第365話 刃の震え
世界は、広い。
つくづくそう思う。
世界中を飛び回りながら、人々を助ける為に戦う僕とアルテミア。
今は、炎の中にいた。
逃げれないものを、炎は平等に焼き尽くしていく。
そこに差別はない。
そんな炎の中で立つ僕に、魔物の一匹が言った。
「お前のやっていることは、偽善だ!人間を襲うから、我々を殺すのか?しかし、人間が何かを殺さないというのか?いや、人間だけではない!すべての生き物が何を殺し、摂取して生きている!そこに罪があるのか?だとしたら、すべての生き物に生きる価値はない」
そう告げる魔物の言葉に、僕は答えない。
「それにだ!お前が人間ならば、お前の行動を少しは認めよう!しかし、お前は人間ではない!そうだろ?赤の王!」
すべてを焼き尽くしていく炎の形が、変わっていく。
「お前は、人間ではないのだ!」
そう叫んだ魔物の体からも、炎が噴射され、新たな魔物が生まれた。
炎の騎士団。
いつのまにか、無数の炎の魔物が僕を囲んでいた。
「赤星…」
アルテミアの声に、僕は頷いた。
「心配するな。僕に迷いはない」
囲む炎の魔物達を見つめることなく、僕はゆっくりと拳を握り締めた。すると、両手に鉤爪が装着された。
「人間を守る。そこに矛盾があったとしても、何も迷わないよ」
僕は無理矢理、微笑んだ。その笑みを見て、炎の魔物達が凍りつく。
「僕は、赤星浩一。人間から産まれ…ブルーワールドで、覚醒した…」
僕の瞳が、赤に染まる。
「戦士だ!」
戦いは、続く。永遠だろうか…。
いや、永遠はない。
ちっぽけな僕に、永遠なんてこない。
だけど、どこまでも行こう。
アルテミアとともに、いるならば…。
ファイヤクロウによって、炎の魔物達は切り裂かれていく。
回転すると、渦巻きが発生した。
舞い上がる魔物達。
「赤星!」
ピアスの中から、アルテミアが叫んだ。
「モード・チェンジ!」
空高く舞い上がった渦の先から、アルテミアが白い翼を広げて出現した。
「うりゃあああ!」
アルテミアの手に、ライトニングソードが握りられて、魔物達を斬り裂いた。
戦いは、続く。
未だに…終焉を迎えさせる方法はわからない。
だけど、先には進もう。
戦いの先にある…何かを目指して。
「うん?」
同じく、人間の為に旅を続けるジャスティンの前に、数人の戦士が現れた。
思い詰めた顔をした彼らに、ジャスティンは警戒を解いた。
なぜならば、まったく殺気を感じなかったからだ。
今、ジャスティン達がいるのは、アメリカ西北部の草原だった。
数年前、2人の女神によって壊滅的打撃を受けた大陸は、しばし…無法地帯になっていたが、最近やっと治安が安定して来ていた。
しかし、壊すことは簡単であるが、つくることは難しい。
再建していく町を守る為に、ジャスティンはこの地にいたのだ。
「ジャスティン・ゲイ殿でよろしいでしょうか?」
戦士の一人が、ジャスティンに尋ねた。
「ええ。そうですが?」
ジャスティンは頷いた。
すると、一斉に戦士達は片膝を下ろし、臣下の礼を取った。
「我々は、崩壊した防衛軍に代わり、新たな組織をつくる為に、動いている者達です」
「ここ数年、人類はばらばらになっています」
2人の戦士の言葉に、ジャスティンは思わず反応した。
「それは、違う」
「わかっております」
ジャスティンの言葉に、すぐに返答した。
「逆に、人類は真の意味で結束して来ていると!仰りたいのでしょ」
「しかし、それは…あまりにも、小規模!人類が、魔物達に対抗する為には、一枚岩になるしかないのです」
「だからこそ、我々は新たなる組織。人類防衛軍を設立したいと思っております!」
そう言った瞬間、戦士達は一斉にジャスティンを見た。
「しかし、その設立を我々が口にしたところで、集まる人の数はしれています。だが!あなたならば!」
「伝説のホワイトナイツの1人…あなたが呼び掛けたならば、多くの人々が賛同するでしょう!」
戦士達は、頭を下げた。
「すべての人類の為に!我々の人類防衛軍のトップになって頂きたい!」
「あなた様のお力を!我々人類の為に!」
「…」
戦士達の願いを聞きながら、ジャスティンはかつての防衛軍の設立時を思い出していた。
あの時、まだ十代だったティアナ・アートウッドを防衛軍はトップに添えようとしていた。
しかし、ティアナは断った。その直後、ライと結ばれたことで結局、彼女は人類の旗印になることはなかった。
いや、知っている者は知っている。
ティアナがどれ程…人類の為に尽くしたのかを。
ジャスティンは、戦士達を見つめながら、フッと笑った。
その笑みは、頭を下げている戦士達からは見えなかった。
(ただ…ここまで、生き残っただけの俺が、トップに立つのか?)
それが、おかしかったのだ。
人を率いるのは、クラークが似合っていた。
(しかし…俺程度の客寄せパンダが、人類を団結させる為の礎になるならば…)
そこまで考えてから、ジャスティンは戦士達に告げた。
「新たな防衛軍。その結成には、賛同します。しかし、組織が巨大ならば、絶対に腐敗する部分が出てきます。かつての防衛軍のように」
「そ、それは…」
1人の戦士が口ごもったが、一番前にいる戦士がすぐに口を開いた。
「確かに、汚職や腐敗…負の部分も出てくるでしょうが!それでも、人は群れなければ生きていけない生き物なのです」
と言うと、先頭の戦士は顔を上げ、ジャスティンの目を見た。
その目の強さに、ジャスティンは頷いた。
もし、腐敗した部分が出たならば、膿はすぐに取る。戦士の目は、そう語っていた。
(すべて…覚悟の上か)
ジャスティンは目を閉じた。安定者だった時、自分はそのような決意があっただろうか。
ジャスティンは、戦士達を見回した。
ほとんどが、二十代であろう。
(若者を導くのは、俺の役目か)
ジャスティンは、自分に苦笑した。何をえらそうに考えているのかと。
その笑みの理由がわからない戦士達だが、ジャスティンの 雰囲気が変わったことには気付いていた。
「お受けしましょう」
「え」
ジャスティンのあまりに早い返事に、戦士達は驚いてしまった。
「但し、条件があります。トップになったとしても、私は戦いの場所に赴きます。でないと、自分のレベルが下がってしまいます。折角、ここまできたのに」
ジャスティンは、拳を握り締めた。
その雰囲気に、戦士達は唾を飲み込んだ。
「も、勿論です。あなたがいなければ、人類は魔物に勝てない」
戦士達は一斉に、立ち上がると頭を下げた。
「ありがとうございます」
「お礼なんていいですよ」
ジャスティンは微笑んだ。
それから、1ヶ月後…ジャスティン・ゲイの名で、新生人類防衛軍の結成が、世界中に発信された。
その瞬間、ぞくぞくと人類防衛軍への参加表明が沸き起こった
人類は、団結の道を選んだ。
しかし、それは魔王軍を刺激させた。
全面戦争は、近い…と、誰もが思ったが、実際は遠くなっていた。
なぜならば、ジャスティンは1人で、魔王の城に攻めいる覚悟をしていたからだ。
(犠牲にしていいのは…自らの身だけだ)
ジャスティンは、最後に自分がしなければならないことを理解していた。