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ふたり

「どこに行っていた?」


魔王の城の離れにテレポートアウトしたカイオウの前に、壁にもたれ、腕を組んでいるサラが姿を見せた。


「フッ。少し野暮用でな」


カイオウはサラに一礼すると、敢えて彼女の前を通って、歩き出した。


石の回廊を奥へ歩いていくカイオウの背中を横目で見つめながら、サラも鼻を鳴らした。


「アルテミア様のところだろうよ」


そんなサラの横に、いつのまにかギラが立っていた。


二メートル以上あるサラよりもさらに高いギラは、カイオウの背中に目を細め、


「アルテミア様のお目付け役は、我々のはず。でしゃばりおって」


奥歯を噛み締めた。


「そういう問題ではない」


サラはそれだけ言うと、その場から消えた。


「サ、サラ!?」


ギラも焦りながら、テレポートした。


静けさが戻った離れの窓から、向日葵畑が覗かれた。


その中で佇む魔神がいた。


バイラである。


「フン」


バイラは周りを囲む向日葵を見つめ、呟くように言った。


「魔王の娘でさえいれば…何一つ迷うことはなかったであろうに」


そこまで口にしてから、バイラは空を見上げた。


「しかし、あの女神は…お前の娘でもある」


魔界の空は、人間が住む世界よりも澄みきっていた。


「修羅の道をいくのは、定めか…」


バイラは肩につけているマントを翻すと、向日葵の中を城に向かって歩き出した。







「それじゃ〜あ!アルテミア!早速、爆弾の除去を!」


最初はどうなることかと不安になってしまったが…流石は、天空の女神である。


僕は安心して、アルテミアの処理が終わるのを待つことにした。


「あ、ああ!す、すぐに除去してやるよ!」


アルテミアは強がりながら、震える手を地面に向けようとした。


その時、正面から鋭い殺気を感じ、アルテミアも僕も一瞬で戦闘体勢に入った。


「誰だ!」


思わず構えたアルテミアの前に、先日姿を見せた紫色のディグが立っていた。


しかし、僕もアルテミアも現れた時からわかっていた。


(中身が違う!)


そう…目の前のディグから、感じるプレッシャーの中に、人間から感じることのできない魔力が混ざっていたからであった。


「余計なことはしないで貰いたい。がざつな君に弄られて、核が爆発したら、どうするつもりだい?」


ディグから聞こえてきた声に、アルテミアはキレた。


「がざつだと!?」


十メートルはあった2人の距離を、一秒以内で縮めたアルテミアの蹴りを、紫色のディグは片手で止めた。


「流石は、ディグブースト。改良されているな」


紫色のディグの中にいる者は、感心したように、蹴りを受け止めている腕に目をやった。


「な、なめるな!」


蹴りを止められたのは、本日二度目であるアルテミアは、さらに腰を捻り、空中で一回転すると浴びせ蹴りのような体勢で、ディグの背中にかかとを叩き付けた。


「甘い」


背中を丸め、下に目をやったディグブーストは、太陽の照り返しを受けて、アルテミアの影が地面に伸びているのを発見した。


「危ない!アルテミア!」


思わず叫んだ僕の声に、かかとを叩き込んだアルテミアは体勢を変えようとしたが、勢い付いていた為、止まらない。


ディグブーストは片膝を地面にめり込ませながら、人差し指と中指を立て、刀のように空を斬った。


「影狩り!」


僕は舌打ちすると、続けて叫んだ。


「モード・チェンジ!」


影狩りとは、クラークの特殊能力であった。


影を斬ることで、本体を斬る。


「チッ…」


軽い舌打ちが聞こえる中、僕はアルテミアから変わり、地面に足をつけた。


すぐに、全身を確認したが、斬られた部分はない。


「どうやら…避けられたようだな」


ディグブーストは膝を地面から抜くと、ゆっくりと立ち上がった。


「あんたは、クラークなのか?」


僕は、前に立つディグブーストを睨んだ。


「フッ」


ディグブーストは笑うと、背中一面にさざえの突起物に似た噴射口を出現させた。


「!?」


驚く僕の質問を無視して、さっきよりも加速しスピードを増したディグブーストが突進してきた。


「クッ!」


ディグブーストの爪がいつのまにか伸びており、それで僕に斬りつけようとした。


そのコンマ零秒の攻撃を無意識に避けた僕。


「!?」


僕自身も驚いていたが、攻撃を仕掛けたディグブーストも驚いていた。


「さ、流石は!赤の王!」


ディグブーストはすぐに反転すると、さらなる連続攻撃に出た。


「赤星!」


アルテミアの叫びに、どこからか回転する物体が二つ飛んできた。


「チッ!」


ディグブーストは両手で手刀をつくり、僕の体に突き刺そうとする。そのあまりの速さに、無数の残像ができる程だ。


「!?」


しかし、その攻撃はすべてかわされ、ディグブーストの爪はすべて斬り落とされていた。


僕の手の中にある剣によって。


「ラ、ライトニングソードか…」


ディグブーストは忌々しそうに、剣を睨んだ。


「ならば!」


気合いを込めると、一瞬でディグブーストの爪が復元した。


そして、目を真っ赤にさせると、歯軋りをしながら、こう叫んだ。


「モード・チェンジ!」


その次の瞬間、ディグブーストから感じるプレッシャーが格段に上がった。


「な」


それは、アルテミアも驚く程であった。


「赤星浩一!我々の仲間になれ!さもなくば!お前も!アルテミアも!我が軍によって…」


力が増したディグブーストが、動こうとした刹那…いや、その刹那前に、戦いは終わっていた。


いつのまにか、ディグブーストの後ろにいる僕。


「な、何?」


ゆっくりと振り返ろうと、腰を捩るディグブースト。


すると、腰から下は動かずに、そこから上だけが回転し、そのままずれて地面に落ちた。


「非情になれたか…。赤星浩一…君」


少し砂埃を上げて、地面に落ちた時には、ディグブーストの変身は解けていた。


すると、真っ二つになり、地面に無惨な姿を晒したのは…全身に黒い棘を生やした化け物だった。


「クラークじゃなかったのか」


耳につけたピアスから、アルテミアの声がした。


しかし、その声も…僕には聞こえてなかった。


「!!」


オバーラップする記憶が、僕に彼の正体を認識させた。


唖然とし、立ち尽くす僕の視界がブラックアウトした。


真っ暗な世界に、1人だけになった僕の肩に、後ろから誰かが手を置いた。


「赤の王よ。どうして悩む。お前は、人間でも魔物でもない。いや、それらを超え、それらを従わせる存在だ。こんな虫けら一匹に、何故心を乱す必要がある?」


耳許から聞こえる声に、僕は目を見開き、恐る恐る振り返った。


見えないはずの僕の瞳に、赤い目を輝かせた僕が映った。


「お、お前は消えたはず!?」


僕の言葉に、赤い瞳の僕はせせら笑った。


「俺は、お前だ。お前の中に吸収されただけで、俺は常に存在している」


赤い瞳の僕は回り込むと、僕の前に来て、両肩に手を置き、


「いいか。これだけは覚えておけ。お前は、誰かに縛られる存在ではない。この世界を支配できる王だ」


優しく微笑んだ。


「!?」


「お前が一番欲しかったアルテミアは、そばにいる。それ以外に、お前が大切にするものがあるか?」


赤い瞳の僕は、僕の肩を握りしめ、


「この世界の人間を守る必要も、その価値もあるのか?お前は、この世界のものではないんだぞ。いいか!お前は…いや」


ゆっくりと首を横に振り、


「それはお前が決めろ」


そう言った後、いきなり僕を抱き締めた。


「俺はお前だ。お前とともにいる。赤の王…いや」


赤い瞳の僕から、目の輝きが消えていく。


「赤星浩一」


最後にもう一度、ぎゅっと俺を抱き締めた後、赤い瞳の僕は消えた。


それと同時に、僕の視界が元に戻った。


「赤星!大丈夫か?」


アルテミアの声とともに、僕の視界に光が戻った。


「…」


「赤星!」


「…あ、ああ」


僕の目に、ブルーワールドが映る。


(ま、守るべき…世界…)


僕は、目を瞑った。


(違うな…。アルテミアがいる世界。だから、僕はこの世界に来た)


ゆっくりと息を吸い込むと目を開け、僕は足下に視線を向けた。


そこには…ディグブースト…いや、クラークの死体が横たわっていた。


(これで、人類解放軍には入れない。だけど…)


「赤星!」


アルテミアの必死な声に、僕は一瞬だけ微笑むと、足を進めた。


「大丈夫…。行こう!まずは、核をどうにか」


僕は炎の翼を広げ、その場から飛び立った。


(あれは…クラークなのか?もし、彼が生きているならば…あんな簡単に死ぬのか?)


疑問を抱きながらも、僕は飛んだ。


すべての答えを求めて…。







「フッ」


僕達が去った後、クラークの死体の前にテレポートアウトした者がいた。


「また…腕を上げたようだな」


赤星が飛び去った方を見つめながら、男は仮面を取った。


「次に、君が学ぶことは…人のしつこさと…執念だ」


オーティス・ハイネスは口許を緩めると、転がっている死体からブラックカードを取り上げた。


「そして、君が人間であるか…それとも、人間でないかを吟味しょう」


オーティスはカードを軍服の胸ポケットにしまうと、死体に背を向けた。


「その結果により、我々のプログラムは発動する。人類を解放し、尊厳を守る為のプログラムがな」


そして、眼下に広がる世界を睨み付けると、再びその場から消えた。

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