表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
390/563

第382話 何度でも

「ア、アルテミア…」


沈んでいく島を見ながら、僕は頭を抱えていた。


「やり過ぎだよ」


「生きてる人間はいなかっただろうが」


アルテミアは、島の崩壊により津波が起こり、大荒れになっている海を見下ろしながら、呟くように言った。普段の力強さはない。


「で、でも」


「…この世界の地形を傷付けたくはないが…やつらを生かしておく訳にはいかなかった」


アルテミアは唇を噛み締め、


「それに…まだやつらの子供達が、大量に増え続けている」


周囲の海の向こうを睨んだ。


「た、確かに…」


その増え方は、異常だった。


「今のやつらを殺せば…終わる!」


アルテミアは翼を広げると、一瞬で姿を消した。


女神の一撃で破壊された島は、数分で…海の底に消えた。


そして、海は…何事もなかったかのように、静けさを取り戻した。






「太平洋の島が、一つ消えました!」


「な、何!?」


オペレーターの報告に、藤堂は通信室で絶句した。


スクリーンに映された世界地図に、無数に点滅していた赤いシグナルの一つが消えた。


その数分後には、他のシグナルも消えたが、島ごとが消えることはなかった。


「ガムシャ島に到着した部隊より、連絡ありました。数人の島民に被害はありましたが、敵は殲滅されていました」


ショックから動きが止まっていた藤堂の耳に、新たな情報が飛び込んできた。


「な、何だと!?だ、誰がやった!」


我に返った藤堂は、報告したオペレーターに叫んだ。


「生き残った島民の証言によりますと、白い翼を持った天使…鋭い目をした短髪の女…。というまったく違う風貌の女が目的されています」


「女?」


藤堂は、眉を寄せた。


「はい」


そして、次のオペレーターの言葉で確信を持った。


「ただ…目撃者はこう言います。妙に偉そうだったと」


「!?」


藤堂は、はっとした。そして、相手を認識した。


「て、天空の女神!」


崩れ落ちるように、目の前のデスクに手をついた藤堂の指は…震えていた。




「はくしゅん!」


その瞬間、新たな島にいたアルテミアはくしゃみをした。




「ま、まさか…天空の女神がまた…」


藤堂は震えながら、頭を抱えた。


「最近は…話を聞かなかったから…安心していたが…ま、まさか!」


青ざめた藤堂の姿に、通信室に緊張が走った。





「フン」


海の底に沈んでいく島を見ている者は、もう1人いた。


玉座の間で1人佇む…ライであった。


「やりよるわ」


ライがフッと笑うと、赤く光っていた瞳が消えた。


「しかし…これで終わりではない」


すると、ライの前に、男と女がいつのまにか…立っていた。


「ここは!?」


女はキョロキョロと周りを確認して、すぐにライに気付いた。


「か、神よ!」


女が驚いた時には、男は跪いていた。


「…」


ライはしばし、無言で2人を見つめた。


「も、申し訳ございません!」


女は頭を抱えた後…はっとして、自らの失態を思い出し、慌てて跪いた。


「次は…死ぬな」


ライがぽつりと呟くように言うと、2人は玉座の間から消えた。強制的に、テレポートさせられたのだ。


「そうだ…。あんな存在がいい。何度死んでも、造れる。記憶も植え付ければいい」


ライは、ふっと笑った。


そんなライの瞳から、一筋の涙が流れた。


「何度も造れる…。失ってもな」


そして、ゆっくりと瞼を閉じると…ライは意識を底に埋めた。




「は、はくしゅん!」


再びくしゃみをしたアルテミアを心配して、僕が訊いた。


「風邪でも引いたの?」


その言葉に、アルテミアは鼻で笑った。


「女神が、風邪など引くか!恐らく、あたしの美しさに誰かが嫉妬し、噂してるんだよ」


「そ、それは…」


ないと言いかけて、僕は言葉を変えた。


「その通りだよ!」


アルテミアとの付き合いも長い。これくらいの返しはできる。


しかし、アルテミアの反応は違った。


「嘘つけ!てめえ〜!心にもないことを言いやがって!」


「…」


軽くキレられて、僕は無言になった。


確かにそうだが…ここで、何か言ったらさらに怒られる。


怯えている振りで、無難に乗りきろう。


そんな風に浅はかに考えた僕に、アルテミアは信じられないくらいキレた。


「何も言わないってことは、そう思っているか!てめえ!ぶっ殺すぞ!」


最近…これくらいで動揺しなくなった自分の成長を感じながら、僕は仕方なく答えた。


「あなたは綺麗ですから…そんな噂をしている人はつねにいます」


「そ、そうだろう」


なぜか照れるアルテミアの反応を見て、次からは素直に誉めようと心からそう思った僕だった。


「まあ〜いい」


アルテミアが、ライトニングソードを一振りすると、その手から分離して、2つの回転する物体になった。


そして、遥か彼方に消えて行った。


「この島で、最後だな?」


アルテミアは、気を探った。


「うん。多分大丈夫のはず」


僕も気を探ってみた。


もう相手の異質な気も、理解できていたから、戸惑うこともない。


「フゥ〜」


アルテミアは安堵の息を吐くと、上空に飛び上がった。


そして、そのまま…太平洋上を飛び去っていた。



「あれが…天空の女神か」


その様子を、小さな島の岬で見送っている者がいた。


元ブレイクショットの1人…ダラスである。


防衛軍崩壊後、新たな戦士の育成に人力を尽くしていたダラスは、ジャスティン・ゲイを長として結成された人類防衛軍の呼び掛けに応え、再び老体に鞭を打って、参加を決めたのであった。


ダラスは、アルテミアの去っていた方向に頭を下げた。


(…ということは、あの少年も一緒か)


ダラスの脳裏に、かつて砂漠の町で出会った少年の姿が浮かんだ。


(赤星…浩一君だったな)


自然と笑みがこぼれたが…すぐに凍りついた。


人間もどきが、襲った後の町の惨状を目にしたからだ。


アルテミアによって、被害は最小限に抑えられたが…それでも、失った命は多い。


(防衛軍の結成とほぼ同時に起こった…この襲撃の意味することは何だ?)


ダラスは、嫌な予感に震えていた。


(それに…さっきの人間の姿をした…化け物は?)


ダラスだけではなく、誰もが答えを持ってはいなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ