第380話 異物
「太平洋にある島々から、救助信号が次々に飛び込んで来てます!」
人類防衛軍の仮の本部として、四国に建設された城内は、騒然としていた。
新生防衛軍活動開始に伴い、各種通信機能をオンにした瞬間、次々に赤信号が点滅したのだ。
「どうなっている!」
通信室の責任者である藤堂は、ディスクを叩いた。
「これ程の地域をカバーすることは不可能です!」
キーボードを叩きながら、太平洋沿岸に待機している防衛軍所属の部隊の数と、各島に到着できる時間を分析しながら、オペレーターの一人は思い切り泣きそうになっていた。
「魔王軍が動いたのか!それにしても、何故だ!こんな小島ばかりを襲撃するとは!」
苛立つ藤堂に、オペレーターの一人が叫んだ。
「人間です!人間に襲われているそうです!」
「人間だと!?」
藤堂は、目を丸くした。そして、通信室の正面にある巨大なスクリーンに世界地図が映り、襲われている島々を赤い点滅で示した。
「じ、人種問題化か?土着の民族と揉めたのか!?」
顔をしかめる藤堂の耳に、救援を求める人々の通信の声が響いて来た。
「た、助けてくれ!く、食われる!」
通信は、そこで終わった。
「な、何だ!今の通信は!やはり、魔物なのか!」
混乱する藤堂に、オペレーターが告げた。
「映像来ます!」
スクリーンが地図から、島の映像に変わった。
「ぎゃああ!」
生きながら、頭から噛み砕かれる男。そして、脳髄を啜る…人間の女。
その女の虚ろな目が映った瞬間、映像が切れた。
「な、何だ…今のは…」
背筋に寒気を感じ、通信室にいた人々全員の動きが一瞬、止まった。
「人間…なの」
オペレーターの一人は、唾を飲み込んだ。
「オホホホ!」
どこかぎこちない笑い声を発しながら、笑う女。
「…」
その横で、無言の男。
「あたし達の子供は、増え続けている!そして、その子供達も!」
彼女らこそが、人間もどきを産んだ2人だった。
近親相姦を繰り返してもまったく問題のない彼らは、次々に人間を食らい…そして、子供を造った。
その数は一瞬で、万近くになっていた。
「もう少し増えたら、もっと大きなところで、みんなで住みましょう!そうね〜。あの島国がいいかも!」
全裸でなのに、どこからか取り出した地図を見ながら、女が興味を持ったのは、日本地区だった。
「まだまだ増えていくわ!」
うっとりと地図を眺めていた女に、今まで無言だった男が口を開いた。
「…多くの子供達が死んでいる…」
「うん?」
男の言葉に首を傾げた女は、目だけを上に向けて…考え込んだ。 数秒後、男を睨んだ。
「か、数が減っているわ!どうして、言ってくれなかったのよ!」
ヒステリックに女がなっても、男は表情を変えない。
「…」
答えることもない。
「ほんと!男って無頓着で、無能よねえ!」
女は地図を丸めると、下に捨てた。
「いくわよ!」
そして、男をギロッと睨んだ。
「…」
男は無言になり、大人しく女の後に続いた。
「何なんだ!?」
僕は、唖然としていた。
「チッ」
次の島の上空に到達したアルテミアは、舌打ちした。
先程のリゾート島より広さが三倍はある為か…まだ、普通の人間が生き残りながら、武器を持ち、応戦していた。
「この状況では、女神の一撃で殲滅できないだろ!」
普通の人間が生きているのを邪魔そうに言うアルテミアに、僕は呆れた。だけど、そんな場合でもない。
「アルテミア!人々を助けるよ!」
「わかっている!」
アルテミアは、人間もどきから逃げ回る人々の間に着地した。
「モード・チェンジ!」
アルテミアの姿が変わる。黒いスーツ姿の…別名、黒い閃光。
フラッシュモードだ。
すると、2つの回転する物体が、迫ってくる人間もどきを蹴散らしながら、アルテミアのもとに飛んできた。
それを両手で掴むと、胸元でクロスさせた。
「行くぜ!」
ライトニングソードになった瞬間、アルテミアの姿が消えた。
「!?」
人間もどきの目にも、アルテミアの動きはとらえることができなかった。
猛スピードで人間もどきを斬り裂き、島中を駆け抜けるアルテミア。
斬った後、人間もどきの全身を雷鳴が走り、黒焦げにさせた後…灰と化した。
「え」
逃げ惑い、襲われていた人々には、何が起こっているのかわからなかった。
ただ…自分達を襲っていた人間もどきが、真っ二つになった後、灰になったのがわかっただけだ。
「アルテミア!」
僕は、人間もどきの動きが変わったことに気付いた。
どうやら…数が減ったら、増やすようにできているようだった。
視界の角に、見たくもない交わりが目に入った。
「ライトニングウェーブ!」
アルテミアがライトニングソードを横凪ぎに払うと、電気の刃が放たれ、繋がっている人間もどき達を斬り裂いた。
しかし、産まれる速度が異常だった。
母親が真っ二つになったのに、赤ん坊が産み落とされたのだ。
地面に落ちた瞬間、アルテミアは赤ん坊にライトニングソードを突き刺した。
「あまり…気分はよくないが…」
アルテミアは顔をそらしたくなったが、そらせなかった。
突き刺すという行為が、アルテミアの動きを止めた。
その瞬間、串刺しになっている赤ん坊が、アルテミアをギロリと見た。
「!?」
アルテミアは、目を見開いた。
「こ、こいつは…」
突き刺されながら、赤ん坊は膨張するように大きくなり、アルテミアそっくりになろうとしたが…その瞬間、雷鳴が走り、灰になった。
その間…アルテミアにはあまりにも長く感じたが、ほんの数秒だった。
「こ、こいつらは!」
アルテミアは動揺しながらも、次のターゲットに向かった。
「いてはいけない!」
アルテミアは初めて…その存在自体を抹殺しなければならないと感じていた。
それは…僕も同じだった。