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託されたもの

「行くぞ!」


朝日を覆い隠す程の魔物の大軍を、迎え討つ村人達。


「…」


ティアナは、二本の剣で構えた。


「くくく」


烏天狗達が、町の上空を飛び回り、口の魔物達が、廃墟と化した神殿の回りに、落下した。


「いい天気でよかったですね」


ドキシが、広場の前に下り立った。


「死ぬには、晴れがよいでしょ?」


ドキシの笑みに、村人達は唇を噛み締めた。


「くそ!」


剣を握り締め、殺気立つ男達。


「やめよ」


その時、神殿の中から長老の声がした。


「うん?」


首を傾げるドキシ。


「入りたければ入るがよい」


長老の後ろから、女子供達が続々と出てきて、広場に散った。


「え!」


驚き、駆け寄ろうとするティアナを、長老は目で止めた。


「素直ですね。よろしい」


ドキシは羽を広げ、一瞬で神殿内に入った。


「だからと言って、見逃しはしませんけどね」


神殿内を見たドキシは、絶句した。


「な、何!?」


目を飛び出させ、神殿内を見回した後、叫んだ。


「どこに隠した!」


「隠してなどおらん」


長老は振り向き、ドキシに告げた。


「チッ!」


ドキシは舌打ちすると、神殿内から飛び出した。


「ここもフェイクか!」


ドキシは長老のそばに着地し、苦虫を噛み潰したような顔を向けた。


「紛らわしいものをつくりよって!目障りだ!この建物ごと!貴様らを殺してやる」


ドキシの怒りの言葉に、長老は笑った。


「できるかな?」


「じじい!なめた口を!」


ドキシの全身から、針が突き出した。




「おじいさん!」


慌てて走りだそうとしたティアナの前に、赤ん坊を出した母親が立ちふさがった。


「!?」


驚くティアナに、母親は抱いている赤ん坊の首にかかっている十字架を示した。





「守るべきものは、常に未来!この土地に生きる者達の明日を受け継ぐもの!」


長老は叫んだ。


「戯言はいい!最初に死ね!じじい!」


ドキシが針を放とうとした瞬間―――空に、雷雲が発生した。


「その希望は、我らが待ち望んだ救世主に委ねられた!」


長老の叫びに呼応するかのように、雷鳴が轟き…空中にいた烏天狗達を焼き切った。


「な、な、な…何!?」


ドキシは震えながら、振り向いた。


「これ程の魔力…あり得ん」


「……モード・チェンジ」


赤ん坊を抱いている母親のそばで、剣を天に突き上げたティアナが、呟くように言った。


瞬きの時。


それくらいの一瞬で、家屋に巣くっていた口の魔物が、全滅した。


「ば、馬鹿な!」


ドキシの周りで、地上から無数の雷が発生していた。


「認めん!」


ドキシの全身から、針が発射された。


「今度は毒入りだ!」


「きゃっあ!」


逃げる間もなく悲鳴を上げる人々。


「おおっ!」


長老だけが、歓声を上げた。


無数のティアナが一瞬で、すべての針を斬り落としたからだ。


それは残像であった。


そして、そのあまりの速さ故に、剣から衝撃波が発生し、四方八方からドキシを斬り裂いた。


「な!」


傷だらけになり、その場で崩れ落ちるドキシ。


自慢の羽も、六本の腕も斬り裂かれていた。


「空の騎士団である私が…人間に負ける?」


倒れたドキシは前に立つティアナを見、


「違う!人間に負けたのではない!その武器だ!その武器に、私は負けたのだ」


よろけながらも立ち上がった。


「人間などに負けるものか!」


その言葉を聞いたティアナは、剣を地面に突き刺し、丸腰でドキシに向って歩き出した。


「…」


ティアナは目を細め、ドキシを睨む。


「やはり…人間は…」


ドキシは、にやりと嬉しそうに笑った。


「愚かだ!」


ドキシの突き出した尻から、巨大な針が飛び出した。


「死ね!」


尻を前に向けようとしたドキシの視界から、ティアナが消えていた。


「え」


ドキシの頭上を舞うティアナ。


後ろに着地すると、突き出した尻を力づくで曲げ、ドキシの背中に向けた。


「そ、そんな…」


放たれた針は、ドキシの背中から胸を貫いた。


「馬鹿な」


2、3回ふらついた後、真横にドキシは倒れた。


「教えてあげる」


ティアナは、息を引き取ろうとするドキシに言った。


「あんたが、負けた理由」


「…」


もう話す力もないドキシ。


「あたしが…いや、あたし達が、未来を守る人間だからだ」


そう言うと、ティアナはドキシに背を向けて歩き出した。


そして、数秒後…地面から剣を抜いたティアナを見て、人々から歓声が沸き上がった。







「面白いですね」


その様子を遠くから見ていた者がいた。


黒い羽をコートのように身に纏った魔神ムゲ。


百八十の魔神の1人であり、空の騎士団に所属していた。


「あれほどの力…ギラ様とサラ様にお伝えせねば」


ムゲは、黒い翼を広げた。


「しかし…あれが、未来を継ぐということなのか…。私にはこう見える」


天を駆けながら、ムゲはフッと笑った。


「地獄を押し付けられたとな!」



事実…その日より、ティアナの真の伝説は始まった。


雷鳴の剣を持つ…勇者。


しかし、それは、永遠と続く…戦いの宿命を背負うことになった。


まだ年端もいかない少女がだ。


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