第42話 それぞれの道が開く時
暗闇の中から現れたクラークの前に、待ち伏せていたかのように、ジャスティンが立っていた。
「ただいま」
予想していたのか、クラークは驚くことはなく、ジャスティンに微笑みかけた。
ジャスティンは対照的に、冷ややかな視線を送りながら、口を開いた。
「何をしに行った?」
ジャスティンの質問に、もうとぼける必要はない。
クラークは、五枚のブラックカードを、ジャスティンに見せた。
「殺したのか?」
「ああ」
クラークは、ジャスティンの目を真っすぐに見た。
予想してたことだが、ジャスティンは、言葉を続けることができなかった。
顔を伏せるジャスティンに、クラークは何かを投げつけた。
「な」
驚き、慌てて取ろうとしたジャスティンの手の上で、それは五つに分離した。そして、ジャスティンの体を追い越すと、格納庫の奥へと、消えていった。
「あれは、まさか…」
振り返り、五つの物体を見送ったジャスティンに向かって、クラークは言った。
「そう…あれは、安定者の心臓だ!」
呆然とするジャスティン。
「どうして…」
「ここ数年、まともな心臓が、手に入らなかったはずだ。これでは、カードシステムの運営が成り立たない」
振り返ったまま動かないジャスティンに近づき、クラークはにやけながら耳元で囁いた。
「安定者の心臓なら、数十年は保つだろう」
「どうして…」
ジャスティンの全身が、小刻みに震えていた。
「俺だって、カードシステムを守りたいと思っている」
クラークの言葉に、ジャスティンは振り返り、ブラックカードを取り出した。カードをぎゅっと握り締めた後、攻撃体勢をとり、叫んだ。
「だったら、なぜ!俺を殺さない!」
あまりの形相に、クラークは肩をすくめてから、ジャスティンを見つめ、こたえた。
「殺す必要がないからだ」
「何?」
ジャスティンの手に、剣が召喚され、突き出した瞬間…クラークは笑った。
「もうすぐ、アルテミアが来る」
その言葉に、ジャスティンは剣を止めた。あと数センチでクラークの額に、突き刺さっていた。
クラークは、ジャスティンの目から視線を外さない。
「どういうことだ!」
ジャスティンは、口調を荒げた。
クラークは、不敵に笑う。
「答えろ!」
「…アルテミアに、ティアナのことを話した。心臓が、ここにあることを」
クラークの言葉を聞いて、ジャスティンは絶句した。
クラークは、手の甲で剣を額から、外した。
「それが、理由だ」
ジャスティンは、目を見開き、体が動けなくなる。
クラークは、ゆっくりとジャスティンに向けて、歩き出した。横に並ぶと、肩に手を置いた。
「アルテミアは必ず、ここを破壊する。例え、カードシステムが崩壊しょうと…」
「そんなことをすれば、人々の生活が、破壊されるぞ」
「知るかよ…」
クラークはそう呟くと、歩き出した。両手をポケットに突っ込んで。
「待て!」
ジャスティンは、振り返った。
「そんなことになったら…お前がやろうとしていることにも、支障をきたすだろうが!」
ジャスティンの叫びにも、クラークは足を止めなかった。振り返りもせずに、
「だから、お前がいるんだよ。お前の命がね」
クラークは、手だけを上げた。
「ここを破壊してまで助かりたいと、先輩は思わない!」
「だが、アルテミアは違う。あいつはまだ…小娘だ」
クラークは格納庫から出て、暗く長い廊下を歩いていく。
「クッ」
廊下の途中で、クラークはいきなり、肩を押さえて蹲った。
「やはり…負担がかかったか」
クラークは来ていたシャツのボタンを外し、肩口まで捲った。黒い鱗が、肩から胸までを覆っていた。
「もう…もとに戻らなくなってきた…」
クラークは、フッと笑うと、シャツを戻した。
(あと…何回保つか)
ボタンを閉めた手の平に、目が行った。そこにも、少し鱗が残っていた。
「モード・チェンジを控えるしかあるまい」
手の平を握り締めると、クラークはまた歩き出した。
すると、自然に笑みがこぼれた。
「先輩…。俺が死んだら…」
クラークは、歩く速度を少し上げた。
突き当たりのティアナの部屋が、見えてきた。
「新しい化け物の情報を、登録すればいい」
クラークは、その隣の異空間に作っている…部屋なき部屋のドアを開けた。
「やあ、明菜くん!待たせたね。君に、新しい時代が開ける瞬間をお見せしましょう」
部屋の中央の床に描かれた魔法陣のさらに、中央にいる明菜に、笑いかけた。
ぐったりとしていた明菜は、クラークの声を聞くと、顔を上げ、激しく睨んだ。
そんな明菜を気にせず、クラークは五枚のブラックカードを取り出した。
「始めよう」
「何をしょうというの?」
明菜は、もう震えることはなかった。クラークを睨み続けた。
カードを取り出したクラークは、その変化に気付いた。
(こうちゃんが、助けてくれる)
なぜかわからないが、明菜には、赤星の存在を感じることができた。
「ほぉ…」
クラークは、発動させようとしたブラックカードを下げると、明菜に笑いかけた。
「彼の…赤星の気を感じたのか?」
明菜は、クラークの言葉に目を見開いた。
クラークは苦笑し、
「魔力のない君の心は、オープン過ぎる…にしても…君には素質があるのかもしれない。魔術士としての」
少しだけ感心すると、
(案外…使えるかもしれんな)
心の中で、ほくそ笑んだ。
「今はいい…。始めよう」
クラークが、ブラックカードを掲げた瞬間、凄まじい揺れが襲った。
「何?」
予期せぬ出来事に、クラークはバランスを崩した。
「馬鹿な…。ここは異空間…揺れるはずがない!」
クラークが驚き戸惑っている時、ジャスティンは覚悟を決めていた。
揺れは何度も続き、格納庫全体が、軋んでいた。
ブラックカードを握り締めると、ジャスティンは格納庫内から、テレポートした。
格納庫は、何もない砂漠地帯にぽつんと建っており、メインの格納スペースは地下にあるが、地上には百メートル程の塔が突き出していた。
それは、カードシステムにより呼ばれたものを召喚するだけでなく、自然のパワーや太陽エネルギーを集める役目を果たしており、普段は砂嵐に隠され、表面はステルス加工されており、人の目につくことはない。
レンガ造りのように見える塔は、結界が張り巡らされており、現在入れるのは、ジャスティンとクラークしかいない。
その結界に、攻撃を仕掛けている者がいた。
アルテミアだ。
「くそ!」
アルテミアは、六枚の翼を広げながら、塔の周りを旋回する。
入口を探したが、入口どころか窓さえない。
「だったら…つくればいいんだよ!」
両手をかざし、アルテミアは雷撃を放つ。
高さ百メートル、直径も百メートル程ある塔に、血管の如く雷が走るが、揺れるだけで、傷一つ付かない。
「チッ」
アルテミアは舌打ちすると、チェンジ・ザ・ハートを掴んだ。
2つに分け、胸元でクロスさせると…ライトニングソードを握り締めた。
「ぶった切ってやる!」
アルテミアは横凪ぎに、塔を斬ろうとした。
その瞬間、地下から巨大な回転物が飛んできて、ライトニングソードにぶつかった。
ライトニングソードは跳ね上がり、塔を斬ることはできなかった。
「な」
アルテミアは目を見開き、回転しながら、下へ戻っていく回転物を凝視した。
「ブーメラン!?」
アルテミアは体を反転させると、ブーメランを追った。
アルテミアの視界に迫る地面に、戻ってきたブーメランを手に取った男が映った。
「安定者か!」
男の手に握られたブラックカードを、アルテミアは見逃さなかった。
アルテミアはまた反転し、男の前に着地した。
その着地する瞬間に、ジャスティンは召喚し、剣を真っ直ぐ突き出した。
アルテミアの喉元に、突き刺さる寸前で、剣は止められていた。
ライトニングソードと同じで、十字架に似た剣だが、ライトニングソードより細く、針のようだった。
アルテミアの動きが一瞬、止まる。このまま突かれるのか、どうなるのか…はかりかねたからだ。
アルテミアの額から冷や汗が流れ、後ろにジャンプするのと、男が剣を下げるのは、同時だった。
「ライトニングソードか…」
アルテミアの手に握られたライトニングソードを、男は懐かしそうに見つめた。
アルテミアは汗を拭うこともせず、ライトニングソードを構え、体勢を整えた。
ライトニングソードを握りしめ、
「お前は、安定者か!」
男を睨んだ。
「だとしたら…どうする?」
男は剣を下げたまま、アルテミアの顔を見た。
(こんなに大きくなって…目もとは、先輩に似てるか…)
アルテミアは、ライトニングの切っ先を水平にし、男に向けた。
「お前も、お母様の仇だ」
アルテミアは、突きの体勢のまま、男に突進する。
「俺が、先輩の仇……?」
男はフッと笑うと、目をつぶった。
「冗談ではない!」
かっと目を見開くと、男は剣を持ってない左手の指を、パチンと鳴らした。
すると、突進するアルテミアと男の間の地面から、ブーメランが飛び出してきた。
思わず仰け反ったアルテミアの勢いは、なくなった。
「注意力が散漫過ぎる…。俺の手に、ブーメランがないことになぜ、気付かない」
アルテミアは悔しさから、歯を食い縛りながら、ブーメランの軌道を確認した。
ブーメランは、空高く舞い上がると、そのまま弧を描きながら、アルテミアをまた襲う軌道に入った。
アルテミアは、上に向かって、ライトニングソードを掲げた。
斬り落とすつもりだった。
しかし...
ブーメランはいきなり、分離しーーそれも、十個くらいに―ーそれぞれ別の軌道を描きながら、襲い掛かってくる。
「何だと!」
驚き、ブーメランに気を取られたアルテミアの腹に、男の蹴りが叩き込まれた。
ふっ飛ぶアルテミア。
ブーメランは、アルテミアを襲うことなく、男の左手に納まった。
「言ったはずだ。注意力が散漫だと」
男は冷静だった。
「馬鹿な…」
アルテミアは困惑していた。
明らかに、レベルはアルテミアの方が上だ。本当なら、楽勝の相手なのに…アルテミアは、翻弄されていた。
「こんな戦い方…。本当に、先輩の娘なのか」
剣を構え、歩き出した男の手には、またブーメランがなかった。
「お前に教えてやろう。レベルの差が、決定的な力の差でないことを」
ゆっくりと近づいてくる男に、アルテミアは畏怖に似たものを感じ始めていた。
「当たり前だ。あいつは、ティアナとともに、魔王の居城内まで攻め入った程の男。並の戦士ではない。安定者最強といわれているんだからな」
格納庫内部の部屋で、クラークは呟いた。
自らの眼球の表面をスクリーンにし、式神衛星の映像をトレースしていた。
「それに、アルテミアの戦い方の基本は、ティアナに教えられたもの。そのティアナの直属の部下にして、弟子であるジャスティンに、体術で勝てる訳がない。しかし―――」
クラークは、にやりと笑った。
「だから、勝てないこともわかっている」
クラークの笑いを、明菜は不気味そうに見ていた。
そんな明菜の視線を無視して、
「勝つ気ならば、最近の一撃で、倒せたはずだ…。あいつは甘い」
クラークは、言葉を続けた。
「人は、人の犠牲の上に成り立っているのに」
ジャスティンは、深呼吸をした。
目の前にいる…まだ大人になっていない少女の危うさと、誰よりも強い力のギャップに…ジャスティンは、心の底で悲しくなっていた。しかし、表情に出す訳にはいかなかった。
ただ自分を睨む少女に、ジャスティンは話し掛けた。
「この世界で…人が、魔と戦えるのは、君の母上のお陰だ。それなのに、君はこの世界を混乱させるつもりかい?」
ジャスティンの優しい口調に、少女は更に、怒りを露にした。
「何言ってやがる!お前らが、お母様を殺して、こんな糞システムをつくったんだろうが!」
少女の怒りは、もっともだ。
しかし……。
「過程がどうであれ…今の結果は、ティアナ先輩が望んだことになっている。人は、戦う術を身につけた」
「ティアナ先輩?…」
アルテミアは、眉をひそめながら呟き、
「お母様を犠牲にして…何の力だ」
アルテミアは、ライトニングソードを振るった。
ジャスティンは、それを剣で軽く、片手であしらうと、アルテミアに向かって一歩踏み込んだ。
「確かにそうだ!君の言う通りだが…それでは、人はこの世界では、生きていけない」
「知るか!誰かを犠牲にしてでしか、生きれないなら!」
アルテミアは回転し、剣を振るう威力を増した。
片手では受け切れず、ジャスティンは剣を両手で掴んだ。ずしりと重い衝撃が、剣を通して、ジャスティンに伝わった。
「人なんか滅んだらいい」
ジャスティンは押され、思わず後方にジャンプした。
それをアルテミアが、追い掛ける。
ジャスティンは、フッと笑い…剣を突き出した。
「人は、誰かの犠牲の上で生きているが…」
アルテミアは、突きの体勢に入る。
「そのことに気付かない。人は、誰もな。だけど…もし気付いたなら…人は、人として」
アルテミアとジャスティンの間の地面から、ブーメランが飛び出してきた。
「何!」
アルテミアが一瞬、ブーメランに気をとられた刹那、ジャスティンは両手を広げた。
「人は、悔いることができる」
ブーメランは、アルテミアではなく、ジャスティンの胸元から背中まで突き刺さった。
絶句したアルテミアの勢いは、止まらない。
そのまま、ジャスティンの胸に突き刺さった。
「これでいい…これで」
ジャスティンは、自分の胸元から噴き出す血を指ですくうと、驚きのあまり動かないアルテミアの額に、血で文字を描いた。
「これが、俺の最後の思いだ」
「何をした?」
アルテミアの額に、梵字のようなものが浮かび、それはすぐに消えた。
「アルテミア…。君は、次にここから去った時、二度とここのことは思い出せなくなる」
ジャスティンは、ゆっくりと突き刺さったライトニングソードに手を添え、抜いていく。
「心配するな…。一生ではない。君が、人というもののすべてを理解した時…この地に来れる」
すべてを抜き去った時、ジャスティンは片膝をついた。
「ふざけるな!」
アルテミアは、ライトニングソードをもう一度構えた。
「その代わり…」
ジャスティンは、自分の胸に手を刺し込んで、
「俺の心臓をくれてやる」
ジャスティンは、自らの心臓を抜き取ると、アルテミアに差し出した。
「これを先輩の心臓と、入れ替えればいい」
ジャスティンは、アルテミアに微笑みかけた。
(先輩…)
ジャスティンの心は、沈んでいく。深い眠りの中に…。
「先輩…どうして、産んだのですか?人類の最高機関の1人であるあなたが、魔王の子を産んだなんて…。そんなことが公になれば…」
「わかってるわ…ジャスティン。でも、人もあの人も、人間を知らなくてはならないの…。この世界で、一番脆く、不安定な生き物である人間を」
出来上がったばかりの格納庫から突き出した塔の上で、ティアナとジャスティンはいた。
そして、ティアナの腕の中には、まだ生まれたばかりのアルテミアが、すやすやと寝息を立てていた。
ティアナは、アルテミアの髪をそっと撫でた。
「だけど…この子には、何の罪もないのに…。生まれたばかりなのに、苦労させることになるわ」
ティアナの憂いを讃えた横顔を見ていると、ジャスティンはいたたまれなくなってきた。
「先輩!」
思わず叫んだジャスティンに、ティアナは振り向いた。
「このまま…どこかへ…」
ジャスティンの言葉は、ティアナによって止められた。
「ジャスティン。あたしが死んだら、この子をお願いね」
ティアナは、優しく微笑んだ。
「死んだらって!え、縁起でもない!」
血相を変えるジャスティンに、ティアナは吹き出すと、真っ直ぐにジャスティンを見つめ、
「ありがとう」
と、満面の笑顔を見せた。
塔上で、靡くティアナのブロンドが、いつまでも、ジャスティンの心に淡い思いを残させた。
「始めるぞ」
クラークは、五枚のブラックカードを、明菜が中央にいる魔法陣にほおり投げた。
カードは、円状の魔法陣にそって、周り始める。
(さらば…友よ)
クラークは、涙を流さなかった。
ただ魔法陣を睨み付ける。
カードは、ぴたりと止まると、光の筒が魔法陣より発し、天井を擦り抜けていく。
地上では…下から塔が輝き出していた。そして、アルテミアの目の前で、物凄いスピードで地面から飛び出した五枚のカードが、螺旋状に塔の表面を回りながら、天へ飛んでいく。
「何が起こっている!?」
その場で、崩れ落ちていくジャスティンを戸惑いながら、ただ見つめていたアルテミアは、飛び去っていく光を眼で追った。
あまりにも速く、小さかった為、アルテミアでも、それが何か確認できなかった。
五枚のカードは、螺旋状に回転しながら、流れ星のように塔から離れ、飛び去っていった。
「開け!異なる世界を繋ぐ道よ!この世界を望む者に、渡る力を!」
クラークは、叫んだ。
魔力が使い放題のブラックカードを使わなければ、異世界との道を開くなど、人間にはできない。
格納庫自体が揺れ、悲鳴をあげる。
「五人…補充してよかったな…。保たなかったかもしれん」
クラークは緊張を解き、息をついた。
「何が起こったの?」
明菜は、魔法陣から溢れた…余りの光の眩しさに、ずっと目をつぶっていた。
クラークはにやりと笑い、横目で明菜を見た。
「君の友達が、来たのさ」
「何?」
さっきまで、学校の教室で読書をしていた西園寺俊弘は、まったく知らない世界にいた。
いきなり、目の前が真っ暗になり、まったく知らない草原に立っていた。
「ここは…」
隣から声がしたので振り向くと、守口舞子がいた。
「どこだ?ここは…」
後ろからも、声がしたので、振り返ると、制服姿の男が二人と、女が1人いた。
4人とも、西園寺は知っていた。
(副会長の守口に…剣道部の松永…。それに…チンピラの橋本。女は、学年首席の佐々木神流!?)
まったく、4人に接点はなかったが、このメンバーを見て、西園寺は納得した。
(どいつも、癖があるやつらだ)
西園寺は、四人を確認してからは表情を隠した。
四人を知っているとはいえ、話したことはない。気を抜く訳にはいかなかった。
なぜならば…。
西園寺は、右手を握り締めた。
(多分、こいつらは絶対…ブラックカードを持っている)
自分と同じように。
「これが、ブラックカードか…」
いつのまにか、手にしていたカードをまじまじと眺める松永伸介。
(こいつは…)
一番最初に、口にした松永を、西園寺はちらっと見た。
「これを使ったら、好き放題できるんだよな」
ブラックカードをひらひらさせて、嬉しそうに話す橋本正志。
(こいつらは、大したことない)
西園寺が心の中で、ほくそ笑んでいると、隣を歩いていく女がいた。
佐々木神流だ。
鼻筋が通った端正な顔に、すらっとした細身の体。頭もよく、育ちも良いから、お嬢様として、人気があった。
佐々木は、誰よりも前に出た。
五人が立つ場所は、小高い丘になっていた。そこから見下ろす広大な大地には、小型の竜が群れをなして、歩いていた。
地平線の向こうでは、太陽が沈みかけており、その太陽の前を、羽を広げた五メートルはあるトンボに似た生物が、飛んでいた。
「だるいわ」
神流は、束ねていた髪を解いた。ストレートかと思っていた髪の毛は、ふわっと広がり、結構癖毛であることがわかった。
大地を流れる風に髪をなびかせながら、神流はゆっくりと、手を突き出した。
「デスランド!」
神流が叫んだ瞬間、広い範囲の土地に亀裂が入り……段差ができた地面に、竜達が挟まって動けなくなる。
「きゃははは」
神流はお腹を抱えて、笑いだした。
「無様あ」
そして、笑みを絶やさぬまま、
「召喚!」
ブラックカードをかざすと、目の前に連射式のミサイル台が現れた。
「発射あ!」
ミサイルの束は、無害の竜達に、降り注いだ。
それを爆笑しながら、楽しそうに打ち続ける神流に、後ろから…冷ややかな視線を浴びせる西園寺の横を、正志が通り過ぎていく。
「折角の力だ!使わねえとな」
正志はフライングアーマーを装着すると、空から攻撃し出す。
「やれやれ…力は、試してみないとわからないか」
頭をかきながら、松永も参加する。但し…剣を持って、混乱する大地に斬り込んでいった。
竜は何もしていない。それに草食動物のようで、殆んど無抵抗で、やられていく。
西園寺は、その様子を冷ややかに眺めていた。
(あいつらは、馬鹿か?)
温厚だと思われていた神流が、狂ったようにミサイルを乱射する姿には、少し引いていた。
西園寺はふっと気付いた。
もう1人いたことを。
後ろを振り変えると、自分と同じ無表情の舞子がいた。
こう言うとき、話し掛けるのは苦手だが、相手は自分と同じタイプだと思った。
仕方なく、西園寺から口を開いた。
「あんたは、いかないのか」
西園寺の質問に、答えるのに、少し時間がかかった。
(無視かよ)
西園寺は諦めかけた時、舞子はこたえた。
「あなたは、抑えられているようね」
舞子は、決して西園寺を見ない。
「抑えるって…って」
舞子は、3人を見据えながら、少しだけ目を細めた。
「この世界で、欲望を抑えられないと…もとの世界、いや…人ではいられない」
呟くように舞子が言った瞬間、笑いながら、ミサイルを撃ち続ける神流の端正な横顔が、馬のような顔になり…魔物そのものに見えた。
しかし、すぐに、人の横顔に戻った。本人も今の変化に、気付いていないようだ。
「今のは何だ?どういう意味だ?」
確かにこの世界に来てから、妙に心が騒いでいたが。西園寺は、自らの胸を掴んだ。
西園寺の質問に、舞子は答えることはなかった。
そのまま、虐殺の様子をただ無表情に、しばらく見つめていた。