表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
456/563

忘却の彼方

「どうだ?どこかに出ていないか?」


情報倶楽部の部室に戻った高坂は、舞を使って、徹底的に調べていた。


それは、昨日起こった事件に関してである。


「何十人の人間が消えたんだ。それに偽者だが、レダだっていなくなったはずだ!」


パソコン前で、マウスを走らせる舞の肩越しで、高坂は画面を睨んでいた。


「やっぱり〜ないですね」


舞は高速でマウスを移動させながら、目を忙しく動かしていた。


「そんなはずは!」


「レダに至っては」


舞は、画面をクリックした。


検索画面から、華やかな壁紙を施したホームページに変わった。


「ブログを今日の朝に、更新していますし」


「何!?」


高坂は、画面に顔を近付けた。


「ぶ、部長!」


舞は、首を曲げた。高坂の頭が邪魔で、画面が見れない。


「昨日だと!?」


高坂は、最新の日記を見て、眉を寄せた。


「舞!昨日とは、今日の昨日か!」


「どいて下さい」


舞は強引に高坂を、画面からどけると、マウスを移動させた。


「確かに、昨日ですね。部長が行ったパーティー?え!」


日記の内容に、目を走らせた。


「どうした?」


舞の表情が強張ったのに気付き、高坂はまた画面に顔を近付けようとした。


「邪魔!」


舞は肘で、高坂の動きを止めると、食い入るように画面を見た。


「昨日は…大辻でライブ?」


日記の横には、ライブ会場の様子が映されていた。


舞は下唇を噛み締めると、画面を変えた。


「パーティーに関しての記述がありません」


そして、トップページのスケジュールをクリックした。


「スケジュールにも、パーティーはありません」


「どういうことだ?」


高坂は画面から離れると、舞の横顔に目をやった。


「部長達が、パーティーにいた時間と…ライブの時間はかぶっていませんが…場所が離れ過ぎている。テレポートでもしなければ、すぐに移動できない。やはり、レダは二人いる?」


画面は、地図検索に変わっていた。


「どういうことよ」


舞が苛ついている中、高坂は無言になり、次々に変わる画面を見つめていた。


「…舞」


数秒後、高坂は舞に命じた。


「もう一度、さっきのライブ映像を見せてくれるか?」


「は、はい」


画面が変わり、日記の横にあるライブ映像が映る。


「う〜ん」


顎に手を当てて、高坂は画面を凝視した。


「どうしました?」


「他の映像は、ないのか?」


高坂の注文に、舞は巨大な投稿サイトへと移動させた。


「恐らく…あるかと」


レダの映像は、すぐに見つかった。


再生ボタンをクリックすると、ライブ映像が流れた。


しばし無言で見つめた後、高坂は目を細め、


「歌声は同じ…。しかし、演じているのは、別人のような」


もう一度、画面に顔を近付けた。


「うん?」


舞は、別の映像に変えた。


「そうですかね?」


舞には違いがわからなかった。


映像だけではなく、写真も検索する。


「映像の分析ソフトとか、あるといいんですけど…」


目で確認するだけでは、わからない。


「…」


高坂は無言で、カードを取り出すと、画面にかざした。


「!」


舞は、高坂の手にあるカードに気付き、


「ま、魔法ですか!」


目を見開いた。


「しかし、ポイントがない。魔物を狩らなければ、ポイントが入らない」


そう言うと、カードを握り締め、制服の内ポケットにしまった。


「カードシステムが復活したというのは、本当なんですね。あたしはずっと、部室にこもっていたので〜ポイントが零のままで…」


「!」


舞の話の途中で、高坂は思い出した。


「そう言えば…。彼女は、カードを知っていた」


「この世界のカードのことじゃないんですか?」


舞は、マウスを持つ手を止めた。


「いや。体力を回復させたいと言った。彼女はなぜ?」


悩む高坂と違い、舞は検索画面に名前を打ち込んだ。


「開八神茉莉…」


しかし、個人情報の為か…彼女の名前は出てこなかった。


「そんな検索で出てこないだろう。しかし、相当な金持ちだと聞いている」


「ですね。でしたら…信憑性は落ちますが…」


舞は、サイトを移動させた。


巨大掲示板にアクセスすると、開八神と打ち込んだ。


そして、表示されたスレッド名を見て、


「いい噂はありませんね」


クリックしたが、すぐに読むのをやめた。


「レダに関してはどうだ?」


「彼女は…評判がいいようです」


「まあ〜匿名サイトでの書き込みを、百パーセント信用はしないが…」


高坂は、パソコンから離れた。


「今のところは順調というところか」


と呟くように言うと、出入口に向かって歩きだした。


「こんな時間にお出かけですか?」


時間は、もう八時を回っていた。


「ちょっと呼び出しをくらってな」


高坂は、外に出た。






「寒っ!」


体育館裏に集合したのは、里奈達…月影であった。


高坂が部室を出ると、みんな集まっていた。


「揃ったわね」


理香子と九鬼の前に、里奈、夏希、蒔絵、加奈子、桃子、蘭花が立っていた。


「突然だけど」


理香子は、みんなの顔を見回し、


「しばらく、月影の力を封印します」


「え!」


里奈と夏希だけが、口を上げた。


他は無言である。


「先日…。月の光が汚染して、あなた達が操られるという事態に陥りました。敵の力は、強大です。また再び、月影が操られるかもしません。そんな危険がある為、乙女ケースを回収致します」


理香子の説明を聞いて、蘭花はその場から歩き出した。


「黒谷さん!」


理香子は、蘭花の背中に叫んだ。


蘭花は足を止め、


「お言葉ですが…。先日のことは、あたしが未熟だっただけです」


それだけ言うと、理香子に頭を下げ、体育館裏を後にした。


「あたしもそう思う」


加奈子も、理香子に背を向けると、手を上げて去っていった。


「あ、あたしは!」


桃子は一瞬、乙女ケースを返そうとしたが…思い止まり、


「変身はしませんが、返しません」


慌てて背を向けると、走り出した。


「ありゃ」


そんな3人の行動を見て、里奈はため息をついた。


「やはり…。何があるかわからない。月の様子を気にしながら、戦うしかないな」


九鬼は、理香子の隣で月を見上げた。


「真弓…」


理香子は、そんな九鬼の横顔を見つめた。


「…」


蒔絵はずっと携帯をいじっていたが、静かに歩き出した。


「まあ〜何とかなるさ!」


先日の騒動を知らない里奈は、背伸びをすると、夏希の腕を取り、愛想笑いを浮かべながら、理香子達から離れた。


「気をつけるからさ」


里奈はそう言うと、みんなの後に続いた。


「待って!危険なの!ほんとに!」


彼女達の後を追おうとする理香子を、九鬼が腕を横に伸ばして制した。


「みんな、覚悟をしている」


「ま、真弓?」


「それに、同じへまはしない。しかし、それでも…気になるなら」


九鬼の伸ばした手の中には、シルバーの乙女ケースがあった。


「返すが」


微笑んだ九鬼を見て、理香子は溜め息をつき、肩を落とした。


「あんたは、いいよのね。あなたの力は、特別だから…」


もう一度、溜め息をつくと、理香子は追うのを止めた。


「女神」


それまで無言だった高坂は、理香子を見つめ、


「俺もこいつが必要だ」


ダイヤモンドの乙女ケースを示した。


「まったく〜もおっ!」


苛立ちが頂点に来た理香子であるが、内心は嬉しかった。


みんな、あんな目に合ったのに、戦うつもりだからだ。


「一つ…教えてくれないか?」


高坂は乙女ケースを握り締めると、理香子を見据え、


「女神である貴女を、閉じ込めることができる程の相手とは、一体…誰なんだ」


質問した。


しかし、その答えを…理香子は持っていなかった。


「わからない…」


「え」


驚く高坂に、理香子は言葉を続けた。


「ただわかっているのは、それほど…恐ろしい相手ということよ」


理香子の言葉に、高坂は言葉を失った。


女神が勝てない相手に、人間である自分が敵う訳がなかった。


(しかし…)


高坂の脳裏に、空を斬り裂いた開八神茉莉の姿が浮かんだ。


(彼女なら…)







「その件ならば、調査中だ」


開八神家の屋敷に帰ってきた俺は、真田に詰め寄っていた。


「待てよ!仮にも、お嬢様である俺が、あんなところに招待されたんだぞ!何とも思わないのか!」


どこぞの宮殿を思わせるフロアは、一面大理石で覆われており、床には赤い絨毯がひかれていた。


真田の後を追いかけても、すぐに行き止まりになることはない。


フロアから奥の廊下に入ってもついてくる俺に、真田は頭を抱えた。


「やつらは何者なんだ!」


俺の質問に、真田は振り向くことなく、同じ言葉で答えた。


「調査中だ」


「待て!」


俺は後ろから、真田の肩を掴もうとした。


その瞬間、誰かが間に割って入ってきた。


「!?」


驚く俺。


「フン」


真田は鼻を鳴らすと、


「お嬢様は、お暇なようだ。相手をしてやってくれるか。才蔵」


割って入った者にそれだけを伝えた。


「誰だ!」


俺の前に現れたのは、黒のスーツを着た細身の男だった。


才蔵と言われた男は、真田の言葉に頷くと同時に、崩れ落ちた。


「いけね!」


俺は慌てて、後ろに下がった。


無意識の掌底が、才蔵の登場と同時に鳩尾に打ち込まれていた。


「ご、ごめんなさい」


踞る才蔵に、少し女ぽく笑顔で謝ると、俺は真田の後を追おうとした。


しかし、廊下に真田の姿はなかった。


「チッ!逃がしたか」


俺は舌打ちすると、踞っているはずの才蔵に目をやった。


だが、才蔵もいなかった。


(ここの奴等は、何者だ?普通の人間じゃない)


再び舌打ちすると、俺は今来た廊下を戻った。






「うう…」


大月学園の体育館とは反対側にあるプールの裏に、用務員室があった。


用務員室といっても、掘っ立て小屋である。


その中にある囲炉裏の側で、寝ていた猫沢は意識を取り戻した。


「こ、ここは!?」


目覚めたばかりで、まだ意識が朦朧としていた。


ただ耳元で聞こえる火鉢の音に、猫沢は段々と思い出してきた。


「剣じい」


猫沢は上半身を上げると、囲炉裏の前で、火の調節をしている白髪の爺を見つけた。


その肩には、拳銃がかけられていた。


「まさか…あなたが」


「違う。お前をここまで運んだのは、私だ」


用務員室のドアが開き、中に入ってきたのは、イベント会場まで太陽達を運んだ小柄な男だった。


「伯父様!?」


目を見開く猫沢に、男は頷くと、囲炉裏のそばに来た。


「しかし、まさか!お前まで影響が出るとはな。予想外だったぞ。お前もそう思うだろう?筧」


剣じいこと…筧剣重郎。学園内で、中身が綾瀬太陽になった開八神茉莉を守るスナイパーである。


「…」


「相変わらず…答えぬか」


そして、小柄な男の名は…上月佐助である。


佐助は溜め息をついた後、猫沢の方を見た。


「巫女よ。お前の気持ちもわかる。しかし、我らが悲願は、開八神家が天下を取ること」


佐助は真っ直ぐに、猫沢の目を見、


「個人的な感情に流されるな」


釘をさした。


「わかっております」


猫沢は立ち上がると、佐助に頭を下げ、


「今回はありがとうございました。屋敷での仕事がある故に…これにて」


その場を去ろうとした。


「待て」


佐助は腰を下ろしながら、あるものを猫沢に投げた。


「これは!?」


猫沢が片手で受け取ったものは、傷だらけの乙女ケースだった。


「俺が、拾っておいた」


「あ、ありがとうございます」


猫沢は頭を下げると、用務員室から出ていった。


その様子を見送りながら、佐助は剣じいに訊いた。


「しかし…我らの悲願。それは、このように達成しなければならないのだろうか…」


「…」


しかし、剣じいは答えなかった。


「フッ」


佐助は笑うと、火鉢に目を移した。






「畜生!」


俺は顔をしかめると、自分の部屋に戻った。


いくつものボタンを押すと、だだっ広い部屋に電気がついた。


「合宿ができるな」


異様に広い部屋には、ベットと洋服ダンスしかない。


ところどころに、俺の写真が貼られているが…。


だからこそ、その広さが異常に感じられた。


(この部屋は、異常だな)


俺は、10人は寝れるふかふかのベットに飛び込んだ。


床に横になる気には、なれなかった。


ベットに埋もれながら、天井を見つめ、少し休もうとした俺は、殺気を感じて起き上がった。


「な!」


入った時には、誰もいなかったのに、一番奥にある窓の前に、1人の女が立っていた。


俺は、その女に見覚えがあった。


「サーシャさん!?」


俺の声に、サーシャはゆっくりと近づいてくる。


どうやら、窓から入ったみたいであるが、セキュリティが万全である屋敷内に忍び込み、お嬢様の部屋までたどり着くなど、普通の人間には不可能のことであった。


「どうしてここに?」


理由を尋ねた俺に向かって、サーシャは突然走り出した。


「な!」


ドラゴンキラーを装備したサーシャの横凪の斬撃が、ベットの上にいる俺に襲いかかった。


慌てて、前にジャンプした俺は、サーシャの頭上を飛び越えて、真後ろに着地した。


「何の真似で…」


しかし、話す暇もなかった。


サーシャの攻撃は止まることなく、身を捩ると、今度は刃を突きだしてきた。


「ったく!」


額を狙う軌道を読んだ俺は、後ろに下がって避けようとした。


その瞬間、切っ先が伸びた。


(この技は!)


俺は避けるのをやめて、ドラゴンキラーの刀身を掴んだ。


「何の冗談ですか?」


指先でつまんで止めたドラゴンキラーに、肩を入れる寸前だったサーシャは、にやりと笑い、こう言った。


「さすが、アルテミア」


その言葉にしばし凍り付いた後、俺は叫んだ。


「違う!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ