流れ行く憂鬱
「…」
開八神茉莉の肉体が暴走した次の日、大月学園の屋上に、赤星光一がいた。
1人になると、能面のように無表情になってしまう。
屋上の扉の影で、そんな光一の様子を見張っている者がいた。
「フッ」
光一は笑うと、振り返ることなく、言葉を発した。
「出てきたらどうです?」
その言葉に、屋上から姿を見せたのは、麗菜であった。
「一応、妹になるのですから、ききたいことがあるなら、遠慮なく訊いたらいい」
「よく、そんな口を」
麗菜は、光一の背中を睨んだ。
「先日、あなたがやったことは!」
「それでも、家では兄妹を演じていたじゃないですか」
光一はゆっくりと振り返り、
「沢村先輩」
麗菜の顔を見た。
「え…」
麗菜は、驚きの声を上げた。
「…」
光一は、そんな麗菜からゆっくりと視線を元に戻した。
「あ、あなたは?」
思わず、麗菜の足が一歩前に出た。
「フッ」
光一は、屋上から見える世界に目を細め、ゆっくりと話を続けた。
「かつて…この世界から、ブルーワールドに5人の人間が、召喚された。あなたを入れれば…6人かな?」
光一は、口許を緩め、
「その中の1人は、己が選ばれた神の体を得たものと思い…人間も魔物も支配し、安定した世界をつくろうとした。しかし、結果は…」
軽く笑った。
「その者は、神の体を得てはいなかった!しかし!」
今度は、唇を噛み締め、
「やりようによっては、人の頂点には立てたはずだった!」
怒りを露にした。
「く!」
その怒りは、己に向けられていた。
「…」
何も言えなくなってしまった麗菜に気付き、光一は怒りを抑えた。
「…あなたと私は似ている」
光一は、体を麗菜に向けた。
「え」
麗菜は、目を見開いた。
光一は悲しげに笑い、
「真実の姿を晒していない」
じっと数秒だけ麗菜を見つめた後、歩き出した。
「!」
息を飲む麗菜の横を、光一はすり抜けていく。
屋上から階段を下りる頃には、麗菜のことは頭の中から消えていた。
その代わり…脳裏に浮かぶのは…。
物憂げな瞳をふせ、湖の真ん中で翼を休める…天使の姿。
いや、天使ではなかった。
黒髪に、漆黒の六枚の翼を畳んだ…堕天使。
(そうだ!俺は…あの時)
湖の木陰まで、テレポートした者は、その美しき姿に心を奪われた。
(世界と同じくらい…いや、それ以上に、彼女がほしいと思ったのだ)
その出逢いが、彼の夢を計画を…狂わせたのだ。
「彼は…一体?」
光一が階段を下り出した頃、やっと我に返った麗菜は、慌てて振り返った。
(やつの正体が何となくわかった…)
麗菜の頭に、美奈子の声が響いた。
(恐らく…あの体に入っている魂は、5人の中の1人)
ブルーワールドに拐われた沢村明菜を救う為に、時空の壁を越えた赤星浩一。
その数日後、クラーク・パーカーより召喚された5人の高校生。
西園寺俊弘、守口舞子、佐々木神流、松永伸介、橋本正志。
(女である舞子ともう1人は、違うだろう。さすれば…)
「待って下さい!」
美奈子の考えに、麗菜が割って入った。
「今の赤星光一は、この世界がつくったのですよね?」
(そういう説が、有力だが…。肉体は確かに、この世界がつくったかもしれないが…魂はどうだろ?ああも人間社会にすぐに、対応できるものかな)
「で、でも」
(それに、やつが魔獣因子の持ち主で、赤星浩一と同じ能力を持っているならば、この世界の神に選ばれたとしても、問題はない)
「…そうですけど…」
麗菜は、光一が消えた階段の方に目をやった。
(沢村…)
美奈子は、麗菜の本当の名字を口にした。
(あたし達の最後は近い。正体もばれたしな。今のあたし達では、光一には勝てない。だとしたら、やることは一つ)
「わかっています」
麗菜は、自分の鳩尾に手を添えた。
「次元刀で、ブルーワールドとこの世界の絆を斬ります」
ブルーワールドと実世界は、兄弟のようなものである。
表裏一体ではあるが、繋ぎ止めている糸は、この学園にあった。
(ああ…。それが終われば、あたしに未練はない。大人しく成仏するよ)
美奈子の言葉に、麗菜…いや、明菜は頷いた。
「はい。あたしも…」
次の言葉をはく前に、明菜の脳裏に、赤星浩一が浮かんだ。
明菜は、胸をぎゅっと抱き締めると、
「成仏します」
もう一度、深く頷いた。
明菜達が屋上にいる頃、俺は理事長に呼ばれ、理事長室を目指していた。
まったく知らない女子…高坂姫百合に、廊下ですれ違いざまに、紙を渡されたのだ。
東館の地下にある理事長室へ向かうには、一階の職員室の前を通り、一番奥の階段を下りるしかなかった。
階段を下り、さらに右に曲がると、理事長室があった。
「うん?」
俺は、理事長室の扉の前に立つ生徒に気付いた。
「生徒会長?」
思わず足を止めた俺に、生徒会長九鬼真弓は、頭を下げた。
「お客様がお待ちです」
「?」
九鬼の言葉に、首を捻ったが、悩んでいる暇はなかった。
九鬼が扉の前から避けると、俺は中に入った。
すると、十二畳くらいの部屋の奥にいた理事長が、机の向こうから立ち上がり、頭を下げると、手で隣の部屋を示した。
「お待ちになっております」
「?」
再び首を傾げながらも、また右側の扉を開け、隣にある応接室に入った。
「待っていたわ」
応接室に置かれた黒皮張りのソファーに座っていた女が、立ち上がり、サングラスを外した。
「ジャリアン」
反射的に出た名前に、女は微笑んだ後、首を横に振った。
「惜しいけど、違うわ。あたしの名は、ジュリア・アートウッド」
「ジュリア…アートウッド!?」
フルネームを聞いて、さらに目を丸くする俺を見つめながら、ジュリアはさらに言葉を続けた。
「今は…レダと呼ばれているわ」
「レダ…」
それは待ちわびた名前であったが、俺にとってはアートウッドの方が衝撃だった。
(アートウッド)
それだけで、謎が解けた気がした。
じっと見つめ返す俺に、ジュリアは座ることをすすめた。
「あなたのことが、気になって調べたわ。そしたら、あたしに会いたいと」
「はい」
2人は、対面する位置でソファーに座った。
「あなたは!」
俺はすぐに、話し出した。
「歌の中に、この世界の崩壊を暗示するメッセージを込めた。そんなことを何故?何故!分かりにくいことを!直接、言葉にすれば…」
「直接の方が、伝わりにくいことがあるわ。より深くあたしの歌が、響いた人は、そこに疑問を持つ。その隠されたメッセージの意味を知ろうとする」
ジュリアは真っ直ぐ、俺の目を見つめ続ける。
その目を見た瞬間、俺は気づいた。
(この人は、俺が求めているレダじゃない)
俺は軽く深呼吸をすると、話を続けた。
「しかし、それじゃ…多くの人に伝わらない」
「それに…あたしは、真実を歌える立場にいなかった」
「!?」
ジュリアはここで、視線を2人の間にあるガラスのテーブルに落とした。
「もし…思い通りに歌えたとしても、誰が信じるかしら?世界が崩壊するなんて」
「そ、それは」
俺は、口ごもってしまった。
「ずるいようだけど…あたしの歌は、この世界の人々には、レクイエム。だけど…」
ジュリアは、ここで言葉を切り、
「世界を救う力を持つ人には、救いを求めていたの」
ゆっくりと顔を上げた。
その瞳には、涙が溢れていた。
「歌手は、無力。何もできない。もうすぐ、計画が始まるのに…何もできない」
「待って下さい!」
俺は、一方的に話し出したジュリアを止め、
「計画とは、この世界の人間をブルーワールドに落とすことですよね。それをなぜ、あなたが知り…始まることもわかっているんですか!」
思わず声を荒げた。
「異世界への扉を開くには、生け贄が必要よ。その生け贄の魂の数が、もうすぐそろうわ」
ジュリアは、知っている理由を敢えて言わなかった。ただ、涙を拭った。
「や、やつらは!魂を集めているのですか?人間を殺して!くそ!」
テーブルを叩いた俺を見て、ジュリアの表情が厳しくなった。
「一体…どうやって」
考え込む俺に、ジュリアは言った。
「あなたは、知っているはずです」
「!」
ジュリアの言葉に、俺は思わず彼女の顔を見た。
「あなたは先日…いや、あなたではないかもしれませんが…多くの人を殺したはずです」
「!!」
俺は思わず、立ち上がった。
ジュリアは、俺を見上げ、
「あなたは、真実を見極めるべきです」
数秒見つめた後、ゆっくりと立ち上がった。
「あなたなら…できるはずです」
そして、ジュリアは俺に頭を下げると、ソファーから離れた。
「ま、待って!」
呼び止めたが、ジュリアは止まらなかった。
「ごめんなさい。これ以上は、話すことはないの。もうあたしには、時間がないし」
「ジュリアさん」
俺の叫びに、扉を開けようとしたジュリアの手が止まった。
「…ジュリア。そう呼んでくれた人は…御姉様と家族以外いないわ。ありがとう」
ジュリアは振り返り、頭を下げると、最後のヒントを口にした。
「あなたの敵は、近くにいます。カーテンを開ければすぐに」
「!?」
俺の頭に、闇に浮かぶ屋敷が浮かぶ。
「さよなら…」
「ジュリアさん!」
俺は、訊くのをやめた。
なぜならば…ジュリアが座ってたソファーの上に、砂がこぼれていたからだ。
「あなたの歌は、最高でした。ジュリア・アートウッドは、最高の歌手です」
「ありがとう」
ジュリアはもう一度、頭を下げると、
「本当は、ジュリア・アートウッドの歌を聴かせたかったわ。あたしが、歌ったのはレダのカバーだから」
「レダのカバー?」
驚く俺に、ジュリアは頷いた。
「本物のレダは、ブルーワールドにいる。この世界にいないわ」
「レダがいない?」
眉を寄せる俺に、ジュリアは微笑むと軽く頭を下げ、応接室から出た。
これが、俺とジュリアの最後の出会いとなった。
ほとんど初対面の俺に、この世界を託して、彼女は去っていった。
「…」
西館から出たジュリアは、真っ直ぐにある場所を目指して歩き出した。
「あ、あのお」
そんなジュリアに声をかけようと、サイン色紙片手に慌てて校舎から出てきた姫百合を、後ろから肩を掴んで、九鬼が止めた。
「駄目よ。あの人には、時間がない」
九鬼は、ジュリアが歩いた後に残る微かな砂を見つめていた。
「…はい」
姫百合は、砂よりもジュリアの背中に漂う悲痛さを感じ取り、追うのをやめた。
「は、は、は」
激しく息をしながら、ジュリアが目指す場所は、一つ。
生前、行くことのできなかった場所…ダブルケイ。
内戦が続く祖国を訪れた…明日香達の音楽。
それが、生まれた場所。
あの時、聴いた音楽が…ジュリアの根になっていた。
(本当は…御姉様といきたかった)
町並みの遥か向こうに見える山。
その山の麓に、ダブルケイはある。
ジュリアはただ、真っ直ぐ…山を見つめながら、歩き続けた。
「じゃあね。バイバイ」
友達と手を振り別れた和恵は、自分の家であるダブルケイを目指し歩いていた。
結構、距離はあるけど、山へと向かう道は清々しく、ダイエットにもなると思っていたから、苦にはならなかった。
15分くらい歩くと、学園から姉妹校にあたる大鳳学園に着く。その前を真っ直ぐ、坂道を登ると、ダブルケイへ繋がる山道に出るが、あまり歩く人間はいない。
遠回りになるが、電車を乗り換え、地下鉄に乗る方が楽であり、夜になると安全だった。
しかし、慣れた道である。
和恵は、軽快に歩き出した。
「うん?」
山道が見える距離まで来た時、和恵はふと足を止め、足下を見た。
道の真ん中に、砂の塊が落ちていたからである。
土砂を運ぶトラックが、落としたのかもしれない。
それくらいの軽い気持ちで、和恵は砂を避けると、ダブルケイに向かって歩き出した。
「馬鹿な子」
和恵が去った後、どこからかティアが現れた。
足下に溜まった土を見下ろし、
「あたし達は、彼らに体を与えられて存在している。彼らの命に背く行為をすれば…肉体は、砂に戻る」
ゆっくり屈むと、少しずつ風に飛ばされていく砂の塊に手を伸ばした。
「おい」
しかし、後ろからかけられた声に、ティアは途中で手を止めた。
「まさか〜ここで、終わる気じゃないだろうな?」
「フッ」
ティアは手を引っ込めると、ゆっくりと立ち上がった。
「まさか」
そして、後ろに立つジャクに微笑みかけた。
「ケッ」
その微笑みを見て、ジャクは唾を吐いた。
「もうすぐですよ。終われるはずがない」
ジャクの後ろから、闇を纏っているかのような陰気な気を放つ男が、姿を見せた。
「ヤーン!」
ティアは、その男を見て、顔をしかめた。
ヤーンと呼ばれた男は、深々と頭を下げると、
「第一段階に必要な魂の生け贄は、集まりました。それを使い、大月学園一帯の人々を、ブルーワールドに落とします。元々、この大月学園は、向こうと繋がっています。ここに、穴を開けることで、一気に広がるでしょう」
笑いながら、頭を上げた。
「コンサート会場に来た人間を、ちまちま落としていくという計画は、必要なくなったしな」
ジャクは煙草を取りだし、口にくわえると、砂の塊を見下ろし、
「まあ〜もう用なしだったな」
煙を吐き出した。
「しかし、問題ができました」
ヤーンは、ティアに目をやり、
「例のお嬢様が知ってしまった」
じっと見つめた。
「問題は、ないはず。彼女の取り巻きは」
「菱山様が、お許しにならない」
ティアの言葉を、ヤーンは遮った。
ティアはため息をついた後、
「でしたら…あたしが、何とかします」
大月学園に向かおうとした。
「無理ですよ」
ヤーンはティアを止め、にやりと口許を歪めた。
「彼女の力は、強大です。止めれるとすれば、彼しかいませんよ」
しかし、ティアを見る目だけは笑っていなかった。
「そして、それが最終目的でもあります」
ヤーンはおもむろに、目を伏せた。
「!」
その目の動きに、ティアは嫌なものを感じた。
「…」
ジャクは、煙草を吸いながら、黙っていた。
「…わかったわ」
敢えてきくことをせずに、ティアはその場から消えた。
「従順な女は、好きですよ」
ヤーンもその場から、消えた。
「ケッ」
2人がいなくなった後、ジャクは煙草を砂の上に捨てると、足で踏みつけた。
「…」
理事長室を出て、階段を上り、西館から外に出た俺は、校門に向けて歩き出す。
その様子を途中、横目で確認する九鬼。
「!?」
九鬼の隣に立つ姫百合は、威風堂々と歩く俺に、息を飲んだ。
ちらっとだけ2人を見て、俺は心の中で少しだけ驚いた。
(彼女達は、普通の人間ではない)
それがわかったところで、今は構っている暇がない。
俺が通り過ぎてから、少し間を開けて、九鬼も歩き出した。
別に気にすることなく、歩き続ける俺の先に、真田が立っていた。
校門の向こうに、リムジンが見えた。
「いくのか」
真田の問いに、俺はああと答えた。
「フン」
真田は鼻を鳴らした後、眼鏡を人差し指で上げた。
俺は、そんな真田の横を通り過ぎた。
勿論、リムジンに乗るつもりもない。
校門を潜った俺に、真田は振り返ることなく言った。
「今のお前の体は、お嬢様そのもの!だから、止めることはしない。しかしな!」
真田は、歩いてくる九鬼を見つめ、
「その肉体から、離れた時…俺は、お前を殺す。この前言った…忠告を無視するならな」
言葉に殺気を込めた。
「了解」
俺は、それだけ言うと、その場でテレポートした。
消えた俺を見て、慌てて駆け出した九鬼に、真田は告げた。
「菱山財団の屋敷だ」
「!!」
九鬼は思わず、足を止めた。
数秒後、頭を下げると、校門を潜ってからダッシュし出した。
今までの一連の流れを、体育館の上で見ていたサーシャは、九鬼の後を追うことにした。
「よろしいのですか?」
その様子を監視していたのは、他にもいた。
学園情報倶楽部のメンバーである。
隠しカメラからの映像を、パソコンに転送して見ていた舞の言葉に、高坂は肩をすくめて見せた。
「俺達が行っても、神レベルの戦いには邪魔なだけだ」
「そりぁ〜そうですけど」
舞だけではなく、その部室にいた者達が顔を見合わせた。
いつもなら、なにがなんでもいくのが、高坂だと思っていたからだ。
しかし、行かない理由は、他にあった。
「ブルーワールドと繋がる糸…。それが、まさか…この部室だとはな」
高坂は、天井を見上げた。
「それは、間違いありません」
舞は画面を、切り替えた。
「だとしたら、動く訳にはいかない。適材適所。我々には、ここを守る義務がある」
高坂は、手に持つ…ダイヤモンドの眼鏡ケースを握り締めた。
開八神茉莉の体を使うことのできるようになった俺は、自らの魔力を使うことなく、テレポートできた。
まるで、体に…2つのチャクラがあるみたいだが、混ぜる訳にはいかなかった。
テレポートアウト後、突然目の前に現れた漆黒の屋敷。
しかし、それをじっくりと見上げる暇もなかった。
「待っていたよ。イブ」
まるで、ここにテレポートするのを知っていたかのように、真後ろに赤星光一がいた。
「世界の崩壊が、始まる。だけどね。再生でもあるさ。君と僕がいればね」
「どういう意味だ?」
俺は、ゆっくりと振り向くと、光一を睨んだ。
「このことは、君の叔父である菱山五郎も知らぬこと」
光一は、肩をすくめた。
「人間が生き残る…いや、表現が違うな。ただ残す為には、この方法しかないと!君の執事は、悟ったのさ」
それから、ゆっくりと両手を広げ、
「だから、おいで…。僕の胸の中に」
にこっと微笑んだ。
「断る!」
俺は、それだけ言うと、屋敷内にテレポートした。
「おやおや」
光一は両手を下ろすと、
「無理矢理は、不本意だが…仕方ない」
屋敷を見上げた。
「イブ…。君が、バンパイアだとしても、僕には勝てない。なぜならば…男と女だからだ!」
ゆっくりと顔を、正面に向け、
「それこそが、摂理!僕の体は、君と結ばれる為にできたのさ」
口許を緩めると、テレポートした。
2人が消えた数分後、九鬼とサーシャが、屋敷の近くまで駆け寄って来た。
2人は互いの顔を見ないが、進むべき道は決まっていた。
「すまないが…ここから、先は立ち入り禁止だ」
突然、学生服を着た刈谷が立ちふさがった。
「あなたは!」
刈谷の姿を目にして、九鬼の足が止まった。
だが、サーシャは止まらない。
刈谷を飛び越えると、屋敷内に忍び込もうとした。
「!」
そんなサーシャは空中で、尋常ではない魔力を感じ、反射的にドラゴンキラーで着地と同時に、斬りかかった。
「…あなたが、サラのお気に入りね」
ドラゴンキラーは、突然姿を見せた女を真っ二つにした。
しかし、手応えがなかった。
サーシャは底知れぬ恐怖を、味わいながらも、間合いを取った。
しかし、後ろには、刈谷がいた。
「まったく〜せっかちね」
サーシャは、笑う女の正体を思い出した。
「リンネか」
「リンネ…」
サーシャの声に、九鬼の目も刈谷の肩越し、リンネをとらえた。
「あたし…有名かも」
リンネは、2人にウィンクした。