輝く闇
「今日は、お客様が多い」
扉につけた鈴の鳴る音を聞き、マスターは口許を緩めた。
「それも…」
先程来た輝達と同じ学生服を着た高坂達を見て、マスターは彼らの目的を悟った。
「…」
高坂は、姫百合を背中で庇いながら、カウンターへと進んで行った。
店が見えなかったことといい、ここが普通の店でないことはわかっていた。
しかし、問題は…行方不明になった生徒達の安否であった。
「いらっしゃいませ」
進んで、自らの前に座った高坂達に頭を下げてから、笑顔を向けた。
「当店は、コーヒーしかございません。ですが〜」
初めてのお客にする説明を聞きながら、高坂は黙って前を見つめていた。マスターと目が合わないように。
そして、説明が終わり、出てきたコーヒーカップを、輝のように断ることなく、高坂は手をつけた。
「旨い」
その感想を聞いて、姫百合もカップを手に取った。
「美味しい!」
思わず見開いた目で、姫百合はカップ内を見た後、高坂とマスターを交互に見た。
旨いと口にした高坂であるが、ゆっくりとカップをカウンターに置くと、マスターと目を合わせ、微笑んだ。
「この味でしたら…コーヒーだけでやっていけますね」
「ありがとうございます」
マスターは、頭を下げた。
「…」
高坂は無言になると、コーヒーを飲み干した。
元々、一杯目は少ない。
二杯目こそが、この店の真髄であった。
「あっ」
すぐに空にしてしまったことに、驚きの声を上げた姫百合の前にも、二杯目のコーヒーが置かれた。
そして、その二杯目を口にした時、言葉にならない程の感動を、2人は覚えることになった。
たった一口で、コーヒーの虜になった姫百合と違い、高坂は感動しながらも、冷静なもう1人の自分を心に残していた。
コーヒーの味と、今回の依頼は別問題である。
しかし、この普通の人間には見えない店での驚くべき味は、反比例しているようで、表裏一体していると感じた。
それは、カウンターの後ろ…天井近くに貼られた…古ぼけた写真を目にして、確信に変わった。
「ご馳走様です」
高坂は、カウンターから立ち上がった。
「おいくらですか?」
財布を取り出すと、マスターを見上げた。
「え?ぶ、部長さん?」
店を出ようとする高坂に、姫百合はカップを持ちながら、困惑した。
「お代は別に…」
拒否しょうとするマスターに、高坂は言った。
「私は、普通のお客として、またここに来たい。ですので、コーヒー代を払う義務があります」
真っ直ぐ見つめる高坂の目に、マスターはゆっくりと頭を下げた。
「かしこまりました。本日のお会計は」
結局、マスターは一杯目の料金は取らなかった。
会計を済まし、店を出ていく高坂の後ろに、仕方なく続く姫百合。
そんな姫百合に、マスターは声をかけた。
「いつでも来て下さい。お待ち申しております」
「あっ!はい」
足を止めた姫百合は振り向き、頭を下げた。
「特に…落ち込んだ時には、是非とも」
最後のマスターの言葉を聞き、高坂は扉を開ける途中で、手を止めた。
「わかりました!確かに、ここのコーヒーを飲んだら、元気になりますね」
姫百合は、笑顔をマスターに向けた。
「…」
高坂は再びゆっくりと、扉を開けた。
そして、姫百合を外に出した後、扉を閉めた。
完全に閉まるまで、頭を下げ続けるマスターを見て、高坂も頭を下げた。
「あのお〜」
ドアを閉めた高坂の背中に、姫百合は恐る恐る声をかけた。
「歩きながら、話しましょう」
姫百合の言いたいことはわかっていたので、高坂は促しながら歩き出した。
少し歩いただけで、振り返るともう店は見えなくなっていた。
「部長さん?」
姫百合が振り返ると、彼女の目には店が映った。
高坂はちらっと、姫百合の横顔を見た後、前を向き、話し出した。
「あそこは、単なる憩いの場所ですよ。もしくは…避難所」
「避難所?」
「ええ」
高坂は頷き、
「恐らく、行方不明になった生徒は、ここにすがるように迷い込んだ。無意識だとしても…。そして、真実を知った」
少し目を細めた。
「真実とは何ですか?」
「そ、それは…」
ここで、高坂は口ごもってしまった。
なぜならば、店が見えるということは…。
(彼女は、知っているのか?まだ気付いていないならば…言わない方がいいのではないか?この世界は…)
「教えて下さい!」
「そ、そうですね〜」
誤魔化す為の言葉を探っていると、前から輝が走ってきた。
「部長!」
息を切らし、駆け寄ってくる輝を見て、姫百合は驚きの声を上げた。
「あなたは!」
「げっ!妹君!」
なぜか姫百合を見て、顔を赤くする輝。
「お前」
高坂は輝の様子を見て、彼が答える前に訊いた。
「1人なのか?」
「す、すいません!あっちの部長とはぐれまして!」
「はぐれた?」
「はい。何でも、行方不明になった生徒を発見したと!例の店には、いなかったですけど」
輝は息を調えると、振り返り、道を往来する人の流れを見つめ、
「目を離したのは、ほんの数秒なんですが…」
真琴の姿を探した。
「どっちを探した?」
高坂は、人の流れを見つめ、訊いた。
「こう振り返って、消えたので、右に流れる方を」
一回転した輝は、探した方を指差した。
「有無…」
顎に手を当て、考え込む高坂に、姫百合が言った。
「お姉ちゃん、足が速いから。それに、見つけるまで、戻ってきませんよ」
その言葉に、輝は高坂を見た。
「でも、よかったです。見つけたんですよね。さっきの店が、誘拐した訳ではなかったんですね」
少し気にいった店が、犯罪にかかわっていないことに、姫百合は安堵の息を吐いた。
それに、姉のこともあまり、心配していなかった。
事実…真琴は数時間後、自宅に帰ってくることになる。
少し目を虚ろにさせて。
「有無…」
まだ考え込んでいる高坂に、輝と姫百合の会話が止まった。
その時、姫百合の携帯が鳴った。
制服のポケットから、携帯を取り出した姫百合。
「会長!」
かかってきた相手に気付き、慌てて出た。
「はい!」
しばらく話を聞いて、
「すぐに戻ります!」
姫百合は携帯を切った。
そして、2人に頭を下げた。
「生徒会室に、鞄を忘れてまして、今から取りに戻ります!ごめんなさい!先に失礼します!」
すぐに頭を上げると駆け出した姫百合の背中を見送りながら、輝は口を開いた。
「部長…。あの店ですが…」
「わかっている」
高坂は頷き、
「しかし、我々にはどうすることもできない」
姫百合の後ろ姿を見えなくなるまで、見つめた。
「ほっておくのですか?」
輝は、高坂の横顔に目をやった。
「ブルーワールドと、この世界は違う。彼らを悪と言えるか?人間として、今まで育ってきたのに」
高坂の言葉に、輝は肩を落とし、頷いた。
「そうですね」
そして、再び人の流れに視線を移し、
「この世界には、人間しかいないのですから…。一応ですけど」
無理に笑ってみた。
高坂は大きく深呼吸すると、ゆっくりと歩き出した。
「我々も戻るぞ。部室にな」
「はい」
2人は、左右に流れる人々を突っ切るように、真っ直ぐに歩き出した。
「…」
空間に差し込んだ炎のナイフを抜くと、幾多はブルーワールドに下り立った。
目立たないように、町の外れにある路地裏を出口に選んだ幾多は、静かに歩き出そうとして、足を止めた。
「フン」
鼻を鳴らすと、ビルとビルので間にできた闇を睨んだ。
「君も変わっているね」
闇の一部が濃くなり、人形を取ると、ヤーンに変わった。
「あのような場所に飲みにいくなんて。まあ〜他人の趣味をとやかく言うつもりはないけど」
ヤーンは、肩をすくめた。
「…」
幾多は何もこたえずに、ヤーンの横を通り過ぎた。
ヤーンは大きく手を広げると、大袈裟に嘆く素振りをした後、振り返り、幾多に訊いた。
「考えてくれたかい?新しい防衛軍に入ることを」
「!」
幾多は、足を止めた。
「やつらのように、人間から魔物になるのではなく…新たな進化の為に、君が必要なんだ」
ヤーンは、体を幾多に向けた。
「超能力でもない。人が生み出す最大の力。それが、闇だ」
ヤーンは、手を伸ばした。
すると、体から煙のような闇が立ち上った。
「かつての人が、恐れた闇ではない。我々の心が生んだ闇。その濃さは、闇の女神さえも凌駕する」
「…」
幾多は振り返り、ヤーンを凝視した。
「負の力と言われた闇が、人々を未来に導く!その為には、君の力が必要なのさ。炎の魔神すら、魅了する君の力がね」
「フン」
幾多は、体をヤーンに向けると、目を細めた。
「何だい?」
ヤーンは、笑顔を向けた。
「あんたの力は、特異なものだ。人間の進化とはいえない」
幾多の言葉を聞いて、ヤーンはせせら笑った。
「アハハハ!おかしなことをいうね!」
しばし笑った後、ヤーンは涙を浮かべた目で話し出した。
「赤星浩一は、この世界の太陽になった。たった一つの!しかし、それは人間の進化とは言えない。彼は、魔神になった。だけど、闇に墜ちることに、人間を捨てる必要はない。君は人を殺して、魔物になったかい?」
ヤーンの言い方に、幾多はゆっくりと接近すると、闇を発生させている腕を掴んだ。
「!」
驚くヤーンに、顔を近付けて、幾多は言った。
「俺は、人間を殺しているじゃない。汚れた人間の心を殺しているんだ」
静かな殺気を放つ幾多の目を見て、ヤーンは震えだした。
「す、素晴らしい!やはり、君は素晴らしい!」
ヤーンは、幾多の目に顔を近付け、
「殺人者の目じゃない!なんて美しい目だ!この目だよ!ほしいのは!」
「チッ」
ヤーンの言葉に、幾多は彼の腕から手を離すと、背を向けて歩き出した。
「素晴らしい。やはり君は、必要だ。人間の常識を変える為に!進化の為に!」
ヤーンはそう叫びながら、闇と同化して消えた。
「フン」
幾多は鼻を鳴らすと、路地裏を出て、人混みに消えていった。
「すいませんでした」
生徒会室に戻った姫百合を、九鬼は優しく出迎えた。
「いいのよ」
九鬼は微笑むと、息を切らしている姫百合に訊いた。
「最初は帰ったのかと思ったんだけど…あなたの鞄があったから…。どこかに行ってたの?」
「あっ…それは」
姫百合は、口を濁した。
行方不明者のことは、九鬼の耳にも入っていると思うが…自分が、噂のもとになっている喫茶店に行ったことは言いたくなかった。
戦い続きの生徒会長に、これ以上の心配事を増やしたくなかったのだ。
「ち、ちょっと…買い物に」
姫百合は引きつった笑いを浮かべると、机の上にある鞄を掴んだ。
「ほ、本当にすいませんでした。ご心配をおかけしまして!し、失礼します」
そして、頭を下げると、そそくさと生徒会室を出て行った。
「…」
九鬼は止めることなく、姫百合の後ろ姿を見送った。
しばらく閉まった扉を見つめていると数十秒後、再び開いた。
「本当に…そうなの?」
九鬼の問いに、生徒会室に入ってきた中島が頷いた。
「ああ」
「そうよ。彼女は…」
中島の後ろから、相原理香子が姿を見せた。
「魔獣因子の持ち主。まだ目覚めかけだけども」
「そう…」
九鬼は、2人に背を向けた。
その悲しげな背中を見て思わず、中島が口を開いた。
「しかし、目覚めて悪い訳じゃない。人以上の力も持てるし…変幻さえしなければ、人間の姿で入られる!」
中島の言葉に、九鬼は深呼吸すると、答えた。
「求めていない力はいらない。それに、得てして力は…人を不幸にする」
九鬼は振り返り、理香子に向かって言葉を続けた。
「月影の力は、月の女神がつくったこの世界の人間を、やつらから守る為のものだった。しかし、やつらが人間から変わるとわかった今!理香子!あんたは、どうする?」
射抜くような九鬼の強い視線に、理香子は彼女の思いを知った。
「真弓…」
しかし、すぐには何も言えなかった。
「確かに、目覚めた者の中には、人に害する者もいた!だから、あたし達は戦った!しかし、これからも、人々の中から生まれるとしたら、あたし達は!」
「心配いらない!」
九鬼の叫びを、理香子は強い断定で遮った。
真っ直ぐに、九鬼の瞳を見つめ、
「人を襲う者がいたら、駆除しょう。しかし、そのまま生きる者には、何もしない!」
最後の語尾を強めた。
「理香子…」
「人が、すべてとはいわない。あたしは、この世界に秩序があれば…今はいい。それに…」
自分で頷いた後、理香子は中島の方に顔を向け、
「あたしは、月の女神の生まれ変わりであるけども…この学園の生徒。今は、後者を大事にしたい」
微笑んだ。
「…」
中島に向ける理香子の笑顔に、九鬼はこれ以上何も言えなくなった。
数秒間、目を瞑った後、九鬼は頷いた。
「わかったわ」
「真弓」
「これで安心して、ブルーワールドにいけるわ」
九鬼は、決心を固めた。
「え」
驚きの声を上げる中島。
「真弓…ブルーワールドにいくって…」
九鬼の言葉に、理香子の全身が震えだした。
「冗談でしょ?」
「冗談ではないよ」
九鬼が微笑むと、全身を黒いオーラが包んだ。
「この魔力は!」
理香子は絶句した。
「く!」
九鬼から感じるプレッシャーに、中島の全身の毛が逆立った。
「この体は、闇の女神デスペラードが復活の為に用意したもの。彼女が、この体に宿ったら…闇の女神は完全体になれただろう!しかし!」
九鬼は拳を握り締め、
「今!この中にある魂は、あたしのもの!闇の体の中で研ぎ澄まそう!闇を切り裂く刃を!」
自らの体の調子を確認した。
「真弓!待って!」
理香子は手を伸ばしたが、闇のオーラが弾き返した。
「戦いは終わってはいない!数万人の犠牲とともに、舞台が変わっただけ」
九鬼は理香子に目をやると、最後の願いを告げた。
「姫百合や月影のみんなを頼む」
「真弓!」
「いつもごめんね。あなたには、迷惑をかけてばかりで…」
それが、九鬼の最後の言葉になった。
目を瞑ると、力を闇の女神の力を使い、九鬼はブルーワールドへの扉を開いた。
「生徒会長!」
「真弓!」
(そう…何も恐れることはない)
九鬼はゆっくりと、目を開いた。
(闇は恐れるものではない。常に、身の回りにあるもの。恐れるな。ただ…受け入れろ!)
目を開いた瞬間、九鬼はブルーワールドの大月学園の生徒会室にいた。
ほとんど変わらないように思えた。
しかし、匂いが違った。
(魔物…いや、血の匂い!?)
はっとして、振り返った九鬼の前に、軍服を着た男が立っていた。
「ずっと不在だと聞いていたが…やはり、帰ってきたか!」
男は、折り畳んだ鞭を持っていた。それを両手で伸ばすと、にやりと笑った。
「あなたは!?」
殺気を感じて、思わず構えた九鬼を見て、男はさらに嬉しそうに笑った。
「誇張ではなかったようだな。結城大佐を倒し、月の軍団を作る計画を邪魔したのが、たった1人の女子高生と聞いた時には!もっとましな嘘をつけと思ったものだがな!」
いきなり、男は攻撃を仕掛けてきた。
男の手から放たれた鞭は、音速を越えた。
「チッ」
九鬼は、後方に飛んだ。
「無駄だ!」
鞭は九鬼がいた場所で跳ねると、四つに分裂した。
「な!」
九鬼は空中で回転し、窓側の柱を蹴ると、飛ぶ方向を変えた。
四本になった鞭は、壁や窓を突き破った。
「は!」
さらに、九鬼は天井を蹴ると、男に向かって、かかと落としの体勢に入る。
「フン」
男は笑うと突然、鞭を離した。
「な」
男の手から離れた鞭のグリップが割け、口のようになった。
「キイイイッ!」
奇声を発し、九鬼を威嚇する鞭のグリップに気を取られた瞬間、壁や窓を突き破っていた四本の先っぽが、九鬼の背中を狙う。
「アハハハ!」
男は、大声を上げた。
「チッ」
避けることのできない空中。
しかし、舌打ちした九鬼の右足から、甲高い金属音がすると、生徒会室の空気が震えた。
「な、何!」
次の瞬間、九鬼の周りにあったものは、塵と化した。
「わ、私のキメラが!」
鞭に擬態していたキメラも、塵になった。
頭を抱える男の目に、右足のニーソックスが破れ、剥き出しになったグレイの金属が飛び込んできた。
「な、何だ!あれは!」
男は慌ててカードを取りだすと、右足の金属をサーチした。
「シ、シークレットアイテムだと!?ま、ま、まさか!オ、オウパーツ」
確認しながら、男は無意識に後退っていた。
「あり得ん!や、やつの武器は、月の鎧だけではなかったのか!」
生徒会室の真ん中に降り立った九鬼は、背筋を伸ばすと、男を睨んだ。
「ヒイイ!」
小さな悲鳴を上げると、男は生徒会室を出て、廊下を走り出した。
「…」
九鬼は別に追いかけることなく、穴が空いた窓に向かった。
そして、グラウンドを目にした時、九鬼は絶句した。
何故ならば、いつも整備されて綺麗なグラウンドに、数十台の軍用車両が止まっていたからだ。
「どうなっている!」
九鬼は窓を開けると、そこから飛び降りた。
2、3階くらいならば、生身で着地できた。
グラウンドに向かって立っている時計台を見上げると、軍旗がはためいていた。
「理事長!」
九鬼ははっとすると、東館にある理事長室に向かって、走り出した。
「どこ行かれますの?」
西館の入り口から入ろうとした九鬼の前に、中から出てきた桂美和子が立ちふさがった。
「ここは、関係者以外立ち入り禁止となっております」
「美和子さん!」
軍服を着た美和子の姿に、九鬼は眉を寄せた。
「ここは、防衛軍の駐屯地。まだ防衛軍に入っていないあなたが、勝手に出入りしてはいけない場所」
美和子が出てきた入口から、続々と軍人が出てきた。
九鬼の後ろからも、人が集まってきた。
「他の生徒は、どうなった!」
九鬼は、前に立つ美和子に訊いた。
「元々は、勇者育成の為の学校。即戦力になりそうな者は、振り分けられたわ」
「何!」
九鬼の叫びに、周りを囲む軍人達は、魔力銃を一斉に向けた。
「わからない人ね」
美和子はため息をつくと、九鬼の目を見て、首を横に振った。
そして、空を見上げた。
「でしたら、これでわかります」
美和子は顎で、九鬼を促した。
「うん?」
周囲に気を配りながら、空を見上げた九鬼は…言葉を失った。
「!!」
そこには、黒い月が浮かんでいた。
「ダークムーン。かつて、闇の女神復活の際にも見られたらしいけど、今回は違う!」
美和子は、月から視線を九鬼に向けた。
一瞬だが、瞳孔が開いているように見えた。
「これは、我が防衛軍の新兵器!月の光をもとにして、すべての人に降り注ぎ!力を与える!アハハハ!」
美和子は背中を反りながら、笑いだした。
「富国強兵!人類すべてが、兵士になり!魔物達から、この世界のすべての覇権を奪う!」
「それが、我々のやり方だ」
四国にある防衛軍の本部に入ったヤーンは、笑った。
「クッ!」
九鬼は顔をしかめると、構えた。
「乙女ブラック!九鬼真弓よ…。あんたは、いい闇の尖兵になるよ」
美和子がにやりと笑うと、周りを囲む軍人が、照準を九鬼に合わせた。
オウパーツを発動させて、塵にできるが…相手は人間である。
九鬼は、スカートのポケットからあるものを取り出した。
そして、いつものように叫んだ。
「装着!」