強襲の女神
「さて…」
骸骨でできた島で、月を見上げながら、瞑想してしている俺の元に、フレアは飛んできた。
ここに連れて来られてから、一時間も立っていなかった。
「フレア」
目の前に着地したフレアに、俺は微笑んだ。
「…」
フレアは無言で、俺を数秒見つめてから、口を開いた。
「この世界を守りたいのですか?」
その質問に、俺は驚いたけど、即答した。
「勿論だ」
この言葉に、フレアは笑顔になった。
「だけど…今の俺は、非力だ。ここまでは、何とかやってこれたが、神レベルの相手になると、どうなるか」
俺は、自らの手を見た。透き通る程の白い肌が、傷だらけである。
「あたしは…」
フレアは、俺の手を見つめ、
「あなたの世界を守りたいと思いました。例え…人間でなくても。でも…魔物であるあたしが、この世界に馴染むのは難しい」
少し目を伏せた。
「まあ〜何とかするよ。ティアナさんのように、剣一つで戦い抜いた人もいるしね」
やはり、昔から知っているからか…俺は、素直に話していた。
「あたしの一部は、あなたの血となり…そして、今は、チェンジ・ザ・ハートの中に宿っています。そして、残りの魂はここに!」
フレアは、自らの胸に当てた。
すると、その部分から、炎が発生した。
「フレア?」
驚く俺に、フレアは微笑んだ。
「あたしのすべてを捧げましょう。魔力の使えないあなたの為に」
「な、何をする気だ!?」
「…」
フレアはただ、微笑んだ。
次の瞬間、フレアの体は燃え尽きた。
「何!?」
と同時に、二枚の炎の羽が俺の背中に装備された。
(あなたの羽となり…あなたの武器となります)
フレアの声が、俺の頭に響いた。
「フレア!?」
(あたしの意識は…消えます。だけど…チェンジ・ザ・ハートにも、この羽にも…あたしの思いは残ります)
フレアは意識を消す寸前に、最後の願いを込めた。
それを、俺に告げなかった。
(永久に、あなたのそばに)
「フレア!有り難く使わせて貰うぞ!」
俺は、フレアの思いを理解してはいなかった。
ただ感謝だけしかしていなかった。
「戻るぞ!」
炎の羽を広げ、空中へと舞い上がった。
そのまま、月下の下…日本目指して海面上を進んでいった。
「赤星君…」
下から、背中に手を回し、光一にしがみつく女子生徒。勿論、服は着ていない。
「ああっ!」
突然、弓なりに身を反らすと、女子生徒は気を失った。
「やれやれ」
光一は立ち上がると、はだけた衣服を整えた。
「下らん」
西館四階の奥…使われていない教室。そこに並ぶ机の上で、数十人の女子生徒が裸で気を失っていた。
「やはり…人間の男が、女とやりたいと思うのは、単なる性欲だけだな。本能が壊れている癖に、生殖活動だけは盛んとはな。これも、滅びたくない一心かな」
光一はフッと笑い、
「やはり…神である僕が、こんなメスどもと何人やっても感じぬ。だがな!」
先ほど貫いた女子生徒の首筋に、手を伸ばした。
「わかったことはある!人間は、僕の餌だ!」
そのまま首を掴むと、片手で女を持ち上げた。
そして、指先を肌に突き刺した瞬間、気を失っていた女が目を覚ました。
「あ、赤星君!?」
「感じるよ!君に入れたときよりも、君の血の方がね!」
光一が指先に、少し力を入れただけで、女子生徒は悲鳴を上げることなく、干涸びて絶命した。
「ククク」
すると、女子生徒の体が発火し、一瞬で燃え尽きた。
「流石によく燃えるな」
光一は笑うと、次々に女子生徒達の首筋に手を差し込んでいった。
(魔力を感じる!)
赤星光一を探していた麗菜は、美奈子の声に廊下を歩く足を止めた。
(微かだが…魔力が上がっていくのを感じる)
「どこですか?」
麗菜は中央館の二階にいた。
(西館の上だ)
「わかりました!」
頷くと、廊下を走り出す麗菜。
(途中、人目がないところを通れ!やつならば、お前がどうこうできる相手ではない)
「わかりました」
麗菜は大きく頷いた。
「うん?」
光一が最後の食事に、ありつこうとした時、教室の扉が開いた。
「何をしている!」
姿を見せたのは、如月さやかであった。
全裸の女子生徒を持ち上げる光一。そして、床に落ちている大量の制服と下着。
「何もしてませんよ」
しかし、光一が微笑んだ瞬間、持ち上げていた生徒も、衣服類も…すべて消えた。
いや、燃えたのだ。灰も残らずに。
「な!」
誰もいない教室に、1人…光一だけが、立っている。机も椅子も、きちんと揃っている…何事もなかったようになった空間を見て、さやかは絶句した。
「何もありませんよ」
光一は両手を広げ、さやかに微笑みかけた。
「え」
次の瞬間、光一が目の前にいた。
「何事も…ない」
「訳がないだろ?」
さやかの首筋に差し込まれそうになった腕を、乙女ダイヤモンドになった高坂が掴んでいた。
「ほお〜」
光一は感心した。
「さやか!逃げろ!」
高坂は、光一の腕を離すと、全身でぶつかった。
「高坂!ダイヤモンドアタック」
吹っ飛ぶ光一。
「な、何が…」
少しパニック状態になったさやかを見て、高坂は廊下にいる緑に叫んだ。
「さやかを頼む!」
「しかし、部長!」
妖刀空切り丸を片手に緑は、教室に飛び込むと、光一に向かって構えながら叫んだ。
「部長1人では…」
「1人ではないわ」
反対側の扉が開き、九鬼が飛び込んで来た。
「生徒会長!」
緑は驚きの声を上げた。
「ほお〜。ついさっき、助かったばかりなのに、戦いを挑むか。つくづく…愚かだな」
光一は、九鬼を見て笑った。
「愚かかもな。でも…あたしは生徒会長だ!この学園の生徒を守る義務がある」
九鬼は、乙女ケースを突きだした。
「装着!」
黒い光が、九鬼を包み…乙女ブラックになった。
「フン!」
さらに、力を込めると…黒いボディが、光輝き出した。
「闇夜の刃!乙女シルバー推参!」
さらに、光一の後ろの窓から、サーシャが飛び込んできた。
「雑魚が」
光一は振り返ることなく、集まった者達を目で威嚇した。
「緑!」
高坂の怒声に、緑はさやかの手を引いて、教室から出た。
「君達に、神が倒せるのかい?」
「やってみなければ…わからないだろ?」
廊下を走り出した緑とさやかとすれ違い、姿を見せた美奈子は、銃口を光一に向けた。
「お前は!」
「くらえ」
十三個の銃口が開いた装飾銃から、光の束が放たれた。
「今だ!」
高坂は拳を突きだした。
「月影キック!」
九鬼はジャンプし、サーシャは光一の背中に向けて、突きの体勢で、ドラゴンキラーを装備し走り出した。
ここに集ったすべての者の一斉、攻撃。
しかし、光一はせせら笑った。
「無駄だ」
「な!」
「何!?」
「お前は!」
「馬鹿な!」
驚愕する4人の前に、現れた5人の女神。
「赤星浩一には相棒がいただろ?」
光一は、唇の片方をつり上げた。
「ア、アルテミア!」
サーシャの突きを指先で摘まんで、止めたアルテミア。
九鬼の蹴りを、蹴りで止めたアルテミア。
高坂の拳を人差し指で、止めたアルテミア。
美奈子の光撃を、すべて吸収したアルテミア。
「君は、逃げたやつを追ってくれ」
光一の前にいたアルテミアが頷くと、黒いスーツ姿になり、一瞬で姿を消した。
「他の者は、そいつらを殺れ!」
光一の言葉に頷くと、4人のアルテミアは反撃を開始した。
4人のアルテミアは一斉に、ストロングモードに変わった。
「うわあっ!」
4人のアルテミアの蹴りが、4人をふっ飛ばした。
サーシャは、窓ガラスを突き破り、外に落下した。
九鬼の体も、教室の扉を突き破った。
他の二人も、教室から廊下に転がった。
「ハハハハ!」
光一は、笑った。
「彼女達は、この世界に来た時の天空の女神を元につくられている。君達では、絶対に勝てないよ」
その頃、西館の階段を駆け下りた緑とさやかの前に、先回りしたアルテミアが、立ち塞がっていた。
「天空の女神…」
逃げる途中で、気を取り戻したさやかは、激しく息をしながらアルテミアを睨んだ。
「あり得ない。天空の女神は、王となった。こんなところにいるはずがない」
さやかは、何とか息を調えようとしていた。
「この偽者が!」
緑は、木刀をアルテミアに振り下ろした。
しかし、指先一本で止められてしまった。
「え!」
そして、指で木刀を弾かれただけで、緑は後ろに吹っ飛び、尻餅をついた。
「クッ!」
窓の向こうでは、頭上から窓ガラスの破片とともに、乙女シルバーが着地した。
ほぼ同時に、着地したアルテミアの蹴りが、乙女シルバーを吹っ飛ばした。
「乙女シルバー!」
蹴られて、空中を飛んでいく乙女シルバーの姿が、さやかの目に映った。
アルテミアは、ゆっくりと九鬼の後を追う。
「天空の女神がもう1人!?」
さやか達の方を見ないで、窓を挟んだ向こう側をアルテミアが悠然と、進んでいく。
「馬鹿な!」
驚いていると、今度は乙女ダイヤモンドが落下してきた。
「高坂!」
仰向けに落ちた乙女ダイヤモンドのそばにも、アルテミアは着地すると、首根っこを掴んで、ほり投げた。
「!?」
驚いているさやかの前にいたアルテミアが突然、バランスを崩した。
「女神だとしても、人間と同じように二足歩行ならば!バランスを崩したら!」
尻餅をついていた緑はいつの間にか、片膝をつくと、木刀でアルテミアの足を払ったのだ。
「如月部長!」
緑は立ち上がると同時に、廊下を走り出した。
「わかったわ!」
さやかは、緑とは逆方向に逃げ出した。
どちらかがやられても、どちらかが生き残る方法を選んだのだ。
「…」
アルテミアはバランスを取り戻すと、迷うことなく…緑に向かって走り出した。
「上等だよ!」
緑は、木刀を握り締めると、アルテミアを迎え撃つことにした。
「学園に残っている生徒の皆さんは、速やかに下校して下さい!繰り返します。学園に…」
放課後の学園中に、校内放送が響き渡った。
九鬼の命を受けた香坂姫百合が、呼び掛けているのだ。
部活に入っていない月影メンバーはもう、学園には残っていなかった。
さらに、まだ完全に回復していない月の女神も、中島とともに学園を出ていた。
幸いではあったが…彼女達がいたところで、状況がよくなることはあり得なかった。
「ひぇ〜」
情報倶楽部の部室内で、パソコンを弄っていた舞は、悲鳴を上げた。
「最上級の神レベルが、5人も!?一瞬で、国がなくなっても、仕方がないかも」
「もしもし」
その言葉を、通信で聞いていた輝は冷や汗を流した。
「そんな相手だったら、僕はいらないんじゃないかな?」
本当は、何かあった時の為の奇襲要因としてに、光一がいた教室の隣で、机の下に潜んでいた輝は、まったく動けなくなっていた。
野生の勘が、輝の動きを止めていたのだ。
「状況が変わったのよ」
舞は、画面をモニターに切り替えた。
「とにかく、あんたは死なないようね」
「わかった」
通信を切ると、舞は学園中に仕掛けたカメラで戦いを映すと、ため息をついた。
「打つ手がないかも」
西館四階の廊下で、美奈子は後退しながら、銃を撃ち続けた。
しかし、アルテミアには通用しなかった。
「くそ!」
美奈子の脳裏に、嫌な記憶がよみがえる。
自らが死ぬ寸前のことを。
魔王ライに、まったく自分の力が通じなかったことを。
「こ、こいつらは!」
美奈子の苛立ちは、銃の精度を落としていた。
並んでいる教室の壁が、流れ弾で吹っ飛んだ瞬間、麗菜が叫んだ。
「あたしがやります!」
「何をしている!女神の力を持つあたしが、敵わないんだぞ!戦闘向きではないお前が!?」
「それでも!」
麗菜は叫んだ。
「モード・チェンジ!」
「やめろ!」
美奈子の制止をきかずに、麗菜に変わってしまった。
少し驚いたように見たアルテミアは、フッと笑うと、いきなり走り出した。
(やめろ!)
美奈子の声が、頭に響く。
しかし、麗菜の意識はもう…アルテミアにしか向いていない。
(勝負は一瞬!)
麗菜は、自らの鳩尾に手を当てた。
「…」
アルテミアの拳が、麗菜に迫る。
「は!」
麗菜は、気合いを発した。
「!?」
次の瞬間、光が…アルテミアの突きだした右腕を中心として、走った。
(やった!)
勢い余って、麗菜の横を通り過ぎるアルテミア。
「ふぅ〜」
麗菜の手には、日本刀に似た刀が握られていた。
次元刀。
時空間さえも斬り裂く…その刀の性質で、麗菜はアルテミアの腕を斬り落としたと確信した。
少し心が痛んだが、アルテミア本人ではないと言い聞かせ、麗菜は振り向き様の斬撃を放った。
光の半月が、刀から飛び出し、アルテミアの括れたウエストを通り過ぎた。
右腕が廊下に落ち、胴体から真っ二つになるはずだった。
しかし、赤い血の線が皮膚に一瞬走っただけで、アルテミアの体には傷一つ残らなかった。
「え」
驚く麗菜の目の前で、振り返ったアルテミアの瞳が赤く輝き、唇の両端から牙が覗かれた。
「バンパイア…」
アルテミアの瞳を見た瞬間、麗菜は体の自由を失った。
握っていた次元刀が、床に落ちた。
「フッ」
アルテミアは一瞬で麗菜の前まで来ると、首筋に噛みついた。
「!?」
しかし、すぐに違和感を感じると、首筋に突き刺した牙を抜いた。
2つの傷口から、流れる砂。
アルテミアは顔をしかめ、口に入った砂を吐き出す為に下を向いた。
その時、アルテミアの脳天に銃口が突き付けられた。
引き金が引かれ、至近距離から、光の弾が直撃した。
その反動で、2人は吹っ飛んだ。
「化け物め」
麗菜が意識を失ったことになり、強引に体を変えた美奈子は恐怖を緩和する為に、笑って見せた。
そして、再び引き金を弾こうと銃口を向けたが…アルテミアはいなかった。
いつのまにか、後ろに移動したアルテミアの回し蹴りが、美奈子の脇腹にヒットした。
次の瞬間、美奈子は廊下の窓ガラスを突き破り、四階から落下した。
アルテミアもその窓から飛び下りると、地面に激突した美奈子の背中に爪先を突き立てた。
「う!」
砂でできている肉体とはいえ、痛みは感じるようにできていた。
アルテミアは美奈子の首根っこを掴むと、グラウンドまで引きずっていった。
「チッ!」
フラッシュモードとなったアルテミアと、西館裏で激突するサーシヤ。
スピードは圧倒的にアルテミアが上であるが、軌道を読んだサーシヤは何とかしのいでいた。
(やはり、人形だ。攻撃パターンが決まっている)
ロバートの分析力とサーシヤの身体能力により、防御だけはできていた。
「しかし、このままでは!」
反撃ができないならば、サーシヤに勝ち目はない。
(天空の女神相手で勝てる者は、いない!せめて、赤星君に魔力が使えれば)
ロバートは、悔しそうに言った。
「く!」
サーシヤは顔をしかめ、止まることのないアルテミアの攻撃を防いでいたが、じりじりと後退していた。
そして、いつのまにか…グラウンドまで来ていた。
「うん?」
サーシヤは横目で、グラウンドの中央を見た。
気を失っている美奈子を中心にして、乙女シルバーが構え、高坂が片膝をつけながらも、結局二人して捕まった緑とさやかを守っていた。5人は、アルテミア達に集められたのだ。
「高坂!あたしに、ケースを貸して!今のあなたじゃ…戦えない」
さやかの言葉に、高坂は頷いた。
「すまない」
乙女ダイヤモンドになっていた為に、四階からの落下に耐えることができたが…この後のアルテミアの猛攻により、高坂の体力は限界に来ていた。
「だが…勝てるかどうか」
高坂から乙女ケースを受け取ったが、さやかの手は震えていた。
そんな5人を囲むように立つ四人のアルテミア。
(どうやら、あそこに行かせたいらしいな)
ロバートの言葉に、サーシヤは唇を噛み締めた。
「そんな思い通りにさせない!」
サーシヤはドラゴンキラーの刀身で、アルテミアの蹴りを払うと、そのまま回転し、一歩前に踏み出すと切っ先を突きだした。
その動きに、アルテミアは後方に下がった。
「いくぞ」
さらに前に出ようとしたサーシヤは、足を止めた。
「な」
絶句するサーシヤの目に、アルテミアの姿が映る。
白い翼を広げ、純白のドレスを身に纏った姿は…。
「な!」
突風は、グラウンドにいた九鬼達にも届いた。
いや、それだけではない。
別方向からも、突風は吹き…九鬼達はグラウンドを転がった。
「い、たたた…」
砂煙が巻き上がり、それが晴れた時には、九鬼達のそばに、サーシヤがいた。
「チッ」
サーシヤは舌打ちすると、頭上を見上げた。
「万事休すか」
6人を囲むように、空中に浮かぶ5人の天使。
「な、何というプレッシャー」
さやかは、変身することも忘れていた。
「終わりだ」
先程の部屋にまだいた光一は、にやりと笑った。
5人のアルテミアの手にいつのまにか…槍が握られていた。
「ま、まさか…」
サーシヤは、その体勢を知っていた。
槍を一斉に、脇に挟むアルテミア達。
(女神の一撃か)
ロバートは、呟くように言った。
(防ぐ手立ては…ない)
誰もが絶望した時、5人のアルテミアは空中で、撃墜された。
「な!」
目を見開く九鬼達の頭上で、無数の火の玉が飛んできて、5人のアルテミアに炸裂したのだ。
「うおおっ!」
雄叫びを上げて、俺は…大月学園の上空に浮かぶアルテミアにそっくりな相手に、接近しながら、攻撃を仕掛けた。
背中につけられた炎の羽から、無数の火の玉を発射した。
「よりによって!アルテミアの姿だと!」
回転する2つの物体が、猛スピードで飛ぶ俺に纏まりついた。
その2つを掴むと、十字にクロスさせた。
「いくぞ!」
ライトニングソードを握り締めると、俺は5人のアルテミアに斬りかかった。