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神の声

「き、君は誰だい?」


歌声が、響く…戦火の町。


その町の真ん中に、佇む白い服を着た少女の後ろ姿に、僕は何も言えず息を飲んでいた。


「き、君は!?」


ゆっくりと振り向く横顔。その表情は、悲しみに溢れていた。


「赤星…」


少女は、僕を見つけ微笑んだ。


「レ、レダ!?」


僕はまったく、動けなかった。


そんな僕に体を向けると、満面の笑顔をつくった。


「赤星。手遅れになる前に…あたしを…」


レダの姿が変わった。


その姿を見ないようにする為に、僕は顔を背け、目を瞑った。











人間が繁栄することのできない極限の景色に囲まれながら1人、目を瞑る少年の名前は、赤星浩一。


そんな彼の後ろに、突然来訪者が訪れた。


「すまないね。こんなところに呼び出して…。あまり人目につきたくなかったからね」


来訪者は白い息を吐きながら苦笑すると、周りを見回し、


「だけど…行き過ぎかな?」


頭をかいた。


アルプス山脈の一番高い山頂に立つ2人。


周囲は、万年雪と…空に青空しかない。




「いえ…」


数秒後、ゆっくりと目を開けると、僕は目の前に広がる景色を見つめ、口を開いた。


「問題はありませんよ。ジャスティンさん」


そして、笑顔を作ると、振り返った。


その無垢な笑顔に、ジャスティンは少し驚いた後、微笑み返した。


「こんなところに呼び出して、簡単に来れるやつはいないからね。だけど…空気が旨い」


ジャスティンは深呼吸した後、山脈の奥に目をやった。


そこは、魔界の入り口であった。


「アルテミアは元気かい?僕の立場だと、あまり会うことができないからね」


防衛軍の総司令であるジャスティンが、魔界を統べるアルテミアと会うことはできない。


「元気ですよ。最近はあまり、会っていませんけど…」


そこまで言ってから、僕は思わず笑ってしまった。


「本人は、外に出たいようですけども…ギラにサラ…それに、カイオウが止めているようですよ。何でも、真の王になる為の教育が必要だとか」


「そうか」


ジャスティンは魔界にある城の方を見つめ、


「彼女にはいい経験になる」


さらに微笑んだ。


再び数秒の余韻の後、ジャスティンは僕の方を向くと、ここに呼び出した理由を話し出した。


「赤星くん。君なら、何か知ってるんじゃないかと思ってね。数日前、空から人が落ちてきた。それも、百人だ。たまたま、海に落下した為に、助かったものもいた。しかし、落下の恐怖と突然の環境の変化から、パニックになっている者が多くてね。まともに話を聞けていない。しかし、彼らの断片的な話から…この世界の人間でないことが確認された」


ジャスティンの話を、僕は黙って聞いていた。


「それに、彼らが空から落ちてきた時を調べてみると、空間に亀裂が入っていたことがわかった。すぐに、自然修復されているが…世界中の空を探ってみると、何度か穴が開いた事実が浮き彫りになった。そんなことを感知し調べることができるのは、空間把握能力者だけだ。百人が落ちてくるまで、気づかなかったよ」


「そうですか」


僕は空を見上げ、


「やはり…すべての空間を守ることはできていませんか」


呟くように言った。


僕の言葉に、ジャスティンははっとなった。


「ま、まさか…君が!?」


僕は悲しげにフッと笑うと、視線を握り締めた自らの拳に移し、


「ライに言われましたよ。お前は、自分の能力の使い方を知らないと…。僕は、強大な力を手にしました。それを戦いの中で、使い方を覚え…成長してきたつもりでしたけど…破壊する力は、経験できても、守る力が足りない」


さらに拳を握り締めた。


「赤星くん…」


「ジャスティンさん」


心配そうなジャスティンに、僕は敢えて強い視線を送ると、言葉を続けた。


「問題は、僕が生まれた世界で起こっています。しかし、ある人に言われたんです。僕があの世界に戻ると、バランスを崩すと…だから、行ってはいけないと。その為、別の者が行ってるんですけども」


僕の瞳から、ジャスティンはその力を垣間見ると、静かに頷いた。


「成る程…。君はもう神レベル。いや、神だ。そんな君が、不安定になっている世界に行くことを、その人は注意しているんだろうね」


「神と言っても、何もできません。いや…やり方を知りませんから…」


少し項垂れる僕に、ジャスティンは優しく話しかけた。


「君は君なりに、この世界を守ってきた。そして、今も…この世界だけではなく、生まれた世界も守ろうとしている」


ジャスティンは僕に近付くと、肩に手を置き、握り締めた。


「それで十分だよ。君には力がある。その力の使い方も、追々わかってくるだろう」


「ジャスティンさん」


「僕がここに来た時、君は最初気づかなかったね。まるで、意識を別の場所に集中させているような感じがしたが」


ジャスティンの洞察力の鋭さに、僕は目を見開いた。


そして、驚きながらも説明した。


「ライに学んだんですよ。彼のやり方から」


僕は再び、周囲に目をやると、


「あらゆる世界の動きを見ることが、できます。だけど、それは…雲の上から下界を見るようなもので、一つ一つを詳しくは見れません。だから、一人一人に焦点を当てなければいけない。僕の生まれた世界も、空間を隔てても見ることができました。しかし、詳しくはわからない。あの世界で…誰が何を考えているのかまではわかりませんから、知り合いから数珠繋がりで、周囲を探ってました」


「その結果は?」


「まだわかりません。だけど…手掛かりは掴みました。あとは、彼らに近付くだけです」


「どうやって?」


「それこそ…ライから、学んだことが役に立つのですよ」


僕はジャスティンに、すべてを話した。


ジャスティンは少し驚いたようだが…あまり動揺はしなかった。


それよりも、ライがしたことに驚いていた。


「成る程な。これで、天空の騎士団に、団長が3人いた理由がわかったよ」


ジャスティンは嬉しそうに、頷いた後、改めて真剣な表情になると、僕の肩から手を離してから、目を見つめた。


「しかし、君は凄いな。君のこれまでしてくれたことに、この世界の代表として、礼を言うよ。ありがとう」


ジャスティンは、深々と頭を下げた。


「そ、そんなこと!やめて下さい」


と言ったけど、ジャスティンはしばらくは頭を上げなかった。


僕はただただ…照れてしまった。



「それにしても…君は…」


ジャスティンは頭を上げると、僕を見つめた。


「魔神の中には、君こそが、王に相応しいとの声もあるようだし…。実際、ライを倒したのは君だからね」


「実際的には、僕は彼を倒していません。彼は自ら、命をたったようなものです」


僕は、ジャスティンに背を向けた。


「赤星くん」


そんな僕の背中を、ジャスティンは見つめ、


「君は…」


何かを言おうとしたが、僕は自分の言葉で遮った。


「僕は…人の為に生きます。弱き人の為に」


僕は振り返り、


「勿論、人は決して弱くなんてないですよ。無限の可能性があり、強くなれる。だけど、1人では強くなれない。親、仲間、友達、師匠…さらに敵達と交わることで、成長し、強くなります」


「赤星くん」


「僕は、そんな人間の道しるべでありたい。この世界でも、あの世界でも」


そう言って、笑顔になる僕に…ジャスティンはまた、頭を下げた。


「ありがとう」


「いえ…」


僕は自嘲気味に笑った。


(レダ…君はどこにいる?)


神の力を持つという僕も、レダを見つけることができなかった。









「ふぅ〜。やっぱりいるよな。みんな」


ため息をつくと,綾瀬太陽は額に流れた汗を拳で拭った。


「!」


そして、開八神茉莉の体である手の甲についた汗を見つめた。


(女の人と体を交換するのは、慣れてるとはいえ…。相手の体をそのまま使えるのは、初めてだし…)


そして、俺は目を細め、指を動かしてみた。


(それに…この体。ここ数日使ってみて、確認できた。潜在能力は、たいしたものだ。いざとなったら、使える!だけど…しかし…)


「お嬢様。どちらにいかれてました?トイレにしては、長過ぎると、純一郎が騒いでおりましたが」


いつのまにか、俺の後ろに、猫沢がいた。


さらに、目をやらないが…数百メートル先にも、監視の目を感じた。


(完全に巻いたはずだが…。やはり、この距離では数分が限度か)


俺は心の中で、舌打ちした。


そんな俺をじっと見つめた後、猫沢は言葉を続けた。


「やつらが、この学園に潜入している。お前は、デコイとはいえ、この体自体をやつらに渡す訳にはいかない。この体は、太陽の器だからな。まあ〜偶然、お前と同じ名前だがな」


(太陽の器?)


俺は心の中で、眉を寄せた。


「お嬢様!」


遠くの方から、純一郎が泣きながら駆け寄って来るのが見えた。


「私もあまり、お前に構うことができない。勝手な行動はするなよ」


と言うと、猫沢は消えた。



「はぁ〜」


俺はため息をつくと、前から走ってくる純一郎に目をやった。


「だけど…大人しくはできないね」


俺は仕方なく、歩き出した。


(この世界を、崩壊させる訳にはいかないからね)









「だけど…向こうの世界には、別の人間が行ってるんだろう?彼らと力を合わせたら、いいんじゃないのかい」


頭を上げたジャスティンの言葉に、罰が悪そうに僕は鼻の頭をかくと、


「いやあ〜。彼女達を送り込んだ人には、僕はこの世界を守れと言われてますし…。それに…あのお…」


「うん?」


口ごもる僕に、ジャスティンは首を傾げた。


「助けに向かった人達に問題が…。1人ならまだしも…2人…。ア、アルテミアが知ったら…あははは」


突然、笑い出した僕を、ジャスティンは訝しげに見た。


仕方あるまい。


どんなに、力があっても…アルテミアが怖い。


この世で、一番。


それが、僕の弱味であるけど…すべての行動の根っこでもあった。


アルテミアがいるから…。


僕は何でもできるのだ。


そう…これからも。


(戦う。それが、レダ!君が相手だとしても)


僕はジャスティンに気づかれないように気を抑えながら、両拳を握り締めた。

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