第378話 青空に
「ふぅ〜」
僕は、太平洋のとある小島にたどり着いていた。 砂浜に横になりながら、太陽を見上げていた。
魔力に目覚めてからは、太陽を直視できるようになっていた。
子供の頃…いつも真上にある太陽を見上げられないことを不思議に思っていた。
こんなに、みんなを照らしてくれているのに…。
今なら、こう思う。すべての生命に光を与える太陽を、ちっぽけな存在である人間が簡単に見れるようでは、いけないと。
だからといって、太陽のバンパイアとなった僕が見れるからと言って、調子に乗ってはいけないと思う。
(それにさ…。何か…見れることが悲しくなる時もある)
贅沢な話ではあるが…。
ライをずっと封印するつもりだった僕が…そんな感傷に浸るのはおかしいかもしれなかった。
「赤星…」
アルテミアが、僕に話しかけてきた。
「ア、アルテ…」
話そうとしたら、また吐き気をもよおしてきた。
(ったく…どんだけ食べたんだよ)
そんな僕をあまり気にすることなく、アルテミアは話し出した。
「赤星…。いつまでも、襲われる人間だけを助けていても拉致があかない。だったら、すべての魔物を…生まれてから、死にかけまでを殺すのか…」
そこで、アルテミアは言葉を止めた。
次の言葉は、薄々わかっていたが…敢えて、僕は外して言った。
「それは、駄目だよ。彼らも生きている。確かに、人間と共存はできないけど…彼らを滅ぼすことはできない」
そんなことを口にしながらも、僕はわかっていた。
偽善であると。
バンパイアに目覚めてから、人間の血は吸っていない。
しかし、魔物の血は吸っているのだ。
魔物が人間から搾取する存在ならば、バンパイアはその魔物から搾取する存在である。
魔王であるライも、そのような存在である。
「赤星…」
アルテミアが、どう言おうか…悩んでいることに気付いていた。
そして、その言おうとしている言葉を、僕は薄々気付いていた。
「赤星…」
アルテミアは、答えない僕の気持ちがわかったのか…自ら、言葉にした。
「お前が…この世界の王になれ。そうすれば…魔物と人間の戦いをなくすことはできないが、少なくすることはできる。王が命じられば、魔神達も無駄な殺戮はしなくなるだろう」
「……成る程」
僕は、アルテミアの言葉を理解した。
「そうだね…。王が、人間の争いを禁じれば…ある程度のことは防げるかもしれない」
そう言うと、僕は…目を閉じた。
アルテミアの母親であるティアナ・アートウッドは、ライに人間という存在を教えたかったのだろう。
彼はティアナを愛し、アルテミアという子供をつくった。
そのまま…幸せが続いたならば、この世界の運命は変わっただろう。
しかし、ティアナは死んだ。
その結果…彼は、愛する者を失う悲しみを知った。
その悲しみは、彼を…人類滅亡へと導いていくことになった。
その理由は、ティアナ・アートウッドを直接殺したのが人間であるということ。そして、愛するという苦しみを与えた人間そのものを憎む心が、彼を狂わしているのだ。
「だけど…」
僕は目を開けた。すると、さっきまで直視できた太陽が眩しいと感じた。
目を細めながら、僕はゆっくりと首を横に振った。
「僕には、相応しくにないよ。アルテミア…。君こそが、王に相応しいよ」
「な」
僕の言葉に、アルテミアは絶句した。
「アルテミア…。君こそが…」
「うるさい!!」
アルテミアは、絶叫した。
「アルテミア!?」
僕はその叫びに驚き、上半身を起き上がらせた。
なぜならば、その声は…ピアスからではなく、真横から聞こえたからだ。
「お、お前は!臆病風に吹かれたのか!」
唇を噛み締めたアルテミアが、立っていた。
昔、僕を鍛えた時のように、気を固めた疑似肉体であろう。
「赤星!お前以外に!誰が、王になる!誰が、魔王と戦える!」
アルテミアの手に、氷でできた長剣が握られた。
「お前しかいない!」
襲いかかってくるアルテミアの長剣を、僕は立ち上がると、ファイアクロウで受け止めた。
「アルテミア!そういう意味じゃないんだ!」
僕は、剣を爪で絡めると、アルテミアに顔を近付けた。
「魔王ライは、お前の父親だ!娘であるお前が、ライを殺すのは駄目だ!」
身内で殺し合う悲劇を、僕は知っていた。
女神となった…実の妹である綾子と戦ったからだ。
後ろから、妹に心臓を貫かれた。
そんな経験をしてしまった僕は…肉親同士の争いをアルテミアに経験させたくなかった。
(いや…何度も経験しているか…)
ライとアルテミアは、何度か戦っている。
しかし、アルテミアがライに直接勝ったことはない。
アルテミアが、即位するということは…ライを倒すということになる。
(直接戦ったとして…まだライに分があると思う)
僕は心の底では、覚悟を決めていた。
僕がやるべきことを…。
アルテミアと剣を交えながら、その思いは強くなっていった。
その時…。
「!」
「!?」
2人の頭に、多くの人々が死んでいく叫びが響いた。
「またか!」
僕の全身に、力が入った。
すると、僕の気で、思念体であるアルテミアの体がかき消された。
「赤星!」
ピアスから、アルテミアの声がした。
「おお!」
僕の背中から炎の翼が発生すると、そのまま大空に飛び上がった。
「何だ?この感じは!?」
多くの人々が死んでいく感覚を、確かに感じる。
だけど、数が減っていないのだ。
「人間の気が…増えている!?」
しかし、僕はその気を感じながら、違和感も覚えていた。
「何だ?この異質な感じは!」
確かに、人間の気だと思う。
なのに、どこか違う。
違和感を覚えながら、僕は太平洋に浮かぶ島へと向かった。
ブルーワールドにある島にしては、珍しく魔物がほとんどいない為に、観光地として栄えていていた。
その島で、何が起こっているのか。
僕はスピードを上げた。