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第388話 裏表

「癌細胞でできた人間?」


魔界の深部に入ろうとしていたジャスティンのもとに連絡が来たのは、夕暮れの時間だった。


そして、そこからがある意味…ジャスティンが求める時間だった。


闇が支配する魔界こそが、鍛えるのにちょうどよかったのだ。


少し考え込んでから、ジャスティンは暗くなっていく森の中で、足を止めた。


「なるほどな…」


そして、割れたブラックカードを耳に当てながら、暗くなっていく前方に目を細め、軽く笑った。


「悪趣味だが…彼らしいな」


バサッと落ち葉を踏む音がした為、ジャスティンは少しだけ腰を屈めた。


「…とにかく、今は人々の安全を第一に動いてくれ。やつらの襲撃を察知した場合、防衛軍が蓄えている魔力を使って、人々を安全な場所にテレポートさせろ!」


ジャスティンは指示を出しながら、カードを持っていない右手を大木に叩きつけた。それも殴るではなく、擦る感じでした。


その為、手の甲の皮が破れ、血が流れた。


「やれやれ…」


通信を切った後、ジャスティンは溜め息をついた。


「人間か…」


いつのまにか、魔物の気配が増えていた。


ジャスティンが流した血の匂いを感じて、魔物達が集まってきたのだ。


勿論、その為に敢えて、血を流させたのだが…。


「たまに思うよ」


ジャスティンの血が流れている手の甲を見つめ、


「人間とは…こいつらにとって、餌だとな」


ゆっくりと視線を前に戻した。


「だが…だからこそ」


そして、ジャスティンは全身から力を抜いた。


「どう生きるのかが、大切だ」


「キイイイ」


魔物の奇声が、後ろから聞こえた。


どうやら、囲まれたらしい。


「俺は、人の未来の為に道になろう!」


構えは自然だが、視線は鋭く森の奥を睨んでいた。


いや、奥ではない。森を越えたさらに向こう。


「王よ!」


ジャスティンは一歩、前に出た。


「人間は癌細胞ではない!」


そして、一気に駆け出した。


「そのことを一番わかっているはずだろうが!」


数秒後、早くも…ジャスティンによって数匹の魔物が倒されていた。







「違うな…」


玉座の間。闇に包まれた空間で、口元に笑みを浮かべながら、座るライ。


「人間は、癌細胞よりも質が悪い病原菌だ…とは思わないか?カイオウよ」


「…」


玉座の前で、闇に跪くカイオウは頭を下げたままで答えることはなかった。


「フッ」


ライは軽く笑うと、話題を変えた。


「貴様とこうして2人で話すのは、久々だな」


「はい」


カイオウは返事をした。


「この城の中で、我が造ったものではない魔神は、お前だけだ。そして、我が妻だったティアナを認めたのも、お前だけだ」


「…」


カイオウは答えることをせずに、少しだけ頭を上げた。


そんなカイオウを無言で、数秒見下ろした後、ライは言葉を続けた。


「我は…人間を滅ぼすことに決めた。異論はないな?」


「…」


カイオウはやはり答えないが、再び頭を下げた。


「人間の変わりは用意した。これで、野にいる魔物達も退屈はしないだろう」


ライは話しながらも、じっとカイオウを見つめていた。


「人は…この世界にはいらぬ存在だからな」


そう言った後、最後に再びカイオウに訊いた。


「異論はあるないな」


「は」


カイオウは返事をすると、ゆっくりと立ち上がった。そして、姿勢を正すと、頭を下げた。


「王のお心のままに…」


「フン」


ライは、軽く鼻を鳴らした。


「御免」


最後に再び深く頭を下げ、その場から去ろうとするカイオウに、ライは最後の質問をした。


「しかし…人間は、そう簡単には、滅んでくれぬかな?」


頭を下げながら、ゆっくりとライに背を向けて、歩きだそうとしたカイオウは足を止め、


「それは…」


カイオウは、唇を噛み締めた。そして、本当は口にしたかったことを飲み込み、別の言葉を吐き出した。


「わかりませぬ」


カイオウは振り向き、もう一度頭を下げた後、すぐに玉座の間から消えた。


そんなカイオウを目で見送りながら、ライは笑った。


「まあ…いい」





カイオウが言おうとした言葉。


それは…。


(それは…あなたこそがご存知のはず)


カイオウは心の奥底で、そう呟いていた。


ティアナ・アートウッドを失ってから、ライは人を憎むようになったと、カイオウは思っていた。


(愛する御方を失い…狂うとは…まるでにん…)


続く言葉を飲み込むと、カイオウは玉座の間から回廊を歩きながら、進行方向を見つめ、別の言葉に変えた。


(愛故にか…)


勿論、最高位の魔神であるカイオウは愛を知らない。


愛するという意味が、子孫をつくり、次に繋げるという意味ならば…神に必要はない。


完璧な生物。すべてを超越した存在ならば、そのようなものは不要であろう。


しかし、生きるという意味であればどうだろうか。


完璧な1人であれは、仲間はいらないのだろうか。


完璧なものが集まれば、完璧でいられるのだろうか。


答えはNOだ。


同じ型で作られた無機質ならば、同じであろう。


しかし、生きるということは同じではない。


同じ環境で育ち、同じものを食べ、同じものを聴いたとしてもまったく同じ存在にならない。


だからこそ、完璧な存在などあり得ない。


それぞれの価値観で完璧さも違うだろうからだ。


そして、だからこそ…カイオウはティアナの弟子になり、人に興味を持った。


自分とは異なる存在。


そして、完璧ではないとしても、そこにある凛とした佇まいは、完璧を越えた美しさがあった。


カイオウはいつのまにか、渡り廊下に来ていた。


植えられた草花を見て、カイオウは頭を下げた。


(その美しさ故に、散りゆく運命は、あの方と同じ)


ゆっくり頭を上げ、


(そして、人間はまだ芽が出ない種と同じ…。いかに咲くのかは、己次第)


草花の横を通り過ぎていく。


(芽を出さずに、土の中で過ごすのも…咲くことなく、枯れることも…すべては己)


カイオウは、離れへと入った。


(その人間の可能性がある限り…我は、人間を癌細胞とは思わない。例え…咲くことができるのが、一瞬だとしても)


カイオウの脳裏に、ティアナと…そして、アルテミアが映る。


(人は、次の花を咲かす。新たなる種を残して)


カイオウは自然と、微笑んでいた。



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