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弱きもの

「いや〜あ!自由な学校ですね」


生徒達の服装を見ながら、輝が感嘆の声を上げた。


「騙されるな!こんな学校があるか!」


高坂は階段を駆けおりると、グラウンドにでた。


「おや?」


その様子に気付いた学生は、校舎に入ろうとして足を止めた。


しかし、高坂は学生の横を通り過ぎ、学校の周りを見回した。



「…」


少し振り返った学生はフッと笑うと、校舎の中に入った。


「部長!」


学生の横を、輝が走り去った。


「あり得るか?人によって見えるものが、違うだと!?一人一人の脳に違う映像を見せているのか」!」


高坂は、斬り続け死に続ける二人に気付き、顔をしかめると、走る速度を速めた。


「だったら、外に出たら!どうなる!」


そして、グラウンドの向こうを目指し、一気に校門を駆け抜けようとした。


しかし、その行動は無意味に終わった。


「部長!?」


校門をくぐり抜けたはずが、高坂は輝と正面衝突したのだ。


互いに尻餅をついて、後ろに倒れる二人。


「ぶ、部長…いきなり、反対に走るなんて…」


「違う!」


高坂は直ぐさま立ち上がると、制服の中に手を突っ込んだ。


そして、振り向き様、手にした銃の銃口を向けた。


しかし、銃口からは、何も発射されなかった。


「部長〜」


輝は、立ち上がりながら、溜め息をついた。


「その女神の銃、使えたことないでしょ」


「そうだが…」


撃てると思った。


そう思いながら、高坂は再び白い装飾銃を制服の裏に隠した。


「だが、しかし!わかったことがある」


高坂は校門に背を向け、歩きだした。


「ここは、鳥籠だ」


そして、目の前に聳え立つ校舎を睨み付けた。


「そうですかねえ」


輝は首の後ろで腕を組み、空を見上げた。


「いい世界だと思いますよ」


目を細めると、雲が裸体に見えた。


「ねえ〜」


にやける輝に、呆れたように高坂は鼻を鳴らすと、歩く速度を上げた。






「フッ」


校舎に入った学生の前に、女教師が笑顔で現れた。


「正野君」


「園田先生」


学生は、足を止めた。


「珍しいわね」


園田はにこっと笑った後、ゆっくりと歩き出し、


「あなたが、生徒に関心を持つなんて」


学生の横で止まった。


「僕はここの生徒会長ですよ。一応、転校生を把握しておかないと」


「そうね」


園田はクスッと笑い、


「ここの生徒は、友達と話しながらも、本当に話しているかわからない程の個々の存在」


廊下を歩きながら、談笑する生徒達に目をやり、


「よく聞けば、会話も噛み合っていない。だけど、互いに成立している」


笑顔を止めた。


「そんな重度の生徒達だけではありませんよ。ちゃんと個々に気付いている者もいますよ」


学生は、肩をすくめて見せた。


「でも、それが…幸せなのかしら」


それだけ言うと、園田は再び歩き出した。


「まあ〜いいわ。幸せを語るつもりはないし。ただ異物の始末は任せたわよ。生徒会長…正野忠司くん」


それだけ言うと、園田は談笑する生徒達の中に消えていった。


「…」


正野忠司は、ゆっくりと園田と反対の方向に歩き出した。


「邪魔だな」


そう呟くと、髪の毛が長髪から一気に短くなった。


ちらりと廊下の窓から、一度グラウンドに目をやると、姿勢を正し、真っ直ぐに歩き出した。






「チッ!」


体育館の中では、ボロボロになった九鬼が、仁王立ちのサラと戦っていた。


すべての攻撃が通用しないと、わかった時、九鬼の右足が唸りを上げた。


すべてを拒絶する王の盾。その一部が、九鬼の右足についていた。


「月影キック!」


右足の振動は、原子レベルであらゆるものを塵にかえすことができた。


人間相手なら、決して使わない蹴りを放つ為に、九鬼は体育館の床を蹴った。


蹴りが、サラに決まる寸前…突然、目の前から消えた。


その代わり、まるで鏡のように、同じ体勢で蹴りを放つ自分がそこにいた。



「な!」


足の裏同士が激突し、2人の九鬼は吹っ飛び、体育館の床に背中から激突した。


「同じ力に…タイミング…」


九鬼はふらつきながら、立ち上がった。


「鏡?」


同じように背中から倒れながらも、悠然と立ち上がった相手を見て、九鬼は顔をしかめた。


「違う!これは!」


再び構えようとした瞬間、先に相手が仕掛けてきた。


「!?」


動きを読まれているのかと、心の中で自問しながらも、九鬼はカウンターへと動きを変えた。


その瞬間、体育館の扉が開いた。


「こうなったら、この学校をくまなく探索するぞ!」


「ああ〜邪魔くさい」


扉を開けた高坂の後ろで、輝が生欠伸をした。


「うん?」


体育館内に目をやった高坂は、首を傾げた。


「生徒会長!」


高坂の後ろで、声を荒げた輝。


その瞬間、妙な緊張を持って構えていた九鬼の力が、変な意味で抜けた。


すると、襲いかかっていた相手は、目の前から消えた。


「本当に、九鬼生徒会長なのか?」


高坂は幻想を見ているかもしれないと、危機感を積もらせながらも、体育館の真ん中に立つ九鬼に近づいた。


「高坂部長…ご無事で」


前にいた敵がいなくなったことよりも、自分の無事を確認し、安堵する九鬼を見て、高坂は軽く肩をすくめて見せた。


「どうやら、本物のようだ。だが…」


高坂は九鬼のもとに近付こうとした輝を、左腕を横に伸ばして止めると、


「その物騒なのを止めてくれるかい?」


九鬼の右足に目を落とした。


「あっ」


輝もそのことに気付き、思わず後ろに下がった。


「!?」


九鬼の右足に装着されているオウパーツが、発動していたのだ。


最強の盾である王パーツは、振動波を発しており、近付くものを塵にしてしまうのだ。


九鬼は軽く深呼吸し、心を落ち着かせた。


すると、オウパーツは肌色に変わり、ついていることもわからなくなった。


「君がオウパーツを発動する程の敵が、ここにいたのか?」


高坂は、周囲を見回した。


しかし、ガランとした体育館内に、3人以外の気配はない。


「敵ねえ〜。ここはバラダイスですよ」


輝は体育館内の端にある更衣室を見つけ、目を細めた。


すると、更衣室の中で着替える女子達の姿が、リアルに浮かび上がってきた。


「うふ」


いきなりにやけだす輝をちらりと見ると、高坂は顔をしかめた。


「誰も幸せを感じる天国などはない。しかし,脳内麻薬などや性的な快感を」


そこまで言って、高坂は考え込んだ。


(死んだ人間がいることも、願望なのか?だとしても、梓君が拐われたことと、吸血鬼になったこと…それに)


高坂はポケットから、写真を取り出した。


「まあ〜細かいことはいいじゃないですか!拐われた梓さんを救出し!生徒会長のオウパーツで、校門の空間を破壊したら、帰れるでしょうし」


妄想から我に返った輝が、高坂に言った。


「そう簡単に」


「だけど〜駄目だな俺…。下着のバリエーションが少ない!帰ったら、そういう雑誌を目に焼き付けて、もう一度ここに!」


両拳を握り締める輝の言葉に、高坂ははっとした。


「想像できるものしか、具体化できないのか!」


「想像できるもの」


九鬼は先程まで、相手がいた空間を凝視した。


すると、うっすらと不敵な笑みを浮かべる自分の姿が浮かんだ。


「この学校の謎は、少し解けそうだが…拐った意味がわからない。とにかくだ!梓君を探そう」


高坂は九鬼に顔を向け、


「手伝ってくれるかい?生徒会長」


尋ねた。


「勿論です」


九鬼は、虚空の自分に背を向けた。


すると、もう1人の自分は消えた。


「ありがとう」


高坂は礼を言うと、出口に向けて歩き出した。


「せめて、巨乳!」


途中、想像力を膨らませようとする輝の頭を小突いた。







「どうやら、抜けたようですね」


校舎の三階から、体育館を見下ろしていた正野は、フッと笑った。


「1人では無理でしたのにね」


そして、体育館から出てきた3人に目を細めた。


「いいじゃないですか!この学校に、地獄は必要ありませ〜んから!」


正野の後ろに、世界征服が立っていた。


「地獄…」


正野は呟くように言うと、窓から離れた。


「地獄がない世界は、ありませんよ」


ゆっくりと歩き出す正野に、世界征服は頭を抱えて見せた。


「そんなことはないです!」


「ありますよ。生きることは、戦いですから」


正野は、目を瞑った。


「だったら、死んだらどうなりますか?」


世界征服は、遠ざかっていく正野の背中に訊いた。


正野は足を止めずに、こたえた。


「無ですよ」


「無?それは、零ですか?」


「そう。何もない」


「ノー!あります!ハートがあります」


世界征服は、その文字が書かれた部分を叩いた。


「心ですか」


正野は軽く笑い、


「それも無でしょうね。なぜならば、あるかどうかわからない」


最後にもう一度、苦笑した。


「君は、夢がないね」


世界征服は、口を尖らせた。


「違いますよ。夢を見続けているだけですよ」


正野は、階段を降りた。


途中足を止め、片目を手のひらで隠すと、もう片方の目に何もない荒れ地が広がっていた。


「フン」


鼻を鳴らした正野は、後ろに引っ張られる感覚を感じ、振り返った。


そこには、墓が一つあり…正野の服を掴む少女がいた。


「…」


少女は小声で、何かを囁いた。


「わかっていますよ」


正野は手のひらを下ろすと、階段を歩き出した。


「無だからこそ、あり続けたいのです」


すると、階段を上がる生徒達が姿を見せた。


下りる正野と、すれ違う女子生徒。


その生徒は、紛れもなく…拐われた柳川梓であった。







「しかし…」


高坂は歩きながら、廊下や教室内で談笑する生徒達を確認しながら、思わず考え込んでしまった。


(見えるものが人によって違うならば…今、俺が見ているものは、存在しているのか?)


高坂はちらっと後ろを向くと、九鬼にきいた。


「生徒会長。君が見える生徒の数と位置。男か女だけこたえてくれないか?」


「…わかりました」


少し驚いた後、九鬼は高坂の目を見ながら、頷いた。


そして、ゆっくりと周りの状況を説明した。


「ありがとう」


九鬼の説明を聞き終えると、高坂は頷いた。


(なるほどな)


九鬼の見えている生徒の数、男と女は一致した。


(つまり、見えている人間は、生きてるかはわからないが、存在している。しかし…)


高坂はちらりと、自分の隣で欠伸をしている輝に目をやり、


(着ている服や、周りの景色はそれぞれによって異なるということか)


口許を緩めた。


(ならば、気にするのは、人のみ!)


梓を探す為に、歩く速度を上げようとした高坂は突然、目を見開いて足を止めた。


何故ならば、先日自殺したはずの佐伯良子が目の前に、飛び込んで来たからだ。


「さ、佐伯良子!」


絶句した高坂に、良子は微笑んだ後、背中を向けて歩き出した。


「フッ」


高坂は無理に笑うと、良子の背中を見つめ、


「ついて来いってことか」


後を追うことにした。


「部長!さ、さ、佐伯良子って!い、今の幽霊ですか!」


思い切り震える輝を見ることをせずに、高坂はこたえた。


「それを確かめる」


「ええ!」


輝はその場で立ち止まり、地団駄を踏んだ。


「…」


九鬼は無言で、ゆっくりと歩き出した。


「せ、生徒会長も!」


離れていく2人の背中を見て、輝は項垂れると、数秒後に覚悟を決めた。


「ゆ、幽霊でも、女だ!女!」


輝は歩き出した。


「チクショー!」






「これまた…」


階段を下りていた正野忠司は、高坂達の様子を見て、背をすくめた。


「展開が早い。成る程…その為に、彼らはここに来たのか」


輝が通り過ぎるのを確認してから、正野は廊下に足をつけると、彼らとは逆の方向に歩き出した。






「ここは!?」


廊下の一番端にある奥の階段から、上に上がった良子を追いかけて、高坂達は屋上に来ていた。


真っ青な晴天の下、良子は屋上の真ん中に立つと、ゆっくりと両手を広げた。


すると、良子の体が宙に浮かんで行った。


「そうか!」


高坂は、写真のことを思い出した。


「空を飛んだ!やはり、ゆ、幽霊!」


輝は、出てきた入口に向かって、後退りした。


「生徒会長」


高坂は、宙に浮かぶ良子を見上げながら、九鬼にきいた。


「あれは、魔獣因子か?」


「違いますね」


九鬼も見上げながら、良子の変化に目を細めた。


魔獣因子とは、実世界で、本当は魔物になるはずだったが、人間になったものの中にある遺伝子のことを指していた。


その遺伝子は、目覚めることはないはずだが…実世界からブルーワールドに来て、目覚めた者もいた。


勇者として名高い赤星浩一も、その1人であった。


「魔力を感じない」


と言うと、九鬼は突然走りだし、良子の足下を駆け抜けると、屋上を囲うフェンスに向かってジャンプした。


そして、フェンスの反動を利用して、空中に浮かぶ良子の背中に向けて、回し蹴りを叩き込もうとした。


「!」


しかし、その動きをよんだ良子は空中で反転すると、肘で九鬼の蹴りをブロックした。


「な!」


蹴りを防がれ、空中でバランスを崩し、背中から落下する九鬼のボディに、マシンガンのようなパンチを繰り出す良子。


彼女達は、一緒に落ちていく。


「生徒会長!」


落下地点に駆け寄ろうとした高坂の耳に、九鬼の叫びがこだました。


「装着!」


黒い光が、九鬼を包んだ。


その瞬間、良子はにやりと笑うと、今度は…膝をお腹に叩き込んだ。


「くっ!」


乙女ブラックになった九鬼の体がくの字に曲がり、屋上の床に突き刺さった。



「生徒会長!」


変身したのに、明らかにダメージを受けている九鬼を見て、高坂は拳を握り締めた。


「部長〜!」


高坂の後ろで、扉の向こうに隠れる輝。


明らかに、良子は視線を2人に向けていた。


突き刺した膝を抜き、立ち上がると、顎を上げ、高坂達を見つめた。


その目には生気はないが、殺気はあった。


「変身した生徒会長を」


高坂は、もがきながら何とか立ち上がろうとする九鬼に目をやると、改めて良子を見た。


普通の人間にしか見えない。


しかし、その戦闘能力は侮れない。


高坂は、無意識に構えていた。


「部長!逃げましょう!」


輝の言葉も、高坂の耳には入らない。


「勝てませんよ!」


輝は必死に叫んだが、高坂は逃げる気はない。


「生徒会長もやられたんですよ!そんな相手に勝てるはすが…」

「そうです。リア充が、勝てる訳がありません!彼女は、無敵デス」

「え!」


輝は、唐突に隣に現れた世界征服に驚き、彼の横顔を見つめた。


「この世界に、リア充がいてはいけないのデス。もし仮にいたとしても、一番弱いデス」


「どういう意味です?」


妙な自信を感じさせる世界征服を見て、輝は眉を寄せた。


「そういう意味デス」


世界征服は、深く頷いた。


「高坂部長!」


何とか立ち上がった九鬼は、自分から離れ、ゆっくりと高坂に近づいていく良子の背中を睨むと、床を蹴った。


目にも止まらない速さで、良子に襲いかかる。


しかし、良子は…高坂から視線を外さずに、拳を横に突き出すだけで、九鬼をふっ飛ばした。


「な!」


信じられない表情を浮かべながら、九鬼は再び床に倒れると同時に、変身が解けた。


「ああ〜」


唖然とする輝とは違い、高坂は冷静に目を細めた。


「部長!逃げて!」


輝は叫び、世界征服はにやりと笑った。


「面白いですね」


「高坂…」


高坂は拳を握り締めると、前に出た。


「部長!」


「パンチ!」


輝の声を切り裂くように、高坂は良子に向かって、拳を突き出した。


すると、高坂のパンチは、良子にヒットし、彼女を吹っ飛ばした。


「部長!?」


目を見張る輝に、高坂はにやりと笑った。


「少しわかったぞ。ここは、弱い者が強い!逆転の世界だ」


「それだけでは~あ~りません」


世界征服は、良子を指差し、


「どれだけ~病んでいるかも力に~なるのです」


天を見上げた。


「病んでいるだと!?」


眉を寄せ、世界征服の方に振り返ろうとした高坂の首に、良子の手がかかった。


「邪魔するな!梓は渡さない」


「な」


突然の良子の言葉に、高坂は驚きながらも、彼女の腕を掴むと首から離し、そのまま後ろに投げつけた。


「部長!」


「なぜだ!彼女は、君の親友で、自殺の原因ではないはずだ!」


高坂の叫びを、良子はせせら笑った。


「あたしは、死んだ!あいつらのせいで!だから、梓に会えなくなった。だけど、ここでは会える!愛する梓に!」


「レ、レズ!?」


思わず声を荒げる輝。


「だから、邪魔しないで!」


そう言うと良子は、屋上のフェンスを飛び越えて下に消えた。


「オウ!ノ~」


嘆きながら、世界征服は階段を下りていった。


「この世界は、何だ?」


高坂は首を擦りながら、呟くように言った。


「部長!彼女達、レズですか?」


そして、輝を無視して、良子が消えた方を見つめた。

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