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舞姫

凄まじい爆音と土煙の中、俺は逃げていた。


(魔力を使う訳にはいかない)


魔力を使わなくても何とかなると思っていた俺の安易な考えは、月影達の怒涛の攻撃により、夢物語と化した。


(だけど、だからこそ…逃げれる隙間がある)


爆音と爆風、さらに爆煙は…俺の姿を隠すのにちょうどよかった。


正門への道を転がりながら外れ、植木の隙間を潜ると、体育館の裏手に出た。


そこで、一息つくつもりが…どこにも安住の地はなかった。



「緑!」


拳を振り上げた乙女ダイヤモンドのパンチが突き刺さろうとした瞬間、茂みの中から飛び出してきた俺と高坂はぶつかった。


「うわあ!」


横に倒れる高坂に変わって、乙女ダイヤモンドの拳が、俺に迫る。


(アルテミア)


人は最後の時…走馬灯のように過去を思い出すと言うが、俺の頭に浮かんだのは、アルテミアの顔だった。


(!)


その顔を見た瞬間、俺は思い出した。


その間、コンマ数秒であろう。



「名も知らぬ女子よ!」


自分の身代わりになったであろう女子に向かって、高坂はよろけながらも、手を伸ばした。



「フゥ〜」


しかし、高坂の心配は無駄に終わった。


乙女ダイヤモンドの拳を、片手で受け止めている俺がいたからだ。


「間に合った」


俺はため息をついた後、にやりと笑った。


ストロングモード。


アルテミアのように、見た目は変わらなかったが…大幅に肉体が強化された。


(俺にも、使えるとは思っていたけど…。やはり、この体は)


俺は乙女ダイヤモンドの拳を握り締めると、もう片方の手で殴り付けた。


ふっ飛ぶ乙女ダイヤモンド。


(魔力を使わないモード・チェンジは、あとは…フラッシュモードか)


能力を確認すると、気を溜めた。


(いける!)


そう確信した。


ガッツポーズを取った俺の鼻先を、飛んできた包丁が通り過ぎた。


「ゲッ!」


いつのまにか無数の包丁が、俺を囲んでいた。


(モード・チェンジ)


と言う前に、どこからか飛んできた弾丸が、包丁をすべて撃ち落とした。


(スナイパーか!)


いつも俺に監視の目を光らせているボディーガードだが…姿を見たことがない。


「だけど!」


俺は、唖然としている高坂の手を取ると、体育館裏を駆け出した。


スナイパーが隠れていると思われる学園外のマンションの屋上に向けて、乙女ピンクはバズーカをぶっ放った。


八階建てのマンションの屋上部分が、ふっ飛んだ。


「名も知らぬ女子よ。どこに逃げる?」


高坂は、俺に引かれながら、空を見上げた。


「月が黒い?」


「恐らく、彼女達はあの月の光に操られている!何とかしなければ」


俺は、唇を噛み締めた。


体育館裏をぐるっと周り、グラウンドに出ると、屋上から飛び降りてくる2つ影が目に入った。


「乙女ブラックか!」


高坂は、目を細めた。





「チッ」


落下しながらも、校舎の壁を蹴り、威力を拡散させたサーシャは、着地と同時に後方にジャンプした。


「速い!」


そんなサーシャの動きよりも、乙女ブラックの方が速い。


「しかしな!」


サーシャは右腕を振ると、ドラゴンキラーを装着した。


「単純だ」


振り向き様の横凪の斬撃が、乙女ブラックを斬り裂いたと思った刹那、乙女ブラックは頭上にいた。


「何!?」


サーシャが斬ったのは、残像だった。


「ブラックキック」


サーシャの頭上から、乙女ブラックが落下してきた。







「月影リバースの能力は、三倍は上がっている」


瓶を握り締めると、桂も校舎から出た。


「お前達は、太陽の器を手に入れろ」


「は!」


手長男と半月ソルジャーは頭を下げると、体育館の方へ走り出した。





「…」


無言で乙女レッドと対峙するフレアは、体育館の屋根の上からちらりとグラウンドを見た。


何とかブラックの蹴りを避けたサーシャと、乙女ソルジャー達に囲まれた太陽と高坂の姿が、瞳に映った。


フレアは軽く目を瞑ると、グラウンドに向かって飛び降りようとした。


しかし、その動きをよんだ乙女レッドのパンチが進路をふさいだ。


フレアは反転し後方に飛ぶと、屋根の中央まで移動した。


拳を突きだした形の乙女レッドの全身が、いきなり燃え上がった。


「フン」


乙女レッドが気合いを入れると、炎が消えた。


そして、にやりと笑うと、乙女ケースを剣へと変えた。


炎に対して耐性のある乙女レッドは、ある意味…フレアに取って大敵だった。


「うおおおっ!」


雄叫びを上げると、乙女レッドは突きの体勢で突っ込んで来た。


「…」


冷静に対処しょうと、構えたフレアは、真後ろに殺気を感じた。


慌てて避けると、フレアがいた空間をビームが通り過ぎた。


「ウフフフ…」


含み笑いをもらしながら、乙女グリーンが屋上に現れた。


「!?」


グリーンの笑い声を聞いた瞬間、フレアは目を見開いた。


「うおおおっ!男なんてええ!」


怒りを増す度に、パワーが増加する乙女レッドは、屋根を凹ましながら再び、フレアに襲いかかる。


フレアの目が光ると、乙女レッドの全身が燃え上がるが、すぐに吸収された。


「フン。相変わらずの甘さね」


グリーンは鼻を鳴らすと、少し呆れながらも、口許を緩めた。


「でも…らしいわ」


「うおおおっ!」


剣を振り上げた乙女レッドの全身を火柱が包んだ。


その次の瞬間には、乙女レッドは消滅していた。


装着者を失った乙女ケースは、屋上を転がりながら、下へと落ちた。


その状況になっても、フレアは驚くことなく、乙女グリーンを見つめていた。


「…」


それから、ゆっくりとグリーンに頭を下げると、背面跳びのように後ろ向きで、地面に向けてジャンプした。


その様子を見つめながら、乙女グリーンは笑った。


「本当なら…貴女にもできるのにね」


乙女グリーンは、眼鏡を外した。


変身が解け…屋根の上に佇むのは…リンネであった。


「相変わらず、何もかも…あなたらしいわ」


リンネは苦笑した。






「どこか、安全な場所に!」


「それは、俺の台詞だ」


グラウンドに出たのが、まずかった。


俺と高坂は、乙女ソルジャー達に囲まれてしまった。


「おれ…じゃない。私は大丈夫です。あなたをどこか安全な場所に!」


俺は、高坂を庇おうとしたが…高坂は、俺を庇おうとしていた。


「女性に守られる程、落ちぶれてはいない」


高坂は周囲を見回し、


「部室なら、籠城できたが…」


乙女ダイヤモンドを見て、顔をしかめ苦笑した。


「再び体育館裏に戻れないな」


いつのまにか…乙女パープルも、グラウンド内にいた。


さらに、俺達が出てきた通路には、乙女ダイヤモンドが立ち塞がり、左右を乙女ブルー、乙女ピンクが武器を片手に立っていた。


そして、半月ソルジャーと手長男が校舎から出てきて、彼女達と合流した。


「お前が、太陽の器か!」


半月ソルジャーの言葉に、目的は自分であることを悟ったが、俺を庇う高坂が邪魔だった。


(ありがたいことなんだけど…)


今の自分で、守りながら戦う自信はなかった。


(どうする?)


俺は、周囲を確認した。


その時、空からフレアが落ちてきた。


「フレア!」


思わず名前を呼んでしまった。


フレアは着地すると同時に、後ろから半月ソルジャーを蹴り飛ばすとそのまま再び跳躍し、俺と高坂の前に立った。


「フレア!頼んだ!」


俺は高坂を庇いながらも、グラウンド中を見回していた。


戦いの中で、ただ1人…傍観者がいた。


遅れて校舎から出てきた女である。


悠然と腕を組み、にやけている姿に、俺は確信した。


この騒動を起こしているのは、あの女だと。


俺は高坂の手を離すと、顔をしかめて踞る半月ソルジャーの横を駆け抜けようとした。


「行かせないよお」


その動きを読んだ手長男が、両手両足で地面を蹴ると、俺の進路を塞ごうとした。


「モード・チェンジ!」


しかし、俺のスピードは一気に音速を越えた。


グラウンドの端から女の前まで、人の目にはまるで…ワープしたかのように見えただろう。


「お前は一体!」


一瞬で移動した俺は、腕を組む女の胸ぐらを掴もうとした。


しかし、突然横から現れた人物の蹴りに、音速で走る俺は突き飛ばされた。


(な)


一瞬、言葉が出なかった。


すぐに体勢を立て直したが、俺は絶句した。


女の前に、学生服を着た少年が立っていたからだ。


「邪魔はさせない」


その少年は、中島だった。



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