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第357話 貴女の為に

「平和だね〜」


意図的に口許に笑みを作りながら、廊下歩く幾多流の前に、1人の男が立ちふさがった。


刈谷雄大である。


眼鏡を人差し指で押さえながら、無言で立つ刈谷に幾多は肩をすくめた。


「観察かい?人間の…いや、この僕の」


「…フッ」


幾多の言葉に、刈谷は口許を緩めるとそのままゆっくりと歩き出し、幾多の横を通り過ぎた。


そして、しばらく振り返ることなく、刈谷が遠ざかっていくの感覚で確認した後、幾多は歩き出した。


「正解」


と呟くように言った後、歩きながら再び肩をすくめた。


「でも…いやな人間だね。僕ってやつわ」


今度は作り笑いではなく、自然に…にやりと笑った。







「今回の合宿のことは、記事にしない」


ソファに深々と腰かけるさやかの言葉に、新聞部は騒然となった。


「部長!」

「それは、あり得ないです!」

「多くの生徒が死んだのですよ!一部の大人達の利権の為に!」


部員達の言うことはもっともだが…さやかは、一喝した。


「これは、決定事項だ」


その言葉だけで、部員は口を閉じた。


「記事を差し替えろ!」


最後にそう命じると、さやかはソファから立ち上がり、部室を出た。


いたたまれなくなったからだ。


「くそ!」


頭をかき、軽く自分自身に毒づいてみた。


部員の言うことが正しいことは、わかっていた。


しかし、それを越えたものがあったのだ。


「島の真実をすべて…暴露する訳にはいかない」


さやかは、苦悩したが…もう答えはとっくに出していた為に、決定事項を変える気はなかった。


「うん?」


少しだけ心を落ち着ける為に、部室から歩き出したさやかの目に、並んで歩く双子の姿が飛び込んできた。


「あの子達は…」


さやかの記憶から、双子の情報が導き出された。


「確か…」


合宿に参加していたはずだ。


しかし、帰りの潜水艦に乗船していなかった。


「どうしている!?」


沈んだ島から脱出したのか。


それはあり得なかった。


結界の消えた島を、センサーで捜索して、生存者を隈無く探したはずだ。


「人間の反応はなかった」


だけど…人間でないならば…反応しない。


さやかは、走り出した。


そして、カードを取り出すと、高坂に連絡した。


「もしもし、高坂!」





双子の生徒とは勿論…ユウリとアイリのことである。


彼女達は、屋上を目指していた。


無表情で能面のような顔をまっすぐ前に向け、余所見をすることはない。


一気に階段を上り切ると、鉄製の扉を開けた。


「呼び出しておいて…遅いな」


屋上の真ん中で、腕を組むアルテミアがいた。


目が合っただけでふらつきそうになる威圧感に、初めてユウリとアイリは顔をしかめた。


「―ーで、何の用だ?」


腕を組んだまま近付こうとしたアルテミアに、アイリが突然笑いだした。


「何も感じぬか?」


「?」


アルテミアは眉を寄せた。


「赤の王と言われる貴様も、その程度か?」


今度、ユウリが顔を伏せながらフッと笑った。


「!」


ユウリの言葉を聞いた瞬間、僕ははっとした。


「ア、アルテミア!」


この学校がある地域だけに、捕らわれ過ぎていた。


気を少し外に向けた瞬間、僕は絶句した。


「!」


それは、アルテミアも感知した。一瞬、青ざめたアルテミアは唇を噛み締めると、前方を睨んだ。


「き、貴様ら!」


アルテミアの怒りで震える声を聞いて、ほくそ笑む2人。


そして、2人は上空に飛び上がった。


「我ら炎の騎士団は、局地的な人類への攻撃を開始した」

「いいのかな?赤の王!それに、天空の女神よ!こんなところで油を売っていてな!」


嘲るように笑い飛び去っていくユウリとアイリの後を追おうと、空中に飛び上がろうとした時、屋上の開いている扉から、高坂やさやか…そして、九鬼とカレンに、輝と緑が飛び込んできた。


「ちょうどよかった」


そのメンバーを見て、僕はピアスの中で頷くと、アルテミアに変わることを要求した。


「モード・チェンジ」


アルテミアから、僕に変わると、屋上に姿を見せた生徒達に頭を下げてから、ゆっくりと口を開いた。


「皆さん。突然ですが、僕達はこの学園を去らなければならなくなりました。魔王の配下のもの達が、世界中の至るところで攻撃を始めています」


「な、何!?」


僕の言葉に、高坂は絶句した。


「しかし、それは!」


さやかが続けようとした言葉に、僕は頷いた。


「はい。恐らくは、オウパーツを得る為の陽動作戦でしょう。しかし、それでも人が死んでいるのも確かです」


そう話している間も、僕の胸が痛んだ。僕は胸を押さえながら、


「一刻の猶予もないのです。僕は、守る為に行きます!」


「赤星さん…」


九鬼は思わず止めようと手を伸ばしたが、途中で下げた。


なぜならば…今から人々を守る為に旅立とうする戦士を止める理由が、己の自信のなさと不甲斐なさだからだ。


「赤星…変われ」


そんな九鬼に気付き、アルテミアは僕から変わることを命じた。


「うん」


頷いた僕は、アルテミアと変わった。


「九鬼真弓」


アルテミアは、九鬼を見据えると、


「お前はまだまだ…弱い。だから再び、すべてを奪われるかもしれない」


ゆっくりと視線を右足に落とした。そして、フッと笑うと、どこからか白い乙女ケースを取り出すと、それを九鬼に投げた。


「これには、この世界の乙女ソルジャーから奪った力が入っている。」


「!?」


九鬼は乙女ケースを受け取ると、思わずまじまじと見つめてしまった。


「少しは、ましになるだろうよ」


そう言うと、アルテミアの姿が天使に変わった。白い翼を広げて空中に飛び立ったアルテミアは、一瞬で大月学園から離れた。


「いいの?」


一応訊いてみた僕の言葉に、アルテミアはああとだけ答えた。


これ以上は、僕は何も言えなくなった。


「そんなことよりも…」


アルテミアは、大月学園を見下ろしながら、僕に逆に質問した。


「オウパーツをつけた4人を始末することは、簡単だろ?」


「そうだね」


僕は頷いた。


「じゃあ…なぜしない?」


「…アルテミア」


僕は素直に、心の内を話した。


「オウパーツはなぜ…人間に寄生するんだろうな…」


「知るか…」


「そこに、オウパーツの真実があるのかもしれない」


「は?どういう意味だ?」


僕は、ピアスの中で目を瞑り、


「もしかしたら…オウパーツは、人間の盾になるかもしれない。それに…」


ゆっくりと目を開くと、


「もしオウパーツが、ライの手に渡ったとしても…僕とアルテミアがいれば、負けないよ」


自然と微笑んだ。


「ば、馬鹿!」


しばらく間を開けてから、アルテミアは顔を真っ赤にしながら、大月学園から一気に離れた。


「い、行くぞ!」


気を取り直したアルテミアは、襲われている人々を救う為に、日本地区から離れた。




その様子を気を消して見ていたのは、リンネだった。


少し離れた山の上から見送りながら、微かに唇を歪めた。


「リンネ様…」

「これで、よろしかったのですか?」


リンネの後ろには、ユウリとアイリがいた。


「…」


無言のリンネに、アイリはさらに頭を下げると、


「オウパーツは、ライ様に献上する…大切なもの。それを、あのような者達に任せては…」

「刈谷がいる。あやつが、何とかするだろう」


リンネはすぐに、言葉を遮った。


「リ、リンネ!?」


驚き、顔を上げた2人を見ずに、リンネは言葉を続けた。


「オウパーツ…。あのようなものは…王に相応しくない。しかし、それでも、必要ならば…」


リンネはにやりと笑い、


「容易に奪える」


「リンネ様…」


リンネの最後の言葉に、ユウリとアイリはすべてを悟った。


「我らは、リンネ様の炎。すべては、貴女のお心のままに…」


「フン」


リンネは鼻を鳴らすと、アルテミアが去った方を見つめた。


「まだまだ…時代は変わらない」


リンネは、ゆっくりと視線を外した。


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