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解放戦線

「何者だ!」


目を開いた僕の魔力に、町にいた魔物達がざわめき、周りに集まってくる。


「…」


僕はやつらの言葉に答えず、ただ手に持っていた剣を前に突きだし、警告した。


「去りたいものは、ここからされ。去らぬならば…」


「笑わせるな!」


魔物達は、ただの人間の少年の姿をした僕の見た目だけで判断し、襲いかかってきた。


彼らは、自ら感じた野生の勘を無視したのだ。


次の瞬間、彼らは死滅した。


「お、王…」


細切れになった魔物の一体が、僕の横顔を脳裏に焼き付けながら、息絶えた。



「大丈夫?」


魔物の反応がなくなったことを確認すると、僕は後ろに倒れている少女の傷の状態を確認する為に振り向き、膝を地面につけた。


「話せるかい?自分の名前は、わかるかい?」


僕の質問に、少女は初めて微笑んだ。


「君は…?」


僕は、少女の傷を癒す為に、右手をかざした。


「あたしの名は…」


少女は暖かい光を浴びながら、自らの名を口にした。



「レダ…」







「ヴィーナス!光臨!」


魔王の城に攻め込んだ僕は再び、アルテミアと融合し、ライの前に立ちはだかった。


アルテミアの右手には、シャイニングソード。左手には、ドラゴンキラーが装着されていた。


「今のあたしは、ひとりじゃない!ロバートに、サーシャ!それに赤星!赤星の仲間!みんながそばにいる」


アルテミアは、叫んだ。


「モード・チェンジ!」


アルテミアの姿が変わる。いやそれは、彼女本来の姿かもしれない。


サンシャインモード。


「あたしは、あたしは!」


アルテミアは、ライに向かって走りだす。


「お母様のように優しく!強く!ロバートのように、己に厳しくて…サーシャのように、潔く!そして」


ライの両手から光が放たれるが、アルテミアはシャイニングソードで払いよけた。


「そして、赤星のように!誰かの為に、戦う人間になりたい」


アルテミアは飛んだ。


「これは、あたし一人の一撃じゃない!」


アルテミアは、シャイニングソードとドラゴンキラーを空中で振り上げた。


「みんなの一撃だああ!」


「フン!」


ライは、両手をシャイニングソードとドラゴンキラーを受けとめる形で、突き出した。 


「この世界は、あんたのものでも、あたしのものでもない!」



太陽よりも眩しい光が、玉座の間を照らし、漏れた光が城から世界へ放れた。


それは、あまりにも眩しく暖かい光だった。


もし、宇宙に人がいたならば、目撃したことだろう。


太陽と逆の方向から、新たな太陽の光が、溢れてきた瞬間を。




そして、魔王軍と防衛軍の戦いは、一旦の終焉を迎えた。


この戦いにより、防衛軍は指導者を失い、ほとんどの戦力を喪失したことにより、解体した。


魔王軍はダメージをあまり受けなかったが、新たなる脅威を感じ、さらなる緊張状態に陥った。


それは、魔王の娘である天空の女神アルテミアと、赤の王こと赤星浩一の存在。



「いくぞ」


ライに一撃を叩き込み、光が止んだ時、アルテミアは城の外にいた。


母親であるティアナ・アートウッドが植えた向日葵畑の中で、アルテミアは天を見上げながら、フッと笑い微笑むと、ゆっくりと歩き出した。


「ああ…」


僕が頷くと、アルテミアから変わり、空へ飛び立った。


一気に魔界を越え、世界をわける壁を突き抜け、僕は人々が住む世界に飛び出した。






「終わったか」


その様子を魔界との結界のそばで、見ていた人物がいた。


顔の半分を追おう白き仮面を被った男。


「司令官」


仮面の男の後ろに控えていた女のように見える男が、口を開いた。


「よろしかったのですか?貴重な戦力を失う結果になってしまいましたが?」


「フン」


仮面の男は鼻を鳴らし、


「これもまた、人の選択の内の一つ。この結果もまた、行わなければわからなかったことだ」


魔界の方に目をやった。


「しかし!」


反論を述べようとした部下に、仮面の男は振り向くと、微笑みを向けた。


「な」


その笑みに、絶句する部下。


「ナオト」


仮面の男は一歩前に出ると、ナオトと呼んだ部下の肩に手を置いた。


「人は、過ちからしか学ばない」


そのまま、ナオトのそばを通り過ぎた。


「犠牲は多かった。だからこそ、紡ぐ未来は素晴らしいものにしなければならない。それが、人の歩みだ」


「司令官!」


ナオトは、ゆっくりと歩を進める仮面の男の背中を見つめた。


「いくぞ」


二度目の言葉に、ナオトは感情を露出した。


「あなたが、率いていたならば!今回のことは起こらなかったはずです!あんな出生もわからない若造に、防衛軍を任せなければ!」


「それも、結界論だ」


「クラーク司令!」


ナオトの叫びに、仮面の男は足を止めた。


「クラーク…」


仮面の男は、手のひらで顔を覆う仮面を握りしめると、ゆっくりと取り去った。


「その名もまた、可能性の一つでしかない」


ナオトに聞こえるか聞こえないような小声で呟くように言い、仮面を脱いだ男の顔は、紛れもなく…安定者の1人だった、クラーク・マインド・パーカーその人であった。


クラークは数日前、ロストアイランドにおいて、赤星浩一との戦い敗れ、彼に人類の未来を託し、亡くなった…はずだった。


「人類の反撃は、今から始まる」


歩き出したクラークの前に、数百人の兵士達が跪いていた。


「犠牲は少ない方がいい。だが…そうはならないかもしれんがな」


フッと悲しく笑うと、クラークは再び仮面を被った。


「クラークの名は捨てた。これより我の名は、オーティス・ハイネス。防衛軍ではなく、人類解放軍として、魔王に!そして、彼らに連なるすべての者に、反撃の狼煙を上げる!」


オーティスの言葉に、兵士達は立ち上がり、一斉に右腕を天に突き上げた。


「ジーク!ハイネス!」


「ジーク!ハイネス!」


彼の叫びは、平穏を迎えたはずの世界に再び、動乱を告げることになる。



そして。


「歌…」


赤星が去った町の外れで、沈み行く太陽を見つめながら、レダは呟いた。





「行くぞ」


号令が終わった後、隊に背を向けて歩き出したオーティスに続き、兵士達も歩幅を合わせて歩き出した。


その列の一番後ろに、金髪の男がいた。


彼の名は、レーン。


防衛高校の一年生であったが、彼はこの部隊に参加していた。


類い稀なる戦闘能力を買われたのだ。


「大丈夫か?」


彼のそばで歩く1人の少女に、レーンは声をかけた。


「はい。大丈夫です。レーン様」


雪のようの白い肌を持つ少女は、まるで汚れの知らない乙女そのもののように思えた。


「雪菜」


レーンは優しく微笑むと、前を向き、少し目を細めた。


「君が、君であればそれでいい。もし、体調が悪くなれば、教えておくれ」


「大丈夫ですよ。レーン様。しかし、よろしいのですか?お兄様達に何も言わずに、このような部隊に参加されて…」


「大丈夫さ」


レーンは、先頭を歩くオーティスの背中を見つめ、


「あの人達も喜んでくれるさ」


口許を緩めた。


「そうでしょうか?」


少し首を傾げた雪菜に、レーンは微笑みだけを向けた。


「ああ…そうさ」



数分後、彼らは忽然と消えた。


その場から。



そして、再び姿を現したところは、かつて防衛軍の本部があった…実世界でいうギリシャの近くであった。


アルテミアによって破壊された本部の瓦礫の上に、再び悲劇が表現された。


西園寺を支援した防衛軍の士官達の首が、並んでいたのだ。


その様子は、電波ジャックされ、世界中に放映された。


指導者である仮面の男は、先日の戦いの真実を民衆に告げ…ただ犠牲を増やしただけの防衛軍のやり方を批判した後、防衛軍の解体を説明した。


「防衛軍はなくなった。しかし、我々人類は負けない!ここに新たなる組織の発足を宣言し!同士を募る!」


オーティスの言葉は、世界中に衝撃を与えた。

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