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第374話 パンダ

「…」


意を決して、魔界に入ることを決めたカレン・アートウッドは、日本地区から一番近い朝鮮半島ルートから侵入しょうとしていた。


天空の騎士団や2人の女神の襲来、さらに旧防衛軍の侵攻等の熾烈な戦いを経験しながらも、未だに結界の張られた空間は、人類の意地を感じさせた。


旧防衛軍出身者で結成された義勇軍が、この地に駐留していたのだ。


プレハブ小屋が並ぶ義勇軍の敷地を迂回して、結界を越えようとしていたカレンの耳に、歓声が飛び込んできた。


彼らが興奮しているのは、ある声明文が全世界に向けて、放たれたからだ。


「今ここに!人類防衛軍の設立を宣言する!」


高々と読み上げられた言葉に、プレハブ内から一際大きな歓声がわいた。それから、数秒後…歓声は爆発することになる。


その理由は簡単である。


壇上に、1人の男が上がったからである。


「人類防衛軍の最高責任者!ジャスティン・ゲイ!」


声明文を読み上げた男に促されて、前に出たのは、ジャスティンだった。


伝説のホワイトナイツの最後の1人の姿に、プレハブから一番大きな歓声がわいた。


ジャスティンは、深々と頭を下げた。


そして、数秒後…今度は顔を上げると、すぐに言葉を発することなく、ゆっくりと噛み締めるように、話し始めた。


「…皆さん。今…いや、人間という存在が誕生した時から、人類はいつも未曾有の危機に晒されて来ました。それを今まで切り抜けて来られたのは、これまで生命を紡いで来た先人達の御陰です。この新たな組織である人類防衛軍は、過去から未来を紡ぐ架け橋になる為に、設立されました」


ジャスティンは、そこで言葉を切り、


「人類の今までの叡知を、今生きる者達と、今から生まれてくる者達へ繋いでいく。我らはその為に、今日結成されました。それは、人類の未来の為!人という種を守る為に!そこに驕りもたかりもない!ただ未来を生きる為に!すべての人類を守る為に結成されたのです!」


ジャスティンの言葉は、電波に乗ってすべての人類に届けられた。





「うおおおっ!」


旧防衛軍崩壊後も、人々の為に戦ってきた人々から咆哮のような歓声が上がった。


「フン」


その興奮に似た歓声を聞きながら、カレンは結界を越えた。


「バカ師匠が!姿を消したと思ったら〜」


はあっとため息をつきながらも、カレンの表情は笑っていた。







「う〜ん」


同時刻、首を傾げる存在がいた。


ジャスティン・ゲイである。


今流れている放送は、録画だった。


最初、結成を伝えるだけの放送をジャスティンは望んだが、周りの者達が反対した。


その為、仕方なく壇上に立ったのだ。


「客引きパンダも疲れるな」


カレンとはほぼ反対になる…アルプス山脈を越えて、魔界に入るルートを、ジャスティンは歩いていた。


カードから流れる音声に苦笑しながら、万年雪が降り積もる谷底に目をやると、ジャスティンは呟くように言った。


「この景色を見れば、わかるだろう。自然の前では、人間はちっぽけだと。いや、すべての前で、人間は小さく無力だ。だからこそ、人間は…1人では生きて行けないと気付き、他人を大切にしなければならないと思う」


ジャスティンは、足下に広がる谷底から目を前に向けた。


「だけど…人間は、無力であり、無知だ。だから、経験なしでは、その大切さを理解できない」


ジャスティンは、ゆっくりと構えた。


前方から近付いてくる影に、気付いたからだ。


「ケケケ!」


それは、毬藻に漆黒の翼をつけただけの魔物の群れ。


「人は、飛べなくてよかったと思っている。もし、空まで飛べたならば…人間はさらに、高慢になっていただろうからな」


谷底に落ちる心配のない魔物達は、空中を伸び伸びと疾走する。


「だが…少しは羨ましいな」


少ない足場と周りの地形…そして、向かってくる群れの動きを頭に叩き込むと、ジャスティンは魔物に向かって飛んだ。


「フン!」


カウンターのようになったジャスティンの手刀が、突進してくる魔物の翼を切り裂いた。


「ぎゃああ!」


叫び声を上げる魔物の黒い体毛を掴んだ。


「確か、貴様らに毒はなかったな!」


ジャスティンは掴むと同時に身を捻り、蹴りを叩き込み…そのまま、落下した。


「よし!」


ジャスティンは谷底に向って落ちながら、にやりと笑った。


落下するジャスティンの足下に、魔物が一匹回り込んで来たからだ。


「ぎぎい?」


驚く魔物の頭に落ちると同時に、蹴り上げ、ジャスティンは他の魔物に襲いかかる。


攻撃と落下を繰り返しながら、ジャスティンは目と頭で常に、魔物の動きを捉え、軌道をシミューレーションしていた。


群れの中で、飛べないはずのジャスティンが飛び回る。


何匹か倒した後、ジャスティンはもう足場を確保しながら戦える程の数がいなくなったと判断すると、残った魔物を蹴り、崖沿いの狭い足場に戻った。


「ぎぇぇ!」


チャンスと見た魔物達が、一斉に飛びかかってくる。


「すまないな」


ジャスティンは目を瞑ると、魔物を無視して歩き出した。


「もう…チェックメイトだ」


風を切り裂く音が一瞬、ジャスティンの鼓膜を震わした。


どこからか飛来したブーメランが、残りの魔物を切り裂いた。


ジャスティンが崖の方に、手を伸ばすと、ブーメランはその手の中に戻ってきた。


谷底に落ち、万年雪の中にめり込んでいく魔物達の死骸を見ることなく、ジャスティンは歩き続けた。


「せめて…自然の糧となれ」


そう言ってしばし歩いた後、ジャスティンは足を止めた。


「雪の中じゃあ無理か…」


ちらっと谷底に目をやろうとして、ジャスティンはため息をついた。


「やれやれ…見る時間もないのか」


今度は、山の方から…細い道を列をなして歩く魔物達がやって来た。


骸骨の体に、凍りついた鎧を着込んだ姿は滑稽であるが…一つの目の中で、蛇のようなものが蠢いていた。


「見たことのないタイプか」


ジャスティンはブーメランをしまうと、拳を握り締めた。


「まあ〜魔物図解に、載せることにしょう」


ジャスティンは足場を蹴ると、走り出した。


魔物達は、凍りついた剣を振り上げると、一斉に走り出した。


ジャスティンは不適に笑うと、走るスピードを一気に上げた。


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