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第387話 進化の痛み

「ちっ!」


アルテミアは舌打ちすると、僕に叩き込んだ拳を引いた。


そして、背中から倒れた僕を無視して空を見上げた。


「モード・チェンジ…」


僕は地面に大の字になりながらも、空を見上げて呟くように言った。


次の瞬間、地上にいるアルテミアが消えるとほぼ同時に、雲の上に翼を広げたアルテミアが姿を見せた。


「やつらを見つける」


虚空を睨むと、アルテミアは真っ直ぐに海上を北上した。





「癌細胞…」


副司令官達がいなくなった後、髭の男は試験管を目の前まで持ってくると、うっとりとした目で見つめ、


「お前の素晴らしさを誰も気づかない。この進化の試練に、打ち勝った者が!この世界に生き残り…いずれ人類に!魔物をも凌駕する素晴らしい肉体を与えてくれるのだ!」


男は興奮気味に叫んだ後、


「フフフ…」


含み笑いをもらした。


その瞬間、


「な!」


男は絶句した。


目の前にある試験管に、ヒビが走ったからだ。


そして、試験管は弾けるように割れると、その中にあった肉片が…髭の男の額にへばりついた。


「うぎゃああ!」


肉体が焼ける後と匂いが、研究室に充満した。


初めは悲鳴が上げていたが、やがて…男の表情が恍惚に変わった。


「こ、これが…進化の痛みかあ!」


額を中心にして、男の細胞が裏返っていく。


「わ、私は!堪えてみせる!この進化の試練にいいい!」


男は両手を広げ、天井を仰ぎ見た。


しかし、その言葉が…男の最後の言葉になった。


脳細胞が裏返った瞬間、髭の男の自我は崩壊した。


人間もどきとなった髭の男は、ただ…本能のみを行動目的とした。


つまり、食べると…子孫を作るである。


研究室の扉を開けることなく、ぶち破った髭の男は、早速獲物を見つけた。


廊下を何気なく歩いていた隊員達は、扉が開くことなく人が部屋から出てきたことに驚き、一瞬だけ動きを止めてしまった。


本来ならば、身を守る為の反射行動が命取りとなった。


一瞬で、一番近くにいた男の隊員の首筋を噛み千切ると、髭の男だった人間もどきは、女の匂いをかぎ分け…そのまま勢いを止めることなく、女の隊員に襲いかかった。


「きゃあ!」


女の悲鳴が、廊下にこだました時、周りにいた隊員達は正気を取り戻し、魔力を込めた銃を一斉に、人間もどきに向けた。


しかし、次の瞬間…再び隊員達の動きが止まってしまった。


信じられない出来事が、起こったからだ。


人間もどきに押さえ付けられていた女の体が、くの字にはね上がった。そして、女は白眼をむき、口をパクパクさせた…次の瞬間、女の腹を裂いて、巨大な血塗れの赤ん坊が姿を見せたからだ。


その姿は、肉片を丸めて重ねたような形だった。


「きいい!」


赤ん坊は奇声を発すると、銃口を向けて固まっている隊員の1人に飛びかかってきた。





「何事だ!」


副司令官は、廊下に響く無数の銃声を背中で聞いて、足を止めた。


「本部内で、発砲だと!?」


慌てて振り向いた副司令官は、来た道を走り出した。


「副司令!」


取り巻き達も慌てて、後を追った。





「は、は、は」


銃を握り締めながら、隊員達は戦慄していた。


すべての銃弾が命中したが、赤ん坊も…そして、髭の男だった人間もどきも少し足を止めただけで、まったくダメージを受けていないように見えたからだ。


「ひいいい!」


勇敢な戦士であるはずの隊員達であるが、産まれる瞬間を見、さらに人間に似た異形の姿をした赤ん坊を目にして、自分でも感じたことのない恐怖を味わっていた。


それは…人間としての根本的な恐怖かもしれなかった。


口だと思われる裂け目で、にやりと笑って見せる赤ん坊を見て、隊員は再び引き金を弾いた。しかし、倒れることはない。


「きゃははは!」


髭の男は、銃弾を背中に受けながらも、出産の痛みで即死した女の肉を喰らっていた。


そして、ある程度食べると、顔を上げて次の獲物を物色した。





「新生防衛軍の本部で!これ以上好きにはさせん!」


副司令は走りながら、誰を呼んだ。


「カリン!」


その声に、反応したのか…副司令の周りを蛍のような光が漂い始める。


「召喚!」


副司令官の手に、剣が握られた。


「我が命を削り!風に流そう!烈火とともに!」


副司令官が叫んだ瞬間、その姿は消えた。


そして、コンマ零秒の速さで一気に、人間もどき達のそばを通り過ぎた。剣に纏った炎の軌跡だけが糸のように、消えた地点から伸びていた為、その動きを確認できた。


しかし、炎の軌跡はすぐに消え…人間もどき達の全身に線が走ると、細切れになった後に、発火した。


「さ、さすがは…。ブレイクショットの1人…火の風、ドレイク・スチュワート」


取り巻きの1人は、目で追えない程の速さを見せたドレイクに感嘆のため息をついた。


「…」


ドレイクはゆっくりと、振り向くと、人間もどき達の最後を確認しょうとして、絶句した。


細切れになり、炎に包まれた欠片になりながらも…肉片はまだ生きているように蠢いていた。


「く!」


ドレイクは顔をしかめると、そばに転がる肉片に剣を突き刺し、さらに火力を上げた。


完全に灰になるまで確認しながら、ドレイクは廊下にいる隊員達に告げた。


「炎で焼きつくせ!細胞の塵一つ残すな!」


ドレイクの命令に、隊員達は頷くと銃をしまい、妖精や精霊を呼び…はたまた、炎の魔力を装填した放射器を召喚して、肉片を焼くことにした。


そんな隊員とは違い、1人だけ…女の死体を調べる人物がいた。


「フム」


身長140センチ以下しかないその老人は、裂けた腹の中を見ながら、衝撃的なことを口にした。


「これは…お産ではないな。腹の中にできたものが…突き破ったのじゃな」


「!?」


剣で肉片を焼きながら、ドレイクは老人を見た。


「癌細胞の増殖かのう」


まだはっきりとはわかっていないが…受精をしていないことを、老人は見てわかった。


「こやつらは、人間の癌細胞を促進するのかもしれんな」


老人はしばらく、興味深気に女の腹の中を覗き続けた。




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