表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
487/563

学園

(チッ)


心の中で舌打ちしながら、高坂は机に座り、頬杖をついていた。


周りにいる見知らぬ生徒達。


制服はばらばらで、人種もばらばらであった。


なのに、言葉は通じていた。


人間の言葉は、単一であるブルーワルードにいたから気にしていなかったが…明らかに、中国語や英語を話している者もいるのに、普通に頭に入ってくるのだ。


(頭に直接、話しかけているのか?それとも、ある種の魔法か?脳波や波長、もしくは思考を分析して、解析する。いや、わからん。舞とつながれば)


高坂は席を立つと、カードを確認した。


いつのまにか、通信がつながらなくなっていた。


(ここは…この教室は、ブルーワールドとつながっていないのか?)


カードシステムが、実世界で使えるのは、大月学園が向こうとつながっているからだ。


少し歩き、教室の窓のそばにいくと、一応携帯を開いた。


「オウ!高坂くんは、携帯をお持ちなんですね。ということは、僕と同じ世界から来たんですねえ」


後ろから声をかけられ、高坂は少し眉を寄せてから、振り返った。


180センチはあるひょろ長の白人が、立っていた。


着ているのは制服ではなく、胸に世界征服と漢字でプリントされているTシャツであった。


「しかし、この世界で、携帯はナンセンスね!なぜならば…」


世界征服は、ここで言葉を溜めた後、


「携帯会社がないからよお〜」


と言い、両手を広げた。


「…」


高坂は携帯をしまうと、前を向いた。


窓から見えるのは、日本の住宅街だ。


「オウ!高坂!」


世界征服は高坂の隣に来ると、窓を開け放ち、


「あなたには、何が見えますか!僕には、学園の外がすべて、アキバに見えますうう!オウ!ワンダフル!」


世界征服の言葉に、高坂は目を見開いた。


「何?」


そして、世界征服の横顔を見ようとした。


その時、教室の扉が開いた。


「ビバ!下着!ビバ!天国!僕はとうとうたどり着いたのですね」


そして、扉の前で涙を流しながら、敬礼する輝の姿が、目に飛び込んできた。


「下着姿の女性ばかり!世の中、軽装だ!いっそのこと、もう一枚くらい!」


エロイ顔で、教室を見回す輝に向かって、高坂は歩き出した。


「こ、これはこれは!ナイスバディのお嬢さん!」


近付いてくる高坂の胸と下を交互に見る輝。


「高坂パンチ!」


そんな輝の顔面に、高坂は拳を叩き込んだ。


「見れた!た、谷間!」


満足気に後ろに倒れる輝は、後頭部を廊下にぶつけると、はっと目を覚めた。


「ぶ、部長!?」


目の前に立つ高坂を認識した輝は、一応下から上まで確認してから、こう言った。


「ま、まさか!女装の趣味がおもちで」


「うるさい」


高坂は倒れている輝の腹に足を乗せると、教室の外に出た。


「ボーイ、大丈夫かい?」


世界征服は輝の前に来ると、手を差し伸べた。


「部長!」


輝は無視して立ち上がると、高坂の背中を追って走り出した。


「オウ!ノオ〜」


肩をすくめる世界征服。



「部長!」


「…」


後ろから輝が叫んでも、高坂は足を止めない。


「どうしてくれるんですか!部長に殴られてから、下着の天使達がいなくなったじゃないですか!」


輝は目だけを動かし、周りを確認し、拳を握り締めた。


「桃源郷が消えた」


そして、下を向くと、思い切り…肩を落とした。


「ぶ、部長のせいだ!」


抗議しょうと顔を上げた瞬間、輝は高坂の背中にぶつかった。


「な!」


思わず絶句した高坂が、足を止めたからだ。


「部長?」


輝はよろめきながらも、前を見た。


笑顔で談笑しながら、高坂達の横を通り過ぎていく…大月学園の制服を着た女生徒達。


「さ、佐伯良子!?」


輝は思わず、目で女生徒達の動きを追った。


「あり得ん!彼女は!」


高坂が振り向こうとした瞬間、前から声がした。


「お兄ちゃん」


その声が、耳に飛び込んできただけで、高坂の息が止まり、心臓も止まりそうになった。


「ば、馬鹿な…」


何とか絞り出した言葉は、状況を認めてはいなかった。


「お兄ちゃん」


二度目の呼び方で、高坂は震えながら、前を向いた。


「いくら、父さんと母さんが離婚して、別々になったからといって、お兄ちゃんはお兄ちゃんなんだからね」


「り、涼子」


膨れ顔の女の子を認識すると、高坂の左目から一筋の涙が流れた。


「真お兄ちゃんも、流お兄ちゃんも、ずっと〜わたしのお兄ちゃんだからね」


それだけ言うと、涼子は高坂から離れ、手を振りながら前の廊下の角を曲がった。


「部長の妹さんですか?可愛いですね。あまり部長と似ていないですね。よかった」


「涼子」


輝の話は、高坂の耳に入ってこなかった。


「でも…どうして、ここにいるんですか?」


首を捻る輝。


同級生達の手によって、植物人間となった涼子は…兄である幾多流の手によって、延命装置を外され、亡くなった。


原因をつくった生徒は、幾多によって殺された。



「あり得ん」


と呟きながらも、高坂は涙を拭わなかった。


「あり得ない」


その言葉だけを何度も、呟いた。





「そ〜う!あり得ない世界ね」


世界征服は、扉の前で深々と頷いた。



「だけど〜あり得ないから、失いたくない世界よ。ここは」


教材を手に、廊下を歩く女教師は、微笑んだ。


「あなたは、逃げれない」


女教師は、ちらっと廊下の窓から下を見た。


校舎の向こうに、祠が祀ってあった。


「ここはもう…一人ヶ原ではないわ」


女教師は、口元を緩めた。






その頃、部室の中で椅子にもたれて、心配そうに悩み込んでいた舞のもとに、さやかから連絡が入った。


「そうですか!戻ってこられました!何とか信号を送ることができたんですね!さすがは、月の女神!」


舞は、笑顔になった。





「ここに、校舎があるなんて…知りませんでした」


「ごめんなさい。あたしには、見えないのよ」


裏門を出たさやかは、肩をすくめ、隣に立つ女子生徒を見た。


「ということは。あなたには見えるんですね?生徒会長」


隣に立つのは、九鬼真弓であった。


「何とかですけど」


九鬼は、朧気に見える旧校舎を見上げた。


「如月部長。この中に、高坂部長が消えたのですね?」


「ええ。さらわれた生徒を追ってね。でも、それだけではないわ。最近、この辺りで失踪事件も起こっている」


さやかは、見えない旧校舎を見上げ、


「認識さえさせれば、見えるかもしれない」


目を細めた。


「行きます」


一人歩き出そうとする九鬼に、さやかが声をかけた。


「ごめんなさい。この世界に呼び戻して…。魔法が使えないここでは、あたし達は無力に近い。月の女神も前回の事件で気を落としているし」


「いいんですよ。あたしは、ここの生徒会長ですから」


九鬼はさやかに微笑むと、旧校舎に向かって歩き出した。


前方を睨みながら。








「諸君!我々は一度、すべてを失った!しかし!」


誰もいない校庭の真ん中で、1人軍服を着た男が叫んでいた。


「我々は再び、鬼畜米国に戦いを申し込む!そして、今度こそは!国民すべての命を捧げて」


力説する男の首が突然、飛んだ。血飛沫を上げながら。


「違う!違う!」


首がなくなった男の前に、サーベルを手にした白人の男が、着地した。


「世界を征するのは、白人だ!それも、我々ゲルマン民族が相応しい!」


サーベルについた血を見つめながら、刀身に映る顔がにやけていた。


「カカカカ」


小気味よい笑い声を上げる白人の横を、正門から入ってきた九鬼が横切っていく。


そして、前のめりに倒れた軍服の男の前で、足を止めた。


「黄色人種が、我がそばを!」


白人の男は振り向きながら、横凪にサーベルを振るった。


しかし、次の瞬間、白人の男は絶句した。


振り返りもしない九鬼が、指先だけでサーベルを止めたからである。


「…」


九鬼は無言で、軍服の男を見下ろしながら、サーベルを引くと白人のバランスを崩し、そのまま回し蹴りを白人の男の腹に叩き込んだ。


「うぎゃあ!」


白人の男はふっ飛び、思わずサーベルを離した。


「どうなっている?」


九鬼は指先でつまんだまま、サーベルを地面に突き刺すと、眉を寄せた。


「今度こそ、我々は!勝つのである!」


何故ならば、軍服の男が再び立ち上がると、演説を始めたからであった。


いつのまにか、首から上が復活していた。


「こいつらは…」

「死んでいるのか」


九鬼が言おうとした言葉を、校庭の端から歩いてくる男が続けた。


「?」


九鬼は、男を見た。


長身で背中まである黒髪を靡かせた男は、学生服を着ていた。


「ここは、死者の学校か?」


九鬼は、学生から殺気を感じなかったが、本能から構えた。


「半分は正解」


学生は、軍服の男を挟んで、九鬼と向き合う位置で足を止めた。


「半分だと?」


九鬼は、腰を屈めた。


その様子を見て、学生は両手をポケットに入れた。


「答えを知ったら、ここから帰ってくれるかい?九鬼真弓…いや、デスペラードよ」


「デスペラード!?」


九鬼がその言葉に驚いた瞬間、学生は身を屈め、地面を蹴ると、一気に九鬼の胸元に飛び込んで来た。


「な」


反射的に、後ろに飛んだ九鬼の目に、ポケットから飛び出す手刀が見えた。


余裕で避けられる。そう思った瞬間、九鬼の体に痛みが走った。


「流石ですね。深く切り裂く予定でしたのに」


残念そうに呟いた学生の手に、日本刀が握られていた。


「い、いつのまに」


九鬼は、制服を切り裂き、腹に走った傷を指で確認した。


「わかりましたか?これが、ヒントです」


「!?」


九鬼はさらに、絶句した。


学生の服装が、変わっていたからである。


「新撰組」


背中に誠を書かれた着物は、間違いなく幕末の有名な剣士達の姿であった。


「これで、驚いて貰っては困りますよ」


学生は鞘に、日本刀をしまうと、今度は両手を前に突き出した後、腕を引き、腰を屈めた。


「か〜め〜は」


「!?」


信じられない力を感じ、九鬼は横に飛んだ。


「は!」


前に突き出した手のひらから、光線が放たれた。


光線は、正門にぶつかり、目映い光とともに爆発した。


「やはり…メジャーどころは、知られていますね」


避けた九鬼が、勢い余って校庭の端にある体育館内に転がり込んだのを確認して、学生は肩をすくめた。


「中に入りましたか。仕方がありませんね。今なら、出れましたのに」


学生の姿が、もとに戻った。


「強者程…ここでは生きれませんよ」


学生はため息をつくと、背を向けて、来た道を戻って行った。


「黄色人種が!」


学生の後ろでは、再び演説する軍服の男に切りかかる白人の惨劇が、繰り返されていた。






「く!今のは一体」


九鬼は一回転すると、体育館内に着地した。


そして、学生の方へ振り返ろうとした瞬間、背中に悪寒が走った。


「な!」


慌てて振り返った九鬼の目に、乙女ブラックが飛び込んできた。


「乙女ブラック…いや、違う!」


九鬼が構えるよりも速く、敵は接近してきた。


「乙女ダーク」


体育館の床の滑りを利用して、九鬼は後ろに下がった。


乙女ダークの蹴りが、鼻先を通り過ぎた。


九鬼は避けながら、スカートのポケットから、眼鏡ケースに似たものを取り出した。


「装着!」


九鬼が叫んだ瞬間、眼鏡ケースが開き、眼鏡とともに黒い光が九鬼を包んだ。


「は!」


乙女ブラックになった九鬼は、今度は床を蹴ると空中で身をよじり、鞭のようにしならせた足を乙女ダークの顔面に叩き込んだ。


すると、乙女ダークの顔にかけてあったサングラスが飛び、変身が解けた。


「デスペラード」


九鬼は着地すると、改めて自分そっくり女を見た。


女は悔しそうに、九鬼を睨み付けながら、その姿を変えた。


姿だけではない。


体格も、骨格も変えた。


九鬼を見下ろす巨体よりも、赤髪の中から飛び出している二本の角が印象的であった。


「どうなっている?」


その姿は、天空の騎士団長…サラであった。


「どういうことだ」


九鬼は、サラの魔力を感じ、身震いした。







「うん?」


廊下を歩いていた高坂は、足を止めた。


「どうしました、部長?」


隣を歩いていた輝も、足を止めた。


「…今、凄まじい気を…感じたような…一つだけだが」


「え!そうですか?」


普通ならば、犬神を身に宿している輝の方が、敏感である。


輝も一応、気を探ってみたが、何も感じなかった。


「それよりも、部長!ここの謎を解きましょう!やはり、死者がよみがえる場所で、生者にはバラダイスを見せる〜面白い世界ではないでしょうか」


「フッ」


高坂は笑うと、再び足を進めた。


「部長」


自分の横を通り過ぎた高坂を、輝は目で追った。


「それだけでは、吸血鬼のようになった伊集院くんの件を説明できない」


高坂は、バラバラの格好をした生徒達を見、


「調べるぞ」


歩く速度を上げた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ