表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/563

第2話 寝たくない!

「うわああああああっ!」


がばっと起き上がると、僕は…ベットの中にいた。周りを見回しても、翼竜なんていないし、全身を確認しても、女じゃない。ほっとすると、僕はまたベットに倒れ込もうとした。


しかし、途中でギョッとなると、がばっと身を起こし、時計を見た。


「ち、ち、遅刻だあ!」


僕は慌てて、ベットから飛び下りると、パジャマを脱ぎ捨てた。



「どうして、起こしてくれなかったんだよ」


二階から階段を下りながら、僕はキッチンにいる母親の背中を睨んだ。


「起こしに行ったわよ。でも、起きないんだもの」


母親は振り返ると、妹に味噌汁の渡しながら、嘆くように言った。


「モード・チェンジとか、叫んでるし…」


「アニメの見過ぎよ」


妹の綾子は、ご飯を食べながらこっちを見ずに言った。


「兄貴。夜中…ずぅと叫んでたんだから、うるさくて、うるさくて」


綾子の部屋は、僕の隣だ。


「大丈夫なの?何か、悩みでもあるのかい?」


「あるわけないじゃん!兄貴に。ただのオタクよ」


母親の言葉に、綾子はそう言い切ると席を立ち、鞄をつかんだ。


「気をつけて。いってらっしゃい」


「はぁ〜い」


綾子は、テーブルにつく僕をちらっと見て、


「兄貴!ピアスなんてしてるの。似合わねえ〜」


そう言うと、顔をしかめたまま、学校へと向かった。


「え」


僕は驚き、恐る恐る耳を触った。


「指輪もしてるのかい?」


母親は少し、驚いていた。


「え」


僕は、耳を触ろうとして左手を見た。左手の薬指に、指輪はあった。


「彼女でもできた?」


少し嬉しそうな母親の問いに、僕は思わず首を横に振った。


「そうよねぇ〜。でも、色気づいたということか。ついに、息子が!」





「はあ~」


体が異常に、ダルい。何とか間に合った一限目。席に着いたが、激しい眠気で、ふらふらしてしまう。


まるで、振り子人形のような僕の状態に気づき、


「どうした?赤星。そんなに、俺の授業は、退屈かあ?」


数学の先生が動きを止め、黒板から振り返ると、僕を睨んだ。


「いえ…そ、そんなことは…」


と言いながらも、椅子から落ちそうになる。


「赤星!」


先生が放ったチョークが、額にヒットした瞬間、僕は…机に倒れるように、眠りについた。





そして、また…知らない世界にいた。


「よぉっ」


ピアスから、声がした。


「ぼおっとしてないで!さっさと、ポイントゲットしに行くぞ」


「僕は…一体…」


「悩むな!悩む暇があったら、ポイントゲットだ」


「き、君は…一体何なんだ」


「昨日言っただろ。勇者だって」


「勇者?…ここは一体…」


「あたしの住む世界だ。まあ〜あんたの世界とは、違うわね」


「ち、ちがう…?」


「ああ…。最初から、説明すんのかよ!うざいなあー」


アルテミアは、ため息をついた。


「この世界は、あんたの世界と違い…科学より、魔法が発達した世界よ」


「でも…建物とか、服装とか、変わらない…」


「当たり前でしょ。あんたのイメージしてるのは、中世でしょ!中世!今は、近代なのよ」


アルテミアは僕の脳から、情報を引き出せるらしい。


僕はゆっくりと、街中を観察しながら、歩くことにした。


先程…翼竜に破壊されたビルは、何人かが魔法で直していた。彼らが、被るヘルメットには、”安全第一!魔法建設"と書いてある。


「ここは、あんたの世界の…もう一つの可能性の世界かもね」


アルテミアの言葉を証明するように、なんとコンビニがあった。


さすがに、会社の名前は知らないけど。


「あと…絶対、胸のポケットに入っているカードを無くさないように」


僕は学生服の胸ポケットから、いつのまにかあるカードを取り出した。


「この世界の通貨は、すべてポイントよ。魔法を使うのも、ポイントを消費するの」


「そ、そうなんだ」


どれだけあるのか期待しながら、僕はカードを見た。画面に表示される…只今の残高0だ。


「人やペット以外のモンスターを退治したり…まあ、普通に仕事しても、ポイントはゲットできるけど」


僕は肩を落としながらも、カードをマジマジと見た。


「だけど…真面目に働くよりも、モンスター倒した方が、ポイントは貯まるし…レベルも上がるけどね」


「レベル?」


「カードの一番上を見て」


「0,5…」


僕は首を傾げた。


アルテミアは大笑いした後、説明した。


「大体、赤ん坊と同じくらいね」


「え!」


「大体…戦士じゃない一般人のレベルは、5〜11。5以上で、日常生活魔法が使えるわ」


「じゃあ…僕は…」


「魔法は使えないし、ポイントゼロだから、ご飯も買えない」


僕はへなへなと、その場に崩れ落ちた。


「心配しなくていい。その辺の路地に入れば」


アルテミアに言われるまま、僕はコンビニとビルの間の路地に入った。狭い路地は、コンビニやレストランや、何かのゴミ捨て場だった。当然のように僕の世界の如く、ゴキブリやネズミがいっぱいいた。


「ネズミは、無理ぽいから…ゴキブリを踏め」


アルテミアの言葉に、僕はギョッとなる。


「え!」


「早く、踏め。命令だ」


有無を言わせないアルテミアの口調に渋々、僕は…ゴギブリを一匹、踏み潰した。


(ポイント、ゲット!)


カードが鳴った。


1ポイントだが、ポイントがついた。


「害虫駆除も、仕事だ」


アルテミアはそう言うと、僕に命じた。


「1ポイントでもあれば、いける!叫べ!モード・チェンジと」


「モード・チェンジ!」


やけくそ気味に、僕は叫んだ。


光が包み、


「ヴィーナス!光臨」


僕は、アルテミアに変わった。


その瞬間、カードのレベル表示は一気に、108に跳ね上がった。


「あんたに教えてあげる」


アルテミアは片手で、カードをヒラヒラさせながら歩き出した。


「この世界は…」


アルテミアが、路地を出て真っ直ぐ向かった場所は…。


勢いよくドアを開け、アルテミアは、謎の店内に入った。


「いらっしゃい!」


「ポイントよ」


いかついお兄さん達が、笑顔でひしめき合う店内。


ポイント高利貸し。ほのぼのポイント。


店内にいた人々は、アルテミアを見て、凍り付く。


そんな人々を気にもせず、アルテミアは店の一番奥のテーブル席に向かうと、一番仕立てのいい紺のスーツを着た男の前で止まった。


ソファに深々と座ると、アルテミアは男に告げた。


「ポイント。百万」


責任者と思われる男の顔が、引きつる。


「ここは…一般の方向けの…」


アルテミアは少し笑うと、その男を睨んだ。


「人生…」


アルテミアは、店内を見回した後、満面の笑みをつくった。


「短かったねえ〜ご苦労様」


その言葉をきいた男は背筋を伸ばすと、深々と頭を下げた。


「き、今日は、六十万しかありません」


「六十万〜しけてるなあ〜」


「あのお…。大体…普通の社会人で、1ヶ月…1000ポイントかと…」


男の言葉ににこっと笑った後、アルテミアはテーブルを手刀で、軽く真っ二つにした。


「御託はいいんだよ」


震え上がる男に代わって、


「あのお…これは酷いかと…」


僕が思わず口を挟んだ。


「じゃあ…てめえ。ゴギブリ、百万匹殺すんだな」


アルテミアはドスのきいた声で、僕に向かって言った。


絶対…無理だった。


数秒後。


「ありがとう」


ポイントが貯まったカードを胸元に差し込むと、ニコニコしながらアルテミアはソファから立ち上がるといきなり、男の首筋にどこからか取り出した剣を軽く当てた。


「ど、どうかしましたか…気に入らないことでも…」


男は、両手を上げた。


アルテミアは妖しい微笑みを浮かべ、剣先を軽く…男の首筋に押し付けた。


「あんたらさあ~知らない?」


「な、何をですか…」


「あんた~ここの責任者でしょ。裏情報を知ってるはず」


「な、何のですか…」


「チッ」


軽く舌打ちすると、アルテミアは顔を近づけた。


「あたしの武器…チェンジ・ザ・ハートを、盗んだやつだよ」


「し、知りません」


「本当か?」


アルテミアは、剣先で軽く首筋をつつく。


「あ、あれは…盗まれたんじゃなくて…競輪場で、夢中になりすぎて…忘れたと聞いておりますが…」


アルテミアは軽く、男の首を刺した。


「嫌なことを、思い出させたな」


「ヒイ!」


小さく悲鳴を上げた男。


アルテミアは競輪で負け、ポイントがすからかんになり、武器までなくしていたのだ。魔王戦前の景気づけだったらしいけど。


結局、ポイントは、その辺のおっさんから巻き上げたが……結果、武器なしで戦い、負けたのだ。


「教えろ!チェンジ・ザ・ハートを持ってるやつを!」


「あ、あの武器は、あなた様専用であり…。最低でも、レベル30はないと、人は装備することすらできません。そんな物…まともな人間は、盗みませんよ。だから…」


「だから、何だ?」


男の首筋は、軽く傷だらけになっている。


「だ、だから…噂ですけど…。狼男が持っていると」


「狼男?」


「はい。マシュマロ森の狼男」


「からくり義手のバイか…」


アルテミアは、そいつを知っているみたいだ。


「わかった。ありがとう」


アルテミアは剣を、後に投げ捨てた。


すると剣は、店のモットーが書いてある額縁に突き刺さった。お客様第一とか書いてある字の真ん中に。


「あんなのうそぱちだ」


アルテミアは、店を出ると、大きく背伸びをした。


「マシュマロ森なら、近いな」


店前を歩く人々は、アルテミアを見ると、そそくさと早足で通り過ぎていく。


そんなことなど気にもせず、アルテミアは上機嫌だ。


「ポイントがあるし、召喚するか」


アルテミアは、カードを胸元から取り出し、表面にあるキーを打ち始めた。


(パスワード・クリアー。召喚します)


いきなり、アルテミアの前の空間に穴が開き、バイクが出現した。


バイクといっても、タイヤはない。


カードをハンドル中央に差し込むと、バイクは起動した。


アルテミアのレベルを感じて、バイクが変形する。


「どうなってるの!?」


僕は、目を丸くした。


「この世界の乗り物は、乗り手のレベルによって、性能が変わるんだよ」


まるで、燕のような翼がついたバイクに変わった。


「いけー!」


アルテミアが、叫んだ瞬間…。






「よかった…。赤星くん、気がついたのね」


僕は…ベットの中で、目が覚めた。


どうやら、先生のチョークを受けて、気絶したということになっているらしい。


そして、そのまま…保健室に運ばれたみたいだ。


「打ち所が、悪かったのね」


保健委員である矢崎絵里が、僕のそばに立っていた。


その事実に今、気づいた。


(保健室に、2人っきりじゃないか!?)


先程までの喧騒を忘れて、僕の顔が、真っ赤になっていくのがわかる。


僕は、矢崎さんに憧れていた。


「赤星くん」


「あっ、はい」


矢崎は、にこっと微笑んだ。


「気がついたし、大丈夫そうだから……。私はもう、教室に戻るね」


「え?」


さっさと躊躇いもなく、保健室を出ていく矢崎。


僕の幸せな時間は、とっても短かった。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ