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第356話 右腕の戦士

「やっと…海を渡ったかと思ったら…雪かよ」


日本海の荒波を何とか、密輸船に乗り込んで越えて来たティフィンとジェースと言われる少年は、京都の北部を歩いていた。


ティフィンの力で、ジェースの右腕につけられたオウパーツを封印しながら進んでいた為に、4人の追跡者からは逃れることができた。


さらに、2人とも恐ろしい程の方向音痴であったことも幸いし、追跡者が追い越すという奇跡的な状況にいた。


まあ…一概には、それだけが理由とも言えないが…。


彼女達は、リンネによって…最後の行方不明となっていた腰のオウパーツの在処を知らされていたからだ。


さらに、右足を持つジャスティンが、極楽島に来ることも予測していた。


なぜならば…空の女神は、ティアナ・アートウッドがトドメを刺さずに、封印した相手だからだ。


彼女の残した後始末を、ジャスティンがしないはずはないと確信していた。


(人間は、面白い)


リンネならば、そう思っているだろう。


「大月学園ってどこだ!」


一面の雪景色の中、ティフィンは叫んだが、答える人間はいなかった。


「とにかく、南なんだよな」


と言って歩き出したジャスティンは、東に向かっていた。


「そっちじゃないだろ!」


ティフィンが示したのは、南東だった。


少しだが、近づいていた。


そんな2人の後ろを見守る影があった。


降り積もった雪が、歩く度に足を取り、音を鳴らす空間で、フードコートを身につけた影は、ただじっと2人の背中を見つめていた。



「うん?」


しばらく歩いてから、右腕に違和感を感じたジェースは、後ろを振り返った。


しかし、そこには誰もいなかった。


「どうした…ジェース?」


ティフィンの声に、ジェースは雪景色に残った自分の足跡に目を落とし、呟くように言った。


「日本か…」


この地区に来るまでは、何の感慨もないと思っていたが…来てみると締め付けられるような思いがあった。


ジェースは、首からかけているIDカードを取り出した。


そこには、生まれた地区と名前が刻まれた。


日本…そして、牧村優と。






「おはようございます」


「おはよう!」


そんな生徒達の声の中、


「おはようございます」


一人一人の生徒に、おはようと返すのは、生徒会長九鬼真弓だった。


多くの生徒の命を奪った極楽島での合宿は、それを企画した学校関係者が処罰されることになった。


奇跡的に復活した黒谷理事長の手によって…。


いや、奇跡ではなかった。


月の女神イオナの力によって、脳死の状態から回復したのだ。


「我ら汚れた一族の末裔でありながら…月の女神のご加護を受けるとは…。我ら黒谷一族は改めて、永遠の忠誠を誓います」


涙を流しながら、礼を述べる黒谷の姿を、九鬼は一生忘れることはないであろう。


しばし感慨にふけった後、黒谷は九鬼にこう言った。


「島を売却しょうとした者達には、処罰を与えましたが…肝心の首謀者と思われる上野先生の行方がわかりません」


上野と名乗っていたリンネは、忽然と姿を消していた。


「それに…彼女の計画に、結果的に加担することになってしまった前田先生の落ち込みも激しく…」


綾瀬理沙と高木真由の正体を探るという目的の為に、高坂やさやか達の力を借りて、周りに被害が及ばない極楽島で秘密裏に行うはずだ。しかし、 多数の死傷者を出してしまった。


責任を感じた前田絵里香は、自ら謹慎を申し出ていた。


「前田先生に非がなかったとは申しませんが、それを責めることはできません」


悲しげに睫毛を伏せた黒谷を見つめながら、九鬼は何も言えなかった。




(誰が…悪いのか)


九鬼は笑顔で生徒達に挨拶をしながら、黒谷との会話を思い出していた。


(しかし…)


もうそれは、結果でしかない。


起こったことを、いつまでも悔やんではいけない。


(死んだ者のことは、忘れてはいけないが…)


人は、忘れていく生き物である。


「クッ!」


そんなことを考えていると、突然右足が痛んだ。


なくなった足を補填する為につけたオウパーツは、恐ろしいことに、ほぼ1日で膝から下の部分を復元して見せた。


しかし、オウパーツを取ることはできなかったのだ。


それに、時折…足が痛んだ。


いや、怪我での痛みではなかった。


心を直接突き刺す痛みだった。


九鬼という人間の思念、意思…心というものを浸食していくような痛みだった。


(こんな痛み…。やつらは、堪えられるのか?)




九鬼は、理事長室で4人の男女の編入届けを見て、愕然とした。


「ど、どうして!」


九鬼は思わず、黒谷に詰め寄った。


この学園に入る為の試験やルールには、多少疑問は持っていたが…明らかに、今回4人を入れたのはおかしいと、九鬼は思った。


「か、彼女らは!」


九鬼の剣幕に、黒谷は顔を伏せながら、跪いた。


「乙女シルバーよ。今回編入して来たのは、3人です。人は、元々…この学園の生徒です」


黒谷は、ゆっくりと顔を上げて、九鬼の目を見つめ、


「黒谷…麗華れいか。私の孫です。そして、元…学園情報倶楽部副部長。亡くなった森田拓真と同級生になります」


「!」


九鬼は、言葉を失った。


「麗華が被っているオウパーツは、元々…この学園に安置されてあったものです。それだけではありません。森田拓真が身につけたオウパーツもまた、この学園にあったものです」


「な、何!?」


九鬼は後退り、黒谷から少し離れた。


「麗華は情報倶楽部で、この学園の秘密を調べるうちに、オウパーツの存在に気付いたのです。そして、最初は興味本位で…情報倶楽部の部室の地下に埋められていたオウパーツを掘り起こしたのです」


その事件は、高坂が情報倶楽部に入る前の話である。


それから、麗華の行方はわからなくなっていた。


しかし、部長である森田の胸騒ぎは止まらなかった。


いずれ…彼女は、すべてのオウパーツを揃える為に、学園が持つもう1つのオウパーツの在処に気付くだろうと。


高坂という自分の跡継ぎを得た森田は、決意を決めた。


黒谷理事長に相談すると、極楽島の祠(後の合宿所の一部)に奉納されていたオウパーツを隠すことに決めたのである。


そして、極楽島でも記録に残っていない…休憩所に自らの身を捧げて、封印したのであった。




「時は達ち…仮面をつけていますが、間違いありません。あの目を見れば、わかります」


黒谷は、九鬼の前で跪き、


「申し訳ございません。やはり、黒谷一族は…あなた様にまた、ご迷惑を」


涙を流し出した。


そんな理事長の肩に、膝を下ろした九鬼が手を置いた。


「これは…理事長のせいではありません。すべてが、運命…。仕方がありません」


「乙女シルバー…」


「その呼び方は、やめて下さい」


九鬼は立ち上がると、


「あたしは、生徒会長九鬼真弓です。学園の問題は、すべてこの身で解決致します」


黒谷に微笑みかけた。


そう黒谷に言ったのが、昨日だった。


そして、廊下を歩く九鬼の目の前に、4人の転校生が姿を見せた。


「いや…1人は違うか…」


九鬼は、足を止めずに、先頭を歩く鉄仮面の奥の瞳を見つめた。


5人の距離が近付いた時、校舎に始業のベルが鳴り響いた。


九鬼と4人は、そのまますれ違った。


しかし、九鬼は唇を噛み締めた。


(共鳴している!?)


足に着いているオウパーツが、小刻みに震えていたのだ。


(くそ!)


引き寄せられるような感覚を唇を噛み締めることで振り切り、九鬼は早足で歩き出した。


「フフフ…」


九鬼の足音の変化に気付き、鉄仮面の女ーー黒谷麗華は、笑った。


「逃げられるものか」


そして、彼女達は速度を速めることなく、廊下を歩き続けた。



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