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偽善者の宴

「赤星浩一!」


ヨルダは、剣の切っ先を僕に向けた。


「赤星!変われ!」


アルテミアの声が、ピアスから聞こえてきた。


「死ね!赤星!」


ヨルダは地面を蹴り、突きの体勢で向かってきた。


「赤の王!」


ヒメカも後ろから、襲いかかってくる。


「赤星!言うことを聞け!」


アルテミアの叫びを聞きながら、僕は目を閉じた。


「モード・チェンジ!!」

「!」


僕が目を開けるよりも速く、アルテミアの声が僕の鼓膜と周囲を震わせた。


その瞬間、僕の魔力をアルテミアが超えた。


「赤星!」


体を取り返したアルテミアは、ヨルダの突きを紙一重でかわすと反転し、回し蹴りをヒメカに叩き込んだ。


「ウッ!」


体をくの字に曲げたヒメカの胸に、勢い余ったヨルダの剣が突き刺さった。


「赤星!てめえは、女の扱いを知らない!とち狂った女にはな!男が何やっても意味がない!」


アルテミアは空中に飛び上がると、回転する二つの物体を掴んだ。


そして、槍にすると脇に挟み、女神の一撃の体勢に入る。


「アルテミア、やめろ!街が吹き飛ぶ!」


僕の叫びを聞いても、アルテミアは眼下の二人だけを見つめていた。



「き、き、貴様!」


すべてを灰にするヨルダの剣が、ヒメカの体を焼き、傷口から肉の焼ける音がした。


しかし、その音はすぐに止まった。ヒメカの全身が、炎と化したからだ。


ヒメカは剣を掴むと、ヨルダを睨み付けた。


「な」


絶句したヨルダの目に、炎の腕が迫ってくるのが映る。


「チッ」


アルテミアは舌打ちすると、一気に地上に向けて落下した。


そして、ヨルダとヒメカの間に下り立つと、アルテミアは槍を下から上へヒメカに向けて、振り上げた。


「きゃあああああ!」


力を抑えていたが…女神の一撃を受けて、ヒメカの体がふき飛び、消滅した。 凄まじい光が、町の上空を照らした。


「!」


突然の出来事に固まっているヨルダを、アルテミアは睨み付けた。


「てめえの男は、あたしが殺したかもしれない!だがな!赤星を殺そうとするなら!あたしが、てめえを殺す!理屈なしにな!」


「な!」


アルテミアの迫力に、思わず後退ったヨルダは、ふらつきながらも、体の自由を取り戻した。


「ア、アルテミア…さん?」


僕は、何も言えなくなっていた。


「な!」


ヨルダは唇を噛み締め、


「何を言うか!私のチャーリーを殺しておいて!人殺しが!」


再び剣を握り締め、構えた。


「それでも、あたしは!」


アルテミアが槍を離すと、回転する二つの物体に変わり、どこかに飛んで行った。


「人間を守ると決めた!約束した!だからこそ、あたしは謝っても、悔いはしない」


アルテミアは、ヨルダを睨んだ。


「チャーリーを!人間を殺したやつが!何を守る!何を!魔王の娘が!偽善者が!人殺しが!化け物がああああ!」


ヨルダは再び、斬りかかってきた。


「ああ…」


アルテミアは頷いた。


「あたしは、偽善者で…人を捕食するバンパイアだ」


「後悔しながら、死ね!」


ヨルダはジャンプすると、アルテミアの頭上から剣を振り下ろす。


「それでも、人を守らない理由にはならない」


アルテミアは拳を握り締め、


「あたしは、いろんなやつからバトンを受け取っているからな!」


空中から襲いかかってくるヨルダの腹に叩き込んだ。


「ウッ!」


ヨルダの体が曲がり、口から泡を吐き出した。 ヨルダの手から剣が落ちるのと、彼女が気を失うのは同時だった。


アルテミアは、自分の体に覆い被さるように気を失ったヨルダを地面に寝かせると、町の周囲に気をやった。


魔物の気配はなくなっていた。


しかし…。


アルテミアは後ろを、睨み付けた。


「役に立たない女だ。殺されることもできないのか」


ため息と共に、テレポートしてきた者は…仮面を被ったオーティスだった。


オーティスは、横目で自らを見るアルテミアに微笑みかけた。


「久しぶりだな。アルテミア。母親に似てきたかな?」


オーティスの言葉に、アルテミアは眉を寄せた。


「誰だ?お前は?」


その言葉に、オーティスは苦笑した後、肩をすくめて見せた。


「まあ〜いい。今は、アルテミア…君よりも、赤星君に用がある。変わってくれないか?」


「…」


何も答えないアルテミアの代わりに、僕が答えた。


「アルテミア…変わってほしい」


「チッ!」


軽く舌打ちした後、アルテミアはモード・チェンジと吐き捨てるように言った。


「フッ」


オーティスは口許を緩めると、両手を広げた。


「会いたかったよ。赤星君」


オーティスの言葉に、僕は彼の目を見つめた。


「クラークさん…」


僕がそう呼ぶと、クラークは嬉しそうに微笑んだ。


「そうだ!赤星君!君は、そんな女といっしょにいてはいけない!君は、人類の!」

「…ではない。あなたは、クラークさんではない」


オーティスの言葉の途中で、僕は彼との間合いを一気に詰めた。


目の前に現れた僕の顔に絶句するオーティス。


「あなたは、誰だ?」


僕は、オーティスの仮面に手をかけると、握り潰した。


仮面が砕け、オーティスの素顔が露になった。


「クラークさんは、人の未来を常に考えていた。すべての人間を救いたいと思っていた!やり過ぎのところもあったが!お前とは違う!」


「君にはわからないのさ。我が崇高な考えを!」


オーティスの姿が変わる。全身に棘を生やしている…黒の魔物に。


「オーティス!お前は、何者だ!」


黒き翼を広げ、空中に飛び上がったオーティスを追って、僕は空へ舞った。


「私は、私だ!人類を導く者!」


「違う!お前は!」


どこからか飛んできた回転二つの物体が、僕の手元で一つになった。


「お前は、クラークさんでもない!人間でもな!」


ライトニングソードを握り締めると、僕は速度を上げ、オーティスを一瞬で追い越した。


「な」


オーティスの体が空中でスライドし、胴体から真っ二つになった。


「同じ人間はいない。クラークさんは死んだ」


僕の手から、ライトニングソードが分離すると、地上に落ちていくオーティスを見下ろした。


「赤星…」


アルテミアの声に、僕は頷いた。


「お願いするよ…アルテミア」


地上に向けて降下ながら、僕からアルテミアに変わった。


地上に下り立つと、アルテミアはオーティスの頭部まで近付くと腰を屈め、彼の額に手を当てた。


アルテミアの指先から、微弱な電流が放たれた。


天空の女神であるアルテミアは、電流と電波を操り、相手の記憶を探ることができた。


「な!」


アルテミアは目を見開いた。


「どうした?」


「こ、こいつには…」


アルテミアは気持ち悪そうに、顔を歪めると、手を離した。


「き、記憶がない!ち、違う!こいつには、自分の生きてきた記憶がない!まるで、必要な情報しかコピーされていない…機械のように」


魔法が支配するブルーワールドで、僕の影響か…アルテミアは機械に少し詳しくなっていた。


「アルテミア…どういう意味?」


「うん?」


少し考え込んでしまったアルテミアは、視線の端で光る妙な明かりに気付いた。


それは自然の光ではなく、機械の光。


アルテミアはその光に向かって、歩き出した。


そして足を止めると、足下に転がるものに視線を落とした。


そこには、僕に破壊された仮面の破片が転がっていた。

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