守るべきもの
「お目覚めですかな?」
ティアナのそばに、長老がいた。
神殿の床に引かれた毛布の上で、横になっていたティアナは起き上がった。
「ここは…」
回りを見回すと、女子供しかいない。
「神殿の中です」
「神殿?」
長老の言葉に、ティアナは眉を寄せた。
何故ならば…何もなかったからだ。
「驚きのようですな。ここは、神殿と言っておりますが…避難所です」
長老の言葉通り、何もない。何も祀られていない。
「何もない…」
「…」
ティアナの呟きに、長老はじっと彼女を見つめた後、ゆっくりと口を開いた。
「先程の動き…人間技ではありませんな。かといって、妖精や聖霊の力でもない」
「肉体改造です。薬による」
ティアナは、長老に顔を向け、
「勿論、鍛えていますけど…人間の限界を越える為に…。でも、まだ…あたしの体はできていない」
ティアナは、自らの手に目をやり、
「だから、倒した魔物から自分で薬をつくったんですよ。素早かった魔物や、火に強い魔物などから…。でも、副作用も強い。だから、最近はあまり使わないようにしています」
ティアナはにこっと笑い、
「薬による肉体改造ではなく…肉体そのものを変える方法…モード・チェンジ。その理論はできているのですけど、肉体の負担を軽くする為に、触媒になるものが必要で…。それも、強力なものが…」
神殿の外に出た。
先程のドキシの痺れ薬が切れた村人達が、激痛に耐えながらも、針を抜き…治療をしていた。
朝になれば、魔物達が戻ってくる。
それまでに、戦えるようにしょうと頑張っていた。
そんな人々を優しく見つめるティアナの後ろに、長老が来た。
「バンパイアキラー」
長老は、ティアナの背中に話しかけた。
「!?」
ティアナは驚き、振り返った。
「それを求めて、この地に来たのですかな?」
長老の目が、探るようにティアナをじっと見つめた。
ティアナは苦笑し、
「求めた訳じゃありません。それをやつらから、守りたかっただけです。バンパイアキラーと伝えられる…伝説の武器ですが、それがこの地にある。それだけで抑止力になります」
神殿を見上げ、
「例え…ここになくても、他の町にあるのかもしれない。そう思わすことで、あなた達は、身の危険を感じながらも、ここで暮らす人々を守って来た」
ゆっくりと長老に視線を戻した。
真剣な眼差しで、長老を見つめ、
「その伝説を破ることはしません。そして、それよりも今は…この町を守りたい」
拳に力を込めた。
「…あなた様は…」
目を見開く長老を見て、ティアナは照れたように、顔を逸らした。
「す、すいませんが…剣を貸して下さい」
神殿から、広場に向かおうとするティアナに、長老は最後の質問をした。
「あなた様は、おいくつになられる!」
「つい先日…11になりました」
「11!」
ティアナの年齢を聞き、長老は絶句した。
ティアナは長老に頭を下げると、男達の方に向かった。
「我々は…」
長老は、離れていくティアナの後ろ姿を見つめ、
「守るべきものに、守られたのか」
ゆっくりと目を閉じた。
11には見えない程のオーラ。
どれ程の死線をくぐり抜けて来たのか…想像もできなかった。
「何とかいうことか」
長老の目から、涙が流れた。
そして、数時間後、朝が来た。