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大切な心

「歌?」


雲の上を飛んでいたアテネは突然、停止した。


「歌?ですと」


前を飛んでいたディーンも止まり、耳を澄ました。


しかし、歌など聴こえない。


「悲しい…歌。いえ…わからないわ」


完全なる天使――いや、神であるアテネに、感情はない。


ただあるのは、神としての裁きを実行することだけだった。


「うおおっ!」


その時、足下の雲を裂いて 、1人の戦士が飛び出して来た。


「お、お前は!」


驚くディーンを無視して、戦士の拳がアテネに突き刺さる。


「赤星浩一!」


ディーンは、魔力を左手に込めると、アテネのもとに飛ぼうとした。


しかし、途中で、ディーンは手を止めた。


奇襲であった赤星浩一の拳は、アテネの人差し指に止められていた。


「…」


アテネは無言で見下ろすと、人差し指で拳を弾いた。






「な」


僕は落下しながら、目を見張った。


人差し指で弾かれてから数秒で、僕は地表近くまで落ちていたからだ。


「あり得ない」


何とか体勢を立て直し、地上に着地した僕は…深呼吸をしてから、再び空を目指そうと炎の翼を発生させた。


「待て!赤星!今のお前では、勝てない」


その声に、僕ははっとして振り返った。


数メートル先に、アルテミアが立っていた。


ブロンドを靡かせて。




「アルテミア…」


「赤星!やつは強い。なぜならば、すべてを無にする為に存在する神だからな。この世界で、やつに勝てるものはいない。お父様だって…」


アルテミアは少し目をふせ、唇を噛み締めてから、顔を上げた。


「だけど!」


アルテミアは、何かを伝えようとしていた。


しかし、その前に、僕は空に飛び上がった。


「赤星!」


それに気付き、アルテミアも翼を広げた。


「話をきけ!」


僕の前に、全速力で立ち塞がったアルテミアは、両手を広げた。


「どけ!」


しかし、僕は苛立ちから、アルテミアに平手を喰らわせた。


(あっ)


心の片隅で、後悔したが…僕は目を瞑り、そのまま飛び去ろうとした。


だが、行くことはできなかった。





「おい」


アルテミアを殴った腕を、男が握り締めていた。


「俺の女に手を出したな」


男は、僕の腕を握り締めると、力任せに地上に向けて叩き落とした。


「例え、自分でも!許せるか!」


予想以上の力がかかり、僕は地上に着地したが、片手を地面につけてしまった。


「!」


驚く僕の目の前に、分身である綾瀬太陽が立っていた。


「俺は、お前の一部だから、苛立つ気持ちも分かる!しかしな!」


太陽は、拳を握り締めると、僕に襲いかかってきた。


「アルテミアを殴ったことを、許せるか!」


立ち上がった僕は、避けようとしたが、なぜかパンチはヒットした。


「!?」


「当たり前だろうが!俺は、お前だ!避ける癖もわかる」


太陽のいう通り、避けても避けてもパンチはヒットした。


しかし、ヒットする事実よりも、拳の重さに絶句していた。


僕の3分の1しかないはずのパワーなのに、頭の芯に響くのだ。


「それに!わかっているだろうが!すぐにかっとする悪い癖も!」


太陽は、僕を殴り続けた。


「勝手に決めて、1人で戦い!アルテミアを置いて、肉体を失ったことも忘れたか!今のお前の肉体は、アルテミアと!」

「うるさい!」


僕は、逆ギレした。


分身である太陽の言葉がもっともであるが、感情が昂っている僕には、怒りが増すだけだった。


手から炎を出そうとした瞬間、太陽の背中から蜻蛉の羽が飛び出した。


「こ、この羽は!?」


驚く僕に、羽から放たれた炎の玉が当たった。


「フレア!」


肉体にダメージはなかったが、心が痛んだ。だから、無意識に…僕は両膝を地面につけていた。


「あの天使は、強大だ。だけど、勝てないはずはない。俺達とアルテミアがいたらな」


太陽はゆっくりと近づくと、僕の肩に手を乗せた。


「さあ、行こう!やつらを止めにな。それが、赤星浩一がこの世界に生きる意味なんだ」


太陽の体が消えていく。


「一つに戻るぞ」


「!」


僕は、太陽の顔を見上げた。


「自分をじろじろ見るな」


太陽は笑い、


「アルテミアを頼んだ」


そのまま消滅した。


「いくぞ!赤星!」


太陽が消えると、僕の肩に手を乗せているものは、アルテミアに変わった。


「やつを倒すぞ」


「し、しかし…」


微笑むアルテミアに、僕は訊いた。


「他にも天使はいる。2人でいくより、アルテミアは」


「心配するな。あたしの部下も、人間も使えないやつばかりじゃない」


アルテミアは、僕を立たし、


「あたし達は、さっきの天使を叩く!やつの力は、他を凌駕している。やつを倒せるとしたら、あたし達だけだ!」


真っ直ぐ目を見た後、大きく頷いた。


「わかったよ」


僕も頷いた。


「いくぞ!赤星!」


2人は同時に、空へと飛び上がった。







「ギラブレイク!」


ギラの必殺技が、天使を黒焦げにした。


「む、無駄だ!」


天使は灰になりながら、ギラの後ろを指差した。


「人間から罪は消えない。今の状況ならば、次の天使も召喚できる。ハハハ!」


天使は笑いながら、消滅した。


「チッ」


ギラは舌打ちすると、振り返った。



「心配いりません。皆さん、早く避難を」


倉庫に、凛とした声が響いた。


先程までいなかった人物が、真ん中にいた。


「あ、あやつ〜」


ギラは、忌々しそうに真ん中に立つ男を睨んだ。


「ジャスティン・ゲイだ!」

「ホワイトナイツの!」

「助かった!」


パニックになっていた人々に、希望がよみがえった。


「あちらから逃げて下さい」


ジャスティンの指示に従い、人々は、ギラが空けた穴から逃げていく。


「フン」


ギラは鼻を鳴らすと、ジャスティンの方に歩き出した。


「相変わらず、大した人気だな?今まで、何をしていたんだ」


ギラの言葉に、ジャスティンは肩をすくめ、


「人々を救う為に、幽閉され…人々を救う為に、天使を数名始末してきた」


フッと笑った。


「フン!」


ギラは、ジャスティンを見下ろし、


「まさか、すべての場所にいくつもりか?」


訊いた。


「冗談を」


ジャスティンは、ギラを見上げ、


「人間は、俺だけじゃない」


軽く睨んだ。


「フン!わかっている!」


ギラは、ジャスティンの横を通り過ぎると、魔物達に撤退の命令を出した。


「こちらこそ、人間の為に…ありがとうございます」


ジャスティンは、ギラの背中に頭を下げた。


「誤解するなよ!ジャスティン!」


ギラは振り返らずに、言葉を続けた。


「人間など、どうでもよい!しかし、やつらは人間を滅ぼした後、この世界のすべてを無にするつもりだ!」


ギラの体が、空中に浮かぶ。


「我々は、人間以外のあらゆる生物の営みを守る!それが、我を創ったライ様の意志だ!」


そこまで言うと、ギラは一瞬で、倉庫から空へと移動した。



「ライの意志か」


ジャスティンは呟くように言うと、カードの通信モードをオンにした。


「全部隊に命じる。敵は、天使!やつらは、我々を滅ぼすつもりだ。民間人を守り、速やかに殲滅しろ!あと、回線を全世界に繋げ!音声だけでいい」


そう命じた後、ジャスティンは一呼吸をおいてから、話し出した。


「市民の皆さん。私は、ジャスティン・ゲイです。今、世界に恐ろしいことが起こっていますが、心配はいりません。私と防衛軍!それに!」


ジャスティンは敢えて、言葉を切り、


「勇者!赤星浩一くんが、やつらを倒します!天使達を!」


人々に伝えた。


ジャスティンが幽閉された頃から、本部以外の防衛軍は不信に思い、何かあると表面は従いながらも、備えていたのだ。


「行くか」


ジャスティンは通信を切ると、次の場所へテレポートした。








「何!?」


蹴りを放ったと思った瞬間、九鬼はこうを描くように、空に舞い…背中から、地面に激突した。


その衝撃で眼鏡が取れ、乙女シルバーから、学生服姿に戻った。


「ムーンエナジーが通用しない」


空を見上げながら、唖然として呟いた九鬼を、天使はせせら笑った。


「月の光が、我々にきくものか!」


女の姿をした天使は、バストを上に突き上げながら、ゆっくりと近付いていく。


「真弓!」


駆けつけようとするカレンの前に、もう1人の天使が舞い降りた。


「どこにいくつもり?」


「チッ」


笑顔を向ける天使を見て、カレンは舌打ちした。


2人の天使は、絶世の美女ではあったが…あらゆるパーツが同じな為に、分身にしか見えなかった。


「お前は、普通の人間のようだが…どうして、我々に魂を吸収されなかった?」


天使の言葉に、カレンはちらっと一瞬だけ、周りを確認した。


眠っているかのように、地面に倒れている数百人の人々。


外傷はないが、みんな…死んでいた。


「咎人から召喚され、人の魂を奪うことで、我々は使命を実行する」


天使の言葉に、カレンは眉を寄せ、胸にかけているペンダントに手をかけた。


「使命とはなんだ!」


ペンダントにはめ込まれている赤い碑石から、針のように細い剣が飛び出して来た。


「ほお〜」


天使は、ピュアハートを見て、目を細め感心したように頷いた。


「お前達の目的を言え!」


カレンはピュアハートを突きだした体勢で、ジャンプした。


「そんなもので、我々を」


天使はかわすことなく、ピュアハートの突きを受け止めた。


ピュアハートは、天使の胸から背中などを貫いたが、それだけであった。


カレンはピュアハートを抜くと、後方に飛び、距離を取った。


「フッ」


天使は笑うと、傷口に指を触れ、カレンを見た。


「斬るや刺すだけの武器に、我々は倒せない」


「そうか?」


今度は、カレンが笑った。


ピュアハートを上に、突き上げると、こう叫んだ。


「モード・チェンジ!」


次の瞬間、天使がもう1人増えていた。


「な!」


驚きの声を上げた天使。


ピュアハートは、突き刺した相手の肉を食らい、能力をコピーすることができるのだ。


「いくぞ!」


天使の姿になったカレンは、状況が掴めていない天使の翼を斬り裂いた。





「お前は、人間ではないようだが…邪魔をするならば、死になさい」


地面に倒れている九鬼を、踏み潰そうと素足を上げた天使。


「ううう…」


九鬼は、背中を強く打ったせいで、体が痺れて動けない。


そんな九鬼の耳に、子供のすすり泣くと声が聞こえた。


「うん?」


天使も、その声に気付いた。


「まだ人間が残っていたなんて!それも、子供!純粋な魂は、我々の力になる」


「に、逃げろ!」


九鬼は首をだけを動かし、声がするほうに叫んだ。


両親だと思われる死体が、まるで盾になるかのように覆い被さり、小さな男の子を守っていた。


「先に、子供をいただくか」


天使は、九鬼を踏みつけるのを止めると、子供の方に向かった。


「に、逃げろ!」


九鬼が絶叫した瞬間、彼女の足元にある砂が盛り上がり、三体の土偶になった。


「な!」


驚く九鬼の目の前で、土偶達は一斉に、天使を攻撃を加えた。


後ろからの奇襲に、天使はバランスを失い、ふらついた。


「だ、誰だ!」


すぐにバランスを取り戻した天使は、振り向き様に、手刀からの光を放った。



「何をしてる?」


もう1人の天使の翼を斬り裂いたカレンは、九鬼のもとに駆け寄り、手を貸そうとした。


しかし、九鬼は自力で立ち上がると、三体の鎧を見た。


天使に破壊されても、砂に戻り、再生を繰り返す鎧達。


「あの鎧は!?」


カレンは、眉を寄せた。


「お前達は、子供を!生き残っている人々を探し、守れ!」


鎧にそんなことを言っても、言うことをきくはずがないと、カレンは思った。


しかし、鎧の一体は、二体が攻撃をしている間に、子供を包み、全速力で飛び去っていった。


あとの二体も、天使から離れ、飛び去っていく。


「あいつは、あたしが倒す!」


九鬼は、転がっている眼鏡を拾った。


「待て!」


歩き出した九鬼の背中に、カレンは叫んだ。


そして、ペンダントの中からあるもの達を取り出し、九鬼に投げた。


「餞別だ!受け取れ!」


「こ、これは!?」


自分の足下に落ちたものを見て、九鬼は目を見開いた。


それは、左足と胴体…左腕のオウパーツであった。


「防衛軍が、回収していたものだ。やつらに使われるのは危険だから、盗んで、碑石の中に封印してた。ピュアハートも封印できるから…何とかなるかなって、入れてみたら入った」


小さな碑石であるが、中に亜空間でも広がっているのかもしれなかった。


「お前なら、使えるだろ?」


カレンは、口許を緩めた。


「!?」


次の瞬間、オウパーツ達は勝手に九鬼の体にくっ付いた。


「いけ!」


カレンの叫びに応えるように、九鬼は眼鏡をかけた。


すると、乙女シルバーに変わったが、姿が少し違っていた。


もともとついていた右足のオウパーツも反応し、乙女スーツと融合し、合体したのであった。


乙女シルバー王バージョン。


進化した乙女スーツを身に纏い、九鬼は天使に向かって、ジャンプした。



「よし!」


頷いたカレンの耳に、怒りが混ざった声が飛び込んで来た。


「よそ見をするな!」


「チッ」


カレンは舌打ちすると、横凪ぎにピュアハートを振るった。


ピュアハートは天使の腕にめり込み、抜けなくなった。


「ははは!」


高笑いをすると、天使は蹴りを放ち、カレンをふっ飛ばした。


「この剣がなければ、何もできまいて!」


天使はピュアハートを腕から抜くと、深々と地面に先まで突き刺した。


「我の糧になれ!人間!」


そして、カレンに向かって、襲いかかる。


「やれやれ〜」


カレンは、蹴りを防いだ腕のダメージを確かめながら、ため息をついた。


「仕方がないな」


カレンは、ゆっくりと全身の力を抜くと、軽く拳を握った。


「あはははは!」


嬉しそうに笑いながら襲いかかってくる天使にタイミングを合わせ、カレンは拳を突きだした。


「え」


天使の顔が驚きから、一瞬で苦痛に変わった。


「チッ」


カレンは舌打ちした。


「まだまだ…バカ師匠の域には達していないな」


と言うと、天使の鳩尾に拳を突き刺した状態で、拳に力を込めた。


「フン!」


「うぎゃあ!」


悲鳴を上げて、天使はふっ飛んだ。


「そ、そんな馬鹿な!」


地面を転がりながら、天使は絶句した。


「人間如きに!」


そして、周りに転がる死体に気付き、


「そ、そうか!食った魂の数が少ないのだ!我々は、魂の数で強さが決まる」


喰らう人間を探そうと、その場から逃げようとした。


「させるか」


カレンは一瞬で、間合いを詰め、蹴りで天使の足を破壊した。


「ぎゃああ!」


悲鳴を上げて、倒れる天使は、化け物を見るかのようにカレンを見た。


「お、お前は…何者だ?」


「ただの人間だ」


カレンは再び拳を握ると、天使の顔面に突き刺した。


天使の後頭部から、血が噴き出した。


「たった1人の人間に…」


「人間を舐めるな!」


カレンが拳を抜くと、天使の体が消滅していった。



「カレン」


向こうで戦いを終えた九鬼が、眼鏡を外して、変身を解いていた。


ずっとついていた右足のオウパーツも、消えていた。


どうやら、乙女スーツと完全に融合したようであった。


「いくぞ。恐らく、やつらの仲間は大勢いる。あたし達のような、戦う力を持った者達が守らないと」


「ええ」


カレンの言葉に頷くと、九鬼は走り出した。


「人が死んでいく気配がする!急ぐぞ!」


カレンはピュアハートを回収すると、九鬼と並んで走り出した。


人々を救う為に。

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