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君を殺せ

「俺は、アルテミアじゃない」


「何!?」


サーシャは一気にドラゴンキラーを後ろに引くと、少し緩めた俺の指の間から抜き取った。


その勢いのまま、後方に下がり、間合いを取ると、構え直した。


「だったら、何者だ!お前が使った武器は、チェンジ・ザ・ハート!女神専用の武器のはずだ!」


「だから、俺は…じゃなくて、僕は!」


サーシャに説明しょうとしたが、警戒を強めた彼女は聞く耳を持たない。


「あのですね」


「問答無用!」


サーシャの髪が、エメラルドグリーンに輝き出した。


「いっ!」


その瞬間、俺の体重が重くなった。


さらに、息苦しくなってきた。


「サイレントボム!」


「わからず屋!」


俺の目が光り、魔力を発動させた。


「な」


空間が歪み、部屋中のあらゆる物も歪んだ。


ほんの一瞬だったが、サーシャの魔法を発動させるタイミングを狂わせるには、ちょうどよかった。


すぐに、魔力の発動を止めると、サーシャの間合いに飛び込み、ドラゴンキラーを装着した右腕を蹴り上げた。


「人の話を聞いて下さい」


ドラゴンキラーが、元に戻った床に落ちた。


「な、なんという魔力!」


サーシャは一気に、俺から離れたが、小刻みに足が震えていた。


それでも、ナイフを取りだし、自らの足を傷付けると、震えを痛みで消した。


改めて構える姿は、戦士であった。


「参る!」


サーシャは心の中で、俺を危険と判断した。


味方でないならば、倒せなくても、ダメージは与える。


その覚悟を感じて、俺は心の中で頭を抱えていた。


(どうして、こんなことに)


望んでいないのに、サーシャと戦うことになってしまった。


「は!」


気合いを入れて、サーシャは俺に突進してくる。


「まったく〜どうして、こんなことになっているんだろうね」


突然、窓の方から声がした。


「!」


サーシャの動きが止まる。


それは、俺も同じだった。


「すまないな。赤星くん。うちの女房が、話を聞かなくて」


ゆっくりと振り返り、窓の方を見た俺の目に、懐かしい顔が飛び込んできた。


「ロバートさん!」


「やあ」


俺の声に、ロバートは微笑んだ。


旧防衛軍の結界士の黒装束を身に纏い、左右のバランスが均等で真っ直ぐに立つロバートは、ゆっくりと2人に近付いてきた。


「今、この世界はパニックになっているよ。世界中の人間が目眩を起こしたとね。一部電車は止まり、交通事故も多発しているようだ。ここ数日、そんなことが何度も起こっている。たった数秒だけの魔力の発動でね」


そして、俺のそばで止まると、じっと見つめた。


「君が思うように、力を使えないのはそのせいだね」


「ロバートさん」


「しかし…知らなかったよ」


ロバートはまじまじと、俺の上から下まで確認した後、


「君にそんな趣味があるなんて!」


目を逸らした。


「違います!」


俺は顔を真っ赤にして、否定した。


「赤星?赤星浩一だと!?そ、それに、ロ、ロ、ロバート!?お前は、成仏したはずだ。砂の世界に、お前はいなかった」


驚きと困惑、さらに嬉しさが込み上げ、冷静なサーシャが混乱していた。


そんなサーシャに、優しい視線を送ると、ロバートは話しかけた。


「一つ一つ説明するよ。まず一番わかっている自分自身のことから…。俺は確かに、満足して死んだ」


ロバートは、母親の死の真相を知り…狂ったアルテミアに、人というものを教える為に、その命を投げうった。


「しかし、一つ心配事が残っていた。天国にいっても、愛する女がいない。だから、転生を拒否し待っていたら…俺は砂の世界に来てしまった。待つということは、未練だったのだろうね。そこで、紅に再び会い、理由を聞いた」


そう話しているロバートの体が突然、崩れ出した。


「おっと!やはり、君の血を受けていない体は脆いな」


ロバートは砂になっていく体を確認した後、俺に微笑んだ。


「少し待ってくれ」


すると、一瞬で崩れ落ちた砂が螺旋状に回転し、舞い上がると、そのまま一気にサーシャに向かって飛んでいった。


「!?」


すぐに、サーシャの体の中に吸収されると、彼女の左手の薬指に指輪ができた。


「モード・チェンジ!」


サーシャは迷うことなく、そう叫んだ。


「!」


驚く俺の目の前で、サーシャの姿が変わった。


「流石に安定しているな」


俺の前に、ロバートが立っていた。


「砂の体で来てわかったよ。この世界で、ずっと姿を保つには、強い力を触媒にしなければならない。君の血のようなね」


「?」


「つまり…やつらにも、君のような存在がいるということだろうな」


ロバートは、自らの体の調子を確認しながら、話していた。


「俺のような存在?やはり、敵に神レベルがいるのか」


俺は、顎に手を当て、考え込んだ。


その間に確認を終えたロバートは、俺の姿を見つめ、目を細めた。


「先程の魔力の発動による世界の震え…なのに、君の魔力で動いているサーシャがいても、何の影響もない。魔力の発動の大きさによるのか?それとも…」


結界士としての興味が、ロバートを悩ませたが、すぐにやめた。


「まあ…いい。今は、そうすればこうなるという現象だけを参考にしょう」


自ら頷くと、ロバートは改めて俺に目をやった。


「この体は、君の体ではないね」


開八神茉莉の肉体を見て、ロバートは直感した。


「はい」


俺は、頷いた。


「だとしたら、君は彼女の体に憑依しているのかい?アルテミアがそうしたように」


「違います」


今度は、ロバートの言葉を否定した。


そして、この世界に来た方法を説明し出した。


「和美さん…いや、紅さんから、赤星浩一としてこの世界に戻れば、バランスが崩れると言われました。前に来た時は、僕の妹が新たな神になっていた為に、世界は安定していました。しかし、その妹も…僕らの手で殺してしまった。そんなことがあったから…この世界は、僕を害虫として、駆除することを決めたらしいのです」


「おかしいな?その言い方では、まるで世界というものに、意志があるようではないか?」


ロバートは、眉を寄せた。


「ありますよ。人間のようなものではないですが…この世界を保つという意志は」


「何?」


「アルテミアは以前、この世界の地球の意思と話したことがあるみたいですが…人の思考とは違い、この世界を保つことのみを目的にしているようですね」


「惑星が意思を持つか…。それならば、少しは理解できるかな。元々そんな風に考える学者もいたしな」


ロバートは顎に手を当てた。


「そう考えると、僕は害虫というよりは、猛毒に近い。この世界に入ると、すぐに致死量を越えて死んでしまう。だったら、少し薄めた毒素ならば…」


「待って」


そこで、ロバートは言葉を止め、


「その言い方ならば、ウィルスを予防する為のワクチンづくりに近い。抗体をつくる為の!君が害虫だというならば…」


今度は、俺が話を止めた。


「この話は、後程に…。だから、僕は赤星浩一の何分の一の力しか持たない綾瀬太陽をつくり、この世界に送り込んだ。世界を守る為に。しかし!この綾瀬太陽でも、魔力を発動させると、世界が崩れることがわかった。だからこそ、慎重に行こうとしていた時、俺は探索中に何者かに後ろから襲われて、意識を失った」


「何!君を襲って、気を失わさせるだと!?」


驚くロバートに、俺は頭をかき、


「来たばかりで、どれ程加減したらいいのかわからなかった時でしたし、それに綾瀬太陽の体に慣れていなくって…。次に意識を取り戻したら、この体の中に」


「相手は、君と知って襲ったのか?」


「違うようです。何でも…この肉体の持ち主であるお嬢様が、町で見かけた俺に一目惚れしたらしくって…」


妙に照れる俺を見て、ロバートは呆れた。


「まあ〜一目惚れしたとして、どうして体を入れ換えるんだ?」


「その理由はわかりません。だけど、その為に…綾瀬太陽の体に慣れる前に、この体に慣れました。太陽の器と言われる体に」


「太陽の器?」


「はい。やつらは、この肉体をやつらの神に捧げると言っていました。結果は偶然ですが、この体に入り、やつらに近付くことができたのです」


「太陽の器」


ロバートはもう一度、その言葉を繰り返すと、開八神茉莉の体を凝視した。


「あと…計算外のことが一つ」


俺は先程の魔力を解放してから、ロバートに会い…話している間に感じた違和感を口にした。


「さっき…抗体というものを口にしましたが…もしかしたら」


「何だい?」


ロバートは考えるのを止め、意識を会話に向けた。


「もしかしたらなんですが…抗体ができているのかもしれません。感じるんですよ」


俺は胸を押さえた。


「何かを…」


そう何か…。


それが、何であるか…俺にはわからなかった。






その頃、俺の実家では、ある異変が起きていた。


しかし、その異変を俺は知ることはなかった。


遠くで感じていても…。


妹である綾子の死後…彼女の意思で、家族から俺と綾子の記憶は消えていた。


そして、子供がいなくなったはずの赤星家に、赤星麗菜という新たな子供ができた。


彼女の正体は、サーシャとフレアと同じ砂の世界から来た勇者である。


しかし、家族が増えた赤星家に、更なる異変が起きていた。


「只今」


学校から帰ってきた麗菜に、台所から母親が声をかけた。


「お帰り、麗菜。お兄ちゃんが帰ってきているわよ」


「お兄ちゃん?」


靴を揃えて脱ぎ、家に上がると、応接間に向かった麗菜は、そこで信じられない人物に会うことになる。


「お帰り…麗菜」


ソファに座り、寛いでいたのは…若い男の子だった。


そして、その男の子を…麗菜は知っていた。


「こうちゃん…」


絞り出すように、喉から出た名前。


「やっとお兄ちゃんが、一年ぶりに外国から帰ってきたのに…。ちゃんと挨拶しなさいよ」


固まった麗菜の後ろから、お茶をお盆にのせた母親が応接間に入ってきた。


「仕方がないよ。母さん。突然だったらからびっくりしたんだよ」


母親から、お茶を受け取って微笑んでいる少年は、赤星浩一…その人に見えた。




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