王の力
「ライトニングソード!」
フレアとともに、月影と戦うサーシャは、太陽の手にある剣を見て、驚きの声を上げた。
「どうして、あの剣が!この世界に!?」
「剣?そんなもので!」
中島の全身を覆う雷雲から、雷が放たれたが、俺の手にあるライトニングソードがすべてを吸収した。
「モード・チェンジ!」
俺はライトニングソードを振り上げながら、空中に向かってジャンプした。
瞬きの間に、中島を追い越し、見下ろす程の空中に飛び上がった。
「うおおおっ!」
咆哮を上げると、振り下ろす力と落下する力がライトニングソードに加わり、そのまま俺は地面に着地した。
「え!」
麒麟の姿になった中島を中心にして、空が割れた。
「な、何!?」
乙女ダイヤモンドを蹴り飛ばしたサーシャは、裂ける空を見上げた。
スライドしたように見えた空は、数秒後には元に戻った。
しかし、その異様な光景は、サーシャに戦慄をもたらした。
「な、何だ!?この威力は!」
驚いているのは、サーシャだけではなかった。
ライトニングソードを振るった俺自身が、唖然としていた。
中島の中にある魔獣因子だけを、斬り裂こうとしたはずなのに…空間が裂けるなど予想外だった。
それに、ライトニングソードを振るった腕が痺れていた。
(前よりも…数段、いや段違いに強力になっている)
そこまで考えて、俺ははっとした。
(そ、そうか!もしかしたら…ライの力が加わったから)
まじまじと刀身を見つめていると、後ろで落下音がした。
「!?」
慌てて振り返ると同時に、俺の手から、ライトニングソードは分離すると、2つの物体に戻り、どこかへ飛んで行った。
(やり過ぎたか!)
ライトニングソードの威力を見て、俺は中島の体も真っ二つになったと確信していた。
下唇を噛み締めながら、中島のもとへ走った。
砂煙が消えると、グラウンドにめり込んだ中島が姿を見せた。
麒麟の姿ではなく、人間の姿をした中島がいた。
胸元に、ライトニングソードによる傷が走っていたが真っ二つにはなっていなかった。
「よかった…」
何とか制御できたようであった。
ほっと胸を撫で下ろしが、まだ腕が痺れていることに気付き、俺はまじまじと手を見た。
「相原…」
気を失いながらも、中島が呟いた言葉に、俺ははっとした。
「月の女神は!?」
(空が割れた?)
乙女プラチナと戦いながら、九鬼は一瞬の変化に気付いていた。
「余所見をするな!」
乙女プラチナの回し蹴りをかわし、後方に逃げた九鬼の横に倒れている猫沢がいた。
そして、猫沢のそばには黒く変色した乙女ケースがあった。
「乙女シルバーの力を使わないのかい?もっとも、変身した瞬間、闇に堕ちるけどね」
乙女プラチナはせせら笑いながら、九鬼に近付いてきた。
(死者である彼女を倒す為には、乙女シルバーのムーンエナジーがいる!しかし!)
九鬼の頭上にある月は、変色していた。
「どうした?拾わないの?」
乙女プラチナが神速の動きに入ろうとした瞬間、回転する2つの物体が遮った。
「な、何だ!?」
突然、戦いに割って入ったものに、乙女プラチナは足を止めた。
同じく…乙女ケースに手を伸ばしかけていた九鬼も、動きを止めた。
「これは!?」
九鬼の記憶が、よみがえる。
(赤星君!)
しかし、西館裏に飛び込んで来たのは、赤星浩也ではなく、女の子だった。
「行くぞ!」
俺は走りながら、乙女プラチナの動きを止めた2つの物体が戻ってきた瞬間、掴んだ。
すぐに、胸元でクロスさせると、今度は十字架に似た剣に変わった。
「シャイニングソード!」
「小娘が邪魔をするな!」
乙女プラチナの姿が振り向き様、消えた。
「モード・チェンジ!」
俺の姿も消えた。
「!?」
その様子を見ていた九鬼は、目を見開いた。
「は、早い…」
九鬼がそう呟いた時には、戦いは終わっていた。
「な」
絶句する乙女プラチナの動きが止まると同時に、彼女の体は浄化されて…消えた。
プラチナの乙女ケースだけが、地面に落ちて転がった。
(何?まったく見えなかった)
九鬼は、いつのまにか自分を追い越していた俺に気付き、振り返った。
シャイニングソードは分離すると再び、どこかへ飛んでいった。
「な、何とか…やれたな」
ほっと安心した瞬間、いきなり体が重くなり…俺は、足から崩れ落ちた。
(やはり…モード・チェンジの使い過ぎか…。この体でも、これが限界だな)
太陽の器と言われているが…普通の人間の女の子の体である。
(でも…それよりも)
崩れ落ちた体よりも、俺は手に握っていた瓶を気にしていた。
(何とか…取り戻せた)
瓶に閉じ込められた月の女神の無事を確かめると、胸を撫で下ろした。
そして、よろけながらも立ち上がると、瓶を開けようとした。
しかし、瓶をあける力がなかった。
「申し訳ないけど…あけてくれるかな?」
俺は、後ろにいる九鬼に声をかけた。
「あっ。はい」
九鬼は慌てて、俺に近付くと瓶を受け取り、蓋を回した。
すると、光が瓶から飛び出し、頭上の月に注がれると、もとの色へと戻った。
その瞬間、グラウンドにいた月影達は勝手に変身が解け、そのまま気を失った。
俺は空を見上げ、月を見つめた。
「理香子!」
解放され、もとの大きさに戻った理香子を、九鬼が抱き締めていた。
ちらっと視線を2人に向けた後、俺はゆっくりと歩き出した。
「待って!あなたは!」
その動きに気付いた九鬼が、呼び止めたけど…俺は足を止めなかった。
ふらつきながらも、校舎内に入ると、あてもなく歩き続けていると突然、目の前がブラックアウトした。
(気を失ったのか?)
心で冷静に考えていると、俺を包む闇が笑った。
(力の使い方すら知らないお前が、今度はその弱き肉体で、何をする?)
俺は、その声に聞き覚えがあった。
(ライ!)
(フッ)
ライは笑うと、
(この世界を救い…あの世界も救いたいか?)
今度は真後ろから声がした。
(お前のような中途半端な力では、何もできない)
(何だと!)
俺が、反論しょうとした時、再び笑い声が聞こえた。
(しかし、もがくがいい。それが、お前の言う…前に進むことなのだろう?)
(ライ!)
(必要ならば、我の力を使うがよい。但し…今のお前に使えるかな?ハハハハ)
ライの高笑いが遠ざかっていくと、視界に光が戻ってきた。
(!?)
俺はふらつくと、思わず廊下の壁に手をついた。
ほんの数秒だが…目を見開きながら動きを止めた後、倒れそうになった俺を、人が見たらおかしく思っただろう。
だけど、廊下の柱に手をついた俺の後ろを、携帯片手の蒔絵が通り過ぎたが…まったく無視された。
「成る程な…。気をつけろということか」
俺は下唇を噛み締めた。
どうやら、先程…中島が真っ二つにならなかったのは、俺が制御できたのではなく…ライのおかげのようだった。
(しかし…先程の空を割る程の力を…示してしまった。これから、きつくなるな)
それは元々、覚悟していたことだった。
時計台の下の部屋にいた真田と開八神茉莉は、戦いを結末までずって観覧していた。
「今の武器…。この世界のものではありませんな。威力が桁違いです。それに…」
真田は人差し指で眼鏡をあげると、
「あのような武器を、どこで手に入れたのか?それに、あの身体能力」
グラウンドに倒れている中島を見下ろした。
「流石は〜太陽様ですわ。わたくしの伴侶に相応しいお方!わたくしの体にも、なじんでいらっしゃるご様子」
茉莉は、嬉しそうに微笑んだ。
その様子を見て、真田は気付いた。
「お嬢様。あまり…驚かれていないご様子ですが…」
「ウフフ…」
茉莉は胸に手を当てると、
「この体に入ってから、わかりますの。あの方の特別さを。やはり、あの方は…この世界のアダムになりますわ」
目を閉じ…にやりと笑った。
「く、くそ」
廊下の壁にもたれた俺の耳に、どこからか歌声が飛び込んできた。
それは本当に、実際に流れているか…今の俺には判断できなかった。
「レダ…君は、本当にこの世界にいるのか?」
俺は、目を瞑った。
「俺は…君も救いたい」
そのまま、しばらく休むことにした。
「帰りますよ。お嬢様」
真田が、近づいてくるまでの数秒だけ。