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第375話 荒ぶる神々

「雲の流れが速い」


ライの居城の前に広げる向日葵畑の中で、カイオウは空を見上げていた。


ライの結界により、監視衛星からは見ることのできない魔界であるが、その土地からは晴天を見ることができた。


空の異様な速さに、カイオウはこの世の中の動きを重ねていた。


魔王ライの復活。さらに、赤星浩一の復活は、しばらく止まっていた運命をいやがおうにも動かすことになるだろう。


「ティアナ様が生きておられたら…」


この運命を変えることができたであろう。


だが…しかし…。


「馬鹿者が」


一瞬でもそんなことを考えてしまったカイオウは、己を恥じた。


死んだ者にすがっても仕方がない。


今、生きている者こそが、道を切り抜けられるのだ。


「我のような年寄りができることは、知れている。大人しく去るか…それとも」


カイオウの手に、青竜刀が握られた。


「次の世代の為の道を開くかだ!」


「道ねえ〜」


青竜刀を空に向けて突き上げたカイオウの後ろから、声がした。


「!」


次の瞬間、カイオウは真後ろに向けて、横凪ぎの斬撃を放った。


「危ないわね」


青竜刀は、後ろに立った者を切り裂いた。しかし、真っ二つになった体は、すぐに一つに戻った。


「不用意に、我の後ろに立つからだ」


カイオウは、後ろに立つ女を睨んだ。


「リンネよ」


カイオウの眼力の鋭さに、リンネは肩をすくめて見せた。


「だって〜気になるじゃない。次世代の為に、道を開くなんて」


そう言いながら、リンネは腕を組み、カイオウにいやらしい笑みを向け、


「ライ様の治世はまだまだ続くわ。次の世代など、来ないのよ」


「そうかな?」


カイオウは青竜刀の刃を水平にすると、リンネの首筋に射し込んだ。


「時代の変化は、近付いておる。ティアナ様が残した希望であるアルテミア様の成長…」


カイオウの言葉に、今度はリンネがキレた。


「あのねえ〜」


自ら刃を首に突き刺すと、


「ティアナは死んだ。そして、アルテミアは王に逆らったわ!」


カイオウを睨み付けた。


「リンネ…」


リンネに突き刺さっている青竜刀が、彼女の熱を受けて真っ赤になっていく。カイオウの握る手から、肉が焼ける音がしたが、青竜刀を離すことはしない。


「あたしは、あんたやギラ、サラのそういうところが気にいらないのよ!裏切り者を未だに!アルテミア様と呼ぶところがね!」


リンネの体温が一気に上がる。


「フッ」


そんなリンネとは違い、冷静になったカイオウが笑うと、青竜刀の半分までが元に戻った。


水と冷気を操る魔神と炎の魔神。2人の魔神の力は、対等かと思われたが、リンネの体が炎のそのものになると、一瞬でカイオウの全身は炎に包まれた。


「馬鹿目!あたしは、進化している!あんたのような旧世代の魔神が、あたしに勝てるか!」


リンネがにやりと笑った瞬間、


「そうかな?」


カイオウは狼狽えることなく、青竜刀を一振りした。


次の瞬間、一瞬で炎は消えた。


「え」


絶句するリンネの前に、右手で青竜刀を振り落とし、左手で拝んでいるカイオウがいた。


カイオウは青竜刀を一回転させて、背中につけた鞘にしまうと、拝みながらリンネに背を向けた。


「かつて…ある方が、我に教えてくれた。レベルの差で、勝利が決まる訳ではないとな」


カイオウはそう言うと、向日葵畑から姿を消した。


「な…」


小さく呟くように言うと、リンネは膝から崩れ落ちた。


カイオウの一撃は、リンネの弱点であるコアをかすっていたのだ。


本気ならば、一刀両断で切り裂くことも可能だったはずだ。


全身の炎も消えて、全裸の肉体を晒しながら、リンネは向日葵畑の中に沈んでいった。



その様子を、城のテラスから見ているものがいた。


天空の騎士団長サラである。


「…」


サラは無言で、風に靡く向日葵を見つめながら、テラスを後にした。


そして、廊下に出ると、壁にもたれた腕を組んだギラがいた。


そんなギラの横を、サラは通り過ぎた。


ギラは目だけで、サラの動きを追いながら、少し距離が離れてから、口を開いた。


「俺は…アルテミア様こそが、正統な後継者だと…今も思っている」


その言葉に、サラは足を止めた。


なぜならば…そういうことを口にしたのは、初めてだったからだ。


ある種、裏切りの意志とも取れる…その言葉に、ギラの決意が感じられた。


しかし、魔王を補佐する存在とすれば、許される言葉ではない。


ギラは、サラに襲われても仕方がないと覚悟していた。


しかし――。


「そうか…」


サラはそれだけ言うと、再び歩き出した。


ギラはサラの方を見ることなく、虚空を見つめていた。


廊下に響くサラの足音が聞こえなくなると、ギラはゆっくりと壁から離れ、歩き出した。




静寂が、城を包んでいた。


それは、落ち着き…平穏な空気ではなく、すべてが壊れる前の最後の静けさかもしれなかった。


昔のように闇の中、玉座の間で、鎮座する魔王。


しかし、その目はぎらつき、あらゆるものを畏怖させていた。


闇さえも、震えているように思えた。


「ティアナ…」


ライは、最後の良心を口にした。


「我は…もう…人はいらぬ。この世界に人はいらぬ」


ライは呟くように言うと、闇の中にティアナの幻が浮かんだ。


その姿は、最初に出会った時と同じだった。


白い鎧に、ライトニングソードを構えた姿。


そのまま、ライに襲いかかってくるが…ティアナはライの額に突き刺す寸前で、剣を止めた。


目の前で、悲しく微笑むティアナ。


そんな彼女の胸に、ライは手刀を突き刺した。


その瞬間、ティアナの幻は消えた。


「!?」


しかし、今度は…貫いたライの手の中に泣き叫ぶ赤ん坊が、現れた。


そして、玉座の後ろに嬉しそうに微笑むティアナがいた。


「!」


目を見開き、赤ん坊をも握り潰そうとした時、目の前にブロンドの髪を靡かせたアルテミアが立っていた。


「!」


絶句するライが再び、手刀を突きだすと、アルテミアはそれを避けて、シャイニングソードを突きだした。


剣先が、自分の心臓に突き刺さる寸前、ライは玉座から立ち上がった。


しかし、そこには誰もいなかった。


再び座り直すと、ライは目を閉じた。


「アルテミア…」


そう呟くと、闇に沈んだ。

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