語る仮面
「オーティス・ハイネス!」
僕は、目の前にいるオーティスを睨み付けた。
「お前は一体、何を企んでいるんだ?地球の中に核爆弾を数百発も埋めるなんて!人々を守る気があるのか?新しい軍を組織しておいて!それに、お前は何者なんだ?クラークさんのクローンなのか?」
「質問が多いな。赤星浩一君」
灯りがついた部屋は、机が一つあるだけで他に何もなかった。
しかし、分厚い鉄の扉が、奥の壁一面を占拠していた。
オーティスは机の上に置いてあった仮面を手にすると、躊躇うことなく被った。
「私はクラーク・パーカーの細胞から創られたクローン。しかし、彼がこの世界で保護されてからすぐに、培養され…共に過した兄弟でもある」
オーティスはしばし、僕を見つめた後、ゆっくりと背を向け、歩き出した。
そして、鉄の扉に手のひらをつけると、左右に開いていった。
「さらに、奥の部屋だ。そこで、君の答えを聞こう」
「答え?」
オーティスに続いて、扉をくぐった僕は思わず、吐きそうになった。
部屋は真っ暗で、先程とは比べ物にならないくらい広い。
真ん中の通路は真っ直ぐに、次の部屋に向かっていたが…左右にある巨大な水槽の中にいる…数百体の…。
「何をしている。早くしろ」
オーティスは次の扉の前にいた。
「チッ」
急かされた為、僕は小さく舌打ちすると、足を速めた。
「赤星」
アルテミアの心配そうな声に、僕はこたえた。
「アルテミアは、見守ってほしい。これは、僕がどうにかしなくちゃならないことだと思う」
僕の脳裏に、僕の剣で散ったクラークの姿がよみがえる。
「わかった」
アルテミアはそれから、話しかけるのを止めた。
「フン」
オーティスが次の扉を開いた瞬間、僕は思わず目を瞑った。
眩し過ぎたのだ。
その部屋から、漏れる光は…真っ暗な町に一際目立つ…ゲームセンターのようでもあり、昔テレビで見たラスベガスを思い出した。
「機械の光?」
僕はすぐに目を開けると、光輝く部屋に飛び込んだ。
「どうだい?君には懐かしい!祖国の感じかな?」
部屋の真ん中に聳え立つ…巨大なコンピューター。それは、一昔前のSF小説の挿し絵に出てきそうな形をしていた。
しかし、機械文明が発達していないブルーワールドで、こんなものを作れるなんて驚愕である。
「これは、クラーク・パーカーが発見された時に、彼のそばにあった書籍の内の一冊から開発が始まった」
オーティスの手に突然、ある本が転送されてきた。
僕は目を細めて、表紙の文字を読んだ。
「アーサー・C・クラーク…!?」
思わず絶句する僕を見て、オーティスは口元を緩めた。
「異世界の文字故に、すべてを理解するはできなかったが、我々はこの書により、人間は宇宙で住めることを知り、さらに神になるべく進化できることも知った。そして、保護した赤ん坊は、クラークと名付けられた」
「馬鹿か!それは、SF本で…空想の」
僕が否定しょうとしたが、オーティスは構わずに言葉を続けた。
「我々はこの本により、異世界の存在を確信し、さらに赤ん坊から、人類の希望を発見した」
仮面をつけたまま、オーティスの姿が変わった。
「しかし!これは、人類の希望ではなかった!単に人が、魔物になっただけだ!人類の希望とは」
再び人の姿に戻ったオーティスは、僕を指差した。
「君のように、人間でありながら、神の力を得ることだ」
オーティスの言葉を、僕は即座に否定した。
「違う!僕はたまたま、人間に近い姿に目覚めただけだ!」
「神は、人間を自らの姿に似せてお創りになられた。ならば、人間こそが!世界を牛耳るべきだ!なのに!」
オーティスは、全身を震わせ、
「ほとんどの人間は弱い!そんな弱き人間をすべて守ることは、不可能!淘汰し、生き残った者こそが、真の意味の人間として、この世界を支配するべきだ!赤星浩一!」
僕を指差し、
「君は、真の人類として、魔王を倒し!この世界を救わなければならない。その目的のためには、生き残る必要のない、弱き人間は排除しなければならない!やつらを人と思うな!私は、そのことを君に教えたかった」
仮面の奥から、血走った眼で僕を見つめた。
「どういう意味だ?」
問いながらも僕は、オーティスのいうことを理解してきていた。
「人間がこの世界を牛耳るには、無能の数が多すぎる。そのことを理解しない君は、何の価値もない人間達をミサイルから守り…シェルターに避難するだけの者を庇う!己の憎しみだけで、当人でもない相手に平気で刃を向ける者に襲われる!」
仮面に手をかけ、脱ぎ去った瞬間、オーティスの姿が再び、変わった。
その姿は…。
「ア、アルテミア…」
僕は目を見開いた。
「こやつは、魔王の娘!人類の未来には、必要ない!」
アルテミアの姿になったオーティスは一瞬で間合いを詰めると、僕の首を両手で掴んだ。
「殺せ!アルテミアも!弱き民衆も!お前と戦って死んだクラーク・マインド・パーカーのように!」
オーティスの目が血走る。
「中途半端で不要な優しい心を捨てろ!人間がこの世界を支配する為に、お前は鬼と化し、すべての障害になりうる者を殺さなければならない!その積み重ねが、お前を人類最強の剣に変える!ハハハハ!」
首を絞めながら、楽しそうに高笑いをするオーティスの耳に、本物のアルテミアの声が届いた。
「馬鹿か…」
アルテミアはため息をついた。
「例え殺しを繰り返しても、こいつは狂わないよ。ただ後悔し、涙するだけだ」
「何!?」
「それに…間違っても、そんなことはしない。何故なら」
アルテミアはここで言葉を切り、フッと笑った。
「そういうやつだから」
「な!」
オーティスは何が起こったか、わからなかった。
当然、絞めている感覚がなくなったと思ったのと、左右の視界がスライドしていくのが同時だった。
「僕は…数え切れない程の魔物を殺し…クラークさんという人間も殺した。お前にわざわざ仕組まれなくてもな」
ライトニングソードを振り下ろした僕は、真っ二つに斬り裂いたオーティスを見つめた。
「ば、馬鹿か!魔物もクラークも人間ではない!やつらを殺しところでええええ!」
「同じだよ」
断末魔の叫びを上げて、倒れたオーティスの向こうに聳え立つコンピューターに、僕は剣を向けた。
「機械には、それがわからないか」
そして、そのまま…切っ先をオーティスが脱ぎ捨てた仮面に向けた。