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第372話 終わりの始まり

「くそ!近付けない!」


空き地につき、オウパーツ同士の戦いを見ていた緑は舌打ちした。


オウパーツをつけていない人間が、振動波を受けたら、一瞬で塵になる。


近付くこともできない状況に、苛立つ緑と違い、輝は安堵のため息をついていた。


「帰りましょうか?」


輝の言葉に、緑は再び頭を小突いた。


そんな時、銃声が空き地に轟いた。


女の金切り声のような銃声よりも、その後に起こった状況に、空き地にいる者達は驚愕した。


「な、何!?」


女が、反り返った体を起き上がらせると、額から血が流れた。


ジェースが撃った銃弾が、オウパーツを突き破り、額に突き刺さっていたのだ。


貫通こそしなかったが、オウパーツに守られているはずの生身の部分に、銃弾は到達していた。


「まだまだだな」


ジェースの耳に、ディアンジェロの声が聞こえてきた。


「そうだな…」


ジェースは、幻聴に頷いた。


「ば、馬鹿な!あらゆる攻撃を防ぐ!王の盾が!」


動揺し、狼狽える女の額に突き刺さっている部分から、ヒビが走る。


それを見た九鬼は、右足に力を込めた。


今、額に蹴りを当てれば…勝てる。


そう確信はしたが、蹴りが決まった瞬間、銃弾はめり込み…宿主であるエルの脳を傷つけることになる。


躊躇う九鬼の後ろから、声がした。


「生徒会長!これを使え!」


緑と輝のそばを駆け抜け、空き地に飛び込んで来たのは、高坂だった。


高坂は握り締めていたダイヤモンドの乙女ケースを、九鬼に投げた。


「!?」


九鬼が受け取った瞬間、手の中でそれは…剣に変わった。


ダイヤモンドソード。



「オウパーツが傷付くことなど、あり得ない!あってはならない!!」


女の目は血走り、前に立つ九鬼を睨んだ。


「やはり!もっとオウパーツを集めなければ!」


そして、九鬼に襲いかかった。


「お前のオウパーツを渡せ!」


「生徒会長!」


高坂の叫びに、九鬼はダイヤモンドソードを振り上げ、オウパーツを発動させた。


ムーンエナジーとオウパーツの振動が、ダイヤモンドソードに絡み付く。


(長くは持たない!)


ダイヤモンドソードでは、ムーンエナジーでコーティングしたとしても、数秒で塵になる。


そう判断した九鬼は一気に、ダイヤモンドソードを振り下ろした。


「ば、馬鹿な…」


襲いかかろうと両手を広げた格好で、女の動きが止まる。


「…」


高坂は無言で、頷いた。


「あ、あ、あ、あ…あり得ない…」


頭上から、額の銃弾を切り裂き、女の体の中心に線が走った。


そして、次の瞬間…オウパーツは真っ二つになり、花が開くように左右に倒れた。


地面につくと、四つの各パーツに戻った。


体を包んでいたオウパーツがとれると、変幻していたエルの肉体が元に戻った。


「九鬼さん…」


額から血を流しながら倒れるエルを、九鬼は受け止めた。


「終わったか…」


銃口を構えたまま立ち尽くすジェースの許に、ティフィンが飛んできた。


「ああ…」


ジェースは構えを解くと、サイレンスを上着の中に突っ込んだ。


そして、倒れている玲奈を抱き上げると、そのまま…ゆっくりと歩き出した。


ダイヤモンドソードを地面に突き刺し、変身を解いた九鬼のそばをも無言で通り過ぎていく。


足下に転がるオウパーツに、見向きもしないで。


そんなジェースが通り過ぎるまで、目で見送った高坂は、転がるオウパーツのそばまで歩き出した。


「輝!あたし達もいくわよ!」


一連の攻防を唖然としてただ見ていた緑と輝ははっとして、駆け出した。


「おお〜」


ジェースとすれ違う時、輝は腕のオウパーツを見つめながら、少し距離を取った。


「早くしろ!」


緑の声に、輝は慌てて走り出した。


「ひかるか…」


ジェースはフッと笑った。


「ジェース…」


ティフィンは、ジェースの隣を飛びながら、それ以上かける言葉がなかった。






「オウパーツを回収する!そして、然るべき場所で封印する」


オウパーツを素手で触ろうとする高坂に、駆け寄ってきた緑が慌てて叫んだ。


「部長!」


その声にも、手を止めることなく、高坂は笑った。


「心配するな。こんな鎧如きに、操られることはない」


高坂は敢えて、仮面のオウパーツから先に手を伸ばした。







「終わりましたね」


新聞部の部室で、舞から戦いの結果を知らされたさやか。そのそばで、通信を聞いていた梨々香が、笑顔で言った。


「そう…」


さやかはため息をつくと、ソファーに深々ともたれ、


「何も終わっていないわ」


天井を見上げた。




それから、数日が過ぎた。


各オウパーツは、大月学園とその他学園関係の土地に封印された。


仮面のオウパーツは、情報倶楽部の地下に再び封印された。


「今回のことでは、あなたに迷惑をかけましたね」


理事長室で、黒谷は少し無理して、目の前に立つ生徒に微笑んだ。


「生徒会長」


「いえ…」


九鬼は、首を横に振った。その右足には、まだオウパーツがついていた。


「しかし…あなたは、これからも背負っていかなければならなくなったわ」


黒谷の嘆きに、九鬼は微笑み返した。


「大丈夫です」


「確かに…あなたの足にあった方が、安心だけど…」


黒谷は、九鬼から視線を外し、真後ろの窓に顔を向けた。


「結局…彼は、戻って来なかったわね」


戦いの後、ジェースは玲奈を抱えたまま…姿を消した。


「大丈夫でしょう。彼は、オウパーツに操られることはないと思います」


九鬼は、ジェースから自分と同じ染み付いた血の香りを嗅ぎ分けていた。


しかし、そこに底知れぬ悲しみがあることも、見抜いていた。


そんなことを考えている内に、九鬼もまた…黒谷と同じように、窓から学園の様子を無意識に見つめていた。




「…」


学園内を、無言で歩いていた高坂は、仮面のオウパーツを掴んだ手を見つめていた。


(あの時、確かに声はした…。しかし!)


高坂は、手を握り締めた。


(あんなものに、惑わされるか!)


そう思った高坂の横から、声がした。


「だけど…人は弱いよ。みんなが、お前のように強くない」


「!」


驚き足を止めた高坂の横に、幾多がいた。


「やあ〜」


廊下にもたれながら、愛想笑いを浮かべる幾多に、高坂は無表情になり、ただじっと見つめ合った。


「基本的に人は弱い。さらに、無償で素晴らしい力を与えて貰えるだったら〜喜んで受けとるよ」


少しおどけて見せる幾多に、高坂は表情を変えない。


幾多は肩をすくめ、


「だけどね。何でも苦労せずに、喜んで受け取るやつに…真の強さは手に入らないよ」


「…」


「そう…そんな強さは、まやかしさ」


その格好のまま、幾多は歩き出した。


「じゃあね〜真」

自分の後ろを歩き出した幾多に、振り返ることなく、高坂は口を開いた。


「極楽島で、生徒を助けたな」


その言葉に、幾多は足を止め、


「でも、結局死んだよ」


「どうしてだ?」


「簡単な理由さ。人は、憐れだからさ。でも〜死んだ。憐れを通り越して、滑稽さ」


「お前は…一体」


高坂が振り向いた時には、幾多の姿は消えていた。どうやら、廊下を曲がったらしい。


「…」


高坂はしばらく、誰もいない廊下を見つめた後、前を向き、歩き出した。


別に追いかけることはしなかった。


拳だけを握り締めると、高坂はさっきよりも、力強く廊下を歩き出した。





心動編。


完。



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