愛するが故に
「ここは…」
一面の砂に覆われた世界に、西園寺俊弘は、立っていた。
「うわああああっ!」
彼のすぐそばで、砂が盛り上がると、苦悩の叫びを上げながら、人の形になった。
「お、俺は!まだ、まだ諦めんぞ!」
砂は、ジャック・ウィルソンになると、どこにいくでもなく…ふらふらと歩き出した。
「…」
その様子を無言で見つめていた西園寺の後ろに、赤いワンピースを着た女が立っていた。
「どう?満足できた」
気配を感じさせなかった女の登場にも、西園寺は驚くことなく…女の名前を口にした。
「深紅の歌姫」
西園寺は口許に笑みをたたえながら、振り返った。
「あなたこそ、満足しているんですか?こんな世界にずっといて」
「あたし?」
和美は微笑み返すと、言葉を続けた。
「満足しているわ。だけど…いずれはね。しばらくは、この世界に留まるつもり。死んでもなお、砂となり…ここに来る人の為にね」
「フン」
西園寺は、鼻を鳴らすと、前を見て、
「生きていたら、偽善者と罵ったかもしれない。だけど…死んだ今も、貫く意思ならば」
目を閉じた。
「…」
和美は、西園寺の背中を見守るように、見つめ続けた。
数分後、西園寺は再び話し出した。
「俺は…生まれた世界に絶望していた。しかし、ブルーワールドに召喚され、力を得た時…世界をコントロールして、まとも社会をつくろうとした」
西園寺はゆっくりと、目を開けた。
もう一度、砂だけの世界を見回し、
「本当は…そんな権力や力よりも、1人の女性が欲しいかった!それは、今も!」
ぎゅっと拳を握り締めた。
「…」
和美は、無言で頷いた。
「だけど!それは、構わぬ夢!永遠に求め!永遠に愛しているならば」
西園寺は、ゆっくりと振り返った。
その目には、涙が溢れていた。
「その気持ちを捨てよう」
微笑んだ西園寺の体が、砂の世界に吹く風によって、削られていく。
「忘れられぬならば…無となり、消えよう。そして、もし…生まれ変わったならば…あの人と同じ女で…」
体は風に流され、言葉も発せられなくなってきた。
「せめて…友達」
それが、西園寺俊弘としての最後の言葉となった。
「なれるわ」
和美は頷いた後、歌を歌い始めた。
西園寺の為のレクイエムを。
彼は、成仏した。
苦しみと切なさから、自らを救う為に…。
これもまた、魂の在り方であろう。
砂が舞う世界で、和美の歌が響き続けた。
「ここか」
数万人の魂の波動を感じ、俺はある扉の前にいた。
少し深呼吸をした後、後ろを見た。
これほどの巨大な屋敷なのに、追っ手が来ない。
(光一の気は?)
自分の能力ではなく、茉莉の力を使っている為に、大雑把になっていた。
数万人の塊がある為か…細かい索敵ができないのだ。
(仕方がない。まずは、こちらを片付けよう)
俺は、仰々しい木造の扉を軽くノックしてから、中に入った。
(闇?)
それは、魔王の居城内で、玉座の間に入った時と感覚が似ていた。
しかし、決定的な違いはあった。
「何者じゃ?」
部屋の中心から、声がした。
俺の目が赤くなると、部屋の真ん中で椅子に座る男の姿をとらえた。
ライのような圧倒的な恐怖は、感じれなかった。
しかし、それでも、普通の人間とは感じなかった。
(魔獣因子)
すぐに、浮かんだ言葉で、俺はすべてを理解した。
「…」
ゆっくりと歩き出した俺の足音を聞き、男は椅子から身を乗り出した。
「この匂いは!茉莉か!どうして、ここに!」
男は思い切り、歯ぎしりをしたが…すぐに、顔をしかめた。
「違う!匂いはそうだが…魂が違う!」
男の叫びに、俺は足を止めた。
近付いて気付いたが、男のくぼんだ眼窩に、目玉はなかった。
「貴様は、何者だ!」
興奮から、思わず立ち上がった男の背中に、戦慄が走った。
「な、何?」
ゆっくりと振り返った男は、椅子の後ろに立つ…学生服を着た少年の存在に気付いた。
「伯父様」
少年は、男にウィンクした。
「茉莉!」
男は椅子から離れ、俺の方に後ずさった。
「お、お前は!この屋敷に、出入りを禁じてるはずだ!」
男の言葉に、少年は笑った。
「伯父様がね。だけど、入ろうと思えば、いつでも入れたわ」
そして、ゆっくりと近付いてくる少年に気付き、男は後ずさりながら、叫んだ。
「誰かおらぬか!神はどうした!他の者でもいい!こやつを何とかしろ!」
男は、後ろを見ていない為に、俺にぶつかりそうになった。
仕方がなく、避けようとしたが、その前に…猫沢と上月が、男の肩を掴んだ。
「大丈夫ですか?菱山様」
俺の後ろから、真田が現れた。
「おおっ!真田!」
男は、嬉しそうな声を発した。
「お主からも言ってくれ!ここは、出入り禁止だと!そう先代と決めたはずだ」
「そうでしたね」
真田は頭を下げた後、男の前に来た。
「お嬢様がお生まれになられた時、あなた様はその力に、恐怖された。何度か殺害しょうともしたが…それもかなわなかった。だからこそ、あなたはこの屋敷に閉じ籠り…お嬢様以上の神の出現を待った」
真田は話しながら、猫沢に目をやった。
すると、男の後ろまで、猫沢は椅子を移動させた。
「どうぞ」
猫沢の言葉に、男は座った。
「菱山様」
真田は跪き、
「あなたが待った神は、生まれ…後は、お嬢様を手込めにするだけだった。新たなる闇の力を持つ者達の力を借り、契約も結べた。数万人の魂と引き換えに、この世界の支配者となることも」
床を見つめながら、微かに笑って見せた。
「し、支配者ではない。今のわしは、ある意味この社会を支配している。しかし、神にはなれない」
菱山は震えながら、言葉を続けた。
「金を持ってるとかではない!権力でもない!人間のそういった感情を超越した時に、人は神になるのだ」
菱山の悲痛な叫びに、俺は心の中で、首を捻っていた。
(何の話だ?)
ブルーワールドにいる時も、神レベルとかいう言葉もあった。
しかし、それは…圧倒的な強さを意味していた。
真田や菱山が言う神は、違った。
「確かに…神にお金は、関係ない」
真田は頷くと、頭を下げ、菱山の前から移動した。
「伯父様」
菱山の目の前に、茉莉がいた。にこっと笑いかける無垢な笑顔を見た瞬間、菱山の体は固まった。
いや、実際は目玉がない菱山に見えるはずがない。
「チッ!」
舌打ちすると、俺は2人に近づこうとした。
すると、猫沢と上月が道を塞いだ。
「神とは…」
真田は、頭を下げ続けた。
「人間の常識をこえた存在。故に…無垢」
「き、貴様ら!」
菱山の体が、変幻した。
蜘蛛をイメージするその姿は、全長5メートルをこえた。
「私が、小娘に!」
椅子を踏みつぶすと、口から糸を吐き、少年の自由を奪うと、巨大な口を開いた。
「お前を食らい、神の力を手にいれてやる」
そのまま、頭から食らおうと、菱山が動いた次の瞬間、彼の体は小間切れになった。
「やっぱりね」
少年は、微笑んだ。
小間切れになった菱山の体から、白い光を放つ球体が姿を見せた。
「魂の塊。あんたごときが、その身に宿したとしても、扱える訳がないの」
少年が球体に手を伸ばすと、吸い寄せられるように、自ら飛んで近づいていった。
「!」
その動きを確認すると、猫沢と上月は、俺の前から離れ、少年の前に移動した。
「時は、満ちました。後は、あなた様の思うがままに…」
真田はちらっと俺の方を見た後、少年の方に移動し、跪いた。
「大義であった」
少年は微笑むと、まずは上月の方に近付き、首筋に噛みついた。
「有り難き幸せ」
一瞬で、ミイラのようになった上月を見て、俺は少年の方に走った。
すると、俺がいた場所に、弾が着弾した。
部屋の隅から、ライフルを構えた剣じいが出てきた。
剣じいは、俺の動きを止めようと、再び銃口を向けた。
しかし、その瞬間、剣じいの首が飛んだ。
「太陽様に、何をしている」
一瞬で剣じいの後ろに移動した少年が、手刀で切り裂いたのだ。
「う!」
俺は、少年から漂う魔力に息を飲んだ。
その体は、俺が作ったものであるが…完璧に支配されていた。
中に入っている茉莉の魔力が、血管のように、全身に走っていた。
「太陽様」
満面の笑みを浮かべる少年に、俺は足を止めた。
「邪魔をするな」
跪いている真田が、俺に向かって言った。
「我々は、茉莉様の力となるのだ。これは、決まっていたことであり!名誉なことだ。魂を抜かれ、道具にされる者達よりもな」
「チッ!」
真田の言葉を聞いた瞬間、俺は移動し、真田の首根っこを掴むと、無理矢理立たせ、鳩尾に拳を叩き込んだ。
「う!」
一瞬で、気を失う真田。
「!」
驚いた猫沢が、立ち上がったが、俺の動きに何もできずに、一撃で気を失った。
「何をなさっているのですか?」
気を失った2人を床に寝かせる俺を見て、少年は首を捻った。
「彼らが、望んだことをしてあげるだけなのに」
「人の血を吸い、殺すことが彼らの願いだというのか?」
俺は立ち上がると、少年を睨んだ。
「やっぱり…」
そんな俺を見て、少年は顎に人差し指を当てると、少し考え込んだ。
――と、俺には見えた。
「太陽様は…自分が、何者なのか!わかってらっしゃらないのね」
「!」
俺の思考よりも、速く移動した少年は、後ろから俺の耳元に囁いた。
「太陽様も…神なの。だ・か・ら」
少年は、俺の耳に息を吹きかけながら告げた。
「人間のような考えは、捨てて下さいませ」
「なに!」
俺は、絶句した。
少年の速さだけではない。
いつのまにか、場所が移動していたからだ。
「ここは?」
俺は、周りを見回した。
校舎の位置。
見慣れた風景が、俺にここがどこか、教えてくれた。
「大月学園!?」
しかし、人の気配がない。
学園の周りにもだ。
周りを見回す俺を見て、少年はクスクスと笑った。
「誰もいないだと!?」
俺は、後ろに立つ少年に向かって、振り返った。
「そうですの」
少年は、手に持っていた魂の塊を空に投げた。
すると、遥か上空で太陽のように輝き出した。
「この世界は、あたしが創った世界です。人がいない…素敵な世界!」
少年はそう言うと、手を組み、嬉しそうに踊り始めた。
「世界をつくっただと!」
「そうです」
少年がパチンと指を弾くと、今度は一面がジャングルと化した。
それから、次々と変わっていく。
氷だけの世界。サバンナ…エベレストの山頂。
「クッ!」
俺は唇を噛み締めると、自分の魔力を発動させた。
「駄目ですわ」
突然、周囲の風景が混ざり、黒一色になった。
「まだ安定していませんのに」
少年の言葉に、俺は目を見開いた。
「ここは、まだ向こうの世界とくっ付いています。だから、あまりお使いにならない方がいいですよ。あたしは、別に〜向こうの世界が壊れてもいいですけど!」
少年は、愕然としている俺に微笑みかけた。
「どういうことだ!」
俺は、少年の体を見て叫んだ。
「だったら、その体の魔力も!使えば、破滅するはずだ」
「あまり、使ってませんから。だけど〜やっぱり、力を使うと、空間が壊れるみたいですわ」
少年は微笑みを消し、首を傾げると、
「前に、太陽様と同じ会場にいた時も、穴が空きましたし」
また顎に人差し指を当てた。
「な!」
俺の脳裏に、オウパーツをつけたレダの偽者の姿がよみがえる。
少年は無邪気に、話を続けた。
「太陽様のお体を知る為に、いろんなところにお出かけしましたの。ちょっとだけ、魔力を使う度に、穴が空きましたけど…。あんまり気にはしませんでしたわ。なぜならば…人間なんて、いりませんから」
最後のいりませんからと呟くように言った時、俺は寒気がした。
しかし、怯むはずがなかった。
「待て!」
俺は、一歩前に出た。
「世界中で起きた事件は、君が起こしたのか?さっきの男ではなく」
「起こした訳ではありませんわ。だが、そうなっただけです」
少年は、肩をすくめた後…ため息をついた。
「じゃあ!やつらは、何なんだ!俺のそっくりさんや、大月学園を襲ったやつらは!」
「太陽様…」
少年はまたため息をつくと、俺の目をじっと見つめた。
次の瞬間、俺の胸に激痛が走った。
思わず片膝を、地面につけた俺を…俺が見下ろしていた。
「!」
立場が逆になっていた。
俺は、俺の体に戻っていたのだ。
「やっぱり…」
膝をつけている俺は、ゆっくりと立ち上がった。
「愛し合う時は、女の方がいいですわ」
「う!」
立ち上がった俺が、顔を上げた時、思わず怯んでしまった。
潤んだ瞳。濡れた唇。
そして…ボロボロの制服から、見える透き通った肌。
「太陽様」
茉莉は、優しく微笑んだ。
「消えた」
その頃、屋敷の廊下を歩いていたアルテミアは、強い気が消えたことに気づいていた。
「殺す」
女の勘だろうか…。何故か、むかついてしまった。
すぐに、行き先を探ろうとしたが、アルテミアは思わず、足を止めてしまった。
あまりにも、唐突だった為に、驚いてしまったが…すぐに平常心に戻った。
「へぇ〜」
アルテミアは、廊下の先に立つ女を睨んだ。
「今度は、お母様の偽者か」
「…」
無言で、廊下に立っているのは、ティアであった。
「そんなことで、動揺すると思ったか!」
アルテミアは、氷の剣をつくると、ティアに向かって走り出した。
「フン!」
アルテミアは右肩を入れ、体を真横にすると、氷の剣を突きだした。
「…」
ティアは、ゆっくりと瞼を閉じた。
恐らくは、瞼を閉じるよりも、剣が刺さるのが速い。
ティアは、そう確信していた。
しかし、数十秒たっても、剣が刺さった痛みがない。
砂の体とはいえ、刺されば痛みを感じる。
なのに、刺さっていない。
ティアは再び、目を開けた。
「!」
すると、剣先が額から数ミリのところで、止まっていた。
目を見開くティアから、アルテミアは剣を引くと、背中を向けた。
「待って!」
自分から離れようとするアルテミアを、ティアは困惑しながら止めた。
しかし、アルテミアは足を止めない。
「どうして、あたしを殺さない!あ、あなたの…」
ティアの瞳から、涙が流れた。
「お母さんに似ているから…」
その言葉に、アルテミアは足を止めた。
「あなたのお母さんに似ているから、あたしを殺さないの?」
まだ言葉を続けるティアに、アルテミアは顔をしかめた。
「チッ」
そして、舌打ちすると、振り返った。
「あんたとお母様は、違う!お母様は、あんたのように、簡単に命を捨てるような真似はしない!」
アルテミアはそう言い切ると、前を向いた。
「あたしは、勇者ティアナ・アートウッドの娘!自殺の手助けなどしない!」
アルテミアは、廊下の先を睨みつけながら、歩き出した。
「あああ…」
遠ざかるアルテミアの背中を見つめながら、ティアは自らのお腹に手を当てた。
「マルコ…。もし、あなたとの子供が産まれていたら…あの子のように、強い子になったかしら?」
ティアは涙を流しながら、笑った。
今さっきまで、自分は…愛する夫とお腹にいた子供を殺した社会に復讐する為に、再び復活したと思っていた。
どうやら、それは違ったらしかった。
アルテミアの姿を見た時、ティアは自分の後悔を知った。
(ちゃんと…あの子を産んで上げたかった)
ティアの魂が、後悔から懺悔の涙を流した時…彼女は成仏した。
彼女だった体は、砂に戻り…廊下に溜まった。
しかし、そのことに、アルテミアは気付かない。
成仏したティアの魂が、砂の世界に戻ることはなかった。
ティアとしての生き方は、終わったのである。
次に、生を受けたとしたら、もう彼女ではない。
「ク、クソ!」
魔力を発動させれない俺は、肉体と体が一致した茉莉のプレッシャーに押し潰されて、動けなくなっていた。
両足が、地面に埋まっていく。
「太陽様。今、この世界には、あたし達2人しかおりませんわ」
茉莉は、さっきまでその体の中にいた俺が、ボロボロにした制服の胸元を、指で裂いた。
「契りましょう」
さらに、服を脱ごうとした時、俺の背中から炎の羽が生えた。
そして、一気に茉莉の上から、彼女を包み込んだ。
「フ、フレア…」
火の玉の中で、燃え上がる茉莉。
しかし、茉莉が炎の中で笑うと、一瞬で包んでいた炎は、消し飛んだ。
「太陽様…」
茉莉は、顔を真っ赤にして、恥じらいながら言った。
「せっかちですわね」
ボロボロだった制服だけが灰なった為に、茉莉の身につけているのは、白い下着だけとなった。
「フレアの攻撃が効かない!?」
茉莉の透き通るような白い肌には、火傷の痕一つない。
「さあ〜太陽様!」
茉莉の目が、赤く光ると、背中から生えていた炎の羽が、消し飛んだ。
それだけではなく、俺の体が跳ね上がると、体の主導権を完全に握られてしまった。
「太陽様のお体に、少し細工を致しましたの」
茉莉がそう言った瞬間、俺の全身に血管のように、茉莉の魔力が走り、俺は十字架にかけられたかのごとく、両足をピッタリとつけ、両手を真横に突きだした。
「それだけでは、ございません」
茉莉は俺に微笑みながら、躊躇うことなく、ブラジャーを取った。
「太陽様のお体の隅々を、調べさせて頂きました。」
茉莉は手を伸ばし、俺の頬に触れた。
「どこが…一番よいのか」
至近距離で微笑む茉莉の露になった豊かな胸が、嫌でも俺の目に入った。
「太陽様」
茉莉は指で俺の体をなぞりながら、両膝を地面につけた。
「太陽様の一番…」
「や、やめろ!」
俺は恥ずかしさから、目を背けたかったが、自由が効かなかった。
「恥ずかしがることはありませんわ」
茉莉は、俺のズホンのチャックを掴んだ。一気にあけることはせず…じわじわと焦らすように下げていく。
(どうして、あそこだけ〜自由なんだ!)
自分の下半身の状況に、俺は嘆いた。
「心配いりません」
茉莉の手で、チャックは半分だけ開いていた。
「あたし達の子供が、新しい世界の神となるんですから」
茉莉はにやりと笑うと、一気にチャックを下ろそうとした。
しかし、それはできなかった。
茉莉は慌てて、立ち上がると、左の方を睨んだ。
「何者だ!」
今までの微笑みが消え、鋭い殺気を放つ茉莉。
しかし、突如この世界に現れた者の魔力は、桁が違った。
世界そのものが、震えていた。
そして、俺は…その者を知っていた。
体の自由が効かない癖に、汗が噴き出してきた。
さらに、寸前まで元気だったものが…縮こまっていた。
「は〜あ?」
半裸の茉莉と、チャックが開いた俺を見て、その方の怒りはマックスを越えた。
「ぶっ殺す!」
その台詞を聞いた瞬間、俺は死を覚悟した。