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闇の微笑み

「相原…。あまり無茶をしないで」


九鬼から別れた後、寂しそうな背中を見せる理香子に、中島が呟くように声を絞り出した。


「ありがとう」


その声に、理香子は小さく頷いた。


その次の瞬間、屋上で佇む2人の前に、誰かが出現した。


「!?」


まったく気配を感じさせなかった存在に、驚く2人。


「…」


現れた影は、少女の姿を形取り…にやりと笑った。



「!」


そして、その次の刹那…黒く鋭いものが、理香子の胸を貫いていた。


「り、理香子」


あまりの一瞬の為、中島は反応することもできなかった。


理香子の体を串刺しにした黒い影を意識が確認できた瞬間、中島は少女に襲いかかった。


「り、理香子ををを!」


凄まじい怒りの感情を露にして、向かってくる中島に気付き、少女はため息をついた。


「これよ。この感情よ…」


「よ、よくも!」


中島の拳が届く前に、黒い影が伸び、彼の体を切り裂いた。


「やはり…この星の生物は危険だわ」


倒れていく中島を確認することなく、少女は理香子から影を抜くと、そのまま崩れ落ちた彼女に目をやった。


「光を失ったとはいえ…もとは、神」


そして、理香子の状態を確認すると、その場からゆっくりと消えていた。まるで、蜃気楼のように。


「この星の光はすべて消さなければならない。宇宙の静寂の為に」







その頃、空を見上げていた九鬼は目を見開き、絶句した。


「月の光が…」


いや、月は輝いていた。


しかし、月から力を感じることができなくなっていた。


「ムーンエナジーが来ない」


そのことは、月影になれないことを意味していた。




「…」


同時刻。黒く酸化した乙女ケースを握り締めながら、アカツキは月夜の下で佇んでいた。


「やはり…月の女神がやられたか…」


そんなアカツキのもとに、マスターと呼ばれる男が近付いて来た。


「しかし、問題はない。元々、月の光ではやつらを止めることはできない」


マスターはフッと笑うと、乙女ケースを見つめ続けるアカツキに気付き、彼女の肩に手を置いた。


「一度でも使えてよかったではないか。お前達は、使い方をレクチャーされてはいたが…使えることはなかったからな。こいつは言わば、御守りみたいなものだったからな」


マスターは、乙女ケースに目をやった。


「だが…ムーンエナジーが消えたことで、確認できた。やつが目覚めたことを」


「…マスター」


アカツキは乙女ケースを一度ぎゅっと握り締めると、胸の谷間に押し込んだ。


「急がなければならない。君もそう思うだろ?」


マスターはアカツキの肩から手を離すと、後ろを振り返った。


「裏切りのナイト君」


そこには、黒のサングラスをかけた男が立っていた。


「君が来ることは、予想できたよ」


マスターはかかとを回すと、男に対峙した。


「しかし、私もまた…あの頃の私ではない」


マスターの全身から、淡い光が放たれた。


「…」


その様子を見て、男はサングラスを外した。


「ミュータント!」


マスターとアカツキの後ろに、アフロディーテとカミューラがテレポートして来て、サングラスを外した男に殺気を放った。


男の正体は、アヤトだった。


「まさか…この時代まで邪魔しにくるとはね」


マスターは苦笑すると、攻撃に体勢に入ろうとしたが…。


「死ね!」


カミューラが真っ先に襲いかかろうとした時、マスターは手を横に伸ばし、その動きを制した。


「待て」


「マスター?」


驚くカミューラの方を見ずに、マスターはアヤトの様子に目を細めた。


何故ならば、アヤトからまったく殺気を感じなかったからだ。


「俺は…」


アヤトは、マスターの目を真っ直ぐに見つめながら、口を開いた。


「自分の手で、決着をつけるつもりだった。誰にも邪魔されないで…しかし!」


アヤトは拳を握り締め、


「彼女が目覚めるまでに、始末することができなかった!」


思いを口にした。


「だが!まだ完全ではない!今ならば、まだ間に合う!」


アヤトは前に一歩出た。


「君達に頼むのは、お門違いなのはわかっている!だが、頼みたい!」


アヤトは頭を下げた。


「彼女を殺す為に、力を貸してほしい」


アヤトの頼みに、カミューラ達は絶句した。


「な、何を言うか!貴様によって、どれ程の人間が!」


「呆れますわ」


アフロディーテは日本刀を手にすると、アヤトに向けた。


「ははははっ!」


そんな中で、マスターは手を叩いて笑い出した。


「君らしくない台詞だ」


マスターはしばし笑った後、アヤトのそばまで行くと、肩に手を置いた。


「その台詞を信用する程、我々は馬鹿じゃない。しかし、信用してほしいならば…」


マスターは、アヤトの肩を掴み、力を込めた。


「我々の邪魔をしないことだ」


それだけ言うと、マスターは後ろに目をやった。


「いくぞ」


「は!」


3人は声を揃えると、アヤトとマスターを飛び越えて、その場から去って行った。


「さらばだ。ナイト君」


マスターは肩から手を離すと、ゆっくりと歩き出した。






「部長!」


瑞穂の家のそばで張り込んでいた高坂の携帯に、舞から連絡が入った。


「やつらが来ます」


「そうか」


高坂は一言頷くと、通話を切った。


「部長」


緑は持ってきていた木刀を、袋から取り出した。


「ミ、ミュータントに、か、勝てます?む、無理でしょ…」


二人のそばで、輝が震えていた。


「勝つのではない。守るんだ」


高坂は、瑞穂が住んでいる家に背にすると、前方を睨んだ。


「やつらから、彼女をな」


すると、風の如く…アカツキ達が高坂の前に着地した。


「高坂真!」


カミューラが、高坂の姿を見て、唇を噛み締めた。


「あっ!エッチな人」


アフロディーテは無表情で、輝に日本刀を向けた。


「ひええー」


輝は緑の後ろに、隠れた。


「ったく!」


輝の様子に毒づきながらも、緑は木刀を握り締め、3人に向けて構えた。


「お前も戦え!神を宿してる癖に!」


「む、無理ですよ!」


輝は、アフロディーテの日本刀の輝きにさらに怯え出した。


「そう…無理ですよ。まだこの頃は、上手く力を使えなかったですからね」


アフロディーテ達の向こうから、ゆっくりと近づいてくる者に、緑と輝は目をやった。


「久しぶりですね。緑…そして」


アフロディーテ達の前に出てきたのは、マスターだった。


マスターは緑に微笑みかけてから、高坂の方に顔を向けた。


「部長」


そして、高坂に頭を下げた。


「…」


高坂は、マスターに眉を寄せた。


「何者だ?あたし達を知っている?」


緑は逆に警戒し、木刀の先をマスターに向けた。


「ああ…知っているよ。だけど、その訳はどうでもいい。今は、我々の邪魔をしないで、部室に戻ってほしい。そうするだけで、すべてが上手くいきますから」


マスターの言葉に、高坂はフッと笑った。


「我々を知っているならば、引かないこともわかっているはずだ」


高坂の言葉に、マスターもフッと笑った。


「そうでしたね」


自ら頷くと、マスターはアカツキに告げた。


「行け」


「行かすか」


動こうとした高坂の前に、アフロディーテが立ち塞がった。


「部長!」


緑の前に、カミューラが来た。


「え!」


思わず驚きの声を上げたのは、輝だった。


何故ならば、彼の前に来たのは、マスターだったからだ。


「ど、どうして…俺の前に…」


無意識に後ずさる輝を、マスターは無表情な瞳で見下ろすだけで、何もしない。


「くっ!」


高坂は顔をしかめ、アフロディーテを無視して、瑞穂の方に向かおうとしたが、首筋に差し込まれた刃に動きを止められた。


「行かせませんわ」


アフロディーテは、首を傾げた。


「マスター!」


数秒後、瑞穂の部屋から、アカツキの声が聞こえて来た。


「エトランゼがいません!」


「な!」

「何!?」


マスターと高坂が同時に、声を上げた。






「フフフ…」


大月学園内の理事長室。


そこに、瑞穂はいた。


「ここを破壊すれば、この世界に神は来れない」


瑞穂の足下に、黒谷理事長が倒れていた。


「さようなら」


瑞穂は、楽しそうに微笑んだ。

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