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第361話 鋭い瞳

「うん?」


秘密の出入口から、情報倶楽部の部室前に来た高坂はいつもと違う空気を敏感に感じ取り、ドアを一気に開いた。


「舞!」


学園生活の殆どを部室で過ごす舞がパソコンの前に…はいたが、椅子に紐で縛られていた。


「無用心ね。通路の認識機能をオフにしているなんて…。ここの入口の場所を知ってる者なら、簡単に入れるわよ」


舞に駆け寄ろうとした高坂は、左側にある奥の部屋から声がした為に、足を止めた。


「!?」


驚き、振り向いた高坂は、さらに絶句した。


薄暗い奥の部屋から、鉄仮面の女ーー黒谷麗華が出てきたからだ。


「どうしてここが!」


高坂は慌てて、学生服の内ポケットに手を伸ばした。


「やめておいた方がいい。その力では、あたしを倒せない」


「何!?」


「それに…」


麗華は、部室内を見回し、


「ここに、あたしがほしいものは何一つもないから…」


クスッと笑った。


その笑みの中に、嘲りよりも懐かしさを感じ取った高坂は、一歩前に出た。


「あんたは…一体?」


訝しげに自分を見る高坂に、麗華は微笑むと、


「知りたい?」


首を傾げて見せた。


「!」


高坂は息を飲んだ。鉄仮面で覆われている麗華の表情でわかるのは、目だけだ。


それなのに、口許や見えないところの微妙な変化を感じ取っている自分に気付いたからだ。


前に出たはずの自分の足が…逆に一歩下がっていたことに気付き、高坂は下唇を噛み締めた。


「クッ」


そして、全身に気合いを入れると、前に出ようとした。


「拓真のことは感謝しているわ」


唐突に、麗華の口から出た言葉に、高坂の動きは止まった。


「え」


その横を、麗華が通り過ぎていく。


「あいつの呪縛を解いてくれて」


耳元で優しく風のように囁く声よりも、高坂は先程女の声から感じた懐かしさを思い出した。


「あ、あんたは!」


高坂は、すれ違った麗華の方に振り返った。


「部長を知ってるのか!」


高坂の叫びに、麗華は足を止め、


「…後輩に手を出すのは、やっぱり…気が引けるわね」


にやりと笑った。鉄仮面越しでも、その表情はわかった。


「後輩だと!?」


高坂の全身が震えた。


「…」


その様子をしばらく見つめた後、


「御機嫌よう」


麗華は部室から消えた。


「くそ!」


ダイヤモンドの乙女ケースを取り出すと、部室から飛び出そうとする高坂を、椅子に縛られた舞の声が止めた。


「ぶ、部長〜」


舞の蚊の鳴いたような声に、高坂は乙女ケースを握り締めると、内ポケットにしまった。


「大丈夫か?舞」


出入口に背を向けると、パソコンの前まで走った。


「部長…」


膝を曲げて身を低くくして、紐を解いていく高坂の後頭部を見つめながら、呟くように言ってから、しばらく舞は口をつむんだ。


そして、紐が解ける寸前に、やっと口を開いた。


「部長…。今の女…恐らく、情報倶楽部の先輩です。それも、森田部長と同期の…」


その言葉に、高坂は鼻で笑った。


「何を言っている。部長になってから、あの人はたった1人で情報倶楽部を守って来たんだ。俺が入るまではな」


「そうでしょうか?」


自由になった舞は、椅子から立ち上がることなく…しばらく高坂を見つめた。そして、ぎゅっと両手を握り締めると、椅子を回転させた。


「舞?」


「…」


無言でキーボードに指を走らせて、あるデータを引き出す。


それは…。


「部長…」


舞はもう一度、椅子を回転させると、高坂の前で止まった。


「見てください。二年前の…情報倶楽部の報告書です」


「え…」


画面を覗き込んだ高坂は、目を見開いた。


「…王の盾に関する報告書?」


「はい」


舞は頷いた。


「何だ?これは…」


高坂は、画面に映る文字に目を走らせた。


「これは…情報倶楽部の正式をファイルには、入っていませんでした。旧型のディスクに、記録され…処分対象になっていましたが…あたしが、復元させました」


「ば、馬鹿な!オウパーツが、この学園に…情報倶楽部の部室の下にあっただと!?」


高坂は思わず声を荒げた後、絶句した。


「恐らくは…この報告書を書いた黒谷麗華こそが、先程の鉄仮面の女」


舞はため息をつくと、再びキーボードに指を走らせた、生徒に関するデータベースにハッキングした。


「二年間…休学扱いになっていましたが、今戻ってきたのでしょう」


「オウパーツを被ってか…」


そこまで言ってから、高坂ははっとした。


「ま、まさか!森田部長が、オウパーツを身につけて、自らを犠牲にしたのも!」


「それは、わかりません。大月学園にあったオウパーツは、一つ。森田部長のやつはわかりません」


舞は、画面を報告書に戻した。


この報告書を書いた当時、麗華は極楽島にオウパーツがあることを知らなかった。


「…」


高坂は、麗華の報告書を見つめながら、拳を握り締めた。


その頃の彼女が書いた内容は、オウパーツを人類の盾にできるのではないかと書かれていた。


しかし、彼女はオウパーツの魔力に負けた。


そして、今の彼女がいるのだ。


鉄仮面に、顔を奪われた…異形な姿を。





「…」


部室から出て、体育館裏を歩く麗華の前に、熊のような体型をした男が、現れた。


「麗華」


その男もまた、オウパーツの適合者の1人だった。


「ベアハング…」


麗華は目を細めた。


「やはり…ジェースが生きていたぞ」


ベアハングの衝撃的な報告にも、麗華は驚かなかった。


「そう」


それだけ言うと、再び歩き出そうとする麗華の道を塞いでいたベアハングは、体を横に向けた。


「それだけか?」


ベアハングは意外そうに、麗華の動きを目で追った。


「当たり前のことよ」


麗華はクスッと笑い、


「もともと一つだったオウパーツは、引き合う。宿主が生きていても、死んでいてもね」


まっすぐに歩き出した。


「…」


ベアハングは目を細めると、遠ざかっていく麗華の後ろ姿をじっと見つめた。


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