん!」
「ぼ、僕は…」
「人間の滅びは決まってしまっておる!今さら、希望などと!」
カイオウは剣を振り上げると、一気に振り下ろそうとした。
「まだ…滅ぶと決まってはいないさ」
僕の前に、剣を手にしたミアがテレポートしてきた。
「折角、集めたポイントがまたなくなってしまったがな」
ミアは、振り下ろす寸前のカイオウの剣を受け止めていた。
「小娘!そんな非力な力で、我が太刀を止められると思っているのか!」
カイオウは、剣に力を込めた。
「!」
その次の瞬間、まるで空気を斬るような無感覚を味わった後…剣は深々と地面に突き刺さっていた。
「何!?」
驚くカイオウの目に、自らの剣に添うように、接近してくる刃が映った。
「馬鹿な!」
刃はしなり、カイオウの右肩から腰にかけて斬り裂いた。
「やはりな!」
下に振り下ろした剣を捻ると、カイオウの懐に潜り込みながら、脇の下を通り過ぎたミアは、横凪ぎの斬撃を叩き込んだ。
流れるような一連の動きで、カイオウの後ろまで移動したミアの手にあった剣は…折れていた。
「やはり…なまくらでは、斬れないか」
ミアは剣を捨てると、カードの表面に目をやった。
「まだいけるな…」
呟くように言ったミアの攻撃を受けて、カイオウはわなわなと全身を震わした。
「ば、馬鹿な!今の動きは!?」
ミアの方に、振り向くカイオウ。
その時、視線が僕から逸れた。
動けるようになった僕は…何故か…マシンガンを手に取っていた。
その理由は自分でもわからないけど、逃げるという選択よりも先に僕を動かした。
「お、お前は一体!」
驚きの声を上げるカイオウの背中に、マシンガンの銃弾が降り注ぐ。
「な」
カイオウは振り返ると、マシンガンの銃口を向ける僕を見つめた。
「どこを見ている!お前の相手は、あたしだ!」
カイオウの死角から、ミアが襲いかかる。
「!」
振り向くカイオウの右目に、鋭い刃が接近してくるのが見えた。
咄嗟に、首を捻り、刃を避けるカイオウは、反射的に剣を振るった。
しかし、その剣先は、ミアに当たることはなかった。
「槍!」
カイオウの剣は、ミアの拳の先…数ミリを通り過ぎていた。
「流石だな…」
ミアは槍を引きながら、後ろにジャンプして距離を取った。
「やはり…剣より、槍がしっくりくるな」
ミアは槍を一振りすると、脇に構えた。
「魔力の差だけで、勝負が決まると思うなよ!」
キリッと睨むミアと、震えながらも銃口を向ける僕を、目線だけで交互に見た後、カイオウは笑い出した。
「確かに、小娘!お前の剣がもっとましなものならば、我を斬り裂いていたであろう。それに、成長し…力を付けた時、お前はさらに強くなる!そして」
カイオウは、僕の顔を見た。
「無謀ではあるが、女をおいて逃げなかった男よ。お前達のような者がいるならば、まだ…人間は捨てたものではないのかもしれん」
カイオウは拳を突きだし、ぎゅっと握り締めた後、手を開いた。
「あ、あれは!ま、まさか!赤の星屑!?」
ミアは、声を荒げた。
「お前達が何故、これを知り、どうしょうとしているのはかわからん。しかし、残り4つを持つ者は、108の魔神の上に立つ!騎士団長のみ!お前達がすべて、集められるとは思えない!」
カイオウは再び、赤の星屑を握り締めた。
「が!」
カイオウはミアの方に、体を向けると、赤の星屑を投げた。
「もっと見せてみろ!お前達の可能性をな!」
「!」
ミアは、赤の星屑を受け取ると、カイオウを見た。
「後悔するぞ!」
ミアの言葉を、カイオウはせせら笑った。
「した瞬間、お前達から奪えばよいだけだ」
「フン!」
ミアは鼻を鳴らすと、カイオウに向けて、走り出した。
そして、カイオウの目の前で、地面に槍を突き刺すと、棒高跳びのように、彼を飛び越え、僕の後ろに着地し、背中に赤の星屑を叩き付けた。
「関矢浩也!魂を燃やせ!」
「え!」
次の瞬間、背骨の中に、熱いものが入った感覚に、僕は背中を反らした。
「燃えろ!」
ミアは、後ろにジャンプした。
「うわああああっ!」
熱いものが、背骨から全身に広がり…すべての骨が燃えていく感覚にとらわれた頃には、僕の全身…すべてが燃えていた。
「何!?」
炎に包まれる僕を見て、カイオウは眉を寄せた。
「魔力は増大している…。しかし、それを制御できていない」
「いいんだよ。これで」
燃えている僕の後ろで、炎に照らされながら、ミアはにやりと笑った。
「カイオウ。見せてやるよ!」
ミアは、僕に向かってジャンプした。
「これが!てめえらを倒す力だ!」
「な!」
カイオウは、目を見開いた。
それから、数分後…。
「ハハハハハ!」
カイオウの笑い声が、周囲にこだました。
「面白い」
口許を緩めると、カイオウは僕らに背を向けて、その場から去っていった。
その様子を、全裸になり、その場で崩れ落ちた僕の目がとらえていた。
まだ…頭がぼおっとしており…全身から湯気が上がっていた。
「カイオウ…」
ミアは、去っていくカイオウの背中を見送っていた。複雑な表情を浮かべて。
「ど、どうなったの…僕は」
体の中がまだ、熱かった。
「あと…4つだ」
ミアは拳を握り締めると、僕の方に体を向けた。
「いくぞ!一気に高みまで、神の領域までな」
ミアはそう言うと、カードで僕用の服を召喚し、渡してくれた。
「な、何だよ!これ!」
渡された服を見て、僕は顔をしかめた。
なぜならば、学ラン…学生服だったからだ。
「かつて異世界から来た男が、着ていたもののレプリカだ。ブルーワールドでは、伝説の勇者の服として有名だ」
「だ、ダサい」
だけど、文句を言っても、裸はまずい。渋々、僕は身に付けた。
その時、僕は気付いていなかった。
燃えずに残った…カードが示す僕のレベルが…一気にはね上がっていることに。