メモリアルブロークン
「私には、お前がわからない」
誰も被っていない床に置かれた仮面から、声がした。
「私は、人類がこの世界で生き残り、支配する為のシミュレーションをした。分析の結果、クラーク・パーカーの能力では、神にはなれないと判断した。異世界からのデータ…さらに、ティアナ・アートウッドにより立案されたモード・チェンジ・システムをも組み込み、進められたが…計画は中止された。しかし、私は再び動き出した」
防衛軍本部地下にて、クラークを実験体として進められた計画は、すべて破棄された。
しかし、他の計画にも使えるかもしれないとのことで、コンピューターを停止させ、研究材料もそのまま残されて破棄された。
その数年後、哀しみの女神と化したアルテミアによって、本部は破壊された。
その時の衝撃で、停止していたコンピューターは再び活動を再開した。
そして、動き出したコンピューターは、その時にはいなかった…インレギュラーな存在を感知した。
赤星浩一である。
動きを停止する前に、記憶されていたクラークの情報と性格をトレースし、コンピューターはプログラムされていた計画を実行に移した。
「赤星浩一という特異戦力。さらに、私が停止していた時の情報を読み取り…オーティス・ハイネスとして、計画を実行することにした。人類を救う為に」
「人類を救うだと!?」
コンピューターの電子音に、僕は眉を寄せた。
「だったら、どうして!地下に核爆弾を埋めた!」
僕の怒声に、コンピューターは理解できないように言葉を発した。
「どうしてだ?人類がこの世界の頂点に立てないとしたら、お前達に生きる意味はあるのか?」
「た、立てなくても!この世界の人類は生きている!」
「…」
コンピューターはしばし言葉を止めた後、こう続けた。
「異世界の情報…書籍から、私は学んでいる。生きることとは、死ぬことと見つけけり。それこそが、人間の生き方だと」
コンピューターの言葉に、僕は絶句した。
「武士か!か、偏ってる!」
「だから、赤星浩一よ」
後ろの扉が開き、生身のオーティスが姿を見せた。
「お前が、我々の計画に乗らないならば、この星を爆破する」
にやりと笑ったオーティスに、ピアスの中からアルテミアがピシャリと言った。
「やってみろ!あたしが止めてやる!」
アルテミアの強気な言葉に、オーティスはキレた。
「そうか」
「やってみせろ」
仮面から、同じ声がした。
「愚か者め」
「せめて、散り際だけは美しく終われ!」
オーティスの顔から、表情が消え…能面のように変わった。
「モード・チェンジ!」
僕が叫ぶと、アルテミアに変わった。
赤の王と言われる僕だけど、目覚めて間もない。繊細な力の使い方などできるはずがなかった。
「任せろ!」
とアルテミアが言ったすぐに、地震が起こった。
「チッ!失敗した!」
アルテミアはめげることなく、再び気を地下に送った。
「まだ数発爆発しただけだ!」
アルテミアはやる気だが…僕は最悪の事態を覚悟した。
「無理なようだな」
オーティスは苦笑すると、聳え立つコンピューターを見上げ、
「一斉に爆破しろ!」
終わらすことを命じた。
「人類は、滅びることで!勝ったのだ」
しかし、数秒後…地震も起こらなかった。
静かな空間に、アルテミアの笑い声が響いた。
「見たか!あたしの力!」
「ば、馬鹿な!」
何も起こらないことに、オーティスは唖然としながら、後ずさった。
コンピューターは壊れたように、全体が点滅し、問題点を修復しょうとして、やがて混乱し出した。
「終わるのは、貴様らだ!」
嬉しそうなアルテミアは満面の笑みを浮かべながら、槍を脇に挟み、構えた。
「くらえ!A Blow Of Goddess!」
槍が光り…アルテミアは女神の一撃を発動させた。
「王よ」
魔界の奥…城の中で、玉座の間に座るライは、手のひらの上にシャボン玉のような球体を作っていた。
その中で、浮遊する…数百の核爆弾達。
王が軽く握り潰すと、球体の中で爆発し、そのまま…手の中で消えた。
「あなたにお訊きしたい」
ライは手を握り締めたまま、目の前に立つ女に目をやった。
「何のようだ?」
ライは目だけを、前に立つ女に向けた。
「リンネよ」
玉座の間に入ってきたのは、リンネだった。
「!?」
虚ろなライの瞳を見た瞬間、リンネは一瞬だけ目を見開くと、睫毛を落とし…玉座に背を向けた。
「失礼します」
「く、くそが!」
女神の一撃を受け、体の殆どを消滅させられたが…アルテミアの体勢が悪かったことと、弱点であるコアが偶然、右足の小指まで巡回していたことにより、ヒメカは完全に消え去ることは避けれていた。
しかし、このまま戦うことは不可能と本能が判断し、魔王の城までテレポートしたのだ。
何とか、人型を保ちテレポートアウトしたヒメカは、城のそばにある向日葵畑に立っていた。
「お、お前は何?」
移動後すぐに耳にした声に、顔を向けたヒメカは、瞳に映る女を見て、こう口にしょうとした。
「御姉様」
しかし、その言葉を発することはできなかった。
リンネの炎が、ヒメカの炎を焼き尽くしたのだ。 コアとともに。
リンネは、ヒメカを見た瞬間、すべてを理解した。
「王よ!」
だからこそ、真っ直ぐにライに会いに行った。
なのに…。
ライに背を向けて歩くリンネの目から、涙が流れたが…すぐに自らの体温によって蒸発した。