第6部 ヴァンパイア・キラー 第37話 荒ぶる心
異世界に行く。
大変なことのはずだが、意外とあっさりと、僕は世界を越えた。
多分、ドラ○もんのどこ○もドアも、こんなものだろう。
飛び込んだ空間は、真っ暗でひんやりとして、だだっ広い。
「ここは、どこだ?」
空中に現れたみたいで、僕はゆっくりと落ちていく。
明菜を連れ去った手に、刺した爪が暗闇から、戻って来た。
「ここで間違いない」
やつはいる。
多分、明菜も。
カードを取出し、フライングアーマーを召喚しょうとした瞬間、僕の体は、謎の光に包まれた。
「しまった!トラップか」
どうやら、僕が来ることは予測されていたようだ。
光は、魔法陣を形作り、僕はその中に、吸い込まれた。
そして、僕はまったく知らない場所に、転移させられたのだ。
地面に降り立った僕は、砂に足をとられ、思わず後ろに尻餅をついた。
「熱い!」
お尻の焼けるような熱さに、すぐに立ち上がろうとするが、バランスがとれない。
ここは、砂漠だった。地平線の向こうまで続く砂の世界に、灼熱の太陽。近くで、蜃気楼が揺らめいていた。
それ以外、何もない空間。
暑さに汗が吹き出し、拭こうとしても、バランスがうまくとれなくてできない。
もがいていると、足が沈んでいくのがわかった。
それに、
(流されている)
微かだけど、確実に砂は、下へ流されていた。
僕は、やっと周りの変化に気付いた。
(ここだけ…沈んでいる)
それも、すり鉢状に…。
「まさか…」
僕は、やつが出てくる前に、理解した。
「蟻地獄か」
僕の予想は当たった。
流れていく砂の行き着く所から、砂柱が上がった。中から、蜘蛛と蟻地獄を足して、鍬形の角を持った化け物が出てきた。
その化け物が、奇声を上げると、砂が流れる速度が上がった。さらに、口から白い糸を吹き掛けてきた。
恐怖。
いや、恐怖なんてなかった。
僕は、自分でもわからないけど、抗うことをしなかった。
ゆっくりと、化け物の巨大な口に向かって、引きずり寄せられていく。
(なぜ、だろう…こんな時に、心が落ち着いてくる)
灼熱の太陽に照らされて、汗だくだったのに…もう汗をかいていない。
化け物が、鳴いた。
その甲高い奇声を聞いた瞬間、僕の心が踊った。
(こいつは…僕の獲物だ)
僕とは、違う僕が呟いた。
(えっ)
いつもの僕が、驚いた時、
僕は絡まった糸を引き契り、化け物に向かって襲いかかった。
その時、世界が動いた。
世界中の防衛システムが、警告音を発した。
「サハラ砂漠内に、最上位の魔物反応あり!か、神レベルです…炎の女神…」
オペレーターの女魔術師の報告に、南西方面防衛本部司令官は、仮眠中ながら、中央司令部に飛び込んできた。
円形に広がる、小型コロッシアムのような作りの司令部は、球状の天井は、百八十度スクリーンとなっていた。
「炎の女神は、死んだはずだ!」
司令官の言葉に、オペレーターはキーボードに指を走らせる。
「砂漠が燃えているだと!?」
衛星軌道上にいる監視式神は、広大なサハラ砂漠の半分近くが燃えている映像を、スクリーンに映していた。
「何が燃えているだ!あそこは、燃えるようなのものはないだろ」
「砂、そのものが燃えています」
他のオペレーターが、答えた。
「解析結果でました!炎の女神と同等の魔力反応は、ありますが…魔力紋が違います。この波動は、今まで記録されたことがありません」
「新しい魔神が、生まれたとでも言うのか!それも、神レベルの」
司令官は、そばにあったディスクを叩いた。
「やっと…二人の女神がいなくなったというのに… 」
次に、僕が気付いた時…蟻地獄を抜け、砂漠を一人歩いていた。
僕は足を止め、振り返った。
後に知るサハラ砂漠の大火事は、僕の意識が戻った時は、もう鎮火していた。
少し焦げ臭い匂いは、僕の後ろに転がる魔物の焼死体の匂いだった。何百という魔物が、焼け死んでいた。
何があったのか、僕にはわからなかった。
しかし、悩んでる暇はない。
いつのまに移動したのか、目の前に町が見える。蜃気楼じゃないのかと疑い、カードを取出すと、ナビシステムを動かしてみた。
町は、本物みたいだ。もう砂漠を抜ける。
一応、ポイントを確認するが、減っていない。寧ろ、増えていた。
(戦ったのか?しかし、どうやって)
灼熱の太陽に、砂の照り返し……普段なら、焼け死んでてもおかしくない。
だけど、もともと色白な僕の肌は、太陽に照らされても、焼けることなく、真っ白だし…この暑さが、心地よかった。
まだ僕は、自分の身に起こっていることを、知ることはなかった。
ただ、心が昂ぶり、少し興奮していた。心の底の何かが、目覚めていくように感じていた。
(不思議と、この世界に来てから、恐怖はない。昔は、怖くて仕方なかったのに…)
砂漠地帯に出現する魔物は、中級以上だ。一般人だけでは、決して渡ることができないのに…僕は難なく、砂漠を渡り終えた。
町の入口が見えてきた。
別に急ぐ必要はないので、ゆっくりと近づいていく。
(炎を使えるようになったから、ポイントが減らないなあ)
事実、召喚以外、ポイントを消費しない。
そんなことを考えながら、ぼおっと歩いていると、石膏でつくられた建物が立ち並ぶ町の上空を、何かの群れが飛び回っているのが目に飛び込んで来た。
最初は、鳥かと思ったけど…心の奥が否定した。
(あれも、獲物だ)
僕の全身が熱くなる。
「どうなっている!?」
魔法を使ってないのに、指先から火花が散っていた。
目を丸くして、僕は自分の両手を目の前に持ってきた。
線香花火のように、火花が散り、手が焼いた石のように、真っ赤になっている。
「うわあああっ!」
思わず、手を空に、突き出した。
すると、この地域の空一面が、炎に包まれた。
「ぎぇぇ!!」
町の上空にいたのは、人面鳥の群れだった。
炎に包まれた人面鳥の断末魔が、響き渡った。
僕はその場で崩れ落ちると、両手を見ながら、震えだした。全身が燃えていくからだ。
自分の手…皮膚、肉、骨が燃え尽きていく。
それは、手だけではない。足も胴体も、顔も…見ている眼球さえも、燃え尽きていく。
そして、燃えるものがなくなっても、炎は消えることなく、僕の形で燃え続けた。
やがて炎が、僕の血となり、肉となり…再び僕を構築する。
そして、僕はそのまま、何事もなかったかの如く、町へ向かって、歩きだした。
そう…何事もなかったように。