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木漏れ日

「うわあああっ!」


とある森。


結界を張った町を抜けると、中立地帯である草原が広がり…その奥には、絶対的で絶望的な世界が広がる。


魔の世界だ。


しかし、人は旅する生き物である。


もしくは、生きる為に届け、命を繋ぐ為に、個から数へ集まる存在である。


町で食べ物は消費されても、つくることはできない。


ティアナ・アートウッドによって構築されたカードシステムは、食物の配給をも視野に入れていたが…生き残る…いや、戦い、存在を保つことを優先した為に、それは除外された。


だからこそ、人々は安全を確保した生産場所から、各町に輸送していたのだ。


命を紡ぐものを。


しかし、そこに完全なる安全はない。


今もまた、魔物のテリトリー内で、数名の命が…やつらの糧となった。


転倒したトラックから崩れ落ちたものより、逃げ惑う者の方が、やつらにはご馳走だった。




(命は容易い)


遠くから感じた悲劇を、舞子はただ一言で当然と、切り捨てた。


クラークを殺した赤星浩一への復讐で、一度は狂いそうになったが…オーティスの存在が、彼女のすべてを涙に変え、その後…無関心へと落ち着かせた。


(あなたが守ろうとした者達は、脆く儚い。例え、どんな力で守ろうが…いずれ、なくなる)


人類解放軍の本部から出て、魔の領域である森の奥地に来ていた舞子に、襲いかかる魔物はいない。


やつらは知っているのだ。 強者というものを。


誰も寄ってこない孤独な危険地帯を歩く舞子のもとに、小さな火種がどこからか飛んで来て…数メートル向こうで少しだけ燃え上がった。


舞子は、見た目よりも熱量を感じる炎に目を細め、ただ無言で見つめた。


まるで、線香花火を見るように、儚げに。


「貴女は、人ね」


炎を見つめる舞子の後ろから、声がした。


「動物は、本能的に炎を恐れる。なのに、人間の中には炎に魅せられ…その中で身を滅ぼす者もいる」


「…」


舞子はその声に、無関心のように、ただ…目の前の炎を見つめ続ける。


「あなたは一体…何?」


その言葉に、舞子はうっすらと冷笑を浮かべながらこたえた。


「ただの…悲しい女よ」


「女?」


舞子のこたえに、炎は膨張し、人の形をつくる。


「そうよ」


「クスッ」


炎の人形は笑い、


「人間は大変ね。人間であるだけでなく、女や男でなければならない」


ゆっくりと温度を下げていった。


「何がいいたい」


舞子は、炎の人形を睨んだ。


すると、炎は一瞬で凍り付き、人型のオブジェになった。


「ただ…」


しかし、オブジェはすぐに内部から爆発し、その中から…リンネが姿を見せた。


「知りたいだけよ。女とは何?男とは…それを愛するとは…。そして」


リンネは、そこでスゥと目を細めた。


「その先にある…自己犠牲とは…」


リンネの言葉に、今度は舞子が笑った。


「あんたは、女に見えるわ。見た目はね。それとも、何かしら?魔物の癖に、人間になりたいの?」


舞子の雰囲気が変わる。まるで、永遠に溶けることのない氷でできたように、冷たい体。それよりも、冷たい瞳でリンネを射ぬいた瞬間、マグマよりも熱いリンネの体が凍り付いた。


「へぇ〜」


しかし、凍り付いたのは一瞬だった。


「大した魔力だ。これが、あの男が言っていた…魔獣因子が目覚めた人間の力か」


リンネの脳裏に、魔王の前で跪く西園寺の姿がよみがえる。


「とにかく」


リンネは笑みを浮かべ、


「あなたに興味があるわ」


舞子に一歩近付いた。







「と、とにかく!食べたものは、払う!」


「はい。はい」


僕の言葉に、アルテミアは頭をかきながら、邪魔臭そうにこたえた。


「ティアナさんのように、勇者になりたいんだろ!」


「う!そうだけだけさ」


ティアナの名前が出て、アルテミアは少し口ごもった。


「勇者と周りに認められたいなら、強さだけじゃなくて、素行もよくなくちゃいけないよ」


「わかりました!」


ぶっきらぼうにこたえたアルテミアの前に突然、黒き影が上空から落下してきた。


「え!」


驚く僕とアルテミアの目に、黒髪を靡かせた美しき女の姿が映る。


「あの野郎!またあたしの体を!」


アルテミアは地面を蹴ると、拳を降り立った女に突きだした。


アルテミアの姿をした黒髪の女は、アルテミアの拳を片手で受け止めた。


「な、舐めるな!」


アルテミアは爪先から、拳まで力を込めると、一気に吐き出した。


その瞬間、黒髪の女の全身の肌がざわめくと、ヒビが走った。


「!?」


驚く僕の目の前で、女の肌が砕けた。


アルテミアの中から姿を見せたのは、まったく見たことのない…いや、知っているものに似た女だった。


「フレア!」


思わず叫んだ僕の声に、アルテミアは顔をしかめた。


「誰だ?そいつは?」


僕を問い詰めようとした一瞬の隙をついて、フレアに似た女はアルテミアの拳を払うと、バランスを崩さし、回し蹴りを放った。


「く」


反射的に身を捩り、蹴りを交わしたが、アルテミアの頬に傷が走った。


フレアに似た女は足を下ろすと、まっすぐにアルテミアを見つめた。


「ほお〜」


アルテミアは体勢を整えると、頬に走った傷に指を当てた。


「あたしの知らない女の話は、後できくとして」


「え!」


「今は、こいつを…」


アルテミアは、魔力を上げた。


「ぶっ殺す!」


「ア、アルテミアさん?」


「モード・チェンジ!」


アルテミアの姿が変わった。


黒のボンテージ姿に、短髪の…ストロング・モード。


「赤星!てめえも後で、ぶっ殺す!」


アルテミアは、前に出た。







「新しい魔神?」


「そうだ」


ギラの問いに、バイラは頷いた。


王の居城の離れで、三人の天空の騎士団長が揃っていた。


「赤の王…いや、赤星浩一と天空の女神を倒す為に、王は新たな魔神を生み出された。不動の穴を埋める…新たな炎の騎士団長として」


「…」


バイラの話を聞きながら、サラは目を瞑った。


「奇しくも、その姿はかつて…二つにわけた炎の女神の片割れに似ていた…」


バイラは目を細め、


「まだあやつは、知らない。新たな魔神を見たならば…あやつは、どう思うか」


ゆっくりと瞼を閉じた。


「仕方がありません」


逆に、サラは目を開けた。


「赤星浩一は、甘い。彼は戦士として目覚めていますが…甘過ぎる。この前も、アルテミア様に変わらずに、自らの手で戦っていたならば」


「王が負けるというのか?」


ギラがサラを睨んだ。


「違う。そういう意味ではない」


サラはギラを無視し、バイラに顔を向けた。


「彼は、身内に甘い。新たな魔神が、リンネの妹に似ているならば…彼は戸惑う。そこに隙ができる。それは、アルテミア様も」


「あの少年が倒されれば、アルテミア様は肉体にお戻りになられる!そうすれば、何とか説得して、元の地位に!」


嬉しそうなギラの様子に、バイラは鼻を鳴らした。


「そう簡単にいくかな」


そして、窓の外から、向日葵畑に目をやった。







「うりゃああ!」


再び拳を突きだしたアルテミア。


その攻撃を再び受け止めようとしたフレアに似た魔神。


「フッ」


アルテミアは笑うと腕を曲げ、腰を捻り、肘を突きだした。


「フレア!」


思わず叫んだ僕に、アルテミアは毒づいた。


「てめえは、誰の味方だ!」


アルテミアの肘は、フレアの顎にヒットした。


しかし、フレアに似た魔神の体がその瞬間、煙になり、その場から消滅し、数メートル向こうに出現した。


「こ、こいつ!」


アルテミアは、空振りに終わった攻撃の勢いそのままに、フレアに似た魔神の方に体を向けた。


「あたしは、フレアではない」


フレアに似た魔神は、アルテミアを指差し、


「あたしの名は、ヒメカ。炎の騎士団長」


名を告げた。


「炎の騎士団長!だと!」


アルテミアは、ヒメカを睨んだ。


「ごきげんよう」


ヒメカは微笑むと、完全にその場から消えた。


「炎の騎士団長…ヒメカ…」


唖然とする僕に、アルテミアが告げた。


「て言うより…誰が、フレアって?」


アルテミアの怒りはすべて、僕に向けられたことになった。


アルテミアの怒りを鎮める為に、僕は数時間費やすことになる。






「女とは何か…人間とは何か?そして、愛とは何か?」


舞子と別れたリンネは、誰もいない荒野で立ち尽くしながら、夜空を見上げながら、口元だけで微笑んだ。


「答えはないのかもしれない。間違いも、正解も」



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