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明日への光

「ふ〜ん」


僕の説明を聞き終わったアルテミアは、あまり興味がわかなかったように、軽く頷いた。


「まあ…僕の命を救ってくれたらしいんだ。一緒にいた妖精の話だけど」


魔王レイの居城にて、魔力を封印された僕は、途中で力尽き、気を失った。


その時、レイに殺されそうになった僕の命に火を灯し、力をくれたのが、フレアだった。


その際、フレアはレイの手によって、命を失っていた。


(フレア…)


僕は、蜻蛉の羽をもった…炎の魔物の姿を思い出していた。


(炎の騎士団長…レンネの妹…)


フレアの姉であるレンネの姿を見たのは、魔王の城に攻め込んだ時に、一目見ただけであった。


(フレアには、似てなかったな…)


切れ長の瞳に、クールな雰囲気の持った美人。


魔王の前にいたから、まじまじと見ることはできなかったけど、鋭い殺気と美しさを感じることができた。


(あれが…大人の女性?と言っても、人間じゃないけど)


僕がそんなことを考えていると、アルテミアは頭をかきながら、少し顔をしかめた。


「赤星。てめえが、あのリンネの妹を知り合いだとはな。まあ〜あたしは、見たことがないが…炎の騎士団の親衛隊に所属していると聞いたことがある」


アルテミアは腕を組み、


「まさか騎士団から抜けているとはな。ネーナがいなくなって、指揮系統が麻痺しているのか」


少し考え込んだ。


(だけど…)


僕もまた、考え込んでしまった。


(さっきのフレアに似た魔物は、何だ?)


フレアに似ていたが、感じた魔力は遥かに、彼女を凌駕していた。


(魔物と違って、108の魔神や騎士団長、さらに女神は、魔王ライによって創られたと聞いたことがある。つまり、さっきのやつは、新たに魔王が創った魔神か?)


正解かどうかはわからないが、それしか考えられなかった。


(フレアに似た魔神と戦わせて、僕に動揺させるつもりか?)


さすがに、魔王ライがそんなせこいことをするはずがないし、そんなことで、僕が動揺するはずがなかった。


(あいつは、フレアとは違う!)


改めて自ら、うんと頷いた僕。


しかし、アルテミアは違った。


「あ、赤星を救った〜魔物ねえ〜」


震えながら、呟くように言うと、アルテミアは両拳を握り締めた。


「へぇ〜」


一気に、魔力と殺気が上がるアルテミアに、今度は僕の全身に震えが走った。


「ア、アルテミアさん…」







「すべてが、計画通りとはいかないか…」


人類解放軍の本部。その地下は、ある場所につながっていた。つながっているといっても、通路等でつながっている訳ではなかった。


空間と空間がつながっているのだ。


オーティスは、プロトタイプブラックカードを何もない虚空にかざした。


すると、自動ドアが開くように、別の空間が現れた。


そこはかつて…安定者達が鎮座していた空間であった。


アルテミアの攻撃によって、壊滅的な打撃を受け、元の姿をとどめていないが…オーティスは崩れた天井、瓦礫の中を縫うように歩いていく。


「あの小娘も、ここまでは気付かなかったか」


オーティスは、部屋の奥にまで来ると、今度はしゃがむと床に片膝を付き、プロトタイプブラックカードを床に射し込んだ。


すると床に、オーティスの体を囲むように黒い線が走り、その中にいるものだけが消えた。


「フフフ…」


落とし穴のように、床から下に落ちながら、オーティスは笑った。


そして、数十メートル下に落ちると、オーティスは暗闇の中で下り立った。


「これぞ!人類の叡知!」


オーティスは床を踏み締めながら、歓喜の笑みを口元に讃えた。





「人類解放軍か…」


今や通信機能がメインになったカードから流れるニュースを聞きながら、細身の男はフッと笑った。


「何だ?それは」


カードをしまう男の周りを、妖精が飛び回っていた。


その妖精の名は、ティフィン。


かつて、赤星達と一緒に、ロストアイランドで戦った妖精であった。


そして,今は赤星によって、解放されたロストアイランドから、世界を見てまわる為に旅をしていた。


「それにしても〜よくこんな場所に来たいと思ったな」


ティフィンは男の周りから離れ、空へ上昇した。


南アメリカ大陸…アンデス山脈。その一角に、村はあった。


自然の崖と加工された石を組み合わせ、外敵から守る防御壁とし、その中で生きる人々。


そこを訪れ、旅立つ男と妖精を見送ってくれた女性は、語ってくれた。


自分が赤ん坊の時に、この村を救ってくれた戦士の話を。


「来たかったんだ。個人的にね」


男は、防御壁の側面に立ちながら、微笑んだ。暖かい風が、男の頬を撫でた。 その心地よさが、男をさらに笑顔にさせた。


(先輩…)


男は空を見上げた。


(俺は…まだ生きています)


そして、空に向かって微笑んだ後、鋭い拳を突き上げた。


空気が破裂する音がした。


しかし、男は突き上げた拳をさらに握り締め、その上空にある太陽の眩しさに目を細めた。


(だけど…まだまだ及ばない)


男はゆっくりと、瞼を閉じた。


すると、瞼の裏に映るのは…遥か向こうを歩く…白い鎧を着た女性の姿。


「アート。行こうぜ。山を下りるんだろ?」


しばらく固まっていた男の前に、ティフィンが飛び込んできた。


「いや…」


男は瞼を開けると、口許を緩め、


「下りるんじゃない。探索するんだ。人類の叡知と自然に満ちた…この山々をね」


拳を下ろすと、ゆっくりと歩き出した。


「べ、別にいいけどさ。ここは空気が旨いし」


ティフィンは、男の肩に座ると、大きく背伸びをした。


「ああ…。旨いな」


男は満足気に頷くと、防御壁を蹴り、眼下に広がる自然に向かって飛び下りた。







「どうした!何があった!」


ジャングルから戻ってきた15人の防衛軍兵士達。彼らを待ち受けていたのは、美しき闇であった。


「に、逃げろ…」


「何があった!」


「バ、バンパイア…」


それが、隊を出迎えた職員の最後の言葉となった。


職員は、ミイラのように干からびた。その首筋には、2つの傷痕が…。


「バンパイア…」


呆然としながら、呟いた兵士達の前に、天使が舞い下りた。


それは、六枚の蝙の羽と、黒い鎧を身に纏い、漆黒の髪に、血よりも赤い瞳。


異様な程の底知れぬ魔力に、恐怖を感じるよりも、人はその美しさに心奪われ、動けなくなる。


しかし、15人の中で、1人だけ違った。


「ヨ、ヨルダアアア!」





「チャーリー!」


彼女は目覚めた。いつもの悪夢から。


しかし、少しだけ違ったところがあった。


寝ている場所が違うのだ。


「は、は、は、は、は」


激しく息をしてから、彼女は額の汗を拭った。


悲しき絶望はすぐに、怒りに変わった。


「アルテミア!」


拳をおもいっきり握り締めた後、ベッドから飛び下りると、彼女は着ていた服を脱ぎ捨てた。


そして、すぐにベッドの角にハンガーに引っ掛けていた制服に手を伸ばした。


「ヨルダ・マーティン少尉!」


激しいノックの後、部屋の外からドアが開いた。


「司令がお呼びです」


「了解した」


「は!」


ヨルダの返事に、廊下に立つ兵士が敬礼で返した。


「…」


ヨルダは風のように、部屋を出ると、兵士の横をすり抜けた。


そして、廊下の床を踏み締めながら、奥に向かって歩き出した。





「朝早く…すまないね」


机と椅子しかない…質素な司令官室に、仮面を脱いだオーティスがいた。


「いえ!」


ヨルダは、二度目の敬礼をした。


オーティスは微笑むと、ヨルダに寛ぐように、手で示した。


敬礼をとくヨルダ。


「私は、おべっかは使わない。冷たいと印象をもたれても、すべてはシンプルでなければいけないと思っている」


オーティスは机の上で腕を組むと、ヨルダの目を見据え、数秒間をおいてから、口を開いた。


「天空の女神の討伐隊を組織し、彼女を倒す為の部隊を率いてほしい」


「天空の女神!」


その言葉に、ヨルダは奥歯を噛み締めた。


「そうだ」


オーティスは組んだ腕で、口許を隠すと、にやりと笑った。


「入ったばかりのわたしめに、そ、そのような役を…よろしいのですか?」


司令の前である為、ヨルダは感情を抑え、表情を引き締めた。


「私は、君の怒りと悲しみを理解している。それに、防衛軍での働きも。すべてを吟味した結果、君しか適任はいないと判断した」


オーティスは腕をほどくと、立ち上がった。


「あ、ありがとうございます」


再び敬礼するヨルダに、オーティスは背を向けた。


「しかし…一つ、問題がある」


オーティスは、灰色の壁を見つめ、


「天空の女神と融合している…赤星浩一についてだ」


顔をしかめた。


「赤星浩一?彼は、勇者ではないのですか?先の戦いでも、防衛軍の兵士達を助けたと」


ヨルダは、突然の赤星の名に、眉を寄せた。


「勇者!そう彼は、勇者と言われている!しかし、実情は違う!彼は、アルテミアと結ばれている!か、彼は!」


オーティスは振り返った。


「魔王の城に囚われていたアルテミアを、助けに来たに過ぎない!」


「え」


ヨルダは、目を見開いた。


「マーティン少尉」


オーティスは、全身をヨルダに向け、


「このことは、内密にしてほしい。彼は、今や人類の希望だ。しかし、事実は違う。我々は民衆の希望を奪うことはできない!しかし、受け継ぐことはできる」


彼女の瞳を見つめた。


「マーティン少尉」


「は!」


「我々が、彼に代わり、民衆の真の意味での希望にならないといけない」


「その通りであります」


敬礼する指先に、ヨルダは力を込めた。


「天空の女神を排除するのに、彼が邪魔した場合、彼も殺せ!しかし、それは、君と私だけの秘密だ。赤星浩一に関しては、トップシークレット事項とする」


「は!」


「やってくれるな」


「はい!」


力強く返事をしたヨルダに、オーティスは深く頷いた。



数分後…部屋を出たヨルダを見送ってから、オーティスは声を出して、笑った。


「どうする?赤星浩一!君は、人間を守れるか?この愚かで、単純で悲しい生き物をな!」







人が襲われ、魔物に蹂躙されることは、この世界の摂理なのかもしれない。


「赤星!」


しかし、それでも僕は…。


「わかっている!」


実世界でいうところのアフリカ大陸…一番南東の地に、僕は僕の姿で下り立った。


この世界は、実世界とリンクしているというが、やはり人が住もうと思う場所は一緒である。


海が近いということは、この世界では死を意味するが、この町は自然の崖と、結界士による魔法の壁で守られている為に、人々は安全に暮らしていたはずだった。


しかし、空から結界を破る程の魔力を有した魔神によって、町は蹂躙されていた。


防衛軍の解体により、職を失った結界士を何人も雇っていたこの国は、神レベルの脅威の前に、死の国へと変わろうとしていた。


(しかし!そんなことはさせない!)


破られた結界の一部から、光と間違う程の速さで中に入った僕は、ビルの谷間を縫い、一気に町の中心部に着地した。


「間に合わなかった…」


僕の周りでは、ガマガエルに似た魔物が、少女の下半身を噛み砕いていた。痛みから、少女はもう既に絶命していた。


ガマガエルに似た魔物の数は、感知しただけで数百はいた。


「赤星!まだ生きているやつはいる!今は、悔いるな!」


ピアスからのアルテミアの声に、唇を噛み締めてから、僕は頷いた。


「わかっている」


まっすぐに背を伸ばし、立ち上がった僕の両手にファイアクロウが装着された。


「せめて…無惨な姿を残さないように」


僕は爪先を立て、一回転した。


すると、ファイアクロウの先から放たれた炎が円を描き、さらに先端が蛇のような頭になると、ビルの間や建物の中…魔物だけを感知して、綺麗な円ではないが、町を囲むように放射線状に広がっていく。


「スパイラルファイア…」


呟くように、僕は言った。


町中から、魔物達の断末魔が聞こえてきた。


炎で、町中が赤く照らされたが、それは一瞬であった。


魔物以外は燃やしていない。


そのことを確認すると、僕は空を見上げた。


ファイアクロウから炎の放射は、消えた。


「ケケケケ…」


笑い声が、町の上空から聞こえてきた。


「器用なことで!」

「流石は、赤の王というべきかな?」


先まで、存在を消していたのか…無数の烏天狗がビルの上にいた。


さらに、ガマガエルに似た魔物がいた場所から、炎が燃え上がり、新たな形を作った。


「流石は、赤の王!燃え尽きた後の空間だというのに、我が体が火照るわ」


炎は、スイカ並の乳房と、顔の半分をしめる一つ目の魔物に変わった。


「我々、炎の騎士団には、心地よいわ」


ビルの隙間から、炎の魔神達が姿を見せた。


「…」


僕は無言で、炎の魔神達を横目で見つめた。


「王の力を持ちながら」

「人間とは違う存在になりながら!」

「我々を殺す!」

「この世界の理を壊す」

「破壊神め!」


魔神達は一斉に構えた。


「不動様の!」

「ネーナ様の敵!」

「討たせてもらうぞ!」


そして、地上から空から、同時に仕掛けてきた。


「アルテミア!町の人達は…」


人々の安全を確認しょうとした瞬間、空から炎が落ちてきた。


「!」


驚きながらも、僕はファイアクロウでそいつの攻撃を、受け止めた。


「フレア!じゃなかった…」


ファイアクロウが受け止めたのは、ヒメカが手にした長剣だった。


「チッ」


ヒメカは舌打ちすると、僕から離れた。


すると、長剣は槍に変わった。


下半身の重心を落とし、突きの体勢になるヒメカ。


「なめるな!」


僕が構えようとした時、地面の下から炎の手首が生えてきて、僕の足首を掴んだ。


「覚悟!」


両足を固定されてしまい、バランスを崩した僕に向かって、ヒメカと魔神達が襲いかかってきた。


「な、なめるな!」


僕の背中から、炎の翼が生えた。


「ひいいい!」


一瞬で飛び上がると、足首を掴んでいた炎を引きちぎった。


「赤の王!」


ヒメカ達の攻撃は避けれたが、空には烏天狗がいた。


僕が飛び上がると同時に、彼らは仕掛けていた。


「きいいい!」


奇声を発しながら、ジクザクに僕の周囲を飛び回る彼らに、僕は少しだけ苛立ちを顕にした。


「チッ」


すると、背中から生えていた炎の翼の量が、一気に膨れ上がった。


「うぎゃああ!」


僕の後ろにいた烏天狗達が、一瞬で燃え尽きた。


「な、何という魔力!」


群れの中で一番大きい烏天狗は、空中で動きを止めて絶句した。


その次の瞬間、その烏天狗は左右の目がずれて、景色を映していることに気付いた。


「ば、化け物め」


ずれた左右の目に、剣を振り下ろした僕の姿が映る。


烏天狗は、斬られたことさえ気が付かなかった。


「ライトニングソード…華烈火」


勝負は一瞬でついた。


爆煙が空を覆いつくし、烏天狗達は消滅した。


「あ、赤星!」


地上にいたヒメカが、僕に向かってジャンプした。


(うん?)


ヒメカが向かってきているのに、僕の意識は別のものに引き寄せられていた。


(光?)


僕は、光を感じた方に顔を向けた。


「赤星!」

「赤星いい!」


アルテミアとヒメカの叫びは、同時だった。


振り下ろされたヒメカの長剣を、僕は無意識に避けると、空気を蹴った如く、空中で加速し、一気に町の外れまで移動した。


「歌が聴こえる…」


目に留まった一際大きなビルの真上に着地すると、僕は眼下に目をやった。


「何を言っている?赤星」


ピアスから心配そうなアルテミアの声が聞こえてきたが、僕の耳には入らなかった。


(それに…この歌を知っている!)


僕は躊躇うことなく、ビルから飛び下りた。





その時、ビルの地下につくられたシェルター内に、数百人の人々が避難していた。


しかし、人々は知っていた。それは、単なる時間稼ぎに過ぎないことを。


結界を砕く魔神ならば、シェルターなど意味がないことを。


しかし、人々は僅かな希望にすがり、ここで寄り添っていた。


そして、そんな人々を癒す存在がいた。


彼女はまるで、人が死ぬ度に美しく、力強くなっていくように、シェルター内の人々は感じていた。


薄暗く狭い空間で、人々に向かって、歌う少女。


その曲名は、やさしさだった。

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