表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
402/563

第394話 すべては無という永遠の中に

「アルテミア!」


リンネの蹴りで、アルふテミアはふっ飛んだ。


「チッ」


何とか倒れることはなかったが、数メートル後ろに下がったアルテミアは軽く舌打ちした。


リンネの蹴りを防御した腕に、水ぶくれができていたからだ。


「お前とあたしの違いは何だ!」


いつのまにか後ろに回ったリンネの腕が炎の鞭となり、アルテミアの背中を強打した。


「く!」


身につけていた白のワンピースが破れ、背中にも水ぶくれが走る。


白よりも透明な肌に、火傷の傷は痛々しかった。


「あたしもお前も!魔王によってつくられた!なのに、なぜ!お前だけが!」


今度は前に来たリンネの平手打ちが、アルテミアの頬を殴った。


刻印のような手形が、できた。


しかし、アルテミアはリンネの目を見据えたまま、動じない。


「優遇される!」


炎の鞭は、アルテミアの全身を強打した。


ワンピースの殆どの部分が破け、火傷ができた。


ほとんど裸に近い状況になりながらも、アルテミアはただじっとリンネを見つめていた。


「アルテミア!」


攻撃を受ける度に、冷静になっていくように見えるアルテミアに、リンネはキレた。


その身のすべてが、炎そのものになると…一瞬で、アルテミアの全身を包んだ。


「なぜだ!」


しかし、すぐにリンネは炎から実体化して、女の姿に戻った。


流石のアルテミアも、炎が消えた瞬間、その場で崩れ落ちた。


全裸になり、白よりも透明な透き通った裸は、真っ黒になっていた。


全身火傷。普通ならば即死である。


「き、聞いたことがあるか?」


アルテミアは焼けただれた指で、乳房の間から一枚のカードを取り出した。


「実世界の話だが…敵に囚われた将校が、部下を助ける為に…ある提案をしたらしい」


アルテミアの手にあるのは、プロトタイプブラックカード。


「もし…自分が首を斬られても、全速疾走できたら…部下の命を助けてくれと」


アルテミアはカードをかざす。


「敵は笑いながら、承諾した。そんなできるはずがないと…」


「…」


リンネは眉を寄せた。


「だが…その将校は、首を斬られてすぐに、走ったらしい」


プロトタイプブラックカードは、発動した。


「つまり…人間は、意志の強さがあれば…奇跡を起こせるのさ」


アルテミアは、プロトタイプブラックカードの全魔力を使い、全身火傷を治癒した。


それにより、完全には回復しなかったが、火傷で死ぬことはなくなった。


「あたしは、魔王にだけつくられた訳ではない!人間のお腹の中から生まれたんだ」


「だから、魔力を使わないと?」


リンネは、強がってせせら笑ってから、肩をすくめて見せた。


そんなリンネを、アルテミアは真っ直ぐに見据えた。


「あたしは、人間の可能性にかけたい」


「何を言ってるの?」


まるで、陽炎のように揺らめいたと思えば、リンネは真後ろからアルテミアに攻撃をしかけた。


「く!」


アルテミアは顔をしかめた。防御したとはいえ、また火傷ができた。


「さっさと、魔力を使え!バンパイアになれ!」


リンネの拳が、アルテミアの鳩尾に突き刺さる。


「うぐぅ!」


血を吐き出しても、アルテミアは魔力を使わない。


「死にたいのか!」


リンネは叫びながら、突進してくる。


「だったら、どうして…さっき、あたしを灰にしなかった」


アルテミアは避けることなく、構えた。


「弱いままのお前を倒しても、意味がない!」


リンネの腕が炎の剣になり、アルテミアの額を狙う。


ギリギリのタイミングで、アルテミアは首を曲げて、剣の串刺しを避けた。


「痛みだよ」


アルテミアは避けると同時に、前に出た。


リンネとすれ違う瞬間、耳元で囁いた。


「バンパイアの肉体では、感じることのできない痛み。人間はこんなにも弱い肉体で、戦ってきた」


「な!」


リンネの体に、傷が走っていた。


「痛みを伴いながらも、前に進んできた」


「ば、馬鹿な」


アルテミアの手には、ドラゴンキラーが装着されていた。


「傷付いた痛みを抱えながら、神の領域まで来たんだ!」


「ア、アルテミア!」


リンネは振り向き、睨み付けた。


「モード・チェンジ!」


アルテミアは、叫んだ。


黒いスーツ姿のフラッシュモードに変わった。


「人間は、前になど進まない!痛みを覚えれば、すぐに後ろに下がる!」


「すべての人間がそうじゃない!だけどな!」


一瞬で間合いをつめたアルテミアの蹴りが、リンネに炸裂した。


「クッ」


今度は、リンネがふっ飛んだ。


「それでもいい。そんな人間がいるということが、大事なんだ」


アルテミアの姿が再び、変わった。


黒のボンテージ姿のストロングモードに。


「そう…」


アルテミアは、拳を握りしめた。


「あたしは…」


アルテミアの脳裏に、ティアナ・アートウッドの姿がよみがえる。


「お母様が特別だと思っていた」


そして、まだ人間だった頃の赤星浩一がボロボロになりながらも、2人の女神と戦う姿も思い出した。


「人間は皆…可能性を持っている!」


「何が言いたい!」


リンネも拳を握り締めた。


「あたしは!」


アルテミアは地面を蹴ると、リンネに殴りかかった。


リンネの拳とアルテミアの拳が、重なった。


「ティアナ・アートウッドの娘!そして、人間から生まれたことに誇りを持つ!」


「な!」


リンネの拳が弾かれた。


バランスを崩し、背中から転けようとするリンネは、全身を炎に変えた。大きさが数倍になったリンネは、転けることを防いだ。


「こ、この強さは何!?」


リンネは驚愕していた。人間の肉体をベースにして、モード・チェンジをしてるのに、最上位の魔神である自分を圧倒していた。


「あたし自身の成長だ。他人から力を奪わなくても、成長で強くなれる。それが、人間なんだ」


アルテミアは、モード・チェンジを解いた。


すると、全裸に戻ったが、使い切ったはずのプロトタイプブラックカードを発動させた。


すると、服が召喚された。


「な」


リンネは目を見張った。


「カードシステムは、破壊した。しかし、それはポイントとなった魔力を独り占めしょうとする人間がいて、不平等なプログラムが構築されていたからだ。お母様がつくったシステムをいじってな」


アルテミアは、カードを胸元にしまった。


「そのプログラムを排除し、二度と変えれないようにした。世界を分断する結界のようにな」


「カードシステムが復活するだと!?お前がやったのか!」


「違う。あたしじゃない」


アルテミアは、自然と微笑んでいた。


「!?」


アルテミアの笑みに、リンネは目を細めた。


「あいつさ…。ジャスティン・ゲイ」


「ジャスティン・ゲイ」


「あいつの信用できる仲間達が、復活させたのさ。まだ世間に知らせていないけどな」


アルテミアは、にやっと笑った。


ジャスティン・ゲイは結界をつくる遺跡を調べながら、新たなるカードシステムの復活を考えていたのだ。その時に同行していた学者達に、システムの再構築を任せていた。


新たなるカードの効力は、治癒魔法をメインにして、緊急時の避難所へのテレポートや衣服などの生活必需品を召喚することを基本にしていた。


勿論、武器も召喚できたが、攻撃的魔法を使うには許可が必要としていた。その許可を出すのは、人間ではなく、パートナーである妖精や精霊に託した。


アメリカのような国家が、ポイントを集中して持つことも禁じた。


「愚かな!人間が調子に乗るだけよ!」


リンネの言葉に、


「かもな」


アルテミアは頷き、


「だからさ。まだ教えてない」


舌を出した。


「き、貴様!」


馬鹿にされていると感じたリンネの体温が、上がる。


周囲の温度が、サウナのように熱くなった。


「リンネ」


アルテミアは、汗ばんでいく肌を気にすることなく、リンネを凝視した。


その間にも、温度は上がっていく。


「お前は、あたしよりも人間に惹かれているはずだ。それなのに、どうして…人間を滅ぼそうとするライの言うことをきく?」


「愚問だわ」


アルテミアの問いに、リンネの炎は安定感を取り戻した。


そして…何故か、寂しげに笑った。


「あたしは、魔王につくられた炎の魔神。他の誰よりも、自由にさせて貰っているけど…。王が決めたことに、逆らう気はないわ。人間を滅ぼせと仰るならば、滅ぼすだけよ」


「て、てめえ〜。自分の意志がないのか!」


軽くキレたアルテミアを、リンネは指差し、


「裏切り者には言われたくないわ」


炎から、人間のような肉体に戻った。


但し、魔力は増していた。


「ライ様は、我らの神よ」


リンネの言葉に、アルテミアは心の中では納得していた。そう思うからこそ、彼女は騎士団長なのだ。


「フン」


アルテミアは、会話をやめた。


すると、瞳が赤く輝き出した。


「わかったよ」


フッっ笑った唇の端から、牙が覗かれた。


「!?」


その変化を目にした瞬間、リンネの背中に戦慄が走った。


「これも…あたしの真実だ」


見た目は変わらないが、アルテミアの肉体そのものも変わっていた。


「やっと!本性を見せたわね。おまえを倒してから、赤星浩一も殺してやるわ」


リンネの魔力がさらに、上がる。


「そんなこと…できたとしても、できない癖に」


「な、何!?」


「まあ〜。あたしがさせないけど」


「こ、小娘が舐めるな!」


リンネはジャンプすると、体を捻り、蹴りを放った。


アルテミアは避けることなく、リンネの蹴りを左腕で受け止めた。


今度は、水ぶくれができることはない。


「は!」


気合いとともに、真っ直ぐにだされたアルテミアの足が、蹴りを放った体勢のままのリンネの腹に突き刺さった。


「うぐぅ!」


くの字に曲がりながら、空中に浮かぶリンネ。


その首筋に反転したアルテミアの踵が決まり、下へと叩き落とした。


地面に叩きつけられたリンネを、アルテミアは腕を組み、見下ろした。


「言っておくが、赤星はあたしよりも強いぞ」


「フン」


後ろから声がした為、アルテミアは振り返った。


倒れているリンネが消え、腕を組んでいるリンネがそこにいた。


「だけど…あの男は優し過ぎるわ。あんたの父親である王を殺せるかしら?」


首を傾げて見せるリンネに、アルテミアはフッと笑い、


「優しいから…あいつは、あたしの為に、いや…すべてのものの為に、王を倒す。自分が傷ついてもな」


リンネと向き合った。


「そ、それがわかっていて行かせたのか!」


リンネの表情が変わる。


「生半可な覚悟ではないんだよ。ここに来た時からな」


「そんなことさせるか!」


アルテミアとリンネの拳が、ぶつかる。


しかし、さっきのように互いにふっ飛ぶことはない。


「いかせるか!」


「王を殺らせるか!」


2人の魔力がぶつかり合った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ