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幕開け~無からの殺意

宇宙。


光輝く星々を描くキャンパスである…その世界には、ほとんど命はない。


静寂のキャンパス。


光なき黒の下地に、点々と絵の具を落としたように輝く恒星と、その周りにある見えない惑星。


その埃のような見えない惑星には、大気の動きがあり…偶然が重なれば、命が生まれているかもしれない。


しかし、我々が見上げるキャンパスからは、生命の息吹きを見つけることはできない。


だが、その闇の部分に命があるかもしれない。一生懸命に生きる命が。


だけど、それを我々が感じることはできない。


そして、埃の中で騒いだとしても…宇宙の静寂は変わらない。


だが…その静寂がかき乱されるならば、どうなるのだろうか。


いや、静寂はすでにかき乱されていた。


それは、光。


真空の宇宙を横切り、遥か彼方まで届く光により、宇宙は静寂を保つことは不可能だった。


だが、それだけならばよかったのだ。


光が、ただ光るだけならば…。


静寂の宇宙は、許していたであろう。







「命は、美しいわ」


滅んだ世界で、白いブラウスを着た彼女は微笑んだ。


その腕の中に、生き絶えた子犬を抱き締めながら。


「やめろ!もうやめてくれ!」


彼女に手を伸ばそうとしたが、その手は見えない力に邪魔され、弾かれた。


「くそ!」


弾かれた手を握り締めると、男は力を解放した。


「この化け物が!」


光を纏い、彼女に襲いかかろうとした瞬間、男の前に誰かがテレポートしてきた。


「き、貴様!」


突然現れた相手を見て、男はさらにキレた。


「裏切り者が!」


光を纏った男の攻撃を遊撃する為に、右手を向けた瞬間…アヤトは、夢から覚めた。



「そうか…」


適当な空き家を見つけ、潜り込んだアヤトは目覚めた瞬間、天井に手を伸ばしていることに気付き、フッと笑った。


「改めて、思い出したよ。世界が滅んだのが、何故か」


アヤトは、ぐっと拳を握り締めた。


「そうだ…。だからこそ、俺は…」


寝ていた布団から、アヤトは身を起こした。


「過去に戻ってきたんだ。せめて…この時空は、滅びから守る為に」


そして、窓を開けると、そこから見える町並みに目を細めた。







「そうか…」


光なき闇の中で、独り椅子に座る男は、自らの姿も見えない中で報告を聞いていた。


「そうです。マスター」


アフロディーテの声は、電話などの機械を通さずに、男の頭に直接響いていた。


「予想外のミュータントか…。史実が、すべて正しい訳ではない。あの時代に、1人くらい目覚めていても不思議ではない。それに、場所があそこだ。あの学園ならば、イレギュラーも想定できる」


男はそう言うと、口許に笑みを浮かべた。


「如何致しましょうか?マスター」


アフロディーテの問いに、男はゆっくりとこたえた。


「命令に変更はない。あの女を殺せ。それだけだ。あの男がまだ目覚める年ではないが…そのミュータントが邪魔をするならば、排除しなければならない。そいつの影響で、やつが目覚めたら、我々が記憶している流れが変わってしまう」


男は、目の前の闇を睨んだ。


「了解しました。引き続き、任務を実行致します」


「アフロディーテ。そして、カミューラよ。できることならば、生徒会長や情報倶楽部と接触はするな。彼らには…」


男は、立ち上がった。


「傷が癒えたら、俺から直接説明しょう」


「了解しました」


通信を切ろうとするアフロディーテに構わず、男は言葉を続けた。


「ついさっき、アカツキの調節がすんだ。彼女を、転送した」


「了解しました。マスター」


カミューラがこたえた。


「任務の遂行を頼む」


男が頷くと、通信が切れた。


「まったく〜」


次の瞬間、部屋に電気がついた。


「あんたも、過去に行くの?」


すると、六畳程の部屋の隅で、電気のついていないパソコンの前でほほ杖をついている女が、口を開いた。


「この世界にいても、仕方がないだろ?アカツキを送ったから、もうすぐ俺は、1人になるしな」


「そうね」


女は頷くと、そっとパソコンを閉じた。


「まったく!最後があんたと二人なんて、洒落にもならなかったあ!」


「それは、すまないね」


男は苦笑した。


「竹内教授が、タイムトラベルの法則を残してくれたからよかったものの…でなければ、この世界は別の流れでも滅んでいたわ」


「そうだな」


「今度は…もっと外に出て」


女は背伸びをし、天井を見上げた。


「もっとましな…」


「おやすみ…」


男は、閉じたパソコンの上でそのまま…うずくまるように眠りについた女に背を向けると歩き出した。


「舞」


そして、ドアを開くと部屋から出ていった。








「超能力者か」


ドアが開き、高坂が部室内に入ってきた。


「予想外の相手ですね」


先に部室に戻っていた緑が、コーヒーの入ったカップを高坂と、パソコンの前で忙しなくマウスを動かす舞のそばに置いた。


「ありがとうございます」


画面に食い入る舞を見て、緑はため息をついた。


「あんた…ずっとパソコンの前にへばりついているけど…大丈夫?」


緑の言葉に、舞は画面から目を離さずにこう言った。


「大丈夫ですよ。死ぬ時、パソコンの前でしたら、本望ですから」


ニッと笑った舞の横顔を見て、緑は肩をすくめた。







「はあ〜」


放課後。東館から体育館をつなぐ渡り廊下に来て、司はため息をついていた。


昨日の不審者侵入事件は、犯人を捕まえることはできなかったが…被害はなしと警察に処理されていた。


生徒会長である九鬼が怪我をしていたが、相手が相手なだけに報告はされていなかった。


「間に合わなかったか…」


アヤトに言われた台詞が、司の脳裏にこびりついていた。


不審者が、瑞穂に接触したことは間違いなかった。


(突然…消えたあの女。あいつらと同類か?)


司の頭に、怪物となった男に襲われた記憶がよみがえる。


(記憶なんて…ただの記録なのに!どうして忘れない!)


母親のことがあったからか、司は…記憶はなくなるものと思っていた。


しかし、なくなってほしくない大切なものであることもわかっていた。


(くそ!やつらがまた、襲ってくるかもしれない!)


司は、持たれていた渡り廊下の手摺から離れた。


(やっぱり!彼女を守りたい)




その頃、瑞穂は…七海とともに廊下を歩いていた。


「これってすごくない?」


物静かな瑞穂にとって、話し好きの七海は少し苦手な部分があったが、転校先の初めての友達であった為か、別に苦痛ではなかった。


「それでね〜」


楽しそうに話を続けていた七海は突然、何かを感じたように足を止めた。


「あっ!ごめんなさい!教室に忘れ物をした。先に帰っておいて」


そう言うと頭を下げ、瑞穂から遠ざかって行った。


「は、はい」


瑞穂は頷き、七海が背を向けるまで足を止めて、見送った。


瑞穂に背を向けた瞬間、七海がフッと笑ったことに誰も気付かなかった。


「…」


瑞穂も、前を向くと歩き出した。


(フン)


笑いながら七海が走り去った廊下の曲がり角から、すれ違うように、1人の女子高生が姿を見せた。


伏せ目がちに、視線を下に向けながらも、女子高生は足を進める度に速くなっていった。


しかし、その動きに瑞穂は気付かない。


「水樹さん!」


その時、瑞穂の進行方向の角から、司が姿を見せた。


「危ない!」


司の目に、走りながら勢いをつけ、床を蹴り、後ろから飛び蹴りを喰らわそうとする女子高生の姿が飛び込んできた。


「え!」


振り返る瑞穂と、司が彼女の前に飛び出したのは、同時だった。


そして、蹴りを放った女子高生はと言うと、空中で何かに弾かれて、数メートル後ろに着地した。


「今度は間に合ったか」


反対側から声がして、司が振り返ると、そこにアヤトが立っていた。


「先生!」


アヤトの登場に、嬉しそうな声を上げた司とは対称的に、歯軋りをし、顔を上げると、血走った目を向ける女子高生。


(赤毛か)


アヤトは、女子高生を確認して、心の中で呟いた。


それから、ゆっくりと視線を…状況が飲み込めずに、狼狽えている瑞穂に向けた。


(そうだ…俺は…)


アヤトは突きだした腕を、ゆっくりと赤毛から瑞穂に向けた。


(お前を…殺しに来たんだ)


唇を噛み締めると、手のひらを瑞穂に向けた。

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