もう一つの太陽
「この世界の崩壊の序章にしては…下らないな」
少し離れた高層ビルの屋上で、校舎の騒動を眺めている無数の影。
「まあ〜本当に、世界が崩壊するなら、何でもいいがな」
屈強な肉体を隠す為に、ぶかぶかの黒のスーツを着た白人の男はシュガレットケースを取り出すと、煙草を喰わえた。
すると、隣に来た別の男が煙草に火を付けた。
指先に点った火で。
「サンキュー」
白人の男は礼を口にすると、煙草を吹かし、
「しかし…死んでもなお、煙草を楽しめるとは思っていなかったな」
フッと笑った。
「そうですね」
指先に点った火を消すと、男はクスッと笑った。
「フゥ〜」
白人の男は、煙草の煙を吐き出した。
そして、大月学園で起こっている騒動を見つめながら、言葉を吐き出した。
「死んだから、わかったことがある。人間の欲望は、死んでも消えることはない。神に罪があるとすれば…人間に欲望を与えたこと。動物のようにただ飯を食い、子供をつくるだけだったら…世界は、ここまで汚れなかっただろうよ」
それまで言ってから、男は煙草を吸い込むと、
「まあ〜本当は、そんな理由はどうでもいい。俺は、世界が…人間が壊れるところが見たいんだ。単にな。だってさ…。一番、滑稽だろ?」
隣の男ににやりと笑った。
その言葉と白人の男の笑みに、男は苦笑し、
「悪趣味ですね。だけど…人間らしい」
大月学園の校庭で叫ぶ半月仮面に目を細めた。
「とてもね」
「フッ」
白人の男も苦笑した。
「今週の注目の歌手のレダさんです」
どこからか、ラジオの声が聞こえてきた。
他愛ない会話の後、レダの歌が始まった。
「…」
その歌声に、宅配便の仕事をしていた浅田仁志は思わず手を止めた。
「どうした?」
上司と思われる配達員が、注意した。
「忙しいんだから、さっさとしろよ」
「はい」
浅田ははっとして、すぐに返事すると、目の前にあった荷物の山を1人で軽々と持ち上げた。
「とにかく、あたしも行くね」
理香子は中島に頷くと、廊下の窓から飛び降りた。
「気を付けて!」
夏希のように変身することなく、着地した理香子は地面を蹴り、一気に走り出した。
(タイツの男から妖しい匂いがする!)
理香子は唇を噛み締めた。
(この匂いは!)
数秒で、半月ソルジャーの前に到達するはずだったが、黒い影が道を塞いだ。
(!?)
足を止めた理香子は、後方にジャンプすると、身構えた。
「御姉様!?」
理香子の口から思わず出た言葉に、黒い影は笑った。
「光栄だな。闇の女神と間違ってくれるなんて」
黒いコートを身に纏い、赤いマフラーを首にかけ、丸い眼鏡の奥の眼光が淀んでいた。
「男!?」
理香子は、細身の男から異様に強い妖気を感じていた。
きりっと男を睨むと、
「お前は、何者だ」
問いただした。
男の妖気は、世界に漂う不穏な空気に似ていた。
「ただの人ですよ」
男は、理香子の質問に笑いながら、こたえた。
「あり得るか!人間が妖気を漂わすなど」
「あり得るのですよ!但し、人間個人がではないですけどね」
即座に言葉に被せて来た男から、理香子は違和感を見切った。
(妖気が、絡みついている!?)
男から漂う妖気は、自身から発しているものではなかった。
驚く理香子の表情に気付き、男は眼鏡を人差し指で上げると、言葉を続けた。
「この世界を創った月の女神よ。貴女には感謝しますよ。幾多の世界の中で、人間が支配する世界は、ここだけです!しかし…」
男は突然、悲しげな顔をし、言葉を続けた。
「人間は、人間の中で、支配する側と支配される側をつくってしまった。僅かな支配者の糧になり、多くの人間は下らない人生を送らされている」
「何が言いたい?」
理香子は、眉をしかめた。
「大したことではありませんよ。ただ…それを自由と呼ぶ者もいますが、違う!誰も搾取される側には、立ちたくはない。なのに、支配者は自らを勝利者と語り、誰でも自分になれると嘘を語る!そんな可能性なんてなかったのにだ!」
少し興奮…いや、悔しさに震えるような怒りを表す男に、理香子は何も言えなくなった。
「月の女神よ。あなたは、この世界の母。母はすべての子供に、平等でなければいけない」
男は突然、頭を下げ、
「今から始まることは、子供達が紡ぐ物語。どう転んでも手出しせぬように…。子供の喧嘩に手出しせぬように…宜しくお願い致します」
さらに、頭を下げる男に、理香子は絶句していた。
それ故に、男の先で起こっていた出来事にすぐには気付かなかった。
「な!」
「チッ!」
音速の戦いを繰り広げていた乙女ブラックとイハンダーの間に、乙女レインボーが飛び込んできた。
「邪魔だ」
乙女レインボーは音速で動く2人を、同時にパンチでふっ飛ばした。
「な、何!?虹色の乙女ソルジャーだと!」
驚愕する乙女ブラックとは違い、イハンダーは乙女レインボーに襲いかかった。
「邪魔は、貴様の方だ!」
片手で日本刀を振り上げると、乙女レインボーの脳天を狙う。
さらに、もう片方にもいつのまにか日本刀を握っていた。
上段は誘いで、横凪の斬撃が本命だった。
(決まった!)
内心ほくそ笑んだイハンダーは、次の瞬間…絶句した。
(な!)
斬り裂いたのに、感触がないのだ。
「残像!」
気付いた時には、乙女レインボーは後ろにいた。
「フン!」
乙女レインボーのバック&ブローが、イハンダーの後頭部を狙う。
「は!」
そんな乙女レインボーの動きをよんでいたかのように、さらに後方から、乙女ブラックが襲いかかる。
「なめるな!」
イハンダーは身を捩り、腕を鞭のようにしならせた。
後ろにいる乙女レインボーの攻撃を受けても、刀で斬り裂くはずだった。
しかし、2人の攻撃は…乙女レインボーにあたることはなかった。
乙女ブラックのパンチは、イハンダーの横っ面に突き刺さり…イハンダーの刀は、乙女ブラックの脇腹に刺さっていた。
「ば、馬鹿な…」
「あり得ない」
重なるように倒れた2人を背にして、乙女レインボーは悠然とグランドに向けて歩き出していた。
(何が起こっている?)
リムジンの中で、異様な気を感じ、俺は学園の方に顔を向けた。
(この体では、うまく気を探れない)
苛立つ俺をちらりと見ると、真田がスーツの内ポケットから懐中時計を取り出し、
「何をしている」
ぎゅと握り締めた。
遠ざかっていく乙女ブルーの背中を見つめながら、
「しゃ〜ないか」
里奈は頭をかくと、窓に背を向けて、まだ戦闘員達でごった返している廊下を歩きだそうとした。
「うん?」
すぐに、違和感に気付いた。
「誰もいない」
逃げ惑う生徒と戦闘員のいざこざで、騒がしいはずの廊下に人がいないのだ。
ここしばらくの戦いの日々が、無意識に里奈の手に乙女ケースを握らせていた。
「だ、誰?」
誰もいない廊下に、誰かがいた。
最初は陽炎のように、揺らめきながら…すぐに姿を表した。
「お、乙女…レッド!?」
目の前に立つのは、紛れもなく…乙女レッドであった。
乙女レッドは、にやりと笑った。
「あ、あたし…じゃない!」
里奈は、乙女ケースを突きだした。
「装着!」
赤い光が、里奈を包む。
「…×××××」
その姿を見て、目の前に立つ乙女レッドの唇が震え、何かを口にしたが…里奈には聞こえなかった。
「兵装!」
乙女ケースの形が、剣に変わった。
「うりゃああ!」
乙女レッドに向かってジャンプすると、一気に剣を振り下ろした。
次の瞬間、
「うぎぃ!」
奇声を発して倒れたのは、戦闘員の1人だった。
「え?」
驚く里奈は、剣を振り下ろした体勢で固まってしまう。
「乙女レッドだ!」
周りの生徒達の声で、我に返ったが…まだ、頭の整理がつかない。
「キイイ!」
仲間を倒された戦闘員達が、里奈を囲んだ。
「え?え?え?え〜っ!?」
混乱しながら、戦いは始まった。
「あくまでも、中立でお願いします」
男の言葉に、何も言えなくなった理香子。
男は頭を下げ、口元に笑みを浮かべた。
「よしなに…」
「騙されるな!月の女神よ」
突然、頭上から声がした為に、理香子は上を見た。
「チッ」
男は舌打ちすると、後方にジャンプした。
男がいた場所に突き刺さるドラゴンキラー。
「!?」
男は、理香子の前に着地した女を睨んだ。
腰まであるエメラルドグリーンの髪を靡かせて、女は男に襲いかかる。
「くそ!」
ドラゴンキラーの突きが届く前に、男の体は闇に包まれて消えた。
「チッ!」
虚しく空を斬るドラゴンキラー。
「あなたは?」
「…」
無言で振り返った女の向こうで繰り広げられている戦いを、理香子の目がとらえた。
「!?」
ドラゴンキラーをつけた女よりも、理香子の意識はグラウンドにいる者の姿に絶句した。
「あたしの…知らない乙女ソルジャー」
半月ソルジャーの前にいるのは、乙女レインボーであった。
「月の女神よ」
目を見張っている理香子に、女は話しかけてきた。
「この世界が崩壊しだしている。我々は、この世界を救いに来た」
「え?」
理香子の視線上に、体を移動させた女は、まっすぐに目を見据えた。
理香子の意識が、乙女レインボーから女に戻った。
「世界が崩壊する?」
「はい」
女は頷き、
「あたしの名は、サーシャ・ハイツ。砂の世界から、この世界を守る為に来ました」
ゆっくりと歩き出した。
「赤星浩一が我々の世界を守ってくれたように…あたしは、彼の生まれた世界を守ってあげたい」
「あなたは…」
理香子は、サーシャが歩く度に足下に砂が落ちていることに気付いた。
「あたしの故郷は、ブルーワールド」
サーシャは、理香子の前に跪いた。
「この世界の崩壊を救う為に、力を貸して頂きたい」
真摯なサーシャの言葉に、理香子は膝を落とすと、
「誰が、この世界を崩壊させようとしている?」
サーシャに訊いた。
「それは…わかりません。しかし、この世界をつくったあなたならば…」
「今のあたしに、世界をつくる力はないわ」
理香子は、首を横に振った。
「だが、この世界は成立している。あなた自身にはなくても、あなたに関係した何かが…この世界を安定させているはずです」
「それは…」
理香子は考えだしたが、思い浮かばなかった。
しかし、数秒後、
「テラ…」
女神テラのことを思いだした。
しかし、テラはいない。
だからこそ、月の女神である自分が、力不足であるが、その世界の支柱になり、安定させているはずだった。
「女神テラ?」
サーシャも考え始めたが、フッと笑った。
「可能性の一つですが…今は、一番気になることを解決しましょう」
サーシャは立ち上がると、後方に向けてジャンプした。
「月の女神が知らない!月の戦士!」
そして、身をよじると、乙女レインボーに襲いかかった。
「その正体を探りましょう!」
空中から飛びかかるサーシャに、気付いた乙女レインボーは、蹴りを頭上に放った。
「は!」
サーシャの飛び蹴りと、乙女レインボーの蹴りが交差した。
「な、何だ!?」
乙女レインボーと対峙していた半月ソルジャーは、目を丸くした。
「貴様は、何者だ?」
互いの蹴りは、相殺された。地面に着地したサーシャと乙女レインボーの戦いが、始まった。
「い、今の内に!」
逃げようとした半月ソルジャーの目の前で、いきなり炎が燃え上がると、人の形になり、立ち塞がった。
「な、何奴!」
思わず足を止めた半月ソルジャーは、顔を真っ赤にさせた。
なぜならば、目の前に現れた炎は、女になったからだ。それも、全裸の。
「フレア!気をつけろ!そいつからも変な感覚を受ける」
乙女レインボーと戦いながら、サーシャは叫んだ。
「…」
フレアと言われた女は、無言で頷いた。
そして、ゆっくりと近付こうとした。
「待て!」
しかし、それを半月ソルジャーは手のひらを突きだして止めた。
「私に近付くな」
と言いながら、いきなり下のタイツを脱いだ。
「あ、あれは!?」
理香子は、驚きの声を上げた。
下を下ろした半月ソルジャーの腰に巻かれているものは…。
「オウパーツ!」
そう…。
紛れもなく、オウパーツの一部だった。
その頃、校舎内では、里奈が暴れていた。
「乙女ダイナミック斬り!」
「うきいい!」
乙女レッドのやけくその猛攻により、殆どの戦闘員を倒すことができた。
「乙女キック!」
なぜか乙女レッドだけ異様に短いスカートは、攻撃の度にパンツを見せることになる。
恥じらえば恥じらう程に、パワーを増す乙女レッドの特質を出す為の理由らしいが…。
それ故に、痴女とも陰口を叩かれているのだ。
「もういないの!」
戦闘員を踏みつけながら、乙女レッドは周りを睨んだ。
今の彼女は、パンツが見えることなんて気にしていない。
「ああ〜だりぃ〜」
そんな乙女レッドと対象的に、欠伸をしながら携帯片手に廊下を歩いてくるのは、花町蒔絵だった。
興奮気味の乙女レッドの横を通り過ぎた。
「は!」
「小娘が!」
中央館と西館を繋ぐ渡り廊下で戦っていた乙女パープルと半田は、次の攻撃に移る途中で動きを止めた。
「闇の波動!?いや…消えた」
グランドの方を向く半田。
「新しい波動も感じる。何だ?この不快な波動は?」
乙女パープルも、変化に気づいていた。
「どうやら…」
「戦っている暇はないようね」
2人は互いに見つめ合った後、散開した。
「!?」
「!?」
魔神ヘビイチゴの前で、互いの顔を見て、首を傾げる高坂と香坂。
「部長!」
そんな2人に、ヘビイチゴの攻撃が迫る。
「うん?」
「うん?」
緑の声に、同時に顔を向ける高坂と香坂。
その背後から、触手である蛇が口を広げて襲いかかってくる。
「高坂部長!」
「うん?」
「うん?」
2人は、緑に首を傾げた。
2人ともこうさかである。
「や、やってられるか!」
緑は走り出すと、2人の横を通り過ぎ、木刀で蛇の頭を斬り裂いた。
「輝!」
「わかってますよ」
いつのまにか、ヘビイチゴの後ろに回った輝は、
「がるがる!」
爪を突き刺した。
「!」
そんな後輩達の猛攻に気付いた高坂は、慌てて乙女ケースを突きだした。
「装着!」
「何!?」
隣にいた香坂が驚く中、目映い光が高坂を包んだ。
「高坂ダイヤモンド!見参!」
ダイヤモンドの乙女スーツに包まれた高坂が、走り出す。
「高坂ダイヤモンドアタック」
光の塊になった高坂のぶつかりが、ヘビイチゴに炸裂した。
「!?」
ヘビイチゴの巨体に穴を開けて、通り過ぎた高坂。
次の瞬間、ヘビイチゴは爆発した。
「フッ」
高坂は笑うと、眼鏡を外した。
「高坂部長!」
緑と輝が、変身を解いた高坂に駆け寄った。
「そ、そうか…」
その様子を見ていた香坂は、小刻みに体を震わせた。
「やつらがあの…」
そして、無理矢理笑みを浮かべると、3人を指差し、叫んだ。
「お前達が、乙女戦隊月影か!乙女だと名乗っていながら、男とはな…。まったく盲点だったわ」
香坂は腕を組みながら、3人に近付き、
「学園でいつも騒動を起こすお前達を!あたしは、許しはしない!おとなしく、捕まりなさい」
びしっと高坂達を指差した。
「はっ!」
「フン!」
自分の攻撃をすべて防ぐサーシャに、乙女レインボーは軽く驚愕していた。
しかし、それは…サーシャも同じだった。
(ドラゴンキラーだけでは、傷付けられないか…)
エルフの血を引くサーシャは、微量ではあるが、魔力を発動させることができた。
(しかし…)
それを躊躇わせる何かが、乙女レインボーにはあった。
サーシャは改めて、距離を取ると、ドラゴンキラーの切っ先を乙女レインボーに向けて構え直した。
(だとしたら…この技しかない)
距離を取ったのは、サーシャの誘いだった。
その誘いに、乙女レインボーは乗ることにした。
腰をかがめて、蹴りの体勢に入る乙女レインボー。
「月影キック」
助走をつけてジャンプすると、サーシャに向かって足を突きだす。
サーシャは、刃を縦にした。
(いくぞ)
乙女レインボーの足を刀身に見立てて、刃を滑らす。
「!?」
驚く乙女レインボーと、一歩前に出たサーシャの体が交差する。
そして、地面に着地した乙女レインボーは絶句した。眼鏡の左側のレンズにヒビが入っていたからだ。
「チッ」
乙女レインボーは舌打ちすると、後方にジャンプし、そのまま…姿を消した。
「…フレア!」
戦いの余韻に浸る暇もなく、サーシャは振り返った。
「く、来るな!」
半月ソルジャーの腰につけているオウパーツから、振動波が放たれていた。
すべての攻撃を跳ね返す…王の鎧の一部である王パーツには、普通の生物は近付くことすらできない。振動波によって、分子レベルで分解されるのだ。
しかし、そのオウパーツをつけた半月ソルジャーに、フレアは悠然と近付いていた。
振動波で塵になろうと、再び不死鳥のように元に戻るのだ。
「うわぁああ!」
そして、ついに半月ソルジャーの禿げかけた頭の天辺に、微笑みを浮かべたフレアの手が伸びた。
一瞬で、丸焦げになる半月ソルジャー。
「あいつ〜!目立ち過ぎだ!」
サーシャは、フレアの隣までダッシュした。
「能力は、できるかぎり使うなと…!?」
フレアが手を離すと、半月ソルジャーはその場で崩れ落ちた。
しかし、その半月ソルジャーの腰にオウパーツがない。
そのことに気付いたサーシャは、周囲を見回したが、怪しいやつはいない。
「…」
フレアは無言で、半月ソルジャーを燃やした手のひらを見つめていた。
「誰が?」
サーシャは、ドラゴンキラーを構えた。
「今は…誰もいないわよ」
サーシャとフレアの後ろまで来た理香子が、言った。
「!」
サーシャは、理香子の顔を見た。
「おそらく、空間能力を使える相手がいる。時間を止めるとかね」
理香子の言葉に、サーシャは目を見開いた。
「やはり…」
理香子はため息をつくと、
「この世界に、何かが起こっているようね」
丸焦げになっている半月ソルジャーを見下ろし、
「まずは…この男から、オウパーツをどうやって、手に入れたのかを聞き出しましょう」
目を細めた。
「く!」
顔をしかめながら、校門前に着地した乙女レインボーは、割れた眼鏡を外した。
「珍しいな」
黒のリムジンから降りた真田は、指先で眼鏡を押さえながら、スーツ姿に戻った猫沢のそばに来た。
「君が負けるなんて…九鬼美琴くん」
そして、にやりと笑った。
「お言葉ですが…。私は、九鬼美琴ではありません。猫沢巫女です」
眼光鋭く自分を見つめる猫沢に、真田はフッと笑い、
「まあ〜騒ぎはおさまったようだしな」
猫沢から視線を校内に向けた。
「では…参りましょうか」
リムジンから運転手が降りると、後部座席のドアを開いた。
「お嬢様」
真田の眼鏡が妖しく、光った。
「うっ!」
嫌な顔をしながらも、リムジンから仕方なく俺は下りた。
すると、猫沢が俺の後ろに素早く移動した。
「素敵な学園生活が、貴女をお待ちしておりますよ」
嫌味とも取れる言葉を発すると、真田は俺に頭を下げた。
「く、くそ!俺に拒否権はないのか」
俺の背中に、冷たいものが当たった。
そのまま誘導されるように、校内へと向う。
猫沢に促されて歩き出した俺の後ろ姿に頭を下げた後、真田はフッと笑い、
「お気をつけて…お嬢様。いや…」
ゆっくりと背を向けてリムジンに向けて歩き出しながら、呟くように言葉を続けた。
「太陽のバンパイアよ」