表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
477/563

神々との戦い

憂鬱な顔をしながら、夜の甲板に立つ赤星浩一の耳に、微かな歌声が聞こえてきた。


「レダ…」


赤星浩一は、呟くように名を口にすると、静かに目を閉じた。






「天使達が目覚めただと!?」


魔界の最深部にある城で、ギラは驚きの声を上げた。


「あの波動は、間違いない」


アルテミア不在の玉座の間で、カイオウは顔をしかめた。


「しかし!ここ数百年は、天使の降臨は聞いたことがない」


ギラの隣に立つサラが、眉を寄せた。


「天使が降臨する為には、人の穢れが必要。それも、同族殺しという汚名が…。その為、天使は実体化しにくかったはず」


カイオウは、玉座の間から外に目をやった。


人が魔物に襲われ、命の落とすことが多い…この世界では、人間が人間を殺すことは、最大の罪としていた。


弱い人間は、団結し、数で勝負するしかない。


それなのに、人を殺した者を…ブルーワールドでは、咎人と忌み嫌った。


勿論、妬み、嫉妬はあるが、殺すことはない。


集団で襲われて、生きる為に他者を犠牲にして逃げることはあっても、決して人間同士では殺し合わない。


それが、本能の壊れた…実世界の人間と違うところであった。


魔物に殺され、喰われたとしても…食物連鎖の頂点にいないこの世界の人間には、仕方がないことであった。


魔物と人間の争いで、天使が現れることはない。


人間が人間を殺した時に、天使は清浄化する為に降臨する。


救う為ではない。


清浄化する為である。


そして、彼らの清浄化とは、無である。


だからこそ、人間から発生した天使と、魔物達は常に激突した。


地球上をリセットしたい天使にとって、魔物達はもっとも邪魔な存在であった。


歴代の魔王達は、天使達の戦いを経験することで、魔物よりも強力な魔神を生み出した。


さらに、女神をつくったのである。


人間だけを相手にするならば、魔神が数人いれば、ことは足りたであろう。


ならば、その天使の媒介である人間を、歴代の魔王達はなぜ絶滅させなかったのであろうか。


その理由は、魔物達にとっても、人間が糧になっていたからである。


魔王ライは、人間もどきなる代用をつくり、人を滅ぼそうとしたが、それは…できなかった。


一方、人間側も馬鹿ではなかった。


救いの為の神の降臨が、人間を滅ぼすことに気付いた権利者達は、人を殺すことを最大の罪とし、天使の発生を防ぐことにした。


魔神達を神レベルと呼ぶことで、神という言葉に畏怖を与えた。


そして、人神なるものをつくり、信仰をそちらに向けたりもした。


しかし、天使は再び降臨した。


世界を無にする為に。







「レクイエムか…」


僕の言葉に、風に乗るメロディが笑った。


「そう」


突然、瞼の向こうに眩しい光を感じて、僕はゆっくりと目を開けた。


甲板から広がる海面の上に、八枚の翼を広げ、佇む…天使がいた。


「レダ」


僕は瞼を開けると、光に目を細めた。


「赤星浩一…いや、赤の王よ。すべての魔物を倒しなさい。それが、人間の為になるのよ」


光輝く後光を背にして、天使は微笑んだ。


「く!」


僕は、両拳を握り締めた。


すると逆に、天使が目を瞑ると、再び歌い出した。


鎮魂歌を。


その歌声に、導かれるように、空母の周囲の海面から、無数の天使達が姿を見せた。


まるで、光のイリュージョンのように明るくなる海。


「く、くそ…」


僕は、言葉を吐き出した。


赤星浩一が、防衛軍に入ったのは、人間を人質にとられているからではなかった。


いや、とられてはいるだろう。


防衛軍ではなく、天使に。


しかし、その事実を知る者は少ない。


「レダ…。君は…」


天使の群れの中で、歌い続けるレダだけを、僕はじっと見つめた。


「―――あたしは、堕天使だった」


僕の視線に気付き、レダは歌うことをやめた。


「しかし、あなたに出会い…歌うことを覚えた。そして、あなたと別れて…いろんな場所で歌い続けることで、あたしは思い出した!自分自身のことを!」


世界を救う為に、歌っていたレダは…どうして、歌うのか…理由を知った。


自分が恐怖と不安を感じるのは…自分の使命が、人間を清浄化する為であったとわかったからだ。


「君に音楽を教えたのは!」


炎の翼を広げ、飛び立とうとする僕の周りに、天使達が海面から甲板へと一瞬で移動した。


「チッ」


戦闘体勢に入ろうとすると、レダが海面から、僕の真後ろにテレポートしてきた。


「心配することはないわ。もし、すべての人間が死に絶えたとしても、あなたは残る」


レダは後ろから手を伸ばし、僕の首筋に触れた。


「何なら…あたしも残ってもいい。2人で、無になった世界から、新しい世界をつくりましょう」


「ふざけるな!」


僕は振り返りざま、レダの手を振り払った。


「無になどさせない!」


僕の睨む横顔を見て、レダは再び翼を広げた。


「無駄よ。世界は無となり、次につくられる世界は…優しさと音楽に包まれた世界になるわ」


「今の世界も!優しさと音楽に溢れている」


「考えの違いね」


レダは笑った。


そして、その場で崩れ落ちた。


「朝か…」


俺は、状況を知った。


周囲にいた天使達は、地平線から顔を出した太陽と融合するように、消えた。


太陽を背にして、俺は崩れ落ちたレダを見た。


「堕天使か」


甲板に横になるレダに、翼はない。


「あの時、助けた少女が…歌を覚えて笑っていた少女が…」


僕は目を瞑った。


(人々の為に歌っていた少女が、世界を滅ぼす為の存在になるなんて)


そして、普通の人間に変わったレダを担ぐと、甲板から消えた。


空母内にある居住空間に、テレポートする為に。








「兄様が、死んだか…」


大月学園の理事長室で椅子に座りながら、密かに送り込んだ密偵の報告を聞くと、レーンはカードの通信を切った。


念のため、自分のカードを使ってはいなかった。


「レーン様」


「フッ」


軽く笑うと、レーンはそばに立つ女に、指先で摘まんだカードを返した。


それから、椅子を回し、後ろにある窓に目をやった。


しばし無言になるレーンの横顔を、女は見つめていた。


「雪菜」


突然のレーンの声に、女はびっくと身を震わせた後、姿勢を正した。


「はい」


そして、凛とした声で返事をした。


「…」


また数秒、黙った後、レーンは口を開いた。


「俺は…ヤーン兄様が好きだったよ。向こうは、そんなに好いてはいなかっただろうけども…」


悲しげに、再び笑うレーンに、雪菜は慌てて言葉をかけた。


「そ、そんなことはありません。ヤーン様もきっと!」


「いいんだよ。雪菜」


レーンは、椅子から立ち上がると、雪菜の肩に手を置き、微笑んだ。


「レーン様…」


「すべては、俺のせいだ。兄の結末も…君の運命も」


レーンは顔をふせ、雪菜の肩を握り締めた。


しかし、その手は小刻みに震えていた。


「レーン様」


雪菜は、そんなレーンの腕を掴むと、レーンの目を真っ直ぐに見つめ、


「あなたが悪くはないのです。だから、罪を認めないでください。でないと…」


すぐに顔を背けた。


その瞬間、雪菜の背中から翼が飛び出してきた。


「わ、わたしは!」


雪菜に翼が生えると同時に、三体の土偶に似た鎧が、レーンのもとに集まってくる。


「俺は…罪を認めるよ。だけど」


レーンが顔を上げた瞬間、雪菜の背中に生えた翼が斬りとられた。


「やつらの糧になるつもりはない」


レーンの目に、殺気が宿る。


「それに、君を失うこともできない」


そう言うと、レーンの目から殺気が消え、寂しさに染まった。


「レーン様!?」


その瞳の色を見られないかのように、レーンは雪菜を抱き締めた。


「これは、俺の罪だ!君を愛した罪。だけど…」


レーンはさらに、抱き締めた。


「失いたくない」


「レーン様」


雪菜は、レーンの腕の中で、目を閉じた。


「雪菜」


雪菜の名は、口にしたが、もう1人の名は口にしなかった。


(レダ…)


その名だけは、雪菜の前では出せなかった。






「ご苦労だったね」


兵士からの報告書を受け取ったディーンは、直ぐ様…目を閉じた。


「しかし…ヤーン様亡き後…計画は」


兵士はため息とともに、悔しそうに顔をしかめた。


ディーンはゆっくりと目を開けると、微笑を浮かべ、


「計画に問題は、ない。最終調整まで来ていたからな。ヤーンがいなくても、計画は遂行できる」


兵士を見つめた。


「そ、そうでありますか!」


ディーンの言葉に、兵士は顔を上げると、笑顔になった。


「心配することはないよ」


「は!」


敬礼し出ていく兵士を、笑顔で見送ったディーンは、すぐに眉を潜めた。


「まったく…面白い兄弟だね。一番上の兄は、天使。真ん中は、闇を抱えた人間。そして、最後の1人は…天使を抱いた咎人…ククク…」


嬉しそうな含み笑いが、背中からした。


ディーンは振り返ることなく、虚空を睨みながら、笑い主の名を呼んだ。


「悪趣味だな。アポロ」


「そうかな?」


いつのまにか、ディーンの前に、太陽と交戦した天使が立っていた。


「単純に、面白い!だから、興味を持っただけなのにさ」


へらへら笑うアポロを見て、ディーンは椅子から立ち上がった。


そして、アポロを見ることなく、机の向こうから、扉の方に歩き出した。


「?」


アポロは首を傾げ、ディーンの背中を見た。


「…」


そして、扉の上にある絵を見上げた。


そこには、天使と悪魔の戦いが描かれていた。


「向こうの世界の絵画だね」


ディーンも絵に目をやった。


アポロは、にやっと笑った。


「終末を描いているらしいが、興味深いよ。なぜかって?なぜだが、わかるだろ?」


「…」


「この絵に、人間はいない!最後の戦いは、天使と悪魔でつけられる!人間は、いらないのさ」


楽しそうなアポロと違い、ディーンの顔に表情はない。


そんなディーンを見て、アポロは手を叩いた。


「そうだったね!君は、僕達とは違ったんだよね。あははは!」


馬鹿笑いした後、アポロはディーンに近付き、耳打ちをした。


「君は…もと悪魔側の存在だったね」


その言葉に、ディーンは鼻を少し鳴らした。


「フン…」


「その為、君は我々と違い、人間の赤子に憑依し、そのまま腹の中から生まれることが可能!故に…我々天使の尖兵として働き、仲間を増やす…はずだったが?」


ここで初めて、アポロの目付きが変わった。


それを察したのか…ディーンは口を開いた。


「魔王ライがいた為に、容易には動けなかった…。彼が一時期、動けなかった時に…闇の女神の動きに合わせて、最初の天使を召喚させ、計画を遂行するはずだった…。しかし!」


ここで、ディーンの殺気が増した。


「天使達は、使命を忘れてしまったかい?」


逆に、アポロは笑っていた。


「ああ…。彼女達は、人に興味を持ってしまった」


ディーンは、唇を噛み締めた。


「興味とは、ニュアンスが違いますね」


アポロは再び、ディーンの耳元に口を近付けた。


そして――。


「愛してしまった」


笑いながら、アポロは呟くように言った。


「!?」


目を見開くディーンから、アポロは離れた。


「愛!いいですね!天使的には、最高です!あははは!」


「アポロ!」


ディーンは、怒りの形相で振り返った。


「しかし、計画は計画です!人間を滅ぼし、悪魔を絶滅させる!それが、我々の使命!」


それだけ言うと、アポロの体が消えていく。


「同士は、私が増やしましょう」


「!」


ディーンは顔をしかめた。


「人間は簡単に、殺しますよ。同じ人間をね」


アポロは、笑った。


「アポロ!」


「天使の軍団をつくり、魔界に攻め込む!その時、この世界は、無に戻る!」


「チッ」


完全にいなくなったことを確認してから、ディーンは舌打ちした。


しばらく、考えた後、やめることにした。


「まあ…よい」


ディーンは扉を開けると、部屋から出ていった。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ