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同門の蹴り

「どういうこと?」


ちらりと後ろの瑞穂の様子を確認した九鬼は、彼女を庇うように前へ体を向けた。


瑞穂は、日本刀を持ったアフロディーテに、困惑し…怯えていた。


「ここは学園内…いや!外でも、刃物の携帯は禁止されているわ。そんな物騒なもの」


九鬼は、アフロディーテに向かって手を伸ばした。


「こちらに渡して下さい」


九鬼の言葉に、アフロディーテは口許だけで笑った。


「あはは。平和な時代ですね」


とそのまま、一歩踏み込み…九鬼の腕に日本刀を振り下ろそうとしたアフロディーテの動きが止まった。


ある程度極めた達人は、その先が読めるというが…。


アフロディーテの脳裏に、地面に倒れている自分の姿が浮かんだ。


「流石ですね」


アフロディーテは、日本刀を回転させると、どこかに消した。


「やはり…あなたとやりあうんでしたら…」


「!」


九鬼は、空気が変わったことを感じ、後ろの瑞穂に叫んだ。


「逃げて!」


叫んだ時も、意識も視線もアフロディーテに向けているはずだった。


「!?」


一瞬、視界からアフロディーテが消えた。


(テレポートか!)


九鬼が、そう思ったのも無理はなかった。


一連の動きが速すぎたのだ。


(え)


言葉が出る前に、九鬼の顎先に…アフロディーテの爪先が突き刺さっていた。


浮き上がる九鬼の体と合わせるように、床についた両手を弾くと背面飛びの要領で飛び上がるアフロディーテ。


そして、そのまま足を九鬼の首に絡ませると絞めながら、こうを描くように、九鬼の頭を廊下の床に激突させた。


「は」


アフロディーテは絡めていた足を外すと回転し、足から床に着地した。


「ルナティックキック二式…プラス…乙女ドライバー改」


呟くように技の名前を告げると、今度はゆっくりと腰を屈めた。


「ば、馬鹿な」


九鬼は何とか立ち上がると、首と頭のダメージを確認した。


額から血が流れていたが、日頃鍛えていた首の筋肉と、咄嗟の反射神経が、九鬼を致命傷から救っていた。


(この技は!)


九鬼は、後ろに下がろうとしたが…はっとして前に踏み出した。


「月が出ています」


アフロディーテが両手を広げると、淡い光が集まってきた。


「つ、月の光!ムーンエナジーが集まっている!」


二人が対峙している廊下の上空。太陽が沈んだ世界に、新たな光が小さく輝きだしていた。


「月影…」


アフロディーテの全身に、月の光が絡み付く。そして、腰を捻ると…そのまま蹴りを放った。


「キック!」


「あり得ない!」


九鬼も慌てて、蹴りを繰り出し、遊撃した。


二本のしなやかな足が、鞭のようにぶつかり合った。





「了解しました。マスター」


カミューラは携帯をしまうと、進路を変える為に、廊下の窓から飛び出し、一気に空を飛び、二階に向かう。



「部長!」


その動きを即座にキャッチした舞からの連絡を受け、高坂は一気に階段をかけ上がった。


そして、渡り廊下から走ってきた瑞穂とバッティングした。


息を切らす瑞穂は、高坂の姿を認め、思わず叫んだ。


「刀を持った人が!せ、生徒に!」


そこまで言って、瑞穂は絶句した。


高坂の向こうに、今度は拳銃を構えたカミューラがいたからだ。


「うん?」


瑞穂の表情を見て、高坂は眉を寄せながら、振り返ると…そのまま、銃口の前に、体を移動させた。


「何の真似?」


カミューラは、躊躇いのない高坂の行動を見て、無表情ながらもぴくりと眉を動かした。


「その問いの前に答えて貰おうか!何の真似だ?」


同じ質問をぶつける高坂に、カミューラは無表情ながらも苛立ちを醸し出した。


「今、目にしている情報以上のものはないわ」


カミューラの返事に、高坂はせせら笑い、顎を上げてこう言った。


「だとしたら、もっと言おう!敢えて言おう!な・ん・の・ま・ね・だ!!」



二人の会話を聞いて、瑞穂は混乱していた。


見知らぬ九鬼のことも心配だし、今目の前で、自分を庇う高坂も心配であった。


だから、敢えてこう訊いた。


高坂のそばに行くと、カミューラを見つめ、


「ここは、学校です!そんなものを持ち込むところではありません!」


真剣に叱るように、カミューラを睨んだ。


その瑞穂の顔を見た瞬間、カミューラの無表情が壊れた。


「ど、どの口が!そのようなことを!」


憤怒の表情をつくり、高坂の肩越しに、瑞穂の額に銃口を向けるカミューラ。


その軌道上に、高坂が移動した。


「くっ!」


カミューラは顔をしかめると、高坂ごと撃ち抜こうとして、引き金に指をかけた。


(やめておけ)


その時、カミューラの頭に声が響き、次の瞬間…動けなくなった。


「くっ!」


訓練からか、自然とテレポートし、死角から瑞穂に襲いかかろうとしたが…今度は、重力が重くなったように負荷がかかり…アフロディーテは片膝を廊下につけた。


(やめておけ。あの男は、高坂真)


(こ、高坂真!?)


思念で返しながら、カミューラは絶句した。


(あの男を殺したら…あんたのマスターが怒るぜ)


話しかけてくる声は、笑っていた。


「くっ!」


カミューラは立ち上がると、瑞穂と高坂の顔を交互に見てから、その場から消えた。


「え!」


驚く瑞穂と違い、高坂は頷いた。


「やはり…超能力者か」


カミューラが消えた空間を、二人が見つめていると、その向こうから、急いで駆け寄ってくる生徒が姿を現した。


「水樹さん!」


「あっ!葉山さん!」


聞き覚えのある声に、瑞穂の顔に笑顔が戻る。


「不審者が出ているそうよ。早く学校を出ましょう」


「うん…。で、でも!向こうで!」


心配そうに後ろを向いた瑞穂のうなじを見つめながら、葉山七海は目を細めた後、笑顔で言った。


「大丈夫!向こうも逃げたらしいわよ」



二人の会話を聞いていた高坂の携帯に、舞から連絡が入った。


「そうか…」


携帯を切る頃に、遠くから警察のサイレンが聞こえてきた。


緊急事態を嗅ぎ付け、生徒会の姫百合が、通報したのであった。


(目的は…彼女か)


高坂は、遠ざかっていく瑞穂の背中を見つめながら、素早く舞にメールを打った。


「了解しました」


監視カメラから、七海と共に帰る瑞穂の映像を解析に、人物の割り出しにかかろうとした…その時、映像がブラックアウトした。


「!」


舞は映像が消える寸前、横目でこちらを睨む七海を、目でとらえていた。


「何者だ?カメラに気づくなんて…」


舞はキーボードから手を離し、椅子にもたれると腕を組んだ。






「ま、間に合ったか」


校舎内にテレポートアウトしたアヤトの耳に、警察のサイレンが聞こえてきた。


「あ、あいつら!お構い無しかよ!」


慌てて廊下を走り、角を曲がったところで、アヤトは二人と遭遇した。


「み、水樹さん!そ、それと…」


「葉山です」


咄嗟に名前の出ないアヤトに、七海は微笑みかけた。


「だ、大丈夫か?な、何があった?」


慌ててしまうアヤトと、まだショックから上手く話せない瑞穂に変わって、七海が口を開いた。


「不審者は、ここから逃げました。あたし達に怪我はありません。今、警察が来られましたし…もう安全ですわ」


「あ、そ、そうか…それは、よかった」


頭をかくアヤトのそばを、七海が促し、瑞穂と二人ですれ違った。


その時、七海は小声で…アヤトにだけ聞こえるように言った。


「遅かったですね…。先生」


その言葉に、アヤトの全身に電気が走った。


「クスッ」


七海は軽く笑うと、瑞穂を連れてその場から離れていった。


サイレンと、慌ただしく校内に突入してきた警官達の足音だけを残して。







「く、くそ…」


足を引き摺りながら、生徒会室を目指し歩く九鬼の許に、姫百合が廊下の向こうから駆け寄ってきた。


「会長!」


「香坂さんか…。警察を呼んだのは?いい判断だけど…今の姿を見せられない」


肩を貸してくる姫百合に微笑むと、九鬼は歩くスピードを上げた。


「何者ですか?」


いつもは白く透き通っている九鬼の足の脛が、赤く腫れ上がっていた。


「わからない。だけど…あの女…あたしの技を使った。乙女ブラックである…あたしのオリジナルを」


数分前。


少し遅れて蹴りを繰り出した九鬼と、アフロディーテの回し蹴りに近い月影キックは、ぶつかった瞬間、互いをふっ飛ばした。


「くっ!」


九鬼が背中から、廊下の壁に激突した時には、アフロディーテは消えていた。




「そ、それよりも…やつらが狙っていた生徒がいた。その目的を探らなければ…」


九鬼は、同じ技を使う理由よりも、瑞穂の身を案じていた。






「水樹さん!」


警察が突入する中、反対側から司が校舎に飛び込んできた。


「遅かったじゃないか…。神原君」


突然、上から声がした為に、司は足を止め、左側を見上げた。


三階に上がる階段の踊り場に、アヤトが立っていた。


「先生…」


「不審者は逃げていったよ。近くにいた水樹も無事だ」


アヤトは、階段を下りながら、司の目を見つめていた。


「そ、そうか!水樹さんは、無事かあ〜。よ、よかった」


ほっと胸を撫で下ろす司の前に、階段を下りきったアヤトが立つ。


じっと自分を見つめるアヤトに、司は少し身を後ろにやった。


「フッ」


そんな司を見て、アヤトは笑うと、ポンと司の肩を叩いてから歩き出した。


「せ、先生?」


意味がわからず、思わず聞き返した司に、アヤトは後ろ手を上げた。


「君も早く帰るんだぞ」


「あ、ありがとうございます」


思わずお礼を述べる司から見えない距離に来ると、アヤトはテレポートした。


「ここなら、舞さんにも見つからないだろう」


そして、テレポートアウトしたところは、大月学園から少し離れた三十階を越える高層マンションの屋上であった。


夜なのに明るい人工の光の海を眼下に見下ろしながら、アヤトはため息をついた。


「間に合わなかったか…」


そして、唇を噛み締めた。


「それじゃ駄目だ!昔と変わらないじゃないか!」


薄明かるい夜空に向かって吠えた。


「何しに来ている!お前は!うおおおおおおっ!」


アヤトの叫びは、高層マンションの上を駆け抜ける風に邪魔されて、誰にも聞こえることはなかった。


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