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第381話 似ていて非なるもの

「あれは…人間なのか?」


雲の上から、人間もどき達が大量に発生している海域を見つめ、ギラは眉を寄せた。


「フン」


その隣に浮かぶサラは、鼻を鳴らした。


「あのような醜い生物は、この世界に似合わん。人間よりも、醜い」


ギラの言葉に、サラは下界を見下ろしながら、


「王が決めたことだ」


それだけ言うと、一瞬で今いた空域からいなくなった。


「…」


いつもなら、すぐに後を追うギラは…横目でサラがいた空域を見つめ、ため息をついた。


「…仕方があるまい。我々は、王によって造られた。しかし…」


ギラは目を細めると、


「それ以外に、意味はない」


ぽつりと呟き、しばらく空中で腕を組み、目を瞑った。





「はあああ!」


アルテミアは気合いとともに、ライトニングソードを振るった。


島のあちこちに雷鳴が轟き、人間もどき達を灰にする。


「こ、こいつら!」


フラッシュモードでの高速移動で斬り裂いているのに、人間もどきの数が減るのが遅い。


「増える速さが半端でない!」


僕は、舌打ちした。


一度に産める数は、分裂して5人のようだが…次のスパンが速すぎた。


数分後には、また子供を産めるようであった。


「うん?」


アルテミアが戦っている間、僕はずっと回りを観察していた。


女もどきは子供を産むと、数分後に再び男もどきと絡み…子供を産んだ。


「うん?」


その時、微妙であるが…僕はある変化に気付いた。


あまり見たくないものだけど、目をそらしてる場合でもなかった。


子供を産み落とすスピードが、遅くなっている気がしていた。


さらに、虚ろな表情の女の顔に、微かに苦痛が浮かんでいた。


(やはり…子供を産むということは、体に負担が大きいんだ。そう何度も…)


僕が回りを見回している間に、アルテミアはアルテミアで違う方法を取っていた。


「しゃらくさい!」


男女の人間もどきのうち、女だけに狙いをつけていた。


「これ以上!増やさせるか!」


雷鳴の刃が、人間もどきの女を切り裂いていく。


「アルテミア…」


僕は、斬り裂かれていく人間もどきを見ながら、悲しい気持ちになっていた。


確かに化け物であるが…あまりにも精巧にできている為に、斬り裂いて見える断面図は人間と同じであった。


「きぇぇ!」


死んでいく仲間を見てか…先程苦しそうな顔をした女もどきが、アルテミアに顔を向けながら、奇声を発した。


「うん?」


アルテミアはその女もどきに気付き、ライトニングソードを向けた。


女もどきの腹はまた大きくなっており、子供を産もうとした次の瞬間……お腹が破裂した。


「くえええ!」


女もどきは天を仰ぎながら、絶命した。


「な!」


驚くアルテミアのライトニングソードを握る手に、嫌な汗が滲んだ。


破裂したのは、その女もどきだけではなかった。


次々に、同じような現象が起こり、女もどき達はほぼ同時に死んだ。


「な、何が起こった」


アルテミアは回りを警戒しながら、ライトニングソードを構え直した。


つい数秒前の喧騒が嘘のように、周囲を静けさが包んでいた。


逃げる普通の人間達の気配もしない。


「アルテミア…」


そんな静けさの中、僕はアルテミアに話しかけた。


「多分…産み過ぎだ。体がついていけなかったんだ」


「多分…そうだろうな」


アルテミアも納得はしていた。しかし、警戒を解かない。


「どうした…!?」


アルテミアの様子に首を傾げようとした僕も、何かに気付いた。


「た、助けて…」


後ろから、蚊の鳴くような声がした。


アルテミアが振り返ると、普通の人間の女の人がいた。


その女の人も腹が膨れていた。妊婦と思ったが、違った。


先程の人間もどきのように、腹が破裂して絶命したからだ。


「やっぱり〜旧タイプの人間は駄目ね」


女の人のお腹から放たれた血吹雪の向こうから、ゆっくりと近付いて来る三つの影。


「何だ?この気は!?」


アルテミアは、絶命した女の人を踏みつけながらにこっと笑った女に、目を細めた。


「御機嫌よう!あなたが、天空の女神ね」


女は人間の女の死体を、一度ぎゅっと踏みつけた後、前に出た。


その両手には、首を絞められて絶命している2人の人間の男を掴んでいた。その為、3人に見えたのだ。


「く!」


アルテミアは、苦悶の表情で死んでいる男達を見て、顔をしかめた。


「あっ!これねえ」


アルテミアの視線に気付いた女は、アルテミアに向かって両手を差し出した。


「男って、絞められるのが好きって訊いたから…。でも、やっぱり〜こいつら弱すぎだわ」


「貴様!何者?」


「飲む?御姉様。まだ血は残っているわよ」


クスッと笑った女に、アルテミアは虫酸が走った。


「お、御姉様だ、だとお!」


「あら!そうじゃない」


女は意外そうな顔をして、


「あたしも御姉様も、王であるお父様に造られたのよ」


両手に掴んでいた男達を離した。


地面に落ちる音を聞きながら、アルテミアは仕掛けるか迷ってしまった。


「知ってる?御姉様」


女は、タイミングを図っているアルテミアに微笑み、


「神は、自分に似せて…最初の人間を創ったの!そして、今!神は…新たな人間を創ったの!今いる旧タイプの人間を抹殺して、あたし達の子供達が、世界を支配するの!」


女はにやりと笑い、


「どう?素晴らしいでしょ?」


アルテミアに、さらに近付こうとした。


「下らんな」


アルテミアは、ライトニングソードを下げると、2つに分離させた。


「お前の子供達は、人間じゃない!ただの虫けら!いや!虫けら以下だ!」


「な!」


驚く女の前に、トンファーを持つアルテミアがゆっくりと構えた。


「それに…あたしは!ライが創ったんじゃない!人間のお母様が産んでくれたんだ」


「に、人間の…お、お母さまあ〜!」


その言葉を訊いた瞬間、女の表情が変わった。


「なあ〜んだ!あんた」


女の顔から、笑みが消えた。冷たい目で、アルテミアを睨んだ。


「旧タイプのクズの子供なんだ」


「フン!」


アルテミアは、トンファーを回転させ、


「どっちがクズか教えてやる」


一気に間合いをつめた。


「旧タイプの人間はもう!いらないのよ!」


女の爪が伸び、アルテミアを串刺しにしょうとするが、回転したトンファーが、女の爪を下から打ち上げた。


思わず、天に突き上がった腕の先にある爪は、すべて折れていた。


「何!?」


絶句する女の懐に飛び込んだアルテミアは、もう片方のトンファーを女のボディに叩き込もうとした。


「ヒィ!」


軽く悲鳴を上げた女とアルテミアの間に、強引に誰かが割って入った。


「!?」


驚くアルテミアがトンファーを完全に振り切る前に、攻撃を受け止めたのは…女の連れ合いである男だった。


完全ではなかったとはいえ、トンファーを肩で受け止めた男の体が、宙に浮かんだ。


「あんた!」


そして、そのまま地面に転がった男に駆け寄る女。


状況が掴めないアルテミアは一旦、攻撃を中止した。


「お、男は…女を守るもの」


ふらつきながらも、男はすぐに立ち上がった。


「男は…女に子供をつくらすもの」


「う!」


アルテミアは顔をしかめ、一歩後ろに下がった。


ふらふらになりながらも、ある一部分だけが元気だったからだ。


「ア、アルテミア!」


アルテミアの気持ちもわかるが、ここで怯んでいる場合でもなかった。


僕は…男の後ろで腹が裂けて絶命している大勢の人間の女性に気付いたからだ。


「あんた!あたし達の子供で、あいつを!」


女は慌てて、男の股のものに手を添えた。


「さ、させるかあ!」


アルテミアの背中から、白い翼が生えると上空に飛び上がり、トンファーを合体させ、槍に変えた。


この島には、もう…普通の人間は生きていなかった。


「A Blow Of Goddess!」


女神の一撃を放つアルテミア。


「は、早く!」


なぜか…上手く入らずにもたついている女の背中に、アルテミアが放った光の塊が近づいてきた。


「綺麗だ」


男は、連れ合いである女てはなく…上空のアルテミアを見つめていた。


「え」


驚く女の目に、愛しそうにアルテミアを見上げる男の顔が映った。


「そんな顔を…あたしには」


「くらえ!」


女神の一撃は、文字通り一撃で島自体を破壊した。

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