番外編 砂の世界 プロローグ
時と時。
時間と時間。
数多くある異世界は…交わることが、まったくない訳ではない。、
時として、ほんの少しだけでも、重なりあい…混ざり合い、引かれあい、反発しあう。
時に、人の想像という架空の世界の物語として、人々は語り継ぐ。
しかし、それを記憶や想像ではなく、違う世界そのものを跨ごうとした者や、もしくは…どの世界にも馴染めない者は、現実というあらゆる世界では存在にできず、さらさらした砂となって、こぼれ落ちる。
それは、どの世界にも属さない…。
報われることのない…人というものの願いとともに。
「敵は、本能寺にあり!」
凄まじい罵声と、切りあう音。
炎が盛る中、僕はいた。
「早く!あたしに変われ!」
アルテミアの声を無視して、僕は立ち尽くしていた。
一面…赤におおわれた広間に、立ち尽くす2人。
「フン」
僕の前方…炎の向こうにいる武将は、鼻で笑った。
「この国の者とは、少し違うと思っておったが…。お主は、この世界の者ではないな?」
「この世界?…やはり、ご存知でしたか…」
僕は炎に包まれても、微動だにしない武将を、真っ直ぐに見つめていた。
「信長様」
それは、追い詰められた者の姿ではなかった。堂々とし、炎ですら、彼の為の演出のように思えた。
「蘭丸から、聞いておった」
森蘭丸。
すなわち…守蘭丸は、この世界の者ではなかった。
異なる世界の、異なる時代の人物に力を貸した…罪人。
彼は、時の罪を犯したことにより、本能寺に炎が放たれ瞬間…消滅していた。
やはり…変えられなかったという言葉を残して…。
それは、魔法の限界を示していた。
時を、時空を超えてまで、彼は何を…求めたのか。
「僕は…彼と違い、この世界の人間です。時間は違いますけど」
僕は炎の魔術師。
ある程度なら、炎の中でも耐えられた。
「何をしている!さっさと逃げるぞ」
ピアスから、アルテミアが叫んだ。
僕は拳を握りしめ、目を瞑り…やがて、覚悟した。
「信長様!」
僕は、手を伸ばした。
「僕らなら、お命を助けることができます!」
「てめえ!何言ってやがる」
アルテミアの怒りも、わかる。
「こいつは、ここで、死ぬ運命なんだろ」
「知ってる」
「やつは…この世界の魔王なんだぞ」
「でも…この人は…生きるべきなんだ!その方が、この世界の為になる」
歴史は知っていた。
だけど、僕は常々思っていた。
彼が生きていたら…もっと時代は、よくなったのではないかと。
僕は、信長に近づこうとした。
「ははははは」
炎の広間に、信長の笑いがこだました。
その時、障子が倒れて、敵の武将が入ってきた。
「信長!覚悟!」
入ってきた敵は、3人だ。
信長は一瞬にして、3人を斬り裂いた。
血吹雪が、炎の中に舞った。
「すごい…」
僕は思わず、感嘆した。
刀を握ったまま、信長は僕を見た。
「是非もない…」
信長は、刀を僕に向け、
「ゆけ…」
炎でついに、周りの景色の形さえ、わからなくなってきた。
「わしは、行かん…情けはいらぬ」
「信長様!」
「ここで、終わることが…その程度が、わしの運命だったというなら…受け入れるのみ」
「赤星!」
アルテミアの怒声とともに、左右の燃え落ちていく障子を突き破って、2つの物体が、僕に襲いかかってきた。
「チェンジ・ザ・ハート!」
それは、アルテミア専用の武器。
1つは、僕の鳩尾にヒットした。もう一本は、白い手が掴んだ。
僕がいたところに、天井の柱が落ちてきた。
信長は、フッと笑い、
「悔いがあると、すれば…。そなた…強いらしいな」
柱は、青くスパークする電撃に、破壊された。
ただ…炎の赤とオレンジだけの色となった広間に、トンファータイプになったチェンジ・ザ・ハートを、両手に構えたアルテミアが立っていた。
信長は、剣をくるっと回し、
「女神か…。一度、手合わせしたかった」
自らの胸に、刃を突き立てた。
「信長様…」
僕は強制的に、アルテミアに変わらされたのだ。
ピアスの中で、気を失う寸前まで、信長を見つめながら。