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第370話 王パーツの意志

「馬鹿な子…」


九鬼から連絡を受け、麗華の遺体を確認に来た黒谷理事長は、呟くように言った。


かける言葉がない九鬼は、医師達が死亡確認に学園まで来る時間を待てなかった。


黒谷理事長に頭を下げると、その場から消えた。


「くそ!」


高坂は、廊下にある柱を叩いた。


「部長!」


騒ぎを聞き付けた緑と輝が、麗華が死んだ廊下に姿を見せた。


「緑!輝!オウパーツを探してくれ!黒谷先輩から、オウパーツがなくなっている!」


高坂は柱を叩いた格好のまま、拳を握り締めた。


「その件なのですが、他にオウパーツをつけた転校生も、行方不明です」


放課後になり、転校生を尾行する為に、彼らを探していたが、緑と輝は見つけることができないでいた。


「何だと!?」


驚く高坂のカードが鳴った。制服の胸ポケットから、カードを取り出した高坂の耳に、部室にいる舞の声が飛び込んで来た。


「部長!転校生の女と、妖精を連れた男子生徒が、裏門を出るのを、監視衛星がとらえました!」


舞は部室から、玲奈の動きを監視衛星で探っていたのだ。


「妖精を連れた男子生徒!?」


首を傾げる高坂に、廊下で横になっている麗華を見下ろしていた黒谷理事長が口を開いた。


「彼は今日転入した生徒です。そして、彼もまた…オウパーツの宿主です」


「な!」

「え!」


高坂達が驚き、黒谷理事長を見たが…彼女はそれ以上何も言わなかった。


「くそ!」


高坂は、カードに向かって叫んだ。


「舞!そいつらの動きをそのまま監視してくれ!緑、輝は現場に向かえ!」


「ぶ、部長は?」


輝の問いに、


「俺は、先輩の遺体が運ばれるまでここにいる」


顔をしかめたまま答えた高坂。


「了解しました」


緑は頷くと、渋る輝の腕を取って走り出した。


「まったく…どうして、俺は…こんな部に入ったんだろ」


輝は引っ張られながら、ため息をついた。


「部長!一応、彼らが向かうだろう場所は、リサーチ済みです。そこに、あの子を配置してます」


舞は楽しそうに、にやりと笑った。





「退屈だ」


その予定ポイントで腕を組む…金髪の女子生徒。


「まだ来ないのか…。うん?」


突然、女子生徒の左目が光った。


「来たか!」


監視衛星から送られてくる情報が、女子生徒に2人の接近を伝えた。


すると、女子生徒は二本の刀を握り締めた。


「うん?」


大月学園の裏口から、少し離れた場所に、広場があった。哲也達…防衛軍が健在の時、そこは戦車などが配備される予定であったが、結局…計画は頓挫し、今はただの空き地となっていた。


その空き地に、ジェースと玲奈が足を踏み入れた瞬間、女子生徒は刀を向けた。


「我は、九鬼真弓の好敵手!十六早百合改め!十六夜早百合マークII!お前達が、オウパーツの…」


十六夜は、最後まで話すことはできなかった。


真後ろに2人が現れ、十六夜の首筋に手刀を叩き込んだからだ。


「あ、あたしは…何しに」


一撃で地面に倒れた十六夜を、玲奈は見下ろし、


「フン!邪魔よ」


鼻を鳴らした。


ジェースと玲奈は、十六夜のそばから歩き出すと、ゆっくりと距離を取るように離れた。


そして、空き地の真ん中に来ると、互いに向き合った。


「玲奈…」


ジェースは、ゆっくりと銃口を玲奈に向けた。


「ジェース」


玲奈は、銃口の向こうのジェースの目を見つめた。


「お前も、オウパーツの意思に操られているのか?」


ジェースは、サイレンスの引き金にかけている指が震えていることに気付いていた。


そんなジェースの様子に気付いた玲奈は憐れむように、彼を見つめると、左手を突きだした。


「あたしは、あたし。でも、オウパーツを集めるのは、組織の目的だった。そんな組織に、あたしは育てられた」


玲奈の左腕から、金属音に似た発動音がすると、オウパーツが剥き出しになった。


「だから、せめて…オウパーツを集める任務は遂行する。その後は、このオウパーツを王に捧げて、あたしは自由になる」


そして、左手を握り締めた。


「そうか…」


玲奈の言葉を聞いたジェースは、銃口を下ろした。


「どういう意味だ?」


まるで戦意を失ったようなジェースを見て、玲奈は眉を寄せた。


「自由になりたければ、このままどこかにいけばいい。もう組織はない。オウパーツを集めることも辞めた方がいい。お前は、女の子なのだから…」


ジェースがそう言った瞬間、玲奈は一気に間合いを詰めて来た。


「そんなお前の言い方が、気にいらないんだよ!」


「!?」


ジェースは下げた右腕で、玲奈の左拳を受け止めた。


2つのオウパーツの間に、火花が走る。


「玲奈…」


意外そうな顔をするジェースを見て、玲奈は唇を噛み締めた。


「女だからと言って、そんな扱いを受けて!喜ぶと思っているのか!」


ジリジリとジェースが押され、弾かれた。


バランスを崩すと、ジェースは転けそうになりながらも、すぐに体勢を立て直した。


「さすがね。後ろに転けるのは慣れているみたいね」


玲奈は、クスッと笑った。


反射的に、再びサイレンスを向けてしまったジェースは、息を飲んだ。


「ジェース…。あたし達は、組織によって育てられた。そして、お互いにオウパーツを身につけている」


「チッ」


ジェースの目に、玲奈のオウパーツの輝きが飛び込んで来た。


「あたしに、優しさはいらない。ほしいのは」


玲奈は左手の人差し指で、ジェースの右腕を指差し、


「あんたのオウパーツよ」


冷たい視線を浴びせた。


「玲奈」


「ジェース。あんたのオウパーツを奪った時、あたしの今までの人生は終わる」


と言った瞬間、玲奈の姿が消えた。


ジェースは見失うと同時に、銃口を後ろに向けて、一発撃った。


「ぎゃああああ!」


女の金切りのような銃声が、空き地に響いた。


「ジェース…」


真後ろに現れた玲奈の左腕から、硝煙が上がる。しかし、硝煙の向こうで、ジェースを見る玲奈の目が、鋭い。


「ディアンジェロに言われたんじゃないの?」


「!?」


振り返ったジェースの目に映る玲奈の姿が、ディアンジェロと重なる。


「撃つときは、魂を込めろ!」


その言葉を聞いた瞬間、ジェースの体が固まった。


「フン!」


玲奈の蹴りが、ジェースの脇腹に突き刺さった。


「ジェース!」


吹っ飛んだジェースのもとに、空き地の入口から動けずにいたティフィンが、飛んできた。


「邪魔するな!」


そんなティフィンに気付き、玲奈のオウパーツが振動した。


「塵になりたくなければな」


オウパーツの振動波よりも、玲奈の全身から醸し出す殺気に、ティフィンは息を飲んだ。


「どけ!ティフィン!」


ジェースは左手で、ティフィンをどけると、立ち上がった。


「ジェース!大丈夫なのか!」


ティフィンは離れながら、訊いた。


「心配するな。大丈夫だ」


ジェースは、サイレンスを上着の内側にしまうと、玲奈を見つめ、


「玲奈…。俺は、お前にはすべてのオウパーツを身につける資格があると思っていた。魔王に捧げるなんて、馬鹿げた目的を知らない頃はな!」


右腕のオウパーツを発動させた。


「組織にいた仲間達の殆どは、死んだ。生き残ったのは、オウパーツを身につけられた者だけだ」


「何が言いたい?そんな当たり前のことを言って!」


玲奈の姿が消えた。


しかし、今度はジェースも消えた。


「は!」


「は!」


2つの気合いが、見えない空間で炸裂した。


「きゃあ!」


「うわあっ!」


2つのオウパーツは、共鳴することなく、反発した。


互いに後ろに吹っ飛びながらも、2人は体勢を崩すことはない。


「は!」


「は!」


再び地面を蹴ると、2人はぶつかり合った。




そんな戦いの様子を、ティフィン以外に見守っている人物がいた。


灰色のコートで全身を包み、目深のフートが表情を隠した男。


男は気配を断ち、遠くから戦いを見守りながら、呟くように言った。


「真剣にやり合ったならば、ジェースが勝つだろう。しかし、お前は…玲奈に本気になれない。そして、玲奈は…お前だからこそ、持てる以上の力を発揮できる」


男は息を吐くと、2人に背を向けた。


「第二の試練だ。ここをどう切り抜けるかで…お前の生き方が決まる」


男はそのまま…姿を消した。





「ジェース!本気を出せ!」


玲奈の攻撃に、押されていくジェース。


「くっ!」


顔をしかめると、間合いを取ろうとしたが、玲奈がそれをさせない。


「あたしが、女だからか!」


左手の手刀を、右肘で受け止めたジェースに、顔を近づけると、玲奈は睨み付けた。


「ひかるは、殺した癖に!」


密着した状態で、膝を突き上げる玲奈。


「うっ!」


くの字に曲がったジェースの首筋に、右肘を叩き込んだ。地面に、ジェースは膝をつけた。


「クッ」


そして、離れる玲奈にジェースの手が思わず、上着の中のサイレンスに伸びた。


「どうした?抜かないのか」


玲奈の言葉に、ジェースは下唇を噛み締めた。


「今のお前では!あたしを倒せない!降参し、オウパーツを渡せ」


玲奈がジェースに、左手を差し出した…その時突然、玲奈の後ろに上空から黒い影が飛来した。


「そうよ…。オウパーツを渡すのよ!」


突如とした現れた者の声に、玲奈は反応した。


真後ろに、回し蹴りを放った玲奈は逆にふっ飛んだ。


今度は、受け身も取れずに地面を転がる玲奈を見て、ジェースは立ち上がった。


「玲奈!」


「遅い!」


ジェースが立ち上がった瞬間、突如現れた者は、左足で地面を蹴り、右膝をジェースの鳩尾にまるでミサイルのように叩き込んだ。


「ぐわっ!」


ジェースの口から、血が吐き出されると、くの字に体を曲げながら、後方に吹っ飛んだ。


「ジェース!」


慌てて、ティフィンが飛んできて、ジェースの鳩尾に手を当てた。


「内臓が…破裂してる!?」


ジェースの状態に愕然としたティフィンの後ろから、ゆっくりと高笑いをしながら、近づいて来る者は…頭に鉄仮面を被り、胸と左足にオウパーツをつけていた。


「鉄仮面の女!?」


治療をしながら、振り返ったティフィンの額に、冷や汗が流れた。


「違う…」


ジェースは上半身を起こすと、鉄仮面の隙間から覗かれる瞳を見つめ、


「知らない女だ」


唇を噛み締めた。すると、唇の端から、血が流れた。


「アハハハハ!」


3つのオウパーツを着けた女は笑いながら、両手を広げた。


そして、ジェースのそばで立ち止まると、見下ろしながら言葉を続けた。


「王は!我を否定した!この我をだ!世界中のあらゆる防具の頂点に立つ我をだ!」


「何を言ってやがる!」


ティフィンは震えながらも、強がりながら毒づいた。


「ならば!我は我の為に、この力を使おう!この最強の盾を!」


女の言葉と、仮面から覗かれるどこか虚ろな目を見て、ジェースは悟った。


「ま、まさか…オウパーツが意思を持っているのか!」


「え!?」


絶句するティフィン。


「知らなかったのか?」


女は、ジェースを見下ろし、クククッと笑うと、


「仕方がないか…。お前は、単に腕をつけているだけだからな!我は、選んでいるのだよ!我を身につける資格がある王をな!なのに!しかし!」


仮面から覗かれる目が、血走る。


「その資格のある王が!我の体を傷付けた!許さんぞぉ〜!許さんぞ!」


「狂ってやがる」


ティフィンは、顔をしかめた。


「まずは、右腕を回収しょうか」


治療を続けるティフィンの頭に、影が落ちた。


左足を振り上げた女は、そのまま一気に振り下ろした。


発動したオウパーツが、高周波ブレードのような性能を発揮し、ジェースの肩口を切り裂くはずだった。


「な!」


確かに、血飛沫は舞い…右腕は地面に落ちた。


しかし、その腕はジェースのものではなかった。


「あたし以外に!ジェースは殺らせない!」


ジェースと女の間に、割って入ったのは、玲奈だった。


「ジェースは、あたしが!」


玲奈の左腕がうねり上げて、女のボディに突き刺さった。


しかし、女は平然としていた。


「ば、馬鹿な」


玲奈は愕然とした。


オウパーツが覆っていない…素肌の部分にヒットしたはずだった。


それなのに…いつのまにかオウパーツが、女の腹の周りを包んでいた。


「残念!」


そう言って笑った女が、玲奈の左腕に自分の左手を添えた瞬間、オウパーツは移動した。


「そして…さようなら」


「うぐっ!」


オウパーツをつけた女の左腕が、玲奈の胸から背中を貫いていた。


「玲奈!」


ジェースの叫びも空しく…女が腕を抜いた瞬間、胸と背中から鮮血が噴き出した。


その血の雨は、ジェースとティフィンに降り注ぎながら…ゆっくりを勢いをなくしていった。


(ごめんなさい。最後まで…守れなかった)


その場で崩れ落ちながら、玲奈は絶命した。


彼女には、誰にも言っていない目標が2つあった。


一つは、ジェースより強くなること。


もう一つは…ジェースを助けること。


子供の頃、魔神から自分を助けてくれたジェースを守りたかったのだ。


それは、強くなる先にあった。


「レナアアア!」


玲奈の体が、地面に落ちると同時に、ジェースは立ち上がった。


そして、サイレンスを抜くと、銃口を向け、発砲した。


「ぎゃあああ!」


女の金切り声のような銃声を聞きながら、ジェースのそばから離れたティフィンは、呆然としていた。


なぜならば、玲奈が死んだ瞬間、ジェースの怪我が治ったからだ。


「破裂した内臓が勝手に…」


その現象は、ティフィンには信じられないことだった。


「まるで××××のよう…」


ティフィンの脳裏の、一人の男が浮かんだ。




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