第395話 ただ前に!
巨大な魔力のぶつかりが、城を震わしていた。
低級魔物達は、あちこちで震えていた。
城の中で待機していた魔神達も、各々な反応を示していたが、僕の魔力を感じて凍りついていた。
「赤の王!」
1人の魔神の叫びが、城内を震撼させた。
しかし、誰も騒がない。
なぜならば…王同士の戦いだからだ。
ただ…息を飲み、成り行きに任せるだけだ。
「くそ!」
毒づきながらも、僕はまったく景色の変わらない廊下を走っていた。
「くそ!くそ!」
そんなことを言いながらも、僕の足は玉座の間に向かっていた。
まるで、惹き付けられるように。
来たことのない回廊を走り、立ち止まった先は石の扉だった。
そこを開けた瞬間、僕は思い出した。
この場所を。
(ここは…)
僕の頭の中に、西園寺の最後とレイナの涙がよみがえる。
「久しいな。人間の少年よ」
「!?」
闇に覆われた玉座の間。その中心に座るのは…ライでなかった。
「バイラ!?」
目を見開く僕に、バイラは笑った。
すると、バイラの姿は闇と同化して消えた。
「!?」
絶句した僕が、玉座に近付こうとしたら、後ろから声がした。
「どうした?赤の王よ」
「!?」
驚き、振り返ると…玉座に座るライがいた。
いつのまにか、僕はくぐったばかりの扉の前にいた。
どうやら、空間が歪んでいるらしい。
「ク!」
僕は顔をしかめると、魔力を発動させた。赤く輝く瞳が、闇の中にいるライをとらえた。もう惑わされることはない。
と思った瞬間、ライは目の前に立っていた。
(いつのまにか!?)
驚く僕の目ではなく、ライの視線は下を向いていた。
「王パーツか…」
「!?」
確かに、僕の腰にオウパーツがついてあった。
「そのようなもの…」
ライの指先が、動いた。
すると、腰のオウパーツは真っ二つになり、床に落ち…闇の中に消えていた。
「無用」
呟くように言ったライの拳が、零距離から…僕の腹に突き刺さった。
いや、突き刺さらなかった。
反射的に動いた左手が、ライの拳を受け止めていた。
「なめるな!」
僕がライの拳を握り締めると、ライの表情が変わり、後ろへ下がった。
「やはりな」
ライは笑った。
「は!」
気合いを入れると、今度は僕から殴りかかる。
その拳を、ライが受け止めた。
「フッ」
軽く笑うと、ライは片手で僕を投げた。
しかし、空中で身をよじった僕は、ライの背中に向けて蹴りを放つ。
「!」
だが、蹴りは気のような結界に弾かれた。
「フン!」
ライの指先から、雷撃が放たれた。
「チッ!」
着地と同時に、僕の胸に直撃したが、立ち上がると同時に弾き返した。
攻撃を弾かれたのに、ライは眉一つ動かさずに、ただ…指を下げた。
「バンパイアキラーか…」
僕を見つめ、ライは呟くように言った。
「フゥ〜」
僕は息を吐き、呼吸を整えた。
ライの雷撃を受けても、ダメージを受けていない。
それよりも心が弾んだ。
(この肉体をくれた…アルテミアに。そして、守ってくれたフレアに感謝しょう)
僕は胸に手を当て、自らの肉体にも感謝した。
「フッ。よくぞ、ここまで来た。お前の成長には驚かさせる」
ライの言葉に、僕は彼の目を見つめ、
「1人では無理でしたよ。みんなの支えがあって、僕はここにいる!だからこそ、みんなを滅ぼそうとするあなたを野放しにはできない!」
キリッと睨んだ。
「できるか?お前と我の力は、恐らく互角!しかしな」
ライは笑った。
「!?」
その瞬間、僕は頭上に恐ろしいくらいの魔力を感じた。
「お前は、非情にはなれない!」
「何をした!」
僕の叫びに、ライはただ笑い続けた。
「ははははは!」
「フン!」
城から遠く離れた場所で、ぶつかり合うサラとジャスティン。
気合いを入れたサラの手刀を、ジャスティンは軽く受け止めた。
「何!?」
唖然とするサラに、ジャスティンは言い放った。
「苛立ちか…。お前の体から、いつものような覇気を感じない」
「な、何を!」
サラは手刀に力を込めたが、ジャスティンはびくともしない。
「苛立ちの原因は、わからないが…」
ジャスティンの全身に力を込めた。
「なめるな!」
ジャスティンの蹴りが、サラを引き離した。
「く!」
珍しく顔をしかめるサラ。
「サラ…」
立ち上がったギラは、2人の戦いを見守っていた。
「一気に…終わらせてもらうぞ」
ジャスティンが改めて、構え直した時…異変は起こった。
「!?」
突然、世界が真っ暗になったのだ。
一瞬で、地球そのものを覆った雷雲は、世界から青空をなくした。
「お、王よ!」
空を見上げたギラが、嘆きの声を発した。
「雷雲は、この星を包み!尽きることなく、雷を降らす!」
ライはにやりと笑い、
「今から、この星は地獄と化す」
僕を見た。
「どうする?赤の王よ」
「させるか!」
襲いかかろうとする僕に、ライは言葉を続けた。
「無駄だ!雷雲は、我の意識から外れ、勝手に雷を降らす!」
僕がライに向かって飛んだ時、玉座の間を外からの光が照らした。
雷が、世界中のあらゆるところに落ち始めたのだ。
「どうする?赤の王よ」
ライは、僕の攻撃を避ける。
長引けば長引く程、被害は広がる。
事実、復興し始めていたアメリカの都市部に落ちた雷は、人々の住居を直撃し、燃やした。
結界を張ったとしても、ライの雷撃と同じ威力がある為に、ほとんど意味がなかった。
四国に構えていた防衛軍本部も、雷の直撃を受けていた。
「この雷を防ぐ手立ては、我々にはありません」
あまりにもレベルの違う攻撃力に、防衛軍ですら防ぐこともできなかった。
部下の報告に、副司令は窓から外を見つめながら、口を開いた。
「各地の地下シェルターに、できるかぎりの民衆を避難させろ。地上よりはましだろう」
窓の外では、まるでしだれのように、雷が落ちていた。
「我々防衛軍は、民衆が助かるまではシェルターに入るな!結界をできる限り、力を合わせて分厚く張れ」
「は!」
部下が敬礼し出ていった後、副司令は窓に映る自分を見て、呟いた。
「無力」
「くそ!」
ファイアクロウを装着して、ライに斬り掛かったが、傷一つ付けられない。
「娘に与えた遊具で、何をする気だ?」
僕の手首を掴んだライは、爪を僕の血管に突き刺した。
「赤の王よ。お前はまだ、経験が浅い。己の能力を使い方を知らない」
「うわああ!」
血管内だけを、電流が這い回る。その痛みに悲鳴を上げた。
「それに、外が気になり…集中できていない!こんなことで、我に勝てるつもりか」
「…ああ…そのつもりだ」
僕は、悲鳴を上げたことを恥じた。
這い回る痛みが、逆に僕を冷静にさせた。
(来い!)
心の中で念じた瞬間、どこからか回転する2つの物体が飛んで来て、ライの手を下げた強打し、足を払った。
「な!」
ライがバランスを崩した為、爪が取れた。
と同時に、ライの胸に傷が走った。
「確かに、僕は…経験不足だ。自分の能力のすべてを知らない!」
僕の手に、剣が握られていた。
「ライトニングソード」
ライの目が、見開いた。
「だけど!だからと言って、負ける理由にはならない!」
僕は考えることを止めた。
ただ前に出るだけにした。
クラークと戦った時のように。
(前に!)
ライトニングソードを握り締め、僕は前にいるライに向って走りだした。