裏側の真実
「こ、これは!?」
しゃがみこみ、仮面の破片につけられていた機械を見て、アルテミアは首を捻った。
「何だ?」
思わずつっ込みたくなったが、僕は咳払いしてから、口を開いた。
「恐らく…発信器か何かかな?」
「発信器?」
「機械に信号を送って操作したり…逆に受信機なら、信号を受け取って、命令通りに動いたり…」
「それだな」
アルテミアは仮面の裏側についていた機械を引きちぎると、粉々にした。
そして、にやりと笑うと、空に飛び上がろうと翼を広げた---その時、後ろから含み笑いが聞こえてきた。
「!」
アルテミアが振り返ると、人間の姿に戻ったオーティスの半身が笑っていた。
「赤星浩一よ!貴様に問う!何度も、我を殺した気分はどうだ?人間を殺した気分はどうだ?」
アルテミアではなく、僕を話しかけるオーティスを見て、アルテミアはフンと鼻を鳴らすと、翼をしまい、後ろを向いた。
「ごちゃごちゃとうるさいやつだな」
アルテミアは、ゆっくりと歩き出した。
「お前は、人間を殺した。だがな!それでも!」
オーティスは、最後まで話すことができなかった。
アルテミアに頭を踏み潰されたからだ。
「だから言ってるだろ?てめえは人間じゃねえよ」
人間と同じものを、周りにぶちまけながら、オーティスは動きを止めた。
「司令!」
気を失っていたヨルダが目覚め、身を起こした瞬間、アルテミアの行為を見て、絶叫した。
「アルテミア!」
怒りから立ち上がろうとしたが、先程のダメージから思い通りに体が動かなかった。
「…」
アルテミアはそんなヨルダを尻目に見ながら、空中に飛び上がった。
「待て!」
声だけが、アルテミアに届いた。
アルテミアは空中から、ヨルダを指差し、
「お前の男の件は、謝ろう。しかしな!」
翼を広げ、
「この命を今、くれてやる訳にはいかない!」
そのまま空の彼方に飛び去った。
「アルテミア?」
猛スピードで町から放れるアルテミアに、僕はきいた。
「どこに向かってるの?」
僕の質問に、アルテミアはせせら笑った。
「愚問だな!赤星!」
そして、自慢気に話し出した。
「先程、あいつの仮面についてたのは、受信機だ!電波を手繰れば!オーティス本人に会えるぞ!」
アルテミアの言葉に、僕は恐る恐る話を続けた。
「だ、だけど、その機械…さっき…握り潰してなかった?」
「!」
空中でアルテミアの動きが止まる。
数秒後…アルテミアはゆっくりと握り締めていた拳を開いた。
風が吹き、アルテミアの手のひらから…粉が空中に散乱していく。
手のひらに何もなくなっても、アルテミアは動くことはなかった。
計画は、暗礁に乗り上げたのだ。
「そうか」
その頃、人類解放軍の本部にいた仮面を被ったオーティスは、司令室の席から立ち上がった。
突然、席を立った為に、部屋にいた兵士やオペレーターが全員、顔を向けた。
「任務を続けてくれたまえ」
オーティスは、兵士達に背を向けると、司令室から出た。
すると、扉の前に…舞子がいた。
「赤星浩一が来る!」
オーティスは、舞子に嬉しそうな笑顔を見せた。
「これで、人類の未来が決まる!」
興奮気に話すオーティスから、舞子は視線を少し外し、一言だけ答えた。
「そう」
「これで、決まる!」
オーティスは頷くと同時に、その場から消えた。
「…」
舞子は、オーティスがいた空間に目をやらず…ただ、背を向けた。
「えっ〜と」
数時間後、酒場のカウンターで頭を抱え…現実逃避に走るアルテミアの姿があった。
受信機から、発信源を見つけることは不可能になった。
しかし、オーティスの居場所はわかっていた。本物か…どうかはわからないが…。
「こうなったら!解放軍の本部に殴り込むか!」
アルテミアはビールを一気飲みして、グラスをカウンターに叩きつけた。
「でも…変な行動を取って、地球の中心近くにある核爆弾が爆破されたら」
僕の言葉に、アルテミアは空のグラスをカウンターの向こうにいるバーテンダーに差し出した。
「あたしが何とかする!」
その酔いからくるアルテミアに自信に、僕が釘を刺そうとした…その時、アルテミアの胸の谷間から電子音がした。
谷間に差し込んでいるブラックカードに、電話がかかってきたのだ。
「はい!」
アルテミアは迷うことなく、通信に出た。
「やはり…ティアナ・アートウッドのカードを持っていたか」
カードの向こうからの声に、アルテミアは叫んだ。
「オーティスか!」
「フフフ…」
カードの向こうで笑った後、
「本当は、貴様に要はないのだが…来るがいい。場所は」
声のトーンだけで、それよりも楽しそうなオーティスの顔が浮かんだ。
「?」
アルテミアは、眉を寄せた。
「お前の母親が死んだ場所だ」
オーティスの言葉を聞いた瞬間、アルテミアはグラスを握り潰し、その場でテレポートした。
「あ、あのお〜」
グラスを受け取ろうとしたバーテンダーは、困惑の表情を浮かべながら、引きつっていた。
ちなみに…何度目かの無銭飲食であった。
その頃、オーティスもまた…テレポートしていた。
「来い!赤星浩一よ!君の返答次第で、この星の運命が決まる!」
「何があるって、いうんだ?」
実世界のギリシャにあたる地にあった人類防衛軍の本部。
防衛軍を裏から操っていた安定者達を、アルテミアが殺し、施設を破壊してから彼女も来たことはなかった。
「チッ!」
峡谷の底にあった防衛軍本部のさらに、下から気を感じた。
「誘ってやがる」
「アルテミア」
「いくぞ」
アルテミアは、ゆっくりと慎重に、谷底向かって降下していった。
破壊したままの廃墟と化した安定者の間まで来ると、アルテミアは床に足をつけた。
「この下にまだあるのか?」
数十メートル地下まで来たが、さらに下に行くには穴を掘るしかないと、アルテミアが思った時、足下の空間が開いた。
普通ならば、突然の出来事に戸惑うところであるが、アルテミアは冷静に流れに身を任せ、足下に感覚があるまで構えていた。
「ようこそ」
床に立つ感覚を確かめると、アルテミアは前を睨んだ。
真っ暗であるが、誰かがいるとわかっていた。
「ようこそ!」
姿は見えないが、オーティスの声がした。
「フン」
アルテミアが目を赤くして、魔力を発動しょうとしたが、それを僕が遮った。
「アルテミア。僕がいくよ」
無言で、アルテミアから僕に変わった。
「そうでなくちゃ…いけない気がするんだ」
僕になった瞬間、灯りがついた。
「改めて、ようこそ!赤星君。ここが、人類最後の希望の地だ」
目の前で、優しく微笑むクラークの顔をしたオーティスが、僕を迎えていた。