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第368話 しなる足

「九鬼さん!」


すべての授業が終わり、生徒会室に向かう九鬼の後ろから、誰かが駆け寄って来た。


「エルさん…」


振り返った九鬼の目に映ったのは、ジャスティンとともに極楽島で出会ったエルという少女だった。


彼女は、すぐに旅に出たジャスティンとは違い、大月学園の生徒になったのだ。


「私も生徒会にお邪魔していいですか?」


エルは九鬼の横に来ると、笑顔で訊いた。


右足のオウパーツを身につけた九鬼をサポートする理由もあるらしいが、エルはできるかぎり九鬼のそばにいようとしていた。


「ええ…」


九鬼は曖昧に、頷いた。


オウパーツをつけた4人組が学園にいる為、できれば自分のそばにいて欲しくはなかった。


しかし、無下に断ることもできなかった。


極楽島での戦いで、傷付いた九鬼の足を治療し続けてくれたのは、エルだったからだ。


「私も生徒会の為に、何かお手伝いすることありますか?」


笑顔でそう言うエルに、九鬼は愛想笑いを浮かべ、ありがとうとしか言えなかった。


「ケケケ」


その時、どこからか下品な笑い声が聞こえて来た。


九鬼はその声に、聞き覚えがあった。


「エルさん!」


九鬼は前に出て、エルを背中で庇うと、声が聞こえて来た方向を睨んだ。


十メートル程先に、ソリッドが立っていた。


「生憎、俺は!慎重派なんだよ。ジェースとやり合うよりも、先に初心者を殺る方が確実だろ?」


ソリッドは舌を出し、唇を舐めた。


「九鬼さん!」


自分の背中にしがみつくエルに、九鬼はソリッドを睨み付けながら言った。


「エルさん!後ろに下がって下さい!あいつの相手は、あたしがします」


「わ、わかりました」


九鬼の全身から漂ってきた闘気のようなものを、敏感に感じ取ったエルは背中から離れた。


「麗華よ!俺は貴様の思い通りにはならない!すべてのオウパーツを手にするのは、このソリッド様よ!」


と叫ぶと同時に、左足で床を蹴り、九鬼に飛びかかってきた。


(右足!)


蹴り足を冷静に判断した九鬼は、ソリッドの攻撃を左手で受けようとした。


「甘い!」


九鬼の手にソリッドの右足が当たった瞬間、そこを支点にして、身を捩ると被せるように上から左足を、九鬼の脳天に叩き込もうとした。


「な!」


今度は、ソリッドが驚く番だった。


九鬼はソリッドの右足が当たる寸前、腕を水平にした。そして、身を屈めて半歩下がると、ソリッドの右足の付け根に肩を入れて上に上げることで、バランスを崩さしたのだ。


空振りしたソリッドの左足が、地面についたを確認すると、九鬼は半転し、彼の首筋にバックアンドブロウを叩き込んだ。


さらに間髪を入れずに、膝を入れようとした九鬼は違和感を感じ、後ろに下がった。


「!?」


ソリッドから離れる時、九鬼の黒髪の先が塵になった。


「勘がいいな」


ソリッドはにやりと笑った。 そして、胸を張ると、服が塵になり…オウパーツを露にした。


「胸のオウパーツ!」


離れた距離から見ていたエルは、絶句した。


「まだ2つのオウパーツに慣れていないが…」


ソリッドは、左足のオウパーツを発動させた。


胸のオウパーツと別々に発動させることに、慣れていない為に、バックアンドブロウを叩き込んだ時に、九鬼を塵にできなかった。


胸のオウパーツを発動させようとした一呼吸の間に、九鬼の本能が反応したのだ。


「まあ〜いい。この戦いで、慣れさせて貰うぞ」


ソリッドは、2つのオウパーツを発動させながら、九鬼に向かって歩き出した。


「九鬼さん!」


エルの心配そうな声に、九鬼は振り返らずに、大丈夫とだけ言った。


「その右足のオウパーツも貰うぞ!」


歩く速度から一気に、スピードを上げたソリッド。


一瞬の内に間を詰め、オウパーツの波動で、九鬼を塵にしたはずだった。


しかし、ソリッドは目を見開いた。


「貴様!」


顔をしかめながら、振り返ると、ソリッドの後ろに九鬼が立っていた。


「オウパーツを扱えるのか!?」


九鬼がさっきまで立っていた廊下の床が、抉れていた。


「あり得ん!」


ソリッドは反転した。


「オウパーツを扱うには、訓練が必要なはずだ!ただ着けただけで扱えるか!」


叫びながら、九鬼に向かっていくソリッド。


「九鬼さん!」


その向こうで、エルが叫んだ。


「こいつは、2つのオウパーツの発動するタイミングをずらそうとしています!」


「一般人が、なぜそれを!」


ソリッドは舌打ちした。


「だけど、そう簡単にできるはずがありません!オウパーツはもともと一つの物体なのですから!」


「黙れ!小娘!」


ソリッドの左足が鞭のようにしなり、九鬼の顔を狙う。


しかし、当たらない。


「これなら、どうだ!」


左足の軌道が、変わる。まるで、無数の足があるかのように、九鬼の目には映った。


しかし、九鬼は目で判断しない。


「何!?」


蹴りを繰り出しながら、ソリッドは驚いた。


なぜならば、九鬼が目を瞑っていたからだ。


「は!」


そして、気合いを入れると、右足を蹴り上げた。


「!?」


ソリッドの蹴る方向に合わせた九鬼の右足は、そのまま床にソリッドの左足を押さえつける格好になった。


「は!」


ソリッドの足を封じた後、九鬼の手刀が首筋に叩き込まれようとした瞬間、ソリッドはにやりと笑った。


「死ね!」


胸のオウパーツだけを発動させようとしたソリッドの笑いは、凍り付いた。


手刀は囮だったのだ。


押さえつけていた右足を素早く離すと、そのまま膝を曲げて、ソリッドの腹に突き刺していた。


くの字に体を曲げたソリッドに、別々にオウパーツを発動させる芸当などできなかった。


九鬼は、くの字に曲がったソリッドの首に手を渡すと、絞めながら持ち上げ、背中から廊下に落とした。


「うぎゃああ!」


オウパーツをつけていた為に、肉体は大したダメージを受けていないが、ソリッドの精神的ダメージは大きかった。


「貴様!何者だ!」


ソリッドは直ぐ様起き上がると、九鬼を睨んだ。


「これ程の体技!どこかで、訓練を受けたのか!」


「…」


ソリッドの質問に、九鬼は答えず…ただ、右手を突きだし、指でかかって来いと示した。


「な、な、舐めるな!」


その仕草を見た瞬間、ソリッドはキレた。


オウパーツをつけていない素肌の部分から、髪型のように鋭い刺が飛び出し、体の皮膚感がワックスを塗ったかのように、つるつるになっていく。


「まさか!ジェース以外で、この姿になることがあるとはな!」


ソリッドのにやけた口元が、裂けていく。


九鬼は、目の前の変幻の感覚を知っていた。


「魔獣因子…」


九鬼の呟きに、エルが反応した。


「!」


ぎゅっと胸を握りしめて、後ろからソリッドの変化を見つめていた。


「死ね!」


全身の刺が、九鬼に向かって放たれた瞬間、


「装着!」


九鬼の姿が、再び消えた。


「な!」


誰もいなくなった空間を、虚しく通り過ぎた刺を唖然と見つめていたソリッドは、真横から凄まじい衝撃を受けて、ふっ飛んだ。


窓ガラスを突き破り、外に出たソリッドの目に、廊下で右足を突きだしている乙女ブラックの姿が目に入った。


「あれが…月の鎧?」


立ち上がったソリッドが、乙女ブラックの方を向いた瞬間、上空に無数の回転する光のリングが現れた。


そして、一斉にソリッドに襲いかかった。


「馬鹿目!こんな攻撃が通用するか!」


ソリッドの胸と左足から、振動波が発生し、向かってくる光の輪を次々に破壊した。


リングは光の粒子に戻る瞬間、一瞬だけ輝いた。


「ハハハ!効くかよ!」


その輝きは、目眩ましの役割を担っていた。


「うん?」


ソリッドは、リングの輝きが消えた時、廊下に九鬼がいないことに気付いた。


しかし、もう遅かった。


ソリッドの頭に、上空から落ちてきた九鬼の右足が、突き刺さっていた。


「な、なにぃ!」


咄嗟に、オウパーツを発動させて相殺しょうとしたが、ムーンエナジーが絡まった九鬼のオウパーツと共鳴できなかった。


「ま、まさか…」


ソリッドは、脳天から塵になっていく。


「貴様も…オウパーツの振動を変えられるのか…」


それが、ソリッドの最後の言葉になった。


胸と左足のオウパーツを残して、ソリッドはこの世から消滅した。


「月影キック…」


呟くように、地面に着地した九鬼のそばで2つのオウパーツが転がった。


そのオウパーツを、エルはぎゅっと胸を握り締めながら、見つめていた。


「オウパーツ…」


そして、彼女もまた呟くように言った。


「何があった!」


戦いが終わり、九鬼が眼鏡を外した瞬間、騒ぎに気付いた教師や生徒達の声が、校舎の向こうから聞こえてきた。







「またか…」


ソリッドが消滅した瞬間、麗華は舌打ちした。だけど、すぐに口元に笑みを浮かべた。


「しかし…それもまた、オウパーツの意志!」


麗華は、廊下を歩く速度を早めた。


「早く一つになりたがっている!」


すぐに足を止めると、天に手を伸ばした。


「真の王に捧げる為に!」


そして、恍惚の表情を天井に向けた。



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