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第41話 カードシステム

上の戦いを見守っていたクラークは、アルテミアがライトニングソードを手にしたのを確認すると、


「勝負あったな」


そう呟き、安定者の1人に近づいた。


「何だよ」


一番若い安定者の男が、訝しげに、クラークを見た。


「お前達の運命は、決まった」


クラークは笑みを讃えながら、その男の胸に手刀を突き刺すと、心臓を取り出した。


「何をするのよ!」


他の四人の安定者は、クラークから距離を取り、ブラックカードを取り出した。


「申し訳ないですが…あなた方の心臓と、ブラックカードを頂きます」


クラークは、抜き取った心臓を握りながら、四人に頭を下げた。


「貴様!安定者四人を敵にして、勝てると思うのか!」


安定者の言葉に、クラークは苦笑した。


「俺が、あんた達の言うことをきいてたのは、ラルがいたからだ。あいつには、勝てないので。だけど」


クラークは、四人を見回し、


「貴様らなら、余裕だ」


にやっと笑った。


その不気味さに、四人は思わず後ずさった。


「モード・チェンジ」


クラークは、言った。


彼の姿が変わる。


口が裂けて突き出て、髪の毛が逆立ち、皮膚が硬化し、爪が伸びる。


「化け物…」


女の安定者が、クラークの姿を見て、思わず口にした。


クラークは、その女に顔を向け、


「化け物だと…」


全身をわなわなと震わせ、女を睨み、


「お前達がしたんだろがあ!」


叫んだ…その瞳には、涙が浮かんでいた。






砂漠の町で、僕はご飯を食べていた。カウンターに、テーブル席が五つ…まあまあな広さだ。


店内に、装飾らしきものはなく、奥に地下への脱出口があった。


人面鳥に襲われ続けていたこの町には、必要なものらしい。


僕は一番入り口のテーブルに座り、その前にダラスがいた。魔物の襲来に備えて、ダラスはいつも入り口近くに座るらしい。


水だけと思っていたら、お腹がすいているのがわかり、何か食べることにした。だけど、先程まで魔物との戦いがあった為、店は大したものを置いてなかった。


保存食の干し肉が、なかなか噛み切れず、皿の上で格闘している僕を、ダラスは不思議そうに見つめていた。


僕は視線を感じ、手を止めて、ダラスを見た。視線が合う。


ダラスは結構な高齢だ。体は、がっしりしているが…まだ剣を取って、戦っていることが信じられなかった。


「少年…。君が、天空の女神と融合していた…という話は、信じよう。しかし…これから、君はどこにいく気だ?」


僕は、これまでの話を、かいつまんで話した。


ダラスは、まだ僕の話を完全に信じていなかったが…一応は警戒しながらも、僕の目をじっと見ながら、聞いていた。


僕は、ナイフとホークを皿に置くと、きちんと身を正し、


「格納庫へ…行きます」


「格納庫?」


「はい」


僕は頷き、胸ポケットからカードを取り出し、ダラスに示した。


「このカードの格納庫です」


「カードシステムの格納庫か?…しかし、それがどこにあるのか…公表されていないはずだが…」


ダラスは、自分のカードを取り出した。カードは二枚あった。一枚は、もう使い過ぎてボロボロになっていた。


僕はカードをしまうと、


「一度、行ったことがありますから…何とか座標はわかります」


「一度、行ったことがある?君はそこに、何の用があるんだ。あそこは、人類が生きていく為の要の場所だ」


ダラスは、訝しげに僕を見た。


僕は、ダラスの目を真っ直ぐに見つめながら、


「友達が、そこにいるからです」


「友達?」


「友達が、捕われているんです」


僕の言葉に、ダラスは思わず、席を立った。


「どうして、格納庫に捕われてるんだ!あそこは、安定者しか入ることが、許されないはずだ!」


「だとしたら…」


僕はダラスから、視線を外すと、呟くように言った。


「何かが、起こってるのかもしれない」


「何か…」


ダラスは嫌なものを、感じた。


かつて、人々が魔法を使えなくなった時期、時の政府は、民衆の為に何もしなかった。


唯一、民衆の為に動いた救世主も今は、いない。


「でも、心配しないで下さい」


僕は、思い詰めたような表情をしているダラスに微笑み、


「僕が、何とかします…いえ、何とかしてみせます」


「な」


あまりの僕の自信に、ダラスは絶句した。


僕はテーブルの下で、拳を握った。


力が溢れてくる。


(今なら、誰とでも戦う勇気がある)


もう一度、拳に力を込め、僕は自分自身に頷いた。


「あまり無責任なことは、言わない方がいい」


ダラスは、僕を見下ろし、


「君が、どれほどの強さを持っていようと、安定者は神に近い力を持ち…魔王は、まさしく神だ。――それに、我々は、君が人間なのか…疑っている」


ダラスの言葉を証明するように、店の外には、何人かの戦士が、こちらを警戒している。


僕に、記憶はないけど…黒竜を倒したらしい。


自分でも、自分の変化に気付いていた。原因はわからないが。


僕は顔を上げて、ダラスを見た。


(ここで、逃げてはいけない)


僕も立ち上がった。


周りに、緊張が走った。


僕は、ダラスだけを見据え、


「僕は、異世界から来ました」


「異世界?」


ダラスは、たじろくことなく、僕の目を見続ける。


僕は頷くと、言葉を続けた。


「アルテミアと融合してから、いろんな敵と戦いました。まさに、神のような強さを持つ敵とも、戦いました」


僕の脳裏に、マリーやジュリアンとの戦いが甦る。


「僕は、その度に…死というものを感じ、強さというものを考えました」


戦いとは、力と力の戦いだけでなく…創造力の戦いなのだと。


「神と人の違いは、力だけでなく――何かを生み出す力の差なのかもしれない」


僕の脳裏に、アルティメット・モードになるアルテミアが映る。


「だけど…人は、人を作れないけど…何かを作ることはできる。例えば、料理、そして、この町とか…」


僕は、店内を見回し、


「人にも、創造力はあります。神ほどの力のない分、凄い想像力はあります」


「君は、何が言いたい?」


「人は…決して、神に負けないということです」


僕は、自然と微笑み、


「人は、負けていても…負けたと、自分が認めないかぎり、負けることはないのです。心が負けないかぎり」


僕は…ドラゴンキラーを構え、光と消えたサーシャを…ジュリアンの最後の表情を思い出した。


「僕は、負けない!決して!それが、アルテミアと戦ってきた僕が、この世界で感じ、最後まで守る気持ちです」


僕は、拳を突き出した。


しばし、ダラスと見つめ合う。


「では…先を急ぎますので」


拳を下ろし、僕はダラスに頭を下げた。


そして、カウンター内にいる店主に言った。


「ごちそうさまです。いくらですか?」


カードを取り出し、支払いを済まそうとすると、ダラスが遮った。


「店主。俺が払おう」


「え!」


驚く僕に、ダラスは笑いかけ、


「遠慮せずに、奢らせてくれ。この街を助けてくれた礼をしたら、安いものだ」


ダラスはそう言うと、おもむろに拳を突き出した。


僕は、その拳に、自分の拳を合わせた。


そして、二人は笑い合った。





ダラスは、頭を下げ手を振る僕を、街の入り口まで見送ってくれた。そして、ゆっくりと、遠ざかっていく僕の背中を見つめた。


「隊長。このまま見送っていいのですか?あの力、人間のものとは思えませんが…」


ダラスの隣までやってきた戦士が、心配そうにきいた。


ダラスはゆっくりと、首を横に振り、


「彼は…人間だよ」


「そうでしょうか?私には…」


「彼のあの後ろ姿…彼女を思い出すよ。救世主ティアナ・アートウッドを」


かつて見送った勇者。彼女は、世界を救った。


「異世界からの…エトランゼか…」


ダラスは呟いた。


「エトランゼ…?何ですか?それは」


ダラスは苦笑し、


「この街の昔話さ…。この前は、世界を救う者の旅立ちの門となる…だから、何があっても、この街を守らなくてはならないと」


ダラスの目に、旅立つ赤星と、もう一人…女性が映る。


「異世界からのエトランゼよ。この世界を頼む」


ダラスは、去りゆく後ろ姿に、深々と頭を下げた。









次の兵士が来る前に再び、アルテミアは自分が開けた穴に、飛び込んだ。


各階層を通り過ぎる時、狙撃してくる兵士もいたが、アルテミアの落ちるスピードをとらえきれない。


あっという間に、アルテミアは安定者の間に、降り立った。


いきなり、さっきまでなかった血の臭いが、鼻についた。


「バンパイアには、たまらない臭いじゃないのかい?」


転がる死体の向こう…闇の壁にもたれて、クラークがいた。


「お前は?」


アルテミアは、チェンジ・ザ・ハートを槍へと変えた。


「失礼」


クラークは、壁にもたれるのをやめると、仰々しく頭を下げた。


「我が名は、クラーク・マインド」


「貴様は、安定者か!」


アルテミアは、槍を構えた。


クラークは顔を上げると、肩をすくめ、


「ついさっきまではね」


アルテミアにウィンクした。


「てめえ」


アルテミアは、槍を突き出した。


しかし、チェンジ・ザ・ハートは部屋の中央に張られた透明の壁に、遮られた。


「結界か!」


アルテミアはチェンジ・ザ・ハートを引くと、脇に挟み、さらに強力な突きを放とうとする。


「やめてくれないか!俺は、君と静かに話したいだけなんだ。争う気はない」


クラークは両手を振り、アルテミアに話し掛けた。


そんなクラークをじっと見つめてから、アルテミアは槍を下げた。


そして、周りに転がる死体を確認すると、改めてクラークに顔を向けた。


「ここまで、仲間を殺すやつが…争う気はないと?」


すべての死体は、心臓の部分に穴が開いていた。


嫌味ぽく言うアルテミアに、クラークは苦笑すると、


「こいつらは、仲間じゃない。君と同じで、俺は大切なものを、こいつらに奪われた」


「大切なもの?」


「自分自身さ」


そう言ってから、クラークは自嘲気味に笑った。


「自分自身…」


訝しげに、アルテミアはクラークを見た。


その視線に気付いたクラークは笑うのを止め、真剣な表情でアルテミアを見た。


「君の大切なものは、取り返すことができる」


「大切なもの…?」


アルテミアには、言葉が意味するものが、わからなかった。


クラークはまた、肩をすくめ、


「やれやれ…。わからない訳があるまいて…。なぜなら、その為に、君は天空の女神であることを、捨てたのだから」


クラークは、ブラックカードを取り出し、アルテミアに示した。


アルテミアはやっと、言葉の意味を理解した。


クラークは微笑み、


「そう…君の母親、ティアナのことだよ」


ブラックカードをしまった。


「しかし…馬鹿な…」


アルテミアは、安易に思い浮べた考えを、首を振って否定した。


クラークは再び、壁にもたれると、腕を組んだ。


「しかし…そうとも言えない。ティアナの体は、魔王の城で、死ぬ前の状態で保存させている」


アルテミアの真剣な顔で、クラークの話を聞く姿に、内心クラークは、にやりと笑っていた。


しかし、表情には出さず、話を続けた。


「人に騙されて、抜かれた心臓…それを戻し、蘇生魔法をかけたら、生き返るはずだ」


アルテミアの体が、震える。


「お母様が…」


クラークは、一瞬…冷たい視線を浴びせたが、口調は変えず、


「しかし…問題はある」


そこで、言葉を切った。


「問題?」


聞き返したアルテミアはもう…クラークの術中に、はまっていた。


「ティアナの心臓は、カードシステムの根幹をなしている…。ティアナの心臓がなくなれば…」


クラークはここで言葉を切り、


「カードシステムは、崩壊する」


アルテミアは、目を見開いた。


クラークは、アルテミアの反応を確かめながら、もっとも伝えたい言葉を口に出した。


「つまり、人は終わる。戦う術を…いや、生きていく術を失って」


アルテミアは、無言になる。


アルテミアの注意力が、落ちていることを確信すると、クラークは堂々と、ほくそ笑んだ。


「でも、それは仕方のないことだ。誰かの犠牲の上にある…力など、あってはいけないのだよ」


クラークは、ブラックカードを再び取り出すと、右手の人差し指と中指の間に挟み、


「よく考えることですね。では、また…」


頭を下げると、魔法を発動させた。テレポートだ。


アルテミアははっとして、クラークに近づこうとしたが、結界に阻まれた。


「待って!お母様の心臓のある場所は!」


必死に、手を伸ばすアルテミアの目の前で、クラークは消える瞬間、


「君なら、わかるさ」


その言葉を残して、クラークは安定者の間から消えた。


すると、結界も消えた。


アルテミアは、薄暗い部屋で、独り…崩れ落ちた。


「あたしは…どうしたら…」


自失呆然となったアルテミアは笑い…その後、涙が溢れてきた。


そして、心の中の何かが叫んだ。


「ウオオオオオッ!」


アルテミアが叫んだ瞬間、安定者の間に、銃を構えた兵士が突入してきた。


「何だ?これは…」


部屋の惨劇を見て、驚く兵士達は、その疑問をとくことはできなかった。


アルテミアの絶叫は、空から無数の雷を呼び、防衛軍本部を直撃した。


そして、中からは……アルテミアの悲しみと怒りが具体化し、本部を内部から消滅させた。


多くの兵士や……そこにいた、すべての人を、この世から消し去った。




下からも雷が走り、崩壊していく建物の中から、6枚の翼を広げた天使が、飛び去っていったのを、見送る者は、誰もいなかった。





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